想像と違うところへ転がる面白さ
──すでに楽曲の興味深いエピソードを語って頂いていますが、友康さんなりの視点で全曲を駆け足で追っていきましょう。まず、『オトナノススメ』は如何にも怒髪天らしい軽妙かつストレートな楽曲ですね。
友:曲調としてはこれぞ怒髪天! っていう感じだよね。仮歌の時は頭の部分を"ラ、ラ、ララン、ラ、ラ、ラ、ララララ"って唄ってたんだけど、オトナをテーマにした歌詞に決まった時から増子ちゃんの中ではもう"ババンババンバンバン"しかなかったんだろうね(笑)。パーンと開けたアレンジになってるし、演奏してても気持ちイイ曲だね。長年やってると"こういう曲をやると盛り上がるかな?"っていうのが当然あるんだけど、常にその裏を行きたいんだよ。速いBPMでやれば確かに盛り上がるけど、そうじゃない『ヤケっぱち数え歌』みたいなテンポの曲でもリズムで踊らせたいんだよ。そういう裏切っていきたい感じは常にあるね。
──その『ヤケっぱち数え歌』は友康さんのギター・キッズ的DNAから生み出された曲ですが。
友:そうだね。でも、実はこれ、自分の中で一時期ブームだったヒップホップにインスパイアされた曲でもあるんだよ。
──エエッ!? ヒップホップを聴きながらワインを嗜むとか?(笑)
友:うん、あるある(笑)。ラジオを聴いてたらヒップホップの格好イイ曲があって、ああいう3連ノリのオーセンティックな曲調は面白いと思ったんだよ。それに今的にはダサいハード・ロックのリズムをミックスすれば面白いものが出来そうな気がして。3連で歌詞を乗せていくのは増子ちゃんもやったことがないから唄うのが大変だったと思うけど、割とすんなり行ったね。もしかしたら増子ちゃんにはヒップホップの素質があるのかもしれない(笑)。
──ズミ・ザ・MCもヒップホップ的なリリックから『ド真ん中節』みたいな王道曲までレンジが凄まじく広いですね(笑)。
友:『ド真ん中節』は王道だね。これはデモを聴かせた時から全員が「絶対やろう!」って言ってたし。
──デモの段階から"ドンドドン"だったんですか?
友:いや、"ラーララー"だったかな(笑)。いわゆるハチロク(8分の6拍子)の曲なんだけど、この手の曲をあまりやってなかったんだよね。大昔に『明日の唄』っていう曲があったけど、あれは演歌のほうに寄ってるんだよ。そうじゃないハチロクの感じで、ギターもずっと鳴りっぱなしでベースもドンドコ言ってるみたいな曲をやりたかった。増子ちゃんの中ではすぐに歌詞のイメージが湧いたみたいで、歌詞を見せてもらったら今とほぼ同じ状態で出来上がってたね。"ドンドドン"って歌詞を見た時に、このサビは絶対にみんなで一緒に唄おうって思ったよ。文字面だけ見ると"ドンドドン"って凄い言葉だけど(笑)、俺達は最初からすんなり受け止められたんだよね。
──『オレとオマエ』のイントロで聴かれるキーボードは友康さんが弾いているんですか。
友:うん。俺も増子ちゃんが書く『オレとオマエ』みたいな世界観は大好きなんだよ。ただ、80年代っぽい軽い曲調だから、まさかあんな歌詞が乗るとは思わなかったね。
──昔だったら、ああいうグッと来る歌詞にはウェットなメロディが寄り添うことが多かったですよね。
友:そうそう。メロも一緒に泣く感じだった。そういうふうにしないと気が済まなかったんだけど、『オレとオマエ』のAメロ自体は侘寂がないと言うかカラッとしてるよね。そこにあの歌詞を乗せてくれたのが凄く嬉しかったし、そういう試みが実は一番やりたかったことなのかもしれない。あと、この曲も全員で合唱がしたかったんだよ。最初は増子ちゃんが独りで唄ってたんだけど、みんなで唄った瞬間にキュン度が上がったんだよね(笑)。
──『俺ときどき...』の音像こそ、まさに新機軸ですね。
友:憂歌団とかがみんな好きだったし、アコースティック・スタイルはもともと好きなんだよね。この曲はメジャーセブンスっていう爽やかなコードなんだけど、それは増子ちゃんの世界観じゃないなって勝手に思ってたわけ。でも、俺自身は好きなコードだから、曲としては作ってたんだよ。で、"こういうのもあるよ"って軽い感じで聴かせたら「是非やろう!」ってことになって。
──今にも降り出しそうな曇天をサウンドで見事に具象化しているのが素晴らしいなと思って。
友:『俺ときどき...』も『ド真ん中節』もそうなんだけど、朝のウォーキング中に浮かんだ曲なんだよね。特に『俺ときどき...』は俺の中で1日がこれから始まる爽やかな曲で、増子ちゃんが付けたウェットな歌詞とは真逆のイメージだったんだよ。増子ちゃんの歌詞は天気も雨だし、最初は正直、この曲には合わないなと思ったの。でも、増子ちゃんが唄ったら違う感じに転がっていって、これもイイなと思ってね。俺が想像してないところに転がっていったのが今回のアルバムの面白いところだと思うし、『俺ときどき...』は特にそうかな。
我流で編み出したリヴァース奏法
──『武蔵野流星号』を改めてアルバムに収録したのは、バンドにとっても絶対の自信作だからですか。
友:そうだね。やっぱり聴かせたかったし、外す理由がなかったと言うか。
──"ラブソングを歌わない男"が照れくさそうにラブソングを唄い上げるのがまた何とも...(笑)。
友:相当照れくさいみたいだね(笑)。曲調自体は前からあるものだけど、自転車に乗って彼女に会いに行く世界観は今までなかったよね。ライヴで演奏してても、仕事終わりでしゃかりきに自転車を漕いでる情景が浮かぶんだよ。この曲はタイトルもみんなで考えたんだよね。あと、「自分の会社から彼女の家まで距離的にはどれくらいだろうね?」なんてみんなで話してさ。「4駅、5駅くらいかな?」とかね(笑)。
──そうやって歌詞の世界観をちゃんと4人で共有しているんですね。
友:3人はね(笑)。
──ああ、メガネのレンズを豪快に飛ばす方以外は(笑)。
友:でも、坂さんが一番ロマンチストだったりするから、実は一番理解が深いのかもしれない。
──ちなみに、仮歌のタイトルは最初どんな感じだったんですか。
友:たとえば『ヤケっぱち数え歌』は『トレック・ブギ』。トレックっていうのは札幌に住んでた頃に一緒にライヴをやったロシアのハード・ロック・バンドで、それが凄いダサくて俺は大好きでね。アレンジしてる時にトレックのことを思い出したんだよ。『ド真ん中節』は『ハチロク』。『オレとオマエ』は『Oh! トゥナイト』(笑)。『俺ときどき...』は『ネオアコ』だね。
──『悪心13』で弾いているのはリゾネーター・ギターですか?
友:いや、アコギをスライドで弾いてるだけ。二日酔いの歌だし、ちょっとゴミ箱みたいな音が出ればイイなと思って(笑)。耳障りな感じを出したかったんだよね。それにはエレキじゃないなと思ってさ。『悪心13』のサビには珍しく女性コーラスをフィーチャーしてるんだよ。今までなら俺がコーラスをやってたんだけど、曲調的にストーンズのコーラス隊みたいな感じが欲しかったんだよね。
──『ダイスを転がせ』みたいな感じと言うか。
友:そうそう。ボディコンのお姉ちゃんが3、4人いて、その中の1人が背の高い黒人だったりしてさ。そのコーラス隊が(英語っぽく)"二度ト呑マネェ〜"って日本語をよく判ってないけど言わされてる感じで唄うって言うか(笑)。何度か俺が入れてみたんだけど雰囲気が出なかったから、女性のコーラス隊に頼むことにしたんだよ。あれはバッチリだったね。
──『ふわふわ』には人力テクノっぽいニュアンスも若干ありますね。
友:俺の中ではテクノっていう発想が全然なくて、ストラングラーズみたいなパンクに近い感じだった。『ロンドン・コーリング』の頃のクラッシュとかね。ベースが凄いフィーチャーされてビートが利いていて、でも踊れるみたいな。増子ちゃんはテクノっぽい感じに聴こえたみたいで、歌の録り方もちょっと変えてみたんだよね。あと、俺が新しいギターの奏法を開発して、それをこのギター・ソロで弾いてるのにも注目して欲しいね。
──奏法の開発だなんて、そんな新堀寛己博士みたいなことを!(笑)
友:テープの逆回しっぽく聴こえるフレーズを考えたんだよ。ビートルズがやってたリヴァースっぽい音でさ。
──『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』みたいな感じの。
友:そうそう。ああいうのを人力でやりたくて、凄い練習して編み出したんだよね。流行らないかなと思ってさ。まァ、絶対に流行らないだろうけど(笑)。いつもそんなことばかり考えてるんだよね。いつか音楽の歴史に名前を残せないかな? とか(笑)。地味にそういう細かいことをスタジオでやってるんだけど、他のメンバーの目がけっこう冷ややかなんだよね。ギターで逆回転を試してみたり、キーボードをピコピコやってると、みんなホントに不安そうな顔でこっちを見てるんだよ(笑)。「一体どうなるの?」「何をやりたいの?」って言われると、「いろいろあるから楽しみにしてて」みたいに答えるんだけどさ。
──でも、完成型を聴けば他の3人は「こういうことか!」と納得するんですよね?
友:うん、2人はね(笑)。ただ、いろいろと音を足して最終的なジャッジをする時に坂さんの社長のハンコがやっぱり大事なんだよね。「サイコーです!」って言われると、"ああ、良かった! 坂詰さんにOKをもらえた!"って思うからさ(笑)。間違ってないんだなって言うか、凄く勇気づけられるし、自信が湧いてくるんだよ。
──社長は『アフター5ジャングル』での趣向を凝らしたリズム・パターンとか、自分の演奏にしかまるで興味がなさそうですけど。
友:実際、自分のことにしか興味はないだろうね(笑)。