ex.ZEPPET STOREの木村世治がhurdy gurdyと並行して今春新たにソロ・ユニットを始動させた。Pale Greenと名付けられたこのソロ・ユニットは、『sweet pool』なるPCゲームから派生して始動に至ったもの。そう書くと如何にも安直な企画物に受け止められそうだが、このPale Greenは木村の音楽性が今後さらに豊饒なものとなる可能性を秘めたポテンシャルの高いユニットである。音源においてあらゆる楽器を自身でプレイすることは今のところhurdy gurdyと変わらないが、Pale Greenには楽曲によってゲスト・プレイヤーを迎える間口の広さもある。それどころか、ZEPPET STOREの解散以来頑なにバンド編成を禁じ手としてきた木村が、このPale Greenの新たなミニ・アルバムでは部分的にその禁じ手を破ることさえ敢行しているのだ。これは木村自身がPale Greenに対して並々ならぬ手応えを感じている何よりの証左と言えるだろう。実際、Pale Greenの処女作『Songs For The Dreamers』は決して甘さばかりに流されない流麗な木村のメロディ・センスが存分に堪能できる会心の作だ。hurdy gurdyとPale Greenという似て非なるソロ・ユニットを同時進行させることの意義から今も拭えぬバンドへの憧憬、そして今なお木村の心の中で生き続けるhide(X JAPAN)への想いまで、木村本人にたっぷりと話を訊いた。(interview:椎名宗之)
何の先入観もなく聴いて欲しかった
──木村さんの中では、hurdy gurdyとPale Greenをどう区分けしているんですか。
木村:Pale Greenは『sweet pool』(Nitro+CHiRALより発売されたBL系アドヴェンチャー・ゲーム)というPCゲームから生まれたユニットなんです。hurdy gurdyもPale Greenも、楽曲作りやレコーディングの工程にそれほど違いはないんですよ。ただ、hurdy gurdyは完全に自分ひとりですべての楽器を演奏するのが当初からのコンセプトなんですが、Pale Greenはゲスト参加も視野に入れたユニットにしようと思って。そこが一番の大きな違いですね。
──ファースト・ミニ・アルバム『Songs For The Dreamers』には、磯江俊道さん(ZIZZ STUDIO)の演奏による『I'm in blue』のピアノ・ヴァージョンも収録されていましたよね。
木村:そうなんです。ソロになって以降、自分以外の誰かと音源を作ったのはあれが初めてでしたね。あと、Pale Greenはあくまで『sweet pool』ありきのユニットなので、ゲームの世界観に合わせた音楽を生み出すのがベーシックにあるんですよ。
──ゲームの世界観に合わせるということは、職業作曲家的な側面が求められるわけですよね。
木村:『sweet pool』のシナリオ・ライターである淵井鏑さんのアイディアを伺いながら詞が生まれていくのは、そういった側面が多分にあるのかもしれませんね。基本的に楽曲作りの工程はhurdy gurdyと変わらないんですけど、詞の部分の摺り合わせはちゃんとやっていこうと思っています。
──ZEPPET STOREを含めた木村さんのキャリアの中で、楽曲依頼に応えるようなことはかなり珍しいケースですよね。
木村:余りなかったですね。外部への楽曲提供はあるにはあったんですけど、それも割と自由にやらせてもらっていたので。ゲームというひとつの作品にリンクしていく形は今回が初めてです。ZEPPET STORE時代にドラマのタイアップが付くことになって、そのドラマのシナリオに詞を多少合わせたことはありましたけどね。
──このPale Greenでは、木村世治ではなくYuziという名義を使って活動されていますが、これは淵井さんからの提案だったんですか。
木村:いや、実は僕から提案したんですよ。最初はPale Green=木村世治であることを伏せようと考えていたんです。とあるミュージシャンがシークレットで活動するユニットというコンセプトを立てようと思って。それは、ZEPPET STOREやhurdy gurdyというキャリアを取っ払った上で、何の先入観もなく素直に聴いて欲しかったからなんですよ。ただ、それだと従来の僕のファンには全く伝わらないことに気づいて(笑)。自分でも凄くいい楽曲が出来た手応えがあったし、ヘンに隠すのももったいないな、と。それで、自分でコンセプトを立てたくせに、ライヴで自分から暴露しちゃったんです(笑)。
──でも、まさかSeiziがYuziになるとは思いませんでしたけど(笑)。
木村:Yuziというのは、『sweet pool』には直接登場しない設定上の子供の名前なんですよ。その子供が成長して音楽を生み出したというようなイメージなんです。淵井さんにネーミングの話をしていたら、「ユウジという名前の子供が生まれることになるから、良かったらそれを使いませんか?」と言って下さったんです。
──Pale Green(薄緑)というユニット名にはどんな意図が込められているんですか。
木村:まさにファースト・ミニ・アルバムのジャケットで使われている色ですね。もともとPale FountainsやPale Saintsといったイギリスのバンドが凄く好きだったり、Velvet Undergroundの『Pale Blue Eyes』という曲だったり、"Pale"という言葉の響きが以前から気になっていたんですよ。あと、色の付いたネーミングにしたかったんです。ZEPPET STOREには色がタイトルに付いた曲がたくさんあったんですけど、グリーンだけなかったのもあって。僕が弾いているオリジナル・ギターにも"Pale Green"っぽい色のがあるし、ぴったりだなと思ったんです。
求められるコンポーザーとしての資質
──ちなみに、木村さんは以前からゲームに関心があったんですか。
木村:いや、全く(笑)。プレステもニンテンドーDSも持ってはいるんですけど、ほとんどやらないですね。PCゲームに触れたのも今回が初めてですし。ただ、小説のように物語があって展開していくPCゲームは斬新だなと思いましたよ。絵がそんなに動くわけじゃなく、字幕が出てきて声優さんが話しながら進んでいくスタイルでしたから。ゲームというよりも、個人的には映画に近い感覚でしたね。
──ということは、劇伴を作るような感覚に近かったですか。
木村:映画のサントラを作るニュアンスでしたね。最初に絵コンテを頂いて、その後に歌の入っていないオープニング・ムーヴィーを見たんですけど、これは『DEATH NOTE』とかのアニメ映画みたいなものだなと思って。
──ヴォーカリスト、マルチ・プレーヤー、コンポーザー、ライヴ・パフォーマーという様々な側面を持つ中で、木村さんがこのPale Greenで求められるのはコンポーザーとしての資質が最も大きいんでしょうね。
木村:そうですね。もともと曲を作ることが大好きで、ギターを始めたのも曲作りをしたかったからなんです。最初に触れた楽器はドラムで、中学生の頃からやっていたんですけどね。
──Pale Greenの処女作である『Songs For The Dreamers』は、ゲーム云々に関係なく、純粋に1枚のアルバムとしてもクオリティの高い作品ですよね。木村世治ワールドを存分に堪能できますし。
木村:余りゲームに寄りすぎることなく、僕自身の個性や世界観を貫かせてもらうことをプロデューサーには最初に伝えたんですよね。それに快く応じてくれたので、思う存分やらせてもらったんですよ。詞の部分ではゲームとリンクさせつつ、曲の雰囲気やメロディ・ラインはあくまで自分らしく着手できましたね。
──『I'm in blue』や『the red road』、『diving deep』といったバラードは言うまでもなく、『good-bye my pain』や『how』のように疾走感に満ちた曲でも瑞々しく流麗なメロディが際立っているし、木村さんの持ち味がよく出ていますね。英詞が多いこともあって、個人的には初期のZEPPET STOREとイメージをダブらせてしまったんですが。
木村:確かに、初期のZEPPET STOREに近い部分はあるかもしれませんね。英詞に関しては、レーベル側からオファーを受けていたんですけど。
──以前からしたためていた楽曲も多いですか。
木村:いや、すべて書き下ろしなんです。最初はオープニング・ナンバー1曲とエンディング・ナンバー2曲を書くことから始まって、まず『how』を書いたんです。結局、『how』はドラマCDのイメージ・ソングに使われることになったんですけど。
──『sweet pool』からスピン・アウトしたドラマCD『-everblue-』ですね。
木村:ああいう展開もゲームならではで面白いですよね。お陰様で、『sweet pool』のファンの方からもPale Greenの音楽は好意的に受け止められているみたいです。3月に赤坂ブリッツで『THE CHiRAL NIGHT』というイヴェントに出た時が初の生演奏だったんですけど、主題歌の『I'm in blue』を演奏したら割れんばかりの歓声が巻き起こったんですよ。あれは凄く驚きましたね。ちゃんと正体を明かしていなかったし、まだアルバムも発売されていなかった時期だったにも関わらず、あんなに温かく迎え入れて下さって。
──それはつまり、純粋に楽曲のクオリティだけで評価されたということですよね。
木村:そう、だから凄く嬉しかったんですよ。その初ライヴで新曲の『how』をやった時もガンガンにノッてくれたし。彼らはゲーム・ファンというよりも、純粋な音楽ファンだなと僕は思いましたよ。打てば響くと言うか、音楽ファンよりも多分に純粋だという印象が強く残りましたね。まぁ、Nitro+CHiRALのファンは9割方が女性で、全身を舐め回すような熱い視線を感じましたけど(笑)。
4年振りに音源でもバンド編成を解禁
──もともとZEPPET STOREや木村さんのファンで、尚かつNitro+CHiRALのファンでもある方には堪らない展開でしょうね(笑)。
木村:中にはそういう方もいたみたいですよ。正体を明かす前でも、『I'm in blue』を聴いてPale Greenは僕のことだと判ったファンの方がいたみたいで。『sweet pool』は2万枚を超える大ヒット・ゲームですから、引っ掛かる方もいるんでしょうね。
──2万人もの人たちにPale Greenの音楽が届くわけですから、それだけで驚異的なことですよね。
木村:本当に凄いことですよ。最初はPCゲームのユーザーに何を求められているのか全く判らなかったし、BLというジャンルが世間にここまで浸透していることも知らなかったというのに(笑)。よく言われるのは、hurdy gurdyは明るくポップな側面が強いけれど、Pale Greenは僕のよりコアな部分が出ていると言うか、クールな側面が強いと。この間の『Pale Green×hurdy gurdy TOUR』で演奏するサポート・メンバーはどちらも一緒だったんですけど、彼らもそんな印象を抱いていたみたいですね。やっている本人としては余り変わらない感じなんですけど。
──『Songs For The Dreamers』の収録曲の中で『don't you just know it』と『for my dear』の2曲が日本語詞ですが、これも『sweet pool』の世界観に準じてのことなんですか。
木村:『sweet pool』を意識して歌詞を書いてはいるんですけど、その2曲に関してはPale Greenとしての日本語詞にトライしてみたかった部分が大きいですね。
──『good-bye my pain』の歌詞の中にある"Sing a song for me"(僕は僕へ唄うんだ)というフレーズには歌を唄い続けることの覚悟みたいなものを感じるんですが、これは英語詞ということもあるでしょうし、Yuziというペルソナを被っているからこそストレートに唄える側面もあるんじゃないかと思うんですよ。
木村:Yuziというキャラクターがあるから自由に唄える部分はあるでしょうね。hurdy gurdyはどうしてもパーソナルな部分に特化してしまいますけど、Pale Greenは設定ありきの面白さがありますから。
──先述した通り、磯江さんのピアノをフィーチュアする自由さもあるでしょうし。
木村:凄く新鮮でしたね。2005年にZEPPET STOREを解散して以来、ライヴ以外は全部ひとりでやってきて、4年振りに自分以外のミュージシャンと共作したわけですからね。今作っているミニ・アルバムも、ライヴで演奏しているメンバーと一緒にレコーディングするつもりなんです。『how』がドラマCDの主題歌にもなったことだし、その再録をバンド・ヴァージョンで入れようと思って。書き下ろしの新曲と『how』の2曲がバンド・アレンジ、それに『prove my love』のフル・ヴァージョン、従来のスタイルで録った2曲の新曲を今度のミニ・アルバムには収録するつもりでいます。
──音源でもバンド編成を解禁するというのは、この4年の間に自分ひとりでやり続けてきてひとつの高みに達することができた自負があるからでしょうか。
木村:そういう部分もあるでしょうね。それに、何から何まで自分ひとりでやっていると、やっぱりどうしても煮詰まってしまうんですよ。自分だけのアイディアにも限りがあるし。『Pale Green×hurdy gurdy TOUR』では中村佳嗣というalcanaのギタリストにサポートをしてもらったんですけど、彼の持っているフレーズの引き出しの多さに僕自身が感化されることが多々あったんです。ベースのKIYOSHI(sphere)とドラムのヤスヒロは4年以上一緒にやっていて、彼らも僕にはないセンスやテクニックを持っているから刺激を受けるんですよ。僕がヤスヒロと同じように叩いても、パワフルさが全然違いますから。だから、そんな彼ら3人と一緒にレコーディングをしてみたいというのがバンド編成を解禁する一番大きな理由ですね。
自分がバンドマンであることの再確認
──すべての楽器を演奏するというソロ・ユニットのコンセプトを極めることは、ZEPPET STOREの解散の直後から考えていたんですか。
木村:そうですね。ZEPPET STOREは僕にとって初めての本格的なバンドだったんですよ。それ以前のバンドはドラマーとして加入していたし、ヴォーカリスト/ギタリストとして参加する初めてのバンドだったんです。今でもライヴでZEPPET STOREの曲をバンド編成でやらないのは、僕なりの強いこだわりがあるんですよ。ZEPPET STOREの曲はあのメンバーで創り上げたものだから、他の人の演奏で再演することはあり得ない。今もなおバンドを組まない理由のひとつは、やっぱりZEPPET STOREというバンドの存在感の大きさなんですよね。解散を切り出したのは自分なんですけど、未だに大きな存在として僕の中には在る。メンバー間の信頼関係がバンドを続ける上での第一条件だと僕は思っていて、メンバーは気の合う友人でもありライヴァルでもあるべきなんです。そういう人間に巡り会えれば、バンドとして発展していくとは思うんですけどね。3年前にHOODISというバンドを期間限定で結成したことはありましたけど、あれは特殊なケースなので。そう考えると...4年掛かりましたね、他の誰かと一緒に音楽を奏でたいと思うまで。
──バンドマンとしての血が疼くと言うか、ZEPPET STOREの解散以降もバンドを組みたい衝動に駆られることも多々あったんじゃないですか。
木村:友達のバンドのライヴを見に行くと、「バンドっていいな」って口々に言ってましたからね。音の一体感が塊としてそこに在ると言うか、hurdy gurdyのライヴはあくまで木村世治から発信しているものを他の3人にも表現してもらう形態ですから。だから、自分もやっぱりバンドマンなんだなと友達のライヴを見る度に思ったりするんですよ。
──PCゲームありきで始動したPale Greenですけど、木村さんにとってはバンドという原点回帰のきっかけにもなったわけで、その意味ではとても重要な意義を持つプロジェクトだと言えますよね。
木村:そうかもしれないですね。hurdy gurdyは際限まで自由にやっていくことがコンセプトなんですが、それは自分でできる範囲内での自由なんですよ。それに対してPale Greenは、同じ自由でも外に向かっていく自由なんです。何かを受け入れられる自由もあるし、そこが最大の違いなのかなと。だから、『sweet pool』という作品に関わることができて本当に良かったと思っています。
──ファースト・ミニ・アルバムの発表からわずか半年でセカンド・ミニ・アルバムを発表することからも、Pale Greenとしての活動が如何に充実しているかが窺えますね。しかも、この半年の間には木村さんご本人も出演しているBEAT CRUSADERSのドラマ『PRETTY IN PINK FLAMINGO』にhurdy gurdyとして劇伴を提供するという多作振りで。
木村:このPale Greenを経てヒダカ(トオル)から依頼を受けたんですけど、そこでもまた刺激をたくさん受けたんですよ。だから最近は、近年ないくらい曲作りが楽しいんです。ZEPPET STOREがメジャーで活動していた頃は年間スケジュールがギッチリと決まっていて、下手すると2、3年先まで予定が埋まっている中で締切やプリプロがあったんですね。そんなスパンが決まっている中での曲作りは今も基本的に変わらないけれど、あくまでも個人主体だからちょっと違うんですね。昔はバンドだったから、出来上がったものが100%形になることは稀だったけど、ソロになってからは自分の頭の中にあるものを如何に具現化していくかだけの問題ですから。締切があるようでないと言うか、今日曲が出来なくても次の日にドッと出来る場合もあるし。そういうフレキシブルなところが今は凄く楽しいですね。
──複数の人間が携わるバンドだと、いろいろと手間や時間が掛かりますからね。
木村:そのぶん面白いですけどね。バンド・マジックが生まれるし、たくさんのアイディアが注ぎ込まれて相乗効果が出てきますから。共作した曲はたいていそんな感じで、ワン・フレーズしかないところにメロディを乗せて曲が育まれていく。そういう面白さが残念ながら今はないんですけどね。
ツアーを経たことで増した楽曲の躍動感
──その代わり、ご自身が理想とする楽曲のクオリティを際限まで追求していく面白さがあるんじゃないですか。
木村:まぁ、キリがないですけどね。今は自宅でレコーディングができてしまうので、余計にキリがない。だから今は、自分で決め事を作っていますね。夜の12時以降は音を出さないとか(笑)。ヘンな話、パジャマを着たままでもレコーディングができてしまうわけじゃないですか。それは良くないなと思って。ちゃんとシャワーを浴びて、外に出掛ける感じにしてからレコーディングすることにしていますね(笑)。
──『PRETTY IN PINK FLAMINGO』ではサニーレコード社長の沖田四郎というヒールを見事に演じ切っていらっしゃいましたが、役者に開眼するようなことは?(笑)
木村:いや、こればかりはさすがに(笑)。冗談で「話があれば月9も出るよ」なんて話してますけど、そんなオファーが来るわけがないですから(笑)。トータス松本さんとか及川光博さんとか、ミュージシャンで俳優業もやっている方が結構いますけど、僕にはそこまでの芸当はないですし。
──数多くのスタッフや共演者とひとつの作品を生み出すのは、バンドの組み立て方に違い部分がある気がしますけど。
木村:そうですね。ただ、セリフを覚えて演技をするなんて全く初めての経験だったし、凄い世界だなと思いましたよ。セットや照明といったしっかりとお膳立てがされた中で「さぁ、どうぞ!」と演技をするわけじゃないですか。その集中力たるや、凄いなと。レコーディングはもっと緩やかですからね。
──でも、その集中力はライヴでの集中力に近いものがあるのでは?
木村:確かに。でもやっぱり、俳優さんの集中力は凄いですよ。僕の演技なんて噴飯モノですから。
──いや、BEAT CRUSADERS扮するジ・アマテラスの面々を恫喝したり、ヒダカさん演じる偽村トオルに暴行を加えるシーンは迫真の演技だと思いましたよ(笑)。
木村:あのドラマをいろんな人に見せたら、「そのまんまだね」っていう意見が多くて(笑)。あんなに酷い人間じゃないですけど、酔っ払ったシーンは普段から割とあんな感じなんです(笑)。
──新しいミニ・アルバムについてお伺いしたいんですが、収録曲の『prove my love』は木村さんの作風が1曲に凝縮したような歌だなと思いまして。甘美でメロディアスなラヴ・ソングだし、終盤に行けば行くほどドラマティックに盛り上がっていく構成も凄く木村さんらしさが出ていると思うんです。
木村:『prove my love』は王道ですよね。これぞ木村世治の世界だというのが曲の節々に出ていると自分でも思います。『prove my love』がそんなテイストになった理由のひとつとして、『PRETTY IN PINK FLAMINGO』に提供した『Now I'm Here』という劇中歌が挙げられますね。『Now I'm Here』も僕の中では王道な感じで、あの曲を作ったお陰で『prove my love』が生まれた部分はありますね。と言うのも、Pale Greenのプロデューサーは『Now I'm Here』が大のお気に入りで、「なんで『Now I'm Here』をPale Greenで出せなかったんだ!?」ともの凄く悔しがっていたんですよ(笑)。だから『Now I'm Here』以上に王道なナンバーを作ろうと思ったんです。
──『how』の新録は、バンド・アレンジだけに疾走感と逞しさがより増すことになりそうですね。
木村:ライヴでの勢いのある感じをダイレクトに出そうと思って。録りはこれからなんですけど、ファースト・ミニ・アルバムに入っているテイストとはガラッと変わると思いますよ。
──ファースト・ミニ・アルバムよりも血の通った感じと言うか、躍動感に充ち満ちたアルバムになりそうですね。
木村:まさしくそうなるでしょうね。Pale Greenでのライヴを経て、ライヴで欲している曲をもっと増やしていこうと思っているんです。実際、バンド編成でレコーディングしようと考えている曲はアッパーな感じですからね。
──ポール・マッカートニーに喩えると、ソロ名義の『McCartney』とポール&リンダ名義の『Ram』を経た後にウィングスとして『Wild Life』を発表するような感じと言うか。
木村:ああ、なるほど。確かにそういうニュアンスはあるのかもしれないです。最近、そんなに弾けないくせにピアノを弾くのが凄く楽しくて、ピアノから生まれる繊細な曲も増えてきているんですよ。そのテイストもありつつ、もっとアグレッシヴなモードにも行きたいと思っているんです。
hideさんは喜んでくれていると思う
──ライヴを重ねてオーディエンスの反応を見ると、もっとアッパーな曲が欲しくなるものなんでしょうね。
木村:そうなんですよ。『Pale Green×hurdy gurdy TOUR』は、最初にPale Green、休憩を挟んでhurdy gurdyという流れだったんですけど、従来のオーディエンスはPale Greenをちょっと構えて見るものなんですよね。hurdy gurdyでやっと弾けた感じになると言うか。自分としてはPale Greenもhurdy gurdyもライヴでは同じ温度に持っていきたいし、それもあってPale Greenもアッパーな曲がもっと欲しいなと。とは言え、Pale Greenのクールな部分は残しておきたいんですけどね。
──木村さんの楽曲はアッパーなものでもメロディアスな部分がしっかりとあるので、アッパーな楽曲が増えてもその世界観は損なわれることがないでしょうね。
木村:そうですね。それは自分の声質もあると思うんです。自分としてはガーッと唄い込んだつもりでも、シャウトに聴こえないと言うか(笑)。ZEPPET STOREでもだいぶロック寄りに振り切った時期があって、その頃は限界ギリギリのキーまで上げた曲作りもしたし、かなり声を張って唄っていたんですけど、それでもシャウト系の唱法にはならなかったんですよね。
──ちょっとMy Bloody Valentineみたいなところがありますからね。ノイジーなギター・サウンドに瑞々しく甘い歌声が乗る感じと言うか。
木村:うん。マイブラはやっぱり今でも好きですからね。
──Pale Greenは今後もパーマネントなユニットとして稼動していくんですか。
木村:もちろん。Nitro+CHiRALの作品で作曲依頼を受けて、そこでまた新たな楽曲が生まれていく感じです。Nitro+CHiRALの新しい作品が早いペースで出れば、Pale Greenの新しい楽曲も早く発表することになるでしょうね。BEAT CRUSADERSのお陰でhurdy gurdyの新曲を久々に発表することができたんですけど、Nitro+CHiRALの動き次第ではPale Greenの活動が増えていくかもしれません。まだはっきりしたことは言えないですけどね。
──ややこしいので、もういっそのこと全部"木村世治"名義でいいんじゃないですか?(笑)
木村:確かにね(笑)。最近は弾き語りのライヴを個人名義でやっているんですけど、そうじゃないとZEPPET STORE、hurdy gurdy、Pale Greenのレパートリーを万遍なく演奏できないんですよ。確かにややこしいはややこしいんですけど(笑)、hurdy gurdyだけだと活動も縛られたものになるだろうし、Pale Greenを始動させたお陰で外部の力も得ることができて、広がりが増えたのは良かったと思いますね。
──これだけ引き出しが増えてきて、今後トライしてみたいことはどんなことですか。もうひとつソロ・ユニットを増やしてみるとかは?(笑)
木村:いや、さすがにそれは(笑)。最近は誰かと曲作りをすることがないので、共作をしてみたいですね。一緒にスタジオに入って、そのセッションの中から曲を生み出す行為を久しくやってませんから。あと、『I'm in blue』で磯江さんにピアノを弾いて頂いたことが凄く刺激になったし、ピアニストの方とライヴをやってみるのも面白いかもしれない。
──今は他者との摩擦から生まれる熱を欲しているモードということなんでしょうか。
木村:うん、そうなのかもしれない。5年近くずっとひとりでやってきましたからね。
──思い切って木村さんの原点であるZEPPET STOREを再始動させるという選択肢はありませんか。
木村:どうでしょうね......。解散からもう5年くらい経つし、そんな声を頂くことも多いんですけどね。実際、もう一度やってもいいんでしょうけど、タイミングが判らないです。バンドを再始動させたい衝動に駆られればやるんでしょうけど、みんな忙しいですからね。僕自身、今のところhurdy gurdyとPale Greenで手一杯ですし。とにかくhurdy gurdyとPale Greenのツアー・メンバーが凄くいいので、彼らと一緒にフル・アルバムを作ることが今一番やりたいことですね。
──Pale Greenの音楽をhideさんが聴いたら、何と言うでしょうね。
木村:きっと、凄く喜んでくれるんじゃないですかね。いつだってhideさんに届けたい気持ちで曲を作っているし、僕の心の片隅には今もずっとhideさんがいますから、ちゃんと聴いてくれていると思います。まぁ、役者デビューしたことはびっくりしているでしょうけどね(笑)。