Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー灰緑('09年11月号)

パンクもファンクも演歌も民謡もドンと来い!
閉塞したインディーズ・シーンを震撼させるリアル天然素材の突然変異バンド!

2009.10.15

 末恐ろしい才能が現れたものだ。その名も灰緑。ギター&ヴォーカル、ギター、ベース、ドラム、サックスという実に平均的な編成で全く平均的ではないカオティックな音を鳴らす5人組だ。その音楽性は決して一筋縄では行かない。と言うよりも、括りという括りをスルリとすり抜ける何処にも属さぬφな音。パンクもファンクも演歌も民謡も寸劇も何でもこざれ、あらゆる音楽性を闇雲に呑み込みながら容赦なく吐き出していく。よくある内側へベクトルが向かうローファイかと思いきや高度なアンサンブルを聴かせ、ステージでは上半身裸のドラマーが「絶対甲子園に行こうな!」と謎の雄叫びを上げながらも有機的なグルーヴを見事に体現している。面白い。掛け値なしに面白い。得も言われぬ圧倒的に凄いものに触れた時、人は無言になるものだが、僕が初めて彼らのライヴを見た時もまさにそんな感じだった。多分にシアトリカルな要素を含む彼らのライヴには有無を言わせぬ桁外れの凄味があるのだ。全く、末恐ろしい才能が現れたものである。(interview:椎名宗之)

同じ演奏は二度とできない

──バンド結成の言い出しっぺは刈田兄なんですよね。

西宮(ギター):最初、彼(刈田英之)はベースを全く弾けないのに、僕に「バンドをやろう」と言ってきたんです。僕はギターをやってたんですけど。

刈田英之(ベース):ベースを弾けなくてもバンドをやるという、偉大なるセックス・ピストルズさんに倣って(笑)。昔からベースの音が好きで、西宮君のバンドからベースが抜けたと聞いて、趣味程度にバンドをやりたいと思ったんですよ。同じタイミングで同級生だったこの子(山口)もギター教室に通い始めて、社会人になってから一緒にやることになったんです。ドラムはいなかったので、西宮君と銭湯へ行く途中に大学に受かったばかりの弟(修)に電話して「ドラムをやってくんない?」と誘いました。

刈田 修(ドラム):僕もドラムは全然叩いたことがなかったんですよ(笑)。

英之:最初はレディオヘッドの『クリープ』をコピーしようとしたらできなくて、すぐに諦めたんだよね?

山口(ギター・歌):そう、スコアを買っただけで終わったっていう(笑)。

──サンタさんはどんな経緯で加入したんですか。 サンタ(サックス):ライヴを見かけてすげぇバンドだなと思って、一緒に演奏したいなと。

山口:でも、僕らが余りにも音楽的なことを知らないので、時間がもったいないんじゃないかと最初は思ったんですけどね。

英之:時間どころか、人生がもったいないなと(笑)。

──ライヴも拝見して、今回発表された『うむひとうまれるひと』も聴かせて頂いて、何故これほどまでに尋常ならざる異様な音楽性となったのかを今日は知りたいと思いまして。たとえば、『甲子園(春・夏)』の小芝居はどうやって生まれたのか? とか。

修:あの曲は、スタジオで僕が突然「絶対甲子園に行こうな!」と言い出して...その後、どういうふうに出来たか全然覚えてませんね。

英之:修はただみんなを笑かせたいってだけだったでしょ、曲が作りたいってよりは。

修:そう、その延長...いや、延長はしてないか(笑)。ライヴでは「絶対甲子園に行こうな!」の台詞だけ決まってて、それ以外は毎回自由なんです。

──寸劇の後の暴走グルーヴは、同じ演奏が二度はできない感じですよね。

英之:レコーディングもそうですよ。ライヴ同様、同じ演奏はできないですね。

山口:リハも余りやらないんですよ。やりすぎると面白くなくなっちゃうんで。今回は歌も楽器も一発で録らせてもらったんですけど、ライヴみたいに録りたかったんです。

──『甲子園(春・夏)』は特に、何度もやるとテンションが落ちそうですね。

修:落ちちゃいますね。考えてやる思考になるともう絶対にダメなんですよ。自然にやってる時じゃないといいのが出来ないんで。

──歌詞らしい歌詞を書いているのは山口さんなんですか。

山口:いや、書いてないです。文字にはせずに、思いついた言葉を何度も唄ってみんなに覚えてもらってるだけです。

バンドのお陰で社会性を保てている

──曲作りは各々が曲の断片を持ち寄って、それを足したり引いたりする感じですか。

山口:それよりもセッションで固めていくケースが多いですね。

英之:セッションで彼(山口)が盛り上がって唄ってくれたら曲として成り立つんです。

──『アラビア』にはセッションで固めた名残を感じますけど、これはきっと中近東っぽい音階だから付けられたタイトルなんでしょうね。

山口:バレバレですね(笑)。

英之:曲名は全部そういうノリなんですよ(笑)。

──中近東チックとは言えどもちょっとチンドン屋の風合いも感じるし、『こぶし』みたいな不穏なサイケ演歌、『いなかまつり』みたいな変態民謡といったレパートリーには日本人の血みたいなものを感じますね。

修:幼い頃に踊った八木節がみんな忘れられなくて...。

──はぐらかされましたね(笑)。『エビスコ』とかを聴くと、じゃがたらとかがお好きなのかなと思ったりもしたんですけど。

英之:そういう音楽の影響を受けてますか? と訊かれてから覚えたくらいなんですよ。

──じゃあ、『甲子園(春・夏)』とスネークマンショーの関連性もなさそうですね(笑)。

山口:スネークマンショー? ヘビの人形でコントやる人ですか?

──それは東京コミックショーですよ(笑)。『知りたいよ』とかは意外とキャッチーな歌モノに寄った曲だと思うんですけど、灰緑の手に掛かるとどこか暗雲の垂れ込めたムードが漂いますよね。これは決して拭い去れないグツグツした童貞力によるものなんでしょうか。

修:それはありますね。その鬱屈したパワーが創作の原動力になるんでしょう。

──発散できない鬱憤が甲子園へと向かわせたり?

修:うん、そういうことですね。

──適当に答えてるなぁ(笑)。

英之:彼(山口)なんかは就職してその鬱積を思いきり音楽にぶつけてますよ。バンドを始めた頃は「上司の目ン玉をご飯に乗っけて食う」とか恐ろしいことを唄っていて、みんなガタガタ震えながら演奏してましたから(笑)。

修:本気で怖くて、一緒にスタジオに入りたくなかったもんね。"リアル『シャイニング』"でしたよ(笑)。

山口:生まれてこの方、ずっとそんな感じだったんですよ。このバンドのお陰で何とか社会性を保てている部分はありますね。

──『いなかまつり』の最後で希望や未来や夢を"ぶっ殺せ!"と叫んでいるところに"リアル『シャイニング』"の跡を感じますね。

英之:今でもたまにシュッと牙を剥く時があるんですよ。

──山口さんはライヴで凄くにこやかな顔をしている時と鋭利な眼光を放ちながらブチ切れている時のギャップが凄まじいですよね。

山口:そうですね。このバンドのお陰で(笑)。

修:と言うか、完全に社会不適応者だよね。

英之:にこやかな顔をしてるけど、心だけはピストルズさんなんで(笑)。

──灰緑のライヴで、いっとう最初の一音が鳴らされた時の張り詰めたあの空気感は独特なものですよね。

山口:最初のドラムのバン! って音が締まるし、凄く好きなんですよ。それが緊張感に繋がるのかもしれません。

──緊張感って度を超すとおかしみが出るじゃないですか。お葬式の空気が余りに張り詰めるとクスッとしたおかしみが出るような感じが灰緑のライヴにはあるような気がするんですけど。

修:音をちゃんと合わせようとしてるのに思いきりハズす残念な時もありますからね(笑)。

──山口さんのギターの弦が最初から切れまくったりね(笑)。ライヴでは各自どんなことを考えながら臨んでいるんですか。笑かしてやろうかと思ってるわけでもなさそうだし...修さん以外は。

修:いやいやいや、僕は常に全力ですよ。

──全力でオーディエンスを笑わせると?(笑)

修:いやいやいや、僕は常に本気ですよ。

山口:音の本気さで殺してやる! って言うか。

英之:でも、殺した後に回復もさせるって言うか。

修:疲労回復ですね。音の出る健康器具みたいなものですよ。

バンドが無心で演奏できるレコーディング

──アルバムの話に戻りますが、『愛のチャッチャッチャ』でタモリの4ヶ国語麻雀みたいなインチキ中国語を話しているのは修さんですか。

英之:いや、僕です。2人の男がラーメンについて議論し合う設定なんですよ。

修:どうでもいいよ、そんなことは(笑)。

──個人的な印象ですけど、この『愛のチャッチャッチャ』はpanicsmileっぽいギターの鳴りを感じましたね。ここにアルバムの制作に携わった吉田さんがいらっしゃるから言うわけじゃないんですけど。

吉田 肇(panicsmile):panicsmileなんて聴いたことなかったでしょ?

山口:いや、僕らはパニスマ直系だし、ファーストから全部持ってますよ。

吉田:ウソつけ(笑)。

──あと、『おばけ』はpanicsmileの演奏にあぶらだこの裕倫さんが唄ってるような感じだなと思って。

山口:あぶらだこもファーストから全部持ってますから。

──はいはい(笑)。通り一遍のことを伺いますが、『うむひとうまれるひと』というタイトルにはどんな意味が込められているんですか。

修:これから込めましょうか。そうだな、えーと...これはですね、"うむひ"と"うまれるひ"とも読めるわけで、そこに引っ掛けているわけですよ。...そこから先が広がりませんけど(笑)。

──まぁ、何でもいいかな(笑)。皆さんの出身地である栃木県足利市という土壌が灰緑の音楽性に影響を与えた部分はありますか。『エビスコ』の歌詞には森高千里の歌で知られる"渡良瀬川"という言葉も出てきますけど。

山口:影響を受けた部分はないですね。こっちに出てきてから組んだバンドですから。『エビスコ』は"恵比寿講"っていう地元の祭りの名前をただ拝借しただけなんですよ。

──吉田さん、こんな天然の逸材バンドをよく見つけてきましたね。

吉田:初めて彼らのライヴを見た時、凄く自由さを感じたんですよね。最初からプロデュースしようという気はなくて、このままを何とかいい感じで音源にしたかったんです。それには素材をそのまま活かすこと...つまり、バンドが無心で演奏できることが大事だと思って。そこで、僕らがセカンドを録ったGOK SOUNDなら彼らの持ち味を活かせると思ったんですね。あのスタジオの独特の環境と音の反射はいいなと。あと、エンジニアの近藤祥昭さんのセンスが凄く良くて、音の立たせ方やカオスな音をまとめるのが巧いんです。曲を聴いてるうちに聴かせ所をすぐに察知して音作りをする方なので、彼らも録ってる時は何も意識せずに集中できたんじゃないですかね。バンドを心底楽しんでる感情が声になったり歌詞になったりするバンドなので、持ち味を最大限に引き出したかったんですよ。

修:さすが吉田さん、僕らがダラダラ話してきたことを一気に払拭するような実のある言葉、ありがとうございます(笑)。僕らは考えてることややりたいことが全員バラバラで、まとまるものもまとまらないんですよ。それがいい方向に出たり、悪い方向に出たりするんです。

西宮:敢えて共通項を挙げるとすれば、音楽に対してメチャクチャ本気ってことですかね。

修:メチャクチャ本気なのに、何でモテないんだろうね?

山口:やっぱり"リアル『シャイニング』"だからじゃない?(笑)

このアーティストの関連記事


うむひとうまれるひと

P-VINE RECORDS PECF-3002
2,205yen (tax in)
IN STORES NOW

amazonで購入

iTunesStoreで購入

LIVE INFOライブ情報

灰緑の11月にうまれ、10日で恋におちる方法
11月10日(火)下北沢シェルター
with:埋火/Qomolangma Tomato
19:00 開場/19:30 開演
前売り 2,000円+1D/当日 2,300円+1D
問い合わせ:シェルター 03-3466-7430
休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻