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INTERVIEW

トップインタビューa flood of circle

異形の獣たちがうごめく異空の動物園へようこそ

2010.09.17

 "ZOO"(動物園)と"HUMANITY"(人間性)を掛け合わせた『ZOOMANITY』という造語をタイトルに冠したa flood of circleのサード・アルバムは、有象無象がうごめく浮き世を動物園に見立て、そこに棲む獰猛な生き物や魑魅魍魎の姿を通じて人間らしさとは何なのかを聴き手に突きつけるコンセプチュアルな逸品だ。獣としての野性を研ぎ澄ました彼らの唯一の武器は、ダイナミズムに満ちたプリミティヴなロックンロール。その肉体性を帯びた粗野でエネルギッシュな音を拠り所として愛や自由を不器用に説く様は如何にも泥臭いが、それでこそパラドックスを抱えたままパレードを続けるa flood of circleだ。七転八倒しながらそれでも困難に立ち向かうのが彼ら一流のロックンロール・エチケットなのだから。急激なスピードでブルースのアップデートを繰り返す"2011年ロックンロール日本代表"の今を佐々木亮介(vo, g)に訊く。(interview:椎名宗之)

正解が判らないまま戦いを続ける

──本作『ZOOMANITY』は、先行シングルとして発表された『Human License』の世界観を根幹として枝葉を広げていくような制作過程だったんですか。

S:そうですね。“Human”というキーワードが大きかったので、そこから広げていきました。メンバーが失踪した直後に制作に入った『PARADOX PARADE』の時はかなり混沌とした状況で、それを経ての『Human License』だったんですよね。そこで曲作りのモチーフが整理されたんです。

──メンバー離脱の余波で軽く人間不信にも陥ったり?

S:そこまでではないですけど、『Human License』を作ったのはそんなことも考えていた時期だったと思います。それがたまたま職務質問を受けたことによって発奮されたと言うか。身分を証明するものがなくて、“このまま「君は本当に人間なのか?」と問い詰められたらどう答えればいいんだろう!?”と思って。その体験を具体的に曲にしようと考えていたわけじゃないんですけど、何となく心の中にくすぶっていたんですね。それを一度、『Human License』の歌詞に全部ぶちまけたんです。

──本作では魑魅魍魎や獰猛な生き物の姿を通じて人間らしさを炙り出す手法が取られていますが、かなり壮大なコンセプトですよね。

S:自分としては壮大だとは思っていなくて、むしろミニマムに捉えているんですよ。人間らしさ、愛や自由といった大きなものを扱っているものの、誰しもが普段の生活の中で身近にあるものじゃないですか。でも、そこには形も答えもない。形も答えもないものを敢えて唄っていくのがバンドの到達した自然なテーマだったんですよ。『Human License』を作って以降、余計なことをしなくても充分戦えるんじゃないかと思い始めて、今回は真正面からブルースをルーツにしたロックンロールに取り組もうとしたんです。ロックンロールの定義も曖昧だし、人それぞれですよね。それも人間らしさと同様に形も答えもないものだし、よく判らないものに立ち向かっていくのが今回の大きなテーマだったんですよ。それを自分の身の丈に合ったスケールで描いてみたかった。

──佐々木さんの中でロックンロールとは、生き方や姿勢みたいなものなんですか。

S:ロールの部分、転がり続けることが凄く大事ですね。愛や自由がどんなものなのか、何が正解なのかは判らないけど、正解に向かって戦いを挑み続けることが一番大事なんじゃないかと思うんですよ。

──正解よりも、そこに辿り着くまでの過程が大事ということですね。

S:そうです。その姿勢さえあれば、少なくとも良い方向には向かっていけるはずなんですよ。「人間らしさとはこういうものです」とひとつの正解を提示するのではなく、そこに立ち向かう過程でもがき苦しむ姿を今回はそのまま出そうと思ったんですよね。

──人間らしさの解釈は聴く人の判断に委ねると?

S:詞に関しては、言いたいことをなるべく言い切りたいんです。そこから先は聴く人に任せたいって言うか。違和感があってもいいし、生活の中に落とし込んでもいいんですけど、メッセージ自体は自分で書いた言葉をちゃんと伝えたいですね。

──本作は、異形の生き物たちが寄り集った架空の動物園という体を成しているのがまずユニークですよね。

S:人間らしさやロックンロールといった自分の持ついろんな要素を詰め込んでひとつの形にしたいと思っていて、それが動物園という括りに当てはまったんですよね。動物園にはいろんな動物がいて、凄く混沌としているし。

──ブラックバード、象、ロシナンテ、シーガル、バッファロー…と、動物をモチーフにした曲を発表し続けてきたフラッドの集大成的作品とも言えますよね。本作では動物だけに留まらず、鬼や妖怪まで出てきますけど。

S:ロック・バンドにしか体現できないダイナミズムを言葉でも出したくて、勢い良く魑魅魍魎まで行っちゃえと思って(笑)。

安泰せずに絶えず疾走するのが大事

──動物を擬人化した鳥獣戯画が人間の滑稽さを描いているように、フラッドも動物や物の怪の衣を借りて人間の本質をえぐり出しているように思えるんですが。

S:そういう部分はありますね。何と言うか、自由という言葉に対して特定の意味を与えると、その定義から逃れられずに不自由になるんですよね。誰かが決めたルールを鵜呑みにして、それを楯に誰かを傷つけながら生きていくのが正しいこととは思えないし、何らかの原理主義にとらわれるよりも、その都度ぶつかった問題に対してより正しい選択をしたほうがいいと思うんです。それは何も大層な話じゃなくて、普段の生活の中で感じるささやかな思いなんですよ。その思いを育めば、いずれ愛や自由という大きなものに近づけるんじゃないかっていう。

──大義名分に準ずる余り、がんじがらめになることは往々にしてありますよね。

S:せっかくロックンロール・バンドとして活動できているんだから、何が自由なのかを突き詰めたいんですよ。答えは判らないけど、そこに向けて戦っていきたいし、その姿勢が間違ってないことだけは信じたいんです。

──本作の制作を通じて、人間らしさとは何なのか、答えは見いだせましたか。

S:答えを無理に出したくはなくて、詞も敢えて答えを出さないように書いていたんですよ。ただ、詞を書き終えて気づいたのは、さっきも言ったように過程が一番大事ということですね。現状に甘んじることなく戦いを続けるとか、誰かの定めたルールじゃない部分で自分なりの判断をするとか。何もそれがロックンロール的な生き方ということじゃなくて、何事も自分で決めることが大事なのを改めて実感したんです。

──それがロールして生きていくこということですよね。

S:そうですね。ローリング・ストーンズが50年近く活動を続けているのは変わり続けているからこそだと思うし。適度なところで安泰するのではなく、まだ突き詰めることがあると信じて絶えず疾走し続けるのがロックンロールなんですよ。

──前作『PARADOX PARADE』は名うてのギタリストたちの力を借りて完成に漕ぎ着けた力作でしたが、本作は曽根巧さんのサポートを受けつつもバンドの自力でここまでヴァラエティに富んだ作品に仕上げたのが見事だなと思って。

S:ヴァラエティに富みつつも、ロックンロールという筋を一本通せましたね。『PARADOX PARADE』のツアーでいろんな対バンをやって戦えてきた自負もあったし、自分たちの武器をもう一度整理しようと思ったんです。自分はこんな声しか出ないし、3人でやれることも限られているけど、今一度ストレートなロックンロールと向き合うべき時期なんじゃないかと思って。

──その転機となったのが『Human License』というサンバのリズムを導入した曲というのもひとつの“PARADOX”ですね。

S:『Human License』が出来たことによって方向性が絞れたんですよ。凄く実験的な曲だし、それがいい形に結実できたので、『フェルディナン・グリフォン・サーカス』や『百鬼夜行』みたいなストレートなロックンロールが逆にやりやすくなったんです。

──ライヴでの『Human License』の反応は如何ですか。

S:“ROCK IN JAPAN”でも“夏の魔物”でもいい感じでしたね。もともと自分たちの意志でフロアをコントロールさせたいと思って作ったダンス・ビートだったので、ライヴ映えしやすいんだと思います。

本当に正しいのかを常に疑うべき

──前作の『Ghost』に続いて、今回は『Silent Noise=Avante-gard Punk』と『最後の晩餐』の2曲でドラムの渡邊(一丘)さんが作曲に参加していますが、よりバンド感が増した印象を受けますね。

S:ナベちゃんは『Ghost』からだいぶ成長したと思いますね。最近は歌詞にも口を出すようになったし。『Human License』辺りから、3人がそれぞれ一ミュージシャンとして意見を戦わせるようになったんですよ。3月にプリプロで合宿をした時に、スタジオの外で20時間くらいナベちゃんと2人で「詞とは何なのか!?」を話し合ったんです(笑)。ロック・バンドだからこそ詞を大切にしたいという思いが僕以外の2人にも芽生え出してきたんですよ。詞を読み込んでいるからこそ『百鬼夜行』のドラムはおどろおどろしくなったし、曲と詞の親和性が高くなったのを感じますね。

──哲学的な主題を噛み砕いた言葉で物語として昇華させる佐々木さんの力量も格段に増したと思いますけど。

S:テーマがテーマだけに、重すぎたりストイックすぎたりするのを避けたかったんですよ。硬いテーマでもそれを聴き手と共有できるのがロックンロールのいいところだと思うし、歌詞もどこかしらちょっとユニークにしたんです。

──“特典その1;ファン・クラブ限定/表現の自由をお約束”というユニークな歌詞が盛り込まれた『Black Magic Fun Club』は曲の構成もユニークですよね。めまぐるしく展開した挙げ句、最後にダメ推しでキーが上がったりして。

S:構成はだいぶ遊びましたね。サウンドは、言ってしまえばツェッペリンとホワイト・ストライプスなんですけど(笑)、それを敢えて真っ向からやってしまおうと思って。凄く緊張感がある中でも楽しんで作れた曲ですね。と言うのも、プリプロの後に10曲くらい作ったんですけど、それを全部捨てて、根詰めて作り直したんですよ。“ロックンロール・バンドとは何か?”というところだけを目指していたので、“もっとできる、もっと行ける”と思い込んで自分を追い込んだんです。

──一度書いた曲を全部捨てるとは、また随分と思いきった判断でしたね。

S:僕らの今の目標は“2011年ロックンロール日本代表”になることなんですよ。それはブルースをルーツにしたバンドじゃなければ絶対にできないことだと思ってるし、そのことをちゃんと音楽で証明したいんです。それで意識が高まって、プリプロ後に書いた10曲は“こんなんじゃ足りないだろ!”と思ったので全部捨てたんですよ。今まではブルースをどう更新するかの手段ばかりを考えていて、“まだ行ける”という境地にまで達せなかったんですよね。『フェルディナン・グリフォン・サーカス』は最後に録った曲なんですけど、前日の夜の11時くらいから朝の6時までスタジオに入って細かい部分まで作り込んで、3時間休んで9時から録るっていうかなりムチャクチャなことをやっていたんですよ。そのテンションは音に入ってると思います。勢いがあるし、このアルバムを象徴してる曲ですね。

──“フェルディナン・グリフォン”というのは?

S:ゴダールが撮った『気狂いピエロ』の主人公の名前なんです。どんな仕事でも自分を演じなくちゃいけないピエロみたいな部分があると思って。仕事という言葉を初めて歌詞に使ったんですけど、これも生きていくことや人間性という大きなテーマを自分のサイズに置き換えたかったからなんですよ。そういう喩えは前よりも上手くできるようになった気がします。

──サーカスもまた動物園同様にこの浮き世の象徴のように思えますね。

S:このアルバム自体、動物園のように“Open The Gate”(開園)で始まって“Close The Gate”(閉園)で終わるんですけど、“Close”の前にカッコ付きの“Don't”を入れてあるんです。それが動物園であれ職場であれ、大きな枠組みの中に収まってルールに従うことが本当に正しいことなのかどうかを常に疑うべきだと思うんですよ。だから『Human License』で“疑って 疑って”“戦って 戦って”と連呼しているんです。自分で決めたつまらない枠組みを取っ払っていきたいというのが僕らなりの主張なんですよ。

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3rd Album
ZOOMANITY

【初回限定盤:DVD付】Speedstar VIZL-397/3,150yen (tax in)
◇DVD収録内容:『Human License』music clip/パラドックス・ムービー『博士の異常な愛情〜Ghost』(監督:沖田修一)他
【通常盤】Speedstar VICL-63657/2,800yen (tax in)
2010.9.15 SPOUT OUT

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01. Open The Gate -session #4-
02. 百鬼夜行
03. フェルディナン・グリフォン・サーカス
04. Silent Noise=Avante-gard Punk
05. Black Magic Fun Club
06. Chameleon Baby
07. Human License
08. ロストワールド・エレジー
09. コインランドリー・ブルース
10. 最後の晩餐
11. (Don't) Close The Gate -session #5-

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