Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューソウル・フラワー・ユニオン('09年8月号)

21世紀のホモ・サピエンスへ捧ぐ、魂花ジャンプ・ナンバー秘宝館

2009.08.01

 ソウル・フラワー・ユニオンが面白い。前身バンドから数えるとそのキャリアは四半世紀に及ぶバンドに対して今さらにも程がある言い方になるけれど、文句なしに面白いのである。あらゆる音楽に対する純然たる愛情に満ちた楽曲、他のどこにもない祭りをやろうとする貪欲な姿勢、オーディエンスを鼓舞させようとする徹底したエンターテイメント性。そのどれもが高木克(ex.シェイディ・ドールズ)の加入によって一段とビルドアップを果たしたことが6月に行なわれた『ルーシーの子どもたち』発売記念ツアーでも確かに窺えた。今何度目かの黄金期を迎えている彼らの快進撃の背景にあるものとは。また、このテンションを保ったまま彼らはこの先どこへ向かうのか。今秋発売されるというライヴ・アルバムのミックス作業で慌ただしい中川敬と高木克を直撃した。

25年前からずっと絶好調

──最新シングルの『ルーシーの子どもたち』然り、その発売記念ツアー然り、すこぶる絶好調なのが窺えますが。

中川:絶好調やで。25年前からずっと(笑)。

──近年の多作振りには目を見張るものがありますよね。

中川:もうそれしかないからね。3ヶ月に一度の東名阪ワンマン・ツアーはもう10年以上続けてて、基本的にライヴ・バンドやから、ふと気を許すとリリースが開いてしまったりする。でも、ライヴをプロトゥールスで押さえられるようにもなったし、もうどんどん出していいんちゃうかなと思ってね。アルバムの前に先行シングルを3枚も出すなんて、ニューエスト・モデル以来やったことのないことで、そんな行為自体を忘れていたと言うか(笑)。新曲が数曲でも、レアなライヴ・テイクをたくさん入れれば7、8曲入りのシングルになるし、サイズ的にも40分くらいは行くから、アナログ時代のアルバムくらいのサイズにはなるしね。ソウル・フラワーを好きやと言うてくれる人もいっぱいいるわけやから、年に2、3枚、何らかのアイテムが出ることはいいことなんちゃうかと思ってね。

──高木さんの加入がその好調振りに拍車を掛けた感じですよね。

中川:『ルーシーの子どもたち』は彼が入る前に作った曲やったけど、ライヴは彼が入ったことでまた新たな大前進やね。最後のワン・ピースが揃ったと言うか。

──高木さんは、シェイディ・ドールズ時代から中川さんたちと交流があったんですね。

高木:うん。ニューエスト・モデルが好きでライヴに通うようになって、打ち上げで一緒に呑んだり、イヴェントで顔を合わせてイヤミを言われてみたり(笑)。

中川:「シェイディ・ドールズって何やねん、そのバンド名は!?」とか言ってそう、ニューエスト・モデルのあのヴォーカルは(笑)。

──まさか自分がソウル・フラワーに加入するなんて、夢にも思わなかったですか。

高木:いや、実は夢見る少年やったからね、寝る前に布団に入っていろんな妄想をするんだよ。その中に自分の好きなバンドに入って演奏する妄想があって、その好きなバンドのひとつがニューエスト・モデルだったわけ。

中川:実は、彼とはもう15年くらいずっと会うてなかってん。それが2年くらい前かな、俺がリクオに「ソウル・フラワー・アコースティック・パルチザンとも違う、ひとりかふたりくらいでやれるもっと身軽なユニットも欲しいな」って話をして。リクオは「弾き語りでやりぃや」って言うねんけど、弾き語りでやるくらいやったら違う職業をやろうと俺は思ってるから(笑)、......まぁ、人と演んのが好きやしね。で、その時にリクオが「高木克って知ってる?」って名前を出してるんよね、そこで。その会話があったのが大きいかな。だから、河村(博司)が脱けることになって、メンバーとミーティングをした時も、最初に名前が出てきてんね。それで連絡をしてみたっていう。

──でも、ここまでしっくり来るとは...という感じじゃないですか。もう随分と前から在籍しているかのような安定感が6月のリキッドルームでも窺えましたし。

中川:確かにそれは言えてるね。6月のツアーは4発やってんけど、1発目の名古屋は"新生ソウル・フラワー・ユニオンの1発目やな"っていう感じが俺もちょっとはあってんけど、2発目の大阪、3発目の京都と続いて、4発目の東京に至ってはそんなこと全然忘れてて、昔からやってるメンバーっていう感じに俺はもうなってたね。

高木:俺もその感じはしてた。好きでやってることやから曲を覚えるのも大変だと思わなかったし、バンド加入が決定した2月から何のストレスもなく自分なりの音を出せてたからね。

直立二足歩行してからたかが700万年

──最新マキシ・シングルの『ルーシーの子どもたち』について伺いたいんですが、表題曲は南国フレイヴァーに溢れたこの季節にぴったりのダンサブルなナンバーに仕上がりましたね。

中川:ホンマはもっとサルサとかをちゃんとやりたかってんけど、俺の歌が最後に入って仕上がると"ああ、ソウル・フラワー・ユニオンやな〜"みたいになる(笑)。

──ブラック・ボトム・ブラス・バンドのホーンと赤木りえさんのフルートが曲を効果的に盛り立てているのも印象的ですね。

中川:ブラック・ボトムはもう10年くらいレコーディングでは必ず手伝ってもらってて、赤木さんは『ワタツミ・ヤマツミ』以来15年振りに参加してもらって。あと、ベーシック録りのリハーサルの時からパーカッションの美座くん(ミザリート)に入ってもらって、アレンジ作りから一緒にやれたのが良かったな。

──"ルーシー"というのは1974年にエチオピアで発見された約350万年前の化石人骨とのことですが、それを主題とするのは如何にも中川さんらしい着眼点ですね。

中川:どう考えても俺やね(笑)。キリスト教なんてたかだかこの2000年くらいの新興宗教やん、という具合の、俺の歴史観(笑)。直立二足歩行してからたかだか700万年やからさ。つい最近のことやね(笑)。

──あの『秋田音頭』を腰にクる民謡ファンクに仕立ててしまうなんて、ソウル・フラワーにしかできない芸当ですよね。

中川:JIGENが6年前に加入してから、またこういうのがいろいろとできるようになってね。まぁ、これも世界中のいろんな音楽と出会って、そこで面白がってるに過ぎないと言うか。単純にその辺のロック・バンドが「『Johnny B. Goode』やろうか?」って言うのと同じやと思う。...って、今のロック・バンドは『Johnny B. Goode』なんてもう言わへんよな(笑)

──今春、ニューエスト・モデルとメスカリン・ドライヴのレア音源も入ったコンピレーションが発売されましたけど、そんな流れもあってニューエスト・モデルの『乳母車と棺桶』と『こたつ内紛争』をセルフカヴァーしたライヴ音源が収録されているんですか。

中川:いや、たまたまやね。ニューエストの曲に関しては、今演れるかどうかだけしか基準にないし。俺の中ではやってることは一緒やから。俺と奥野(真哉)はニューエスト・モデルとソウル・フラワー・ユニオンに区切りがないねんね。その意味では、『乳母車と棺桶』と『こたつ内紛争』は今もできる強い曲やってんなと自分でも思ったけどね。やっぱり20代前半の頃に書いた歌詞とか、もはや唄いたくないもののほうが多いからさ。

──そのニューエストの2曲然り、うつみようこさんのヴォーカルによるニーナ・シモンのカヴァー『ミシシッピ・ガッデム』然り、『不死身のポンコツ車』然り、レアなライヴ音源が数多く収録されているのが嬉しいですね。

中川:『ミシシッピ・ガッデム』は2、3年前にようこちゃんがアレサ・フランクリンやニーナ・シモンのカヴァーを演った時があって、いいテイクが残ってることを俺はちゃんと覚えててんね。いつかそれがハマる場所が来たら出そうと思ってた。マキシシングルに関しては、毎回ライヴでやるわけではないレアな曲を入れようとしてる。と言うのは、9月に10年振りのライヴ盤を出すんやけど、それには代表曲ばかりが入ることになっててね。

──ここへ来てフル・ライヴ・アルバムを出す意図というのは?

中川:3年くらい前から話は出てたんやけどね。プロトゥールスでほとんどのライヴを録ってるから、余り先延ばしにするとテイク選びも大変になる。今度のライヴ盤は選曲を(伊藤)孝喜がやったんやけど、あいつは『海行かば 山行かば 踊るかばね』とか『満月の夕』を50テイク以上は聴いてると思うよ(笑)。

──今度のライヴ・アルバムには高木さんが加入して以降の音源も入るんですか。

中川:いや、今年の3月までのライヴやから、ここまでの集大成って感じになるね。ライヴ・テイクとスタジオ・テイクの全然違う感じを、自分でも楽しんで作ってるようなところはあるね。

政治家はちゃんと仕事をせなあかん

──おふたりともライヴ・アルバムはリスナー時代からお好きでしたか。

中川:ガキの頃はストーンズの『Love You Live』とか『Get Yer Ya-Ya's Out!』とかを聴きまくったよね。ジャムの『Dig The New Breed』、ザ・フーの『Live At Leeds』とか。

高木:俺は、スタジオで録音されたものを聴いた上でライヴ・アルバムを聴くのが好きやったね。

中川:その両方を楽しむ感じはあったよね。DVDとか映像になると全部の情報がそこにあるみたいになるやん? "どんな動きをしてはんのやろ?"みたいな妄想も含めてライヴ盤を聴くのが好きやったね。

──去年、ソウル・フラワーも『ライヴ辺野古』というDVDをリリースしましたよね。

中川:あれは元々、出すつもりはなかったんよ。マルチもプロトゥールスも回してないし、バンド側ではカメラも回してなかった。でも、ロックを好きな連中が辺野古の米軍基地の問題を余りに知らないことに愕然としてね。イヴェントも素晴らしかったし、ホームビデオで撮ってた人も何人かいたから、無理矢理作品にしてしまおうと思って。俺が個人的に動き回って、映像を借りて、いつもPVを撮ってくれている監督に「これで何とかしてくれ!」って(笑)。あのDVDはホントに手作りって感じやし、あれを作れてホントに良かった。みんなのおかげ。『ライヴ辺野古』は誇れるよ。またああいうことはやりたいね。

──マキシの話に戻りますが、『パレスチナ』の"09 FREE GAZA MIX"は耳心地の良さとは裏腹に、オリジナルに比べてさらに逼迫感が増したように感じますね。

中川:単純にミックスを変えただけやねんけどね。アルバム・ヴァージョンはサイズが長かったから、もうちょっとコンパクトなやつを作ろうかなと。アルバムの流れのミックスじゃなくて、シングル・カットできるくらいのポップなミックスにしようっていう。まぁ、イスラエル軍はガザ空爆みたいな馬鹿なことをまだやってるし、日常的にみんなもパレスチナの仲間たちのことをちょっと頭の中に入れとかへん? ということやね。親イスラエルのアメリカ傘下に俺らは生きてるわけやし、決して無縁じゃないよね。

──北朝鮮のミサイル問題についてはどう思いますか。

中川:ああ、アメリカが世界中でやってることと一緒やね。北朝鮮に関しては確かに何を考えてるのか判らない国。ただ、あの国だけが変な方向に突出してるんじゃなくて、アメリカと日本を中心とした政治力学の中でああいう国をみんなで作り出してしまったという側面があるわけやから。日本は、平和外交の力で何とか変なことが起こらんようにせなあかん立場にあるのに、政治家がちゃんと仕事をしないからね。

──なんであんなに仕事をしないんでしょうね?

中川:憲法9条を変えたいっていう大いなる目標が日本はもちろんアメリカにあるからね。そのための状況作り。常に軍事信奉者には仮想敵が必要やから、北朝鮮はそこに見事に応えてる。どいつもこいつも、地球の未来すら危ういご時世に一体何をやってんねや!? という感じやね。武力で何かが起こる時って常に弱者の側からシンドイ目に遭うわけであって、一部の人間だけが潤うような状況にまんまとみんなでハマっていってる。アホらしい状況やね。

──驚異的なリリース・ペースと作品の充実振りは今後もさらに続いていきそうですね。

中川:どこまで続くか判らないけど、この先もずっと続けたいと思ってるよ、今のスタンスは。メンバーもみんな役割分担して精力的に動いてくれてるしね。ホンマにええバンドになったなと思うよ、過去のことを思い出すと(笑)。ムチで尻を叩かへんかったらあかんような状況も昔はあったからね。それに比べたら今はホントにいいバンドやなと思う。みんなホントに音楽を愛してるし、最高のヴァイヴを作ることが第一やってところでやってるのも共通してるしね。ちょっと奇跡的かも、今のメンバーの集まり方は。性格もバラバラやしね。あとはもうちょっと売れへんかなと思うけど(笑)。今足らんのはそこだけやね(笑)。

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ルーシーの子どもたち
BM tunes XBCD-1029
1,780yen (tax in)
IN STORES NOW

LIVE INFOライブ情報

◇ソウル・フラワー・ユニオン
9月ツアー『メイン・ビーチのならず者』

9月11日(金)名古屋:ell. FITS ALL
9月13日(日)大阪:心斎橋CLUB QUATTRO
9月19日(土)東京:LIQUIDROOM

rockin'on presents ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2009
8月1日(土)茨城:国営ひたち海浜公園

FESTA de RAMA 2009
8月9日(日)広島:尾道市せとだサンセットビーチ特設会場

Peace Music Festa! '09 from 宜野湾
9月21日(月・祝)沖縄:宜野湾海浜公園屋外劇場

◇ソウル・フラワー・モノノケ・サミット
Pre-Peace Music Festa! 09〜MONONOKE SUMMIT BON-DANCE TOUR!(ゲスト:新良幸人 with サンデー)

8月23日(日)京都:磔磔
8月28日(金)名古屋:得三
8月30日(日)東京:吉祥寺 STAR PINE'S CAFE

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