「画家」というバンドがいる。ドラム、ジャンベ、ボンゴ、ベース、ギター、三味線、サックス、トランペット、ディジュリドゥ、キーボード、タライ、法螺貝......などなど、16人の若い男女が思い思いの楽器(など)を手に取り、思い思いにかき鳴らす。そもそもリーダーの藤森が「イイ匂いのする」メンバーを集めたという彼らは、楽器の経験値も、趣味嗜好もてんでバラバラ。当然、それはもう混沌とした騒音......になるはずが、何故かポップ。何故か踊れる。何故か笑顔になれてしまう。「楽しいから音を出す」「音を出すから楽しい」そんな、音楽の基本の基本を無邪気な笑顔で実践し、しかも聴く者を巻き込み惹き込む力を持つ画家。こんなに幸せで、「嬉しい」音楽が、今まであっただろうか!? いや、ない!!!(インタビュー・文:前川誠)
画家の夜明け
──さて、まずは皆さんの立ち位置から確認させてください。バンドのリーダーは藤森さんということですが、音楽的なリーダーもそうなんですか?
藤森 いや、そこを支えているのはこの2人(小林&川島)ですね。
小林 うん、決して藤森ではないね(笑)。
川島 とは言っても、藤森さんの趣味嗜好は反映されていますよ。アイデアも結構出てくるんですけど、テクニック的に本人がカバーできないところを僕らがやっている、という感じですかね。逆に僕らがネタを持っていっても、藤森さんが頷かないとボツになるし。そういう意味で、藤森さん抜きには成り立たないバンドではありますね。
──メンバーを集めたときは「イイ匂いがする」という基準があった訳ですけど、そもそもどうやって声をかけたんですか?
藤森 元々、野外に色んな人を集めて酒を飲む、という宴会をやってまして、そこで楽器を肴にしたら面白いんじゃないかなと思って、ざっくり声をかけた感じですね。
──それがステージに出ることになったのは?
藤森 一回スタジオに入ってみたら、意外と面白かったんですよ。それで、丁度そのとき武蔵野美術大学の文化祭で、野外ステージに出演するバンドを一般公募していたんですが、そこに知り合いの音源を送ったら受かったので、じゃあ出てみるかと。
──知り合いの音源?
藤森 はい。そのとき自分たちの音源はなかったので、知り合いのバンドの……。
──ウソをついたんですね?
藤森 最後までバレませんでしたけど。
川島&小林 (笑)
藤森 結局そのライブのためにスタジオに入ったら、今回のアルバムにも入っている「獅子舞」のひな形ができて、今に至ります。
愉快な場を作りたい
──16人もメンバーがいて、しかも楽器初心者も多いとなると意志の疎通が大変じゃないですか?
小林 基本的に主体性のない人が多いから、そんな大変じゃないですね(笑)。
藤森 あと、元々高校の友達だったりするので、何となくお互いが好きなものは分かっていたりするんですよ。……まあ、でも明確に意志の疎通を図ろうとしたこともないですね(笑)。
──では曲作りはどのように?
川島 いろいろですね。誰かが持ってきたネタを元に作り込む場合もあるし、「獅子舞」みたいに何となく音を出しているウチに自然と出来上がってくる場合もあるし。
藤森 どちらにしてもまずは少人数でスタジオに入って、その後で他のメンバーに「ここやって」とか「何かやって」とお願いする感じです(笑)。
川島 ただ、モノマネ上手というか、例えば「ヤクザっぽいフレーズやってみて」っていう指示に上手く乗っかれる人が多い印象はあって、そこから曲がまとまっていくことが多いんです。それが聴き易さに繋がってるんじゃないかと思いますね。
──そういうノリだと、例えば1つのライブに向けて全員が同じモチベーションを保つのって大変じゃないですか?
藤森 そこは不揃いで、デコボコしてると思います。
川島 ライブまでにお酒飲んじゃダメっていう人もいるし、ベロベロになってる人もいるし(笑)。
藤森 リズム隊がしっかりしていれば何とかなります。ウチのライブはドラムとベースに依存してますからね。この2人が崩れたらマズイ(笑)。
小林 確かに(笑)。
──「依存している」って分かり易いですね(笑)。というか、こうしてお話を伺っていると画家っていわゆるバンド然としたバンドではないですよね。
藤森 いわゆる普通のバンドをやったことがないから、よく分からないんですが、バンド! って感じではないと思います。
川島 一応音楽が軸になってはいるんですけど、バンドのプロモーションひとつ取っても皆で新しい方法を考える「プロモーション部」みたいなのがバンド内にあったりとか。そういうのも含めて、画家っていうおもちゃを使って皆で遊んでる、っていう感じですね。
藤森 取材っぽいことを言えば、音楽は目的じゃなくて手段、なんですよ。何かを伝えたい! って音楽では無いですから。愉快な場を作りたいとは思いますけど。というか多分、本当は6〜7人で充分なことを、必死に人数増やしてやってるんだと思います(笑)。
小林 でも、いっぱいいた方が楽しいよね(笑)。
藤森 うん、地方に泊まりがけの遠征とか楽しいし。多分、多くの人が一度は考えると思うんですよ、大人数集めたバンドって。画家は、それを実際にやっちゃったっていうだけです。
──ちなみに1つ気になったのが、意外とバンドの情報が少ないことなんです。今や猫も杓子もツイッターやブログで“情報発信”とやらをする時代ですが……。
藤森 個人的に、ミュージシャンのブログとかツイッターでがっかりすること多いんですよ。そんなところでメッセージを押し売りされてもなぁ……って思うし。それに、ツアー中にサービスエリアで食べた団子の写真とかを見てもしょうがないじゃないですか。だからメンバー個人はともかく、バンド名義でブログやら何やらをやることはないと思います。
──なるほど。
藤森 他のメンバーがどう思っているかは分からないですけどね。あまり把握してないんで(笑)。
──他のメンバーのことは把握してない、って言い切れるのがまた潔いですね(笑)。
藤森 深く知らない人もいますし。多分、メンバー同士で2人きりにしたらヤバい組み合わせとかあるよね(笑)。
小林 あるある(笑)。
川島 喩えるならバイト仲間みたいな関係性ですね。仲の良い組み合わせもあるし、ほとんど交流のない人たちもいるけど、何となく仲間意識はあるという。
──音楽的な背景もバラバラなんですよね。
藤森 俺は元々ロカビリーのDJやってました。
小林 僕は歌のあるスカバンドを。
川島 僕はエセハードコアバンドみたいなのをやってました。
──と、そんな皆さんの共通点は、やはり「公園」というキーワードになるんでしょうか?
藤森 いや、そうでもないんですよ。公園にも4回くらいしか行ったことないし。
川島 僕は一度も行ったことないです。アンプないし(笑)。
藤森 代々木公園とかでセッションしてる人たちっているじゃないですか。タイダイの服を着て、冬はマウンテンパーカーで、みたいな。よくそういう一派じゃないかって思われるんですけど、全然そうじゃないんですよ、ウチは。どっちかと言うとアメカジ、みたいな?
──アメカジ……ですか。
藤森 オーガニックやらフリーチベットやらを推進してないし、ジャムバンドでもない。もちろんそういうバンドも好きなんですけど、少なくともウチはそういう感じじゃないです。だからブッキングに迷いを感じることは多いですね。ファッションショーからハードコアからテクノから。レイブにも対応できるし、ライブハウスも文化祭もいけるっていうのはひとつの売りだと思います。
──でも、16人だと出れるところも限られますよね?
藤森 多分、日本のライブハウスのステージって、どこもギリギリ16人が収容できるように出来ているんですよ(笑)。これは全国のイベンターの方に伝えたい!
──それは画家にしか分からない貴重な情報ですね(笑)。