全身でギターを鳴らしたくなった
──オーラスを飾る『我が逃走』はカントリー&ウエスタンの曲調で、バンドのスキルをまざまざと見せつけるアレンジの妙味が楽しめますね。
友:『我が逃走』はもともとエレキだけを使った直球の2ビートで、リズムを録ってる時まではカントリーでも何でもなかったんだけど、ギター入れをしてる時にアコギを入れてみたくなったわけ。普通とは違う響きのアコギをね。もの凄く高い所にカポを付けてバンジョーっぽい響きにしたらイイ感じのカントリーになって、この路線がイイなと思ってさ。面白いことに歌詞は逃走をテーマにしたものが付いたし、結果的にはカントリーっぽい音と上手く噛み合った気がするね。
──立ち向かうべき対象とは"闘争"するのがすべてではなく、"逃走"することも時には大事だという歌詞がちょっと新しいなと思ったんですよね。
友:そうそう。新しいよね。これも歌詞を見た時に初めて見る感じだなと思ったよ。まァ、言ってることは一貫して変わってないんだけどね。
──しかしこう見ると、ここまで振り幅の広い楽曲を1枚の作品として昇華させているのが奇跡にも感じますね。引き出しが多いという言葉では到底済まされないと思うんですけど。
友:何なんだろうね。さっきも言ったように、いろいろとやりたがりなんだと思うよ。4人の中で一番やりたがりなのが俺なのかな。演奏面で言えばシミも坂さんもよく付いてきてくれるなって思うし、冷静に考えるとよくこれだけいろんなタイプの曲をやってるなって我ながら思うね。
──でも、この『オトナマイト・ダンディー』はあっと言う間に40分弱を聴き終えてしまうし、何度でも聴けるスルメ作品ですよね。かつての怒髪天はフル・アルバムだとちょっとトゥー・マッチな部分があったじゃないですか。それがようやくフル尺のアルバムでもイイ塩梅で聴かせられる技量を身につけたのかなと思って。
友:そうだね。あまり長いアルバムは俺も好きじゃないし、曲もムダに長いのは苦手なんだよね。曲をシンプルにする方法が最近になってようやく判ってきた気がする。昔は強弱を付けて大袈裟にしてみたり、展開を多くしてみたりしたけど、そこはあまり大事じゃないんだよね。第一、込み入った曲だとライヴで間違えるしさ(笑)。上手いことごかましてるだけで、"あ、今、1フレットずれたな"って気づいてる人もいると思うよ。まァ、最近はそういうライヴでのちょっとした間違いも気にならなくなってきたけどね。自分で都合良く解釈してるよ(笑)。
──昔の友康さんは、ライヴ・パフォーマンスも東海林太郎みたいでしたよね(笑)。
友:直立不動ばかりだと面白くないし、ただCDを再現してるみたいでさ。もっとその場の雰囲気に身を任せて、全身でギターを鳴らしたくなったんだよ。昔はライヴで間違っちゃいけないと思ってたし、CD通りに弾きたかった。でもそれならCDを聴いたほうがイイし、その場で盛り上がったら正直に自分を出すし、それで間違えたらそれはそれでしょうがないしね。そういうのを全部踏まえた上でのライヴだからさ。もちろん間違えないに越したことはないんだけど、別に歌詞が飛んでもイイと思うんだよね。もっと大事なことがライヴにはあるんじゃないかと最近は思うから。
──そういった友康さんの意識の変化がバンドにフィードバックして、近年の堂に入ったライヴ・パフォーマンスとして帰結している気がしますね。
友:ライヴに対する心構えは確かに変わったよね。前に出るにも一歩だけとかだったし(笑)。ライヴってそんなもんじゃないよね。
──4人が純粋にバンドを楽しんでいるのはライヴからもよく窺えますよ。
友:凄く楽しいね。バンドをやってる時が一番楽しい。毎年楽しくなってるからね。去年よりも今のほうが楽しいし、来年は今よりも楽しくなってると思うよ。
10年後もムキになって速弾きを!?
──『オトナマイト・ダンディー』ということで、友康さんが理想とするダンディーなオトナ像を伺いたいのですが。
友:ダンディーって言うと、俺の中ではレディー・ファースト的なイメージだね。カフスボタンの付いた品のあるワイシャツを着て、淑女を尊重してもてなす感じ(笑)。岡田眞澄みたいな感じだよね。中高の頃はジュリー(沢田研二)をテレビで見て格好イイなと思った。『カサブランカ・ダンディー』っていう名曲もあるしね。
──"ボギー"ですね。ハンフリー・ボガートみたいにトレンチコートの襟を立てて葉巻を吸うのはダンディーですよね。
友:シガーバーとかでね。俺はタバコをやめちゃったから憧れがあるよ。増子ちゃんはこないだ取材で葉巻を吸ったみたいで、「絶対に吸うもんじゃない!」って言ってたけど(笑)。2、3日経っても吐き気が収まらなかったらしいよ。
──ダンディーなギタリストを挙げるとすると?
友:鮎川 誠さんとかかな。大御所っぽい部分もあるけど、永遠のギター少年みたいな部分もあるじゃない? あのバランスがイイと思う。
──友康さん自身はもう充分にダンディーなオトナじゃないですか?
友:いやァ、全然だよ。ダンディーになんて全然なれてない。俺もカフスボタンの付いたワイシャツを着たいよ(笑)。中学生の頃からギターを弾き初めて、やってることがずっと変わらないじゃない? 教則本を見ながら弾いてみたり、いろんな奏法を試してみたりするのは中高でやってたことだし、全然成長してないなって最近よく思うんだよ。だから、振り返ってみると"こんなので大丈夫かな、俺?"ってたまに不安に感じることもある(笑)。
──いや、僕から見れば怒髪天の4人はこれからもずっとその背中を追いかけていきたい立派なオトナなんですけどね。
友:ドラムは抜群にダンディーだけどね(笑)。確かに、ウチのメンバーはみんなオトナだよ。昔のことを考えると、シミは特にオトナになったかな。あいつが1人だけ年下っていうのもあるんだけど、俺達よりも2つ下なのに"オトナだなァ..."って思う時はけっこうあるね。こんな歳になっても自由奔放にバンドをやれてるやんちゃさもイイとは思うけど、俺だって岡田眞澄みたいにダンディーになりきりたいよね。英国紳士的な感じでさ。中央線沿線じゃなく、横浜とかに住んでるのがダンディーなのかな? ...って、勝手なイメージだけで話してるけど(笑)。
──お楽しみ係を自称する怒髪天の無邪気で自由奔放な活躍を見て、オトナになるのも悪くないと感じる人はたくさんいるでしょうね。
友:オトナになると何をやっても怒られなくなるけど、そのぶん全部の責任が自分自身に降り掛かってくるんだよね。ムチャに酒を呑むのも自由だけど、次の日に二日酔いになっても誰も注意をしてくれないしさ。今日もリハで「養命酒って効くのかな?」って話になったんだけど、やっぱり健康が一番大事だよ。まァ、楽屋に養命酒やニンニク卵黄、やずやの香醋とかが並ぶロック・バンドもどうかとは思うけど(笑)。
──友康さんが増子さんとタッグを組み始めた20歳の頃は、怒髪天がここまで息の長いバンドになっているとは想像できなかったんじゃないですか。
友:全然想像付かなかった。ギターは一生弾いていきたいって若い頃から思っていたけど、まさか未だに速弾きの練習をしてるとはね(笑)。それこそダンディーなギタリストになるはずだったのに。でも、たかだか20年くらいじゃ内田勘太郎さんみたいにシブくはなれないよね。50年くらい弾いてたらシブくなれそうだけど。
──今の充実した活動ペースで行くと、この先の10年もあっと言う間なんでしょうね。
友:最近は自分が50代になるのも想像できるようになってきたしね。60代は...ちょっと考えたくないけど(笑)、怒髪天はどんなことになってるんだろう? テンポの遅い曲をシブくアコースティックな感じでやってるよりも、ムキになって速弾きをやってそうな気がするな。あえてムチャクチャ速いリズムを坂さんに叩かせてそうだし(笑)。まァ、とにかく4人が健康でバンドをやっていられさえすればイイかな。それに尽きるね。