つばきが活動を始めて10周年を迎えた2010年にリリースされるニューアルバム『夜更けの太陽』。全曲を通して、彼らの持ち味でもある色彩豊かな表情を詰め込んだものになっており、歌もサウンドも、これまでの歴史をギュッと凝縮したものだと感じられる作品となった。彼らがこの3人であることが偶然のようで必然だったように、つばきにしか出せない3人のグルーヴと、3人でしか出せないサウンドで、彼らの立ち位置をより明確なものにしてくれている。
今回、ボーカル&ギターの一色徳保にお話を伺うことができた。何気に、Rooftopではつばきの単独インタビューは初めてかもしれない。(interview:やまだともこ)
応援してくれる人たちの気持ちが原動力になっている
──『夜更けの太陽』は前作から1年半振りの作品となりますが、先ほど出来上がった作品を手にした時にポロッと「感慨深いですね」とおっしゃっていましたが、何度リリースをしてもそういう気持ちは変わらないんですね。
一色:そうですね。でも今回は特にですよ。前作の『流星ノート』をリリースした後に、事務所とメーカーを辞めたから、もう正式に全国で流通できるアルバムはしばらく出せないんじゃないかと思っていたんです。だからライブ会場限定で昨年の11月に『花が揺れる/最低な気分、雨に打たれて』を出したんですけど、こんなに早いタイミングでアルバムを出す事ができることがすごく嬉しいです。今回、UK PROJECTの方に、「CDを出したいんですけど」と話をしていて、そしたら「デモがあれば」と言われたので、そこから曲を作り始めて。でもその時から、自分でブッキングをしたりグッズを作ったりしていて、けっこう忙しくなっていたので、一度に全曲は渡せずに1曲出来て送って、また1曲出来て送ってを繰り返して。ちょっとずつちょっとずつ送っていったんです(笑)。
──そこで今回の10曲を送りきって、じゃあレコーディングしましょうとなったんですか?
一色:最初は、ミニアルバムで6曲でも良いって話をしていたんですけど、良い曲ができたので8曲ぐらい送って、残り2曲はレコーディングしている時に録りました。全部録ったら10曲になったんです。
──10周年に合わせた10曲?
一色:そういう意味ではないんです。過去3作ぐらい10曲入りなので。8曲でも良かったんですけど、8曲作って全体を聴いてこういう曲があっても良いかなっていう流れで、最後に弾き語りでやっている『僕だけの季節』を入れようかなと決めていったんです。
──今年は10周年ということで1月から毎月10日に自主企画をやり("つばき 10th Anniversary 「正夢になった夜」")、これまで以上にライブをやっていると思いますが、よくこれだけの曲を作ることができましたね。
一色:今回の曲は、『流星ノート』をリリースした後ぐらいから作り貯めていたものになるんですが、今に比べるとあの時期はまだ曲を作る時間があったんです。事務所を辞めてからは、音楽を作る以外のスタッフ的な作業が始まっていたので忙しかったですが、今のほうが忙しいですし(笑)。今、全然曲が作れていないんですよ。前までだったら、アルバムが完成してリリースも決まってインタビューさせてもらっている時にはすでに1曲〜2曲ぐらいは出来ていたんですけど、今はまだないですから。
──10周年に出せるというのは、これまでの歴史も踏まえた上での作品作りを意識されたんじゃですか?
一色:それが、このアルバムを作ることに関して言えば、10周年ということにそこまで深く考えていなかったんです。10周年だからこんなアルバムにしようというのもない。その時に思っていたのは、どうやって自分たちのやりやすい環境でできるかということで。だから、アルバムに関しても、純粋に自分の良いところだけ出そうって思ってました。自分たちでやるようになってから、難しいことをあまり考えなくなって、それが良かったのかもしれないです。奇しくも10周年にふさわしいアルバムになりましたし。難しいこと考えず、真っ直ぐに良いところだけ出そうという形で。
──そのタイミングでリリースされる1曲目『太陽』の歌い出しが"明日は明日の風が吹く"じゃないですか。10年活動していく中で経験したことが、このひと言に大いに込められているのではないかと思ったりしましたが。
一色:というよりは、『太陽』はライブでずっとやっている曲で、そういう意味があって1曲目にしたんです。事務所を辞めて、自分でやり出したら今まで応援してくれていた人たちが離れていっちゃうのかなとか考えていたんですけど、そんなこともなくみんな応援してくれるし、ライブに見に来てくれるファンの人は今まで以上に応援してくれるし、純粋に嬉しいなと思ったんです。『太陽』は僕と君との歌ですけど、"僕"はつばきだったり、"君"は見に来てくれる人や応援してくれる人、そういう意味を込めて書いた曲でもあるので、1曲目が良いなって思いました。自分たちでやってすごく良いなと思ったのは、これは今だからできると思いますけど、20代前半の時は「こうやっていきたいと思うんですけどどうですか?」と聞かれても「わからない」と思っていたことが多かったんです。「こっちのほうが良いと思う」って言えなかったことや言いづらかった事もあったんですけど、今は遠慮なく言えてる。ブッキングに関しても直接やりとりできるから、こういう感じにしたいという意志を人を挟まなくて伝えられるからスムーズです。逆にそれがやりづらいっていう人もいますよ(笑)、直接連絡するのは辛いって。でも、基本的には今の状況はメリットの方が多いです。10周年で毎月10日にライブやって、好きなバンドに声をかける事ができていて、リリースもちゃんとできるので、すごく良い形でやれています。
──事務所を離れて失速してしまうバンドもいますけど、つばきはそこで踏ん張ってやってますからね。
一色:失速しない感じにしないとってずっと思っていましたから。前の事務所の社長とは今でも仲が良くて話をしているので、決して悪い形で事務所を離れたわけではないんですけど、事務所を辞めようって思ったぐらいから、ちゃんと自分たちでも活動できていることを提示したいと思っていたんです。でも、応援してくれる人がいるからできているというのもありますよ。つばきだけだったら何もできなかったし、ライブを見に来てくれる人や音源聴いてくれる人がいるというのが一番の原動力になりました。
──そうやって感謝する気持ちが強くなったのって、いつぐらいですか?
一色:自分でやり出してから特に強いです。ライブをやるにしても自分で電話をしていくんですけど、事務所ではなく個人だから信用してもらえないかなって心配していたんですが、地方のライブハウスに電話して、「つばきって、ひらがなのつばき?」って言われて、「そうです」っていう話から「いいよ」ってなったり。媒体の人とかも、直接電話をかけてきてくれる人も多いですし。関わってくれる方にすごく感謝しましたよ。
──それは10年やって来たからこそのものですよね。ここ最近は、音楽に対する向き合い方や姿勢、とりまく環境は変わってきました?
一色:自分の環境とか状況は、自分でやりやすい状況を作っていければ良いんじゃないかなと思うようになりました。だから事務所を辞めたんですけど、20代前半のよくわかっていない時期を誰かに任せるのはひとつの選択肢として良かったですけど、僕たちの年齢になると事務所を辞めて自分たちでやっているバンドってたくさんいるじゃないですか。そういうバンドを見て、メリットとデメリットを考えた時に自分たちでやるほうがやりやすいんじゃないかなって。音楽をやりやすい状況に自分がいないと良い音楽も書けないですから。精神的にイライラしたり苦痛を感じていたら良い音楽を書くのは難しいかなと思うんです。それなら、やりやすい環境を自分で作れば良いと思う。音楽に対しては、昔はこう見られたくないというのはあったかもしれない。爽やかな感じに見られたくないとか、かわいい感じに見られたくないとか。反対に、音楽的にこう見られたいとか、前のアルバムでこういうことやったから全然違うことやらなきゃとか、メジャーになった時やなる直前はそういうことをすごく考えていました。でも、最近はストレートに自分の良いところを出せれば良いかなと思っています。結局、どのバンドにも出せない音を出したいというか、つばきの音を鳴らしたいというのがバンドを結成した時から思っていたことで、流行りを取り入れようっていうのはあまり考えないようにしようと思ってました。つばきにしか出せない音を出せれば良いやって。今はさわやかな楽曲で、かわいらしい楽曲がつばきの良いところでもあったりするんだったら、そこも素直に出せれば良いと思うし。つばきの良いところを磨いて、つばきにしか出せない音楽を人に聴かせられるバンドになりたいというのは、より強く思うようになりましたね。
──バンドって自分をプロデュースする力は必要なんですかね?
一色:そうですねー。他のバンドと自分のバンドを比較しすぎるのはどうかなと思うし、自分の良いところは出せるのが一番良いと思う。プロデュースするのはなかなか難しいですよね。でもいますよね、そういうのが上手な人って。必要な気もするし、必要じゃない気もするし。代わりのないバンドになれたら良いかなと思っています。