
人のためではない、自分にとっての成長の証
──キノコホテルで別物になりつつも、ソロとしてペースを保って活動されていた中、ようやく今回の『永遠の旅』を制作するに至ったわけですが、当初、方向性は見えていたんですか?
keme:前作のミニ・アルバムが結構前、2年前のものなので、同じではいけないと言うか。それから比べたら成長しているという証を残したかったんです。自分が聴き比べた時に"あぁ、成長したな"みたいな。あくまで自分にとってで、人に対してとかじゃなくて。
──『永遠の旅』が完成して、その手応えは如何ですか?
keme:これが今の自分ができる精一杯のことなんだなと思いました、いろんな意味で。今回のアルバムは、結構、シングル向きの曲が多いなとも思っています。
──レコーディングで何か収穫はありましたか?
keme:自分のアルバムでエレキを弾けたことは、ちょっと幸せでした。前のアルバムは"アコギ"オンリーだったんですけど。今回はエレキ・ギターも自分で弾いた部分もあるんです。みんな、気づかないところだと思うけど。
──『永遠の旅』の楽曲は、前作以降のものですか?
keme:そうですね。でも、『声にならない』に入っていた曲をアレンジして、また今回入れたりもしています。
──5曲目の『Y』は、前作からリアレンジして再録された楽曲ですね。
keme:前作は若すぎたと言うか。今、思うと、嘘くさい(笑)。"今、唄ったら全然違うのに"と思って。ライヴでも、この曲が一番人気があるし。アレンジも前に変えたことがあったので、変えたアレンジでもう一回やってみようかなと思って入れました。
──『永遠の旅』の中でご自身がお気に入りの楽曲は?
keme:1曲目の『7分間のキス』は、シングルにしたいくらいの曲でした。この曲が一番好きなんです。素直なんですよ、その曲だけは。
──(笑)その曲だけは?
keme:(笑)恋愛に対しての素直な気持ちが出ていると言うか。曲って一度作ってしまうと、どういう気持ちで作ったか全然思い出せないんですけど、『7分間のキス』だけは鮮明に覚えていて。でも、この曲に限らず、ほとんど全部"素"の自分ですね。嘘はついていません。
──その一番好きな曲をアルバムの1曲目に持ってきたわけですね。
keme:そう、"シングルにしたかったんだ"っていう気持ちを込めて(笑)。
──最後の『永遠の旅』というタイトル曲が、このアルバムのキーだと思っていたんですが。
keme:この曲もずっとシングルにしたかったんですよ。『7分間のキス』よりもかなり前に出来た曲で、ずっとそう思っていたけどできなかったっていう。
──シングルにしたかった大事な曲に挟まれて、『ひぐらし鳴いてる』やボーナス・トラックの『真夜中の恋人』といった、早川瑞穂さんに詞を提供してもらった曲も入っていますね。
keme:私は、詞がないと曲が作れないんですよ。だから、詞が書けない時期は彼女にお願いして。その詞に対して、たまに直したりもして、曲をつけています。なので、共作と言っても別に話し合って作ったりするわけではなく、詞と曲は別々なんです。
──なるほど、詞が先だから、ちょっと"字余り"っぽくなるんですかね。拓郎が好きだっていうところもあるんでしょうけど。『ひぐらし鳴いてる』は一番拓郎っぽいですもんね。
keme:あ、そうかも。私もそう思ったんですよ(笑)。
──"拓郎っぽさ"も意識したんですか?
keme:いや、もうこれは染み付いているから、どうしようもないって言うか(苦笑)。
──『真夜中の恋人』は、あえてアルバムの曲目が書かれていませんが。
keme:この曲は、本当はもっと隠したかったんですよ。9曲目って微妙じゃないですか? でも『真夜中の恋人』は一番新しく出来た曲だったので、入れたいなって思っていました。今まで作ってきた楽曲とは、またちょっと違う感じの曲だったから。この曲がある意味、今の自分に一番近いものなんです。結局、隠しきれてないけど(苦笑)。『真夜中の恋人』も一番好きな曲のひとつです。
──ご自身で書いた詞には、男目線の詞も多いですよね。
keme:そうなんですよ。それが昔の私なんですよね、活動を始めたばっかりの時の。最近、自分が作る曲って、男目線の曲がないんです。
──最初の頃、男目線の曲が多かったのはどうして?
keme:最初はモノマネみたいな感じでやっていたから。泉谷しげるとか、わりと男の人のフォーク的なものを聴いていたから、自然と詞も"僕"とか"俺"になったんじゃないですか? それを"私"にすると唄いづらいなと思っていたので、"僕"が多かったんです。でも、"私"でも唄えるようになったから、"私"、いいなぁ、みたいな。
味だよ、これは。いいんだよ、これで
──kemeさんの声って一番の魅力だと思うんですが、ご自身のハスキーな声質って、どう思いますか?
keme:大嫌いなんです。何でこんななのか、わからない。
──そこが一番グッと来るところじゃないですか。
keme:何かスナックのママみたいじゃないですか。50になったら、もっとおっかないんだけど(苦笑)。
サミー前田:彼女の声は、しゃがれていても、ハスキーでも、水っぽくないんですよ。ブルース系よりも、ロックって言うか......。kemeの音楽には"フォーク・ロック"っていう言葉を使っているんですけど。
keme:私もフォークだけでは嫌ですね。そんなにフォークだと思っていない。思っているのも一応あるんですけど。最近作った曲とかは、別にフォークとか思わないんだけどな。
サミー前田:それと、彼女の世界観って"ブログっぽくない"と思うんですよね。最近の音楽聴くとブログっぽい人が多い気がして......。kemeはささやかなことを唄っているんだけど、ちゃんと"宇宙"になっていると言うか、そこが今の人たちと違うから古臭く感じる人もいるのかもしれないですけどね。
──今作では心強いスタッフに囲まれていると思いますが、今回はUMEZYさんがギターやアレンジャーとして参加されていて。UMEZYさんは今、一番、kemeさんが信頼できる相棒みたいな感じですか?
keme:そうですね。何でも言えるし。私がやりたいこと、好きなことを向こうはそんなに知らなくても、言えば理解してくれるので。無理難題を押し付けてやってもらいましたね(苦笑)。
サミー前田:器用だからね、彼は。
──原曲からUMEZYさんのアレンジでガラッと変わった曲はあるんですか?
keme:ないです。全体的に私が「こういうふうに」という指示を出しました。サンプルを聴かせて「このギターの音で、こう引いてくれ」っていう細かいこととか、「ここはサイケな感じでうるさく」とか言って。
──じゃあ、設計図はkemeさんの中にちゃんとあったんですね。
keme:そうです。構成とかは、私が全部やりました。
サミー前田:今作のプロデュースはすべてkemeなんですよ。エンジニアのブッキングだけは僕がしました。エンジニアは石崎信朗さんという大御所の方で、中森明菜から古井戸まで、70年代、80年代のワーナーの名盤をたくさんレコーディングした方なんです。
──こういう音楽だったらばっちりですね。
サミー前田:最近は若い人とのレコーディングの機会は少ないと思うけど、レコーディングを始めたら凄くノリノリになられて。そんな石崎さんがkemeに「若いのに今時珍しい、こんな音楽やるんだね」って、言ってましたね。
keme:レコーディング中、声が出ていない部分があって、それを「凄く嫌だなぁ」って言っていたら、石崎さんが「味だよ、これは。いいんだよ、これで」と言ってくれて。"そうなんだ"と思いました。
──『永遠の旅』を携えてのライヴの設計図はありますか?
keme:最近はUMEZYさんと2人でよくやっているんですけど。ぶっつけ本番でリハーサルがない時も多いですね。それはそれで面白いです、アットホームな感じでできて。UMEZYさんに"悪いなぁ"と思いながら、挑戦みたいな感じです(苦笑)。
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どんどん変わっていくのかもしれない
──さて、アルバムも完成しましたが、これからもkemeさんが表現者として大切にしていきたいことはありますか?
keme:その時にしかできないことをするだけ。今の自分ができることを精一杯やるだけ。だから、どんどん変わっていくのかもしれない。
──時代も、変化の一因になっていますか?
keme:聴く音楽も変わってきたし、作る曲も変わってくるのかなぁ。それは自分でもよくわからないです、どうなるのか。
──ちなみに今、好んで聴いている音楽は何ですか?
keme:ザ・コレクターズは聴いています。コータロー&ザ・ビザールメンがきっかけで聴くようになったんで、普通反対ですけど。泉谷しげるも、よく聴くなぁ。あと、はっぴいえんどとか。フツーだな(苦笑)。
──kemeさんの今後の変化も楽しみにしています。今はソロもありつつ、キノコホテルもあって、バランス的にはちょうどいいくらいですか?
keme:ん〜、忙しい。1ヶ月くらい休みたいんですけど(苦笑)。
──当面の野望は何かありませんか?
keme:ソロでは、もう少しいい環境でしたいというのはありますね。ライヴに向けてバンド形態で、とか。でも余裕がないまま、中途半端にやるのは嫌だなって思いますね。
──kemeさんはやっぱり自由にやりたいと言うか、自主性を重んじて好きなことをやりたい、と。
keme:そうですね。やりたくない時は、やりたくないんですよ。別にどうなりたいとか、そういうヴィジョンはなくて。やりたいから、やっているだけで。急に辞めるかもしれないし、続けるかもしれないし、多分、誰かに「やれ!」って言われても、やりたくなかったら絶対にやらないと思う。
──最後に言い足りなかったことは。
keme:あ、これ(ライヴ情報のフライヤーを指差して)。4月のインストア・ライヴ、来て下さい。