caroline rocks記念すべき初の正式音源『白い空気とカーディガンと頭痛』リリース!! 喉が張り裂けそうなほどに叫ぶハイトーンボイスが印象的なバンド。心の叫びともとれるボーカルに、ツインギターによる美しくもあり鋭くもあるメロディー、艶やかに色気さえ感じるリズム隊が重なった時のバランスは絶妙で、透明感のある楽曲に彩りを加える。しかし、その彩りとは決して華やかなものではなく、淡い色が付きましたというぐらいのもので、なかなか正体は掴めない。掴みたいのに掴みきれないその佇まいはどこか空に浮く雲にも似ており、雲も時として恐怖すら感じる雷雲となるように静かなサウンドは突如轟音を響かせる楽曲へと展開していく。陰と陽、静と動、夢と現実、日常と非日常という、相反するものを音で表現するcaroline rocksが今後どのような進化をし、表現を手に入れていくのかが楽しみである。
今回はギターボーカル渡辺僚啓にお話を伺うことができた。どこか掴みきれない感じは、やはり音楽にも反映されているのだと感じた。(interview:やまだともこ)
現実と夢の狭間、日常と非日常の対比
──4枚のデモCDを経て、初めてのミニアルバム『白い空気とカーディガンと頭痛』がリリースされますが、結成から5年が経ち、ようやくバンドがイメージする形に近づいてきている状態ですか?
「今も過程であることには変わりはないんですが、曲作りをして、デモを作って、ライブをやっていくという中で、バンドとしての可能性を4人で模索してきたので、ようやくやりたい事がはっきりしてきたという段階です。昔から比べてサウンドがガラッと変わったというわけではないんですけど、結成した当初は、僕が曲を渡してそれを演奏してもらうという感じで、まだバンドとしても馴染んでない感じもありましたし。徐々に洗練されてきているという感じです」
──今作では新たな一歩として、何かテーマを設けてから作り始めたんですか?
「最初は、夢の世界を表現したいって思っていたんですが、漠然としすぎてて...(苦笑)。最近はようやくわかってきたところなんです。僕、日常の中で起こるドラマチックなことや、日常の中に潜む非日常だったりにすごく興味があるんです。要は現実と夢、日常と非日常の対比というか。非日常の中に本当のことがあるような気がして、こういうことを歌にしたいんです」
──『錯覚ドラマチック』のような、錯覚の中にこそドラマチックなことがあるというニュアンスですか?
「今まで信じていたのに、急にひっくり返される感じですね。いつ掌返しをされるかわからないというか。その境界線のギリギリ感は気になるところです」
──境界線が曖昧な音楽というのは、浮遊観もあるし瑞々しさもあるし、バッキバキのサウンドだったりもしますし。一筋縄ではいかない感じがcaroline rocksの特徴でもありますよね。掴もうとすると逃げていってしまうような、とらえどころのない感じ。でも音の芯はしっかりしてるんです。抽象画っぽいというか。
「歌詞に関しては、聴き手に自由に感じとってもらいたい部分が大きくて、自分でもわかりやすくはないと思っています」
──妄想の伸びしろを残しておくというか...。
「1曲目の『白い空気とカーディガンと頭痛』で言えば"自転車""絵の具""マフラー""カーディガン"とあって、思い描く具体的なイメージは違えど、それが聴き手の記憶の断片に少しでも引っかかって何か共有できたら嬉しいなと」
──"自転車"って一言で言っても、100人いたら100人が考える色も形も違うでしょうしね。
「そうなんですよ。タイトルの『白い空気とカーディガンと頭痛』もそうなんです。昔『部屋とYシャツと私』という曲がありましたけど、その3つの単語だけでそれぞれが想像を巡らすじゃないですか? そういう感じです」
──耳で聴くだけでなく、想像をさせるというのは、1曲1曲がショートストーリーのような感じもありますね。
「そうかもしれないです。押しつけるつもりはないんですが、自分は曲からイメージを湧かせて聴くタイプで、特に電車で音楽を聴くのが好きなんですよ。流れている音楽と、見てる風景がその時の自分とリンクした記憶があって、こういう感覚って素敵だなって。聴き手の生活の一部に溶け込んでいってくれたら、これほど素晴らしい音楽はないなって思うんです」
──こういった曲は、どう作られているんですか?
「まずは曲を作って、それからその曲のイメージについていろいろと考えを巡らせます。曲の持っている雰囲気が切れの良い質感だったら"鉄"とか"コンクリート"という都会的なイメージが頭をよぎるんです。それから自分の頭の中にある気持ちだったり、リンクする記憶だったりを思い出すと、パーッといろいろなものが浮かんでくるんです。歌詞は、電車に乗って書くことが多いんですよ。電車から見える風景とか...例えば夕焼けを見てリンクするものが浮かんで、それをノートに書き留めていったりしています」
想像を膨らませる言葉
──楽曲を作る時は頭の中で浮かんだ風景があって、それに沿った言葉を抽出する作業に近いんですか?
「それもありますし。頭のイメージがどんどん妄想で発展して、それと一緒にイメージが湧いていくというパターンもありますし」
──となると、妄想と現実世界がごっちゃになることってないですか?
「ありますよ。誰かと付き合って別れての一連の夢を見た時に、なんでだめだったんだろう? ...って起きてから1〜2分現実世界に戻れなかったりして。あ、夢だったのかって」
──最後の『夢の中の君』は、まさにそれがテーマですよね? 夢と現実の狭間にあるという感じで。これはみなさんの代表曲と言えるぐらいの風格があるような気がするんです。バンドが表現していきたい音楽性も一番近いような。
「テーマにはすごく沿ってるし、僕たちがやりたいことをわかりやすく伝えられている気がしています」
──この中に"いつか消えてしまう魔法だとわかっていた"というフレーズがありますが、なんともいえない感情だったりを音や歌詞に封じ込めるところが、みなさんの音楽性が集約されてる感じもあるんですよね。また、『白昼夢』の"夕暮れやめないで 夕暮れやまないで"というフレーズが耳に残ったんですが、夕暮れ時というのは、曲作りをする上で色んなインスピレーションを与えてくれるんですか?
「そうなんです。夕暮れを見ると変な気持ちになりません?」
──変な気持ちになったことはないですが、渡辺さんの変な気持ちは知りたいです。
「夕暮れを見ると色んな感情が湧いてきて、寂しさだったり、郷愁的であったり、色んなものが含まれてる感じがするんです。小学生の頃は、友達と遊んでいて"帰らなきゃ"という時間が夕方の5時とかで。そういう記憶の断片ってずっと残っているんですよね」
──はっきりしたものより曖昧の中に真実があるというか、渡辺さんの心象風景と一番リンクしているというか。そう言われてみると、"夕暮れ"を連想させるフレーズってけっこう出てきますよね。
「やっぱり、リンクしてるんですよね」
──ところでレコーディングはどうでしたか?
「楽器の演奏に関しては、ずっとやってる曲が多かったので、レコーディングの直前に確認をしてスムーズに録れたんですけど、歌は苦戦しました。どう歌ったら聴き手に入り込んでいけるのかをメンバーと相談して。感情の入れ方もそうですし。...基本的なことなんですけどね(苦笑)」
──ちゃんと聴き手に伝えるという意識が芽生えたということなんですかね?
「そうだと思います。ギターの砂川(一黄)くんがバンドを客観視してくれるので、バンドの向かうべき方向が見えたという感じですよ」
──チームプレイはバッチリですね。
「ようやくです(笑)」
──これまでにデモで出していた曲も入ってますが、それは録り直しで?
「はい。録り直しています。アレンジが変わっている曲もありますし、歌の細部まで気をつけて歌おうってのもありますし。一番大きいのは、今回の作品を出すまでにベースのメンバーチェンジがあったので、今回は新しいメンバーと録ってます」
──ベースってドラムと同じでバンドの屋台骨を支える重要な楽器ですから、メンバーが替わると歌とかにも影響を及ぼすじゃないですか? それは良くなって来た手応えはあるんですか?
「メンバーが替わったばかりの頃は、バランスが変わったので模索していたのですけど、やっとまとまってきたのかなと。まだ通過点ですけど、自分たちのやりたいことを表現できるように客観視して、音のバランスとかも考えられるようになってきています。全部今年に入ってからの話なんですけど(苦笑)」
──今年はバンドとしての芯が一本通ってきたという感じでしたが、2010年はどんな1年にしたいですか?
「フェスに出たいです。ずっと昔からの夢なんです。初めてライジングサンに行ったのが10代の時なんですが、太陽が沈むか沈まないかぐらいの時間に見たスーパーカーのライブは今でもずっと覚えていますし」
──やっぱり夕方、夕焼けは切り離せないってことなんですね。夕暮れ以外にインスピレーションを受けるものってあります?
「東京の街です。僕は小さい時からずっと埼玉に住んでいて、東京は距離が近いからいつでも行ける場所ではあったんですが、東京って色んな要素含まれているなって思っていたんです。それこそ、渋谷のような都会もあれば、田舎の町もあって、場所によって空気も違うし、そこに居る人たちも全然違うし。だから、すごく興味があるんです。有象無象があって、色んなものを内包してるからこそ面白いという感覚があるんですよ」
──では、バンドとして今後どうなりたいという野望を教えてください。
「基本的なことなんですけど、自分たちの作った曲をたくさんの人に聴いてもらいたい。自分が10代の頃とかにいろんな音楽で影響を受けたように、若い子たちが聴いて刺激になるような音楽がやりたいですね」