いろんなことがあるけれど前を向いて歩いていきたい
──先ほどかわいいと思われたくないとおっしゃってましたけど、私がつばきに持っているイメージって、すごく凛としているんです。いつのライブかは忘れてしまいましたけど、初めて見た時はとっつきにくそうな感じもありましたけど、漲る命を感じるような部分もあって、総じて凛とした雰囲気があるんですよ。
一色:昔は、MCもしてなかったし、すごくとっつきにくそうな感じで歌ってました。ステージ上で喋るというのは、難しいんですよ。それだけは何年やっていても慣れるものではないですね(苦笑)。
──ステージで口数少ない感じは、一色さんが思っているロックンロール像があるのかなと思ったんです。
一色:それはあると思います。変わっていくとは思いますけど、その度に。自分がこうなりたいっていうのも常にあると思う。若い頃は言葉数少なくというのがやりたいことでしたけど、今はもっと普通のスタンスでやりたい感じです。
──そうなったのは最近?
一色:3〜4年ぐらい前からですよ。あまり喋らないというロックンロール像にとらわれずに、自分のスタイルでできたらいいなって。ステージに立っている時とステージから降りた時の感じを近づけて行ければ良いかと思っていて、そしたら、自然と話しかけてくれる人が増えました(笑)。
──だからというわけではないと思いますが、今回の『夜更けの太陽』はとっつきやすい面もあり、いろんなつばきの表情を窺うことができて、まさに10周年の節目にふさわしい作品になったんじゃないかと思ったんです。アルバムタイトルの『夜更けの太陽』は意味深で、他の曲にも『太陽』『夜更けの旋律』『震える手、光射す部屋』『夜が明けるまで』という感じで、暗いところから明るいところへ飛び出していこうとする様子が表されているのではないかって。タイトルにはどんな意味があるのか教えて下さい。
一色:基本的には今回のアルバムは、前向きになれるような作品にしたいと思っていて、これは毎回思っていますけど、特にそういう思いは強かったです。それは自分たちでやり出して、応援してくれる人がいて、見に来てくれるファンの方とか、自分もすごく感謝するし、そういう人に前向きになってもらえるような曲が歌えたらと思ったんです。
──人に伝えたい気持ちって強くなった、と?
一色:うん。ちょっと背中を押してくれるような曲をストレートに歌われると、心に響くなというのは思います、最近。
──個人的な話なんですが、最近心がすごく弱っていて、自分の心境もありましたけど、このアルバムに背中を押してもらえたところもありましたし、すごくグッと来るところが何度もあったんですよ。だから、こういう曲に出会えて良かったなって純粋に思いました。
一色:僕もいろいろな曲を聴いていて、この曲のここが心に響くなと思いながら聴いてることが多いんです。自分もそういう曲が歌えれば良いなと言う気持ちもありましたし。
──『声の行方』は、しばらくほったらかしにしていた曲だったけど"気持ちはいつも空回って 誰かと比べ消えたくなって〜"というフレーズに自分でグッと来て、再度アレンジされたそうですが、歌詞を作る時はこのフレーズを活かすためにどう膨らませていこうか、という手法なんですか?
一色:全部が全部ではないですが、そういうこともあります。このワンフレーズが好きだなっていう。
──ちなみに、自分が聴いてきた曲で一番グッと来たフレーズってどんなものですか?
一色:いっぱいあるんだけど何ですかね。今度一緒にツアー回りますけど、ウラニーノの歌詞はすごく良いです。それと...(ここで取材場所に偶然LOST IN TIMEが現れる)ロストとかもグッとくるフレーズいっぱいありますよ。僕が好きなのは『26』だったかな。挙げたらキリがないぐらいたくさんあります。
──今回つばきの曲の中にもグッと来る歌詞がたくさんあって言い切れないですが、歌詞の流れもすごく良いですよね。1曲で抑揚がはっきりと付いていて、ドラマ性があって、聴く側の気持ちも詞の世界に引き込まれていくんですよ。「あ〜あ」という気持ちを感じさせつつ、最後には気持ちが上がっていくような歌詞の流れ方で、よく出来てるなって思ったんです。
一色:ずっとポジティブな言葉を並べるってあまりやらないですね。いろんなことがあるけども前を向いて歩いていけたらいいなって。
──今回も全ての曲の作詞作曲は一色さんですよね?
一色:作曲はつばきになってますけど、基本は曲も俺が作ってみんなで合わせていくという作業です。
──みなさんと合わせる事で、最初のイメージとは変わったという曲はありますか?
一色:『声の行方』とかは変わりましたよ。ミックスの段階でだいぶ変わりました。
──『夜更けの旋律』のような、キメがすごく多い曲はみなさんのやりとりの中で?
一色:そうです。アレンジする時に決めていきます。
──この曲は資料の中で、キメが多いからライブでやる時忘れるんじゃないかと今から少し不安だと書かれてましたが...。
一色:キメを忘れることはない...とは思いますけどね(笑)。ライブで確認しに来て下さい。
自分がやりたいことを一生懸命やる
──あと今回打ち込みを何曲か使った曲がありましたけど、今までってそういうアプローチの仕方ってしていたんですか?
一色:ちょこちょこやっていました。ただ今回は、前に比べて使った感じはしています。家で作業ができるようになったので、家でしっかり作ってからスタジオに持っていくんです。打ち込みは全て家で作ってます。
──9曲目の『夜が明けるまで』は、最初の部分は同期と歌だけの構成になっていますが。
一色:ギターも少し入っていますけど。その構成を考えて持っていって、こんな感じって。
──ライブでは生ドラムになるんですか?
一色:これからどうしようか考えていくところです。PCを同期させても良いですし。この曲は、最初ギターと打ち込みのドラムが入っていて、生ドラムにスイッチするという曲になりましたけど、それをライブでも表現したいと今は思ってます。生ドラムで最初から始めたら、この感じを出せないんで。もちろん音源が全てではないので、ライブはライブバージョンにアレンジするかもしれませんけど、まだライブではやっていないのでわからないです。
──『雨に涙目』から『夜更けの旋律』の流れも良いですが、シンセが繋がっている感じもハッとさせる部分ではありましたね。
一色:『雨に涙目』のピアノのフレーズは、『夜更けの旋律』にも使われていて、インタールードを作ろうと思ったんです。『夜更けの旋律』のピアノのフレーズをスタジオで流しておいて3人でセッションした曲が『雨に涙目』。そのまま『夜更けの旋律』に行くのはどうかなと思って、それに繋がるような曲を作ろうって作った曲なんです。
──プロデュースはセルフですか?
一色:そうです。昔はプロデューサーさんに入ってもらった事もありますけど、基本は自分たちでやっています。自分たちでアレンジをやっていて何をやっても全然変わらないなということがあったら、アレンジャーに頼むことはあるかもしれないけど、今回のアルバムは自分たちで全てやるって決めていたんです。誰かにお願いしようという気持ちはなかったですね。
──今後こういう曲にチャレンジしてみたいとかは?
一色:今は自分たちの良いところというか、ストレートに良い曲が書ければいいなと思っていて、新しいこういうサウンドをやってみたいというのは特にないんですよ。自分が最高だと思えて、聴いてくれた人に良い曲だと思ってもらえることが一番です。
──では、一色さんが思うつばきらしさってどんなものですか?
一色:それは、言葉では説明しにくいけど、今回のアルバムで全部出せたという感じがしています。歌が立っているというか、自分にしか歌えない歌だと思うし。
──これまでの10年のバンド活動は、一色さんにとってはどんな10年でしたか?
一色:あっという間でした。いろいろな経験をさせてもらいましたし、それが今の活動に繋がっています。11年目に入りましたけど、今は目の前のことをやっているだけなんです。自分が音楽をやりやすい環境にいるだけで、音楽をやりたいからやっているし、常に目の前のことを一個一個やっていたら10年が経っていて、11年も同じだと思う。自分がやりたいことを一生懸命やるのが一番ですよ。
──このペースでバンドを続けたい?
一色:はい。
──今年は、最初にお話したように毎月10日にライブをやって、それ以外にもイベントに出演されたりと充実されていると思いますが、残りの半年も毎月10日に自主企画をやり、あっという間に終わってしまいそうですね。
一色:今年は、駆け抜けるだけです。今、つばきとして活動をしていることがすごく楽しいんですよ。
LIVE PHOTO BY:小川舞