"初期衝動に満ちたロックンロール"を20年以上のキャリアを誇るヴェテラン・バンドが体現することは可能だろうか。僕は不可能だと思う。ロックンロールにおけるプリミティヴな衝動は人生で一度きりであり、それはまだ何も始まっちゃいないティーンエイジャーに神様が与えた若さゆえの特権だからだ。では、キャリアと実力を兼ね備えたバンドに残されたものは何なのか。青二才には到底醸し出すことのできない円熟味か。それももちろん、ある。あるのだが、ロックンロールのように直情的な音楽にとって成熟とは時として胡散臭く感じてしまうものだ。ロックンロールの精神論を手放しでぶつほど若くない。かと言って枯れた境地に安住するのもまっぴら御免だ。そのちょうど中間地点にあたるリアリティを孕んだ音楽、それがクールでヒップでありながら爆発力のあるザ・グルーヴァーズのロックンロールだ。藤井一彦の切れ味鋭いギターと酸いも甘いも噛み分けた歌声、高橋ボブのベースと藤井ヤスチカのドラムが生み出す妙味あるうねり。それらが三位一体となって放たれる豪放かつ繊細なロックンロールには成熟と完熟の狭間にある深淵なる世界がある。瑞々しさと円熟味、ひりひりした焦燥感とすべてを包み込む大らかさといった相反するものが絶妙なバランスで溶け合い共存した世界が。3年半振りに発表されるオリジナル・アルバム『ROUTE 09』は、そんな彼らのワン&オンリーな音楽性が考え得る限り最も理想的な形で真空パックされた至高の作品だ。しゃにむに尖ってもいないが、萎える気配もさらさらない。だからこそ、真に迫った歌となる。真に迫った歌は僕らの心に容赦なく突き刺さる。そして改めて思い知る。目眩がするほど奥深いロックンロールの醍醐味を。(interview:椎名宗之)
アコースティック・ソロで得た経験
──オリジナル・アルバムとしては『Modern Boogie Syndicate』以来3年半振りとなる『ROUTE 09』ですが、この3年半はありとあらゆるバンドやミュージシャンとのセッションでひっきりなしでしたよね。
藤井一彦(以下、K):そうだね。課外活動を優先していたわけでもないんだけど。グルーヴァーズとしてはライヴ・アルバム『ROUGH TRIANGLE』を2年前に出したし、去年はアコースティック・ソロ・アルバム『LAZY FELLOW』を初めて出してみたりもしたし。
──どんな経緯でアコースティック・ソロ・アルバムに取り組もうと思うに至ったんですか。
K:俺はもともとバンドありきの人間で、合奏が好きで音楽をやってるようなところがあるんだけど、人からの勧めもあってね。最初は余り積極的じゃなかったんだけど、試しに弾き語りのライヴをぽつぽつやってみたわけ。そしたらその身軽さも気に入ったし、自分の歌をバンドではなかなか行けない地方なんかに届けるのにも実に効果的な手段のひとつだと気づいて。それでツアーをやるようにもなった。そうすると今度は手土産が欲しくなるから、ここでアルバムの1枚でも作っておこうと思って。だから、ライヴありきで始まったんだけどね、『LAZY FELLOW』の制作は。
──弾き語りとなると、自分の歌と真正面から対峙せざるを得なくなると思うんですが。
K:そうだね。ただ、よく想像されがちな"バンドマンがギター1本でシンプルにやりました"みたいなベタな感じは避けたところがある。バッキングもないのにギター・ソロをやってみたりもしたし(笑)。
──弾き語りでもロッキンな感じで(笑)。
K:あざといとダサいんで、まぁほどほどに(笑)。もちろん静かにポロンと弾く感じも好きだし、要は両方やりたいんだよ。全部アリみたいな感じで。
──『LAZY FELLOW』を作って得たものや理解したこととは?
K:どうだろう。たとえばバンドが活動を休止してソロ活動を始めたとか、そういう類のものじゃないからね。ただ、ギター1本で弾き語りをすると、普段自分がどれだけリズム・セクションに依存しているかが凄くよく判る。バンドはもう20年くらいやってるんだけど、未だに新たな発見があるのは嬉しいことだね。ソロで得た経験というのは、次にバンドのアルバムを作る時に何か活きてくるだろうな、とは思ってた。
──『LAZY FELLOW』があっての『ROUTE 09』というニュアンスもありますか。
K:それもありつつ、やっぱりバンドが歩んできた1本の線として繋がってるかな。ライヴ盤があっての今回のアルバムという意識のほうが強いかも。
──『ROUTE 09』というタイトルの"9"という数字には、3人編成となった『Top Of The Parade』から数えて9枚目の作品という意味もあるんでしょうか。
K:うん。9は3の倍数だしね。アルバム全体に道っぽいイメージが何となくあって、字面も好きなんで"ROUTE"という言葉を使おうと決めて。で、"ROUTE何番"にするかはいろいろ考えたんだけど、密かに全部掛けようと。3人になって9枚目のオリジナル・アルバムだし、今年は2009年だからね。
──ああ、なるほど。だったら2009年9月9日に発売すれば良かったですね(笑)。
K:確かに(笑)。まぁ、9がラッキーナンバーなわけでも何でもないんだけど(笑)。
──実際の国道9号は京都から下関へ至る道路ですが、国道9号に対して特に思い入れがあるわけではないんですよね?
K:あっちは山陰のほうだし、俺は瀬戸内海側の出身だからね(笑)。
──目前に広がる道を車で疾走していくようなイメージをアルバムの全体像として抱いていたと?
K:特に車じゃなくてもいいと思う。マウンテンバイクでもいいし、徒歩でもいい(笑)。何となく道が広がっていくイメージがあったんだよ。
──『今を行け』は"国道を染めてゆく/強い西日のラルゲット"という歌詞が冒頭にある通り、まさにその道が広がっていく情景が目に浮かぶ曲ですね。
K:うん、まさにね。『今を行け』は『LAZY FELLOW』に入ってた曲で、曲を書いた時点でアレンジのアイデアが2パターンあったんだよ。どっちのアレンジで行くかなかなか絞れなくて、『LAZY FELLOW』に入ってるアコースティック・アレンジに近いものをバンドで試したことも実はある。自分では両方気に入っていたから振り分けを決めかねていたんだけど、『LAZY FELLOW』で採用しなかったほうのアレンジを今回は採用しよう、と。
少しでも何か新しいことをしたい
──歌詞にある"国道"が"ROUTE 09"なんですか。
K:いや、特に限定しているわけじゃない。聴いてくれる人の住んでる街や故郷にあるメインの国道でも思い浮かべてもらえたらいいんじゃないかな。俺にとっては国道2号線かな。だからホントはタイトルを『ROUTE 02』にしたほうがいいのかもしれない(笑)。ちなみに、幹線道路とか新幹線とかって、東西に走ってないと俺は落ち着かないんだよね。その点、2号線はすんごい東西(笑)。だから下りは西日が強くて。なにげにその辺も歌詞に盛り込んでみたけど。
──スパークス・ゴー・ゴーに提供した『BUDDY』を収録したのは、ご自身でも楽曲の出来に手応えを感じていたからですか。
K:そうだね。曲を書いた時点でこれは絶対にグルーヴァーズでもやらせてもらおうと思ってた。実際、ライヴでもやってたしね。
──提供した楽曲は自分では採り上げないというポリシーの方もいらっしゃいますけど、一彦さんにはそんな禁じ手はありませんか。
K:グルーヴァーズに合うかどうかが基準だから、どれだけいい曲が閃いてもそれが自分たちのカラーに合わなければ保留にすることもあるね。トリオ編成だから、演奏する上でやりやすいものとそうじゃないものもあるし。ツイン・ギターに鍵盤まで入るような曲がアレンジ込みで閃くこともよくあるけど、そういうのは保留になるかも。あと、ストリングスやホーン・セクションが大量に入っているような楽曲も考え直すかな。その程度の振り分けはあるけど、決まりを設けているわけでもない。意識の部分では余り垣根は設けないようにしているつもり。
──『BUDDY』は最初からグルーヴァーズのオリジナルと聞いても納得するくらいの出来ですよね。
K:楽曲依頼を受けた時に、スパークス・ゴー・ゴーらしい曲を書いたほうがいいのかな? とも思って少しだけトライしてみたんだよ。でも、それだと俺を指名してくれた意味も余りないだろうから、もろに俺っぽい感じで書いてみた(笑)。だから余計にこの曲をグルーヴァーズでやらない手はなくなってしまって。今回のベーシック・アレンジはスパゴーのヴァージョンとほとんど変わらないよ。
──あと、本作で目を引くのはカーペンターズの『YESTERDAY ONCE MORE』をカヴァーしているところですね。こんなベタな選曲をしたのかという驚き、しかもレゲエを基調とした大胆なアレンジという驚きで、二度腰を抜かしたんですけど(笑)。
K:そういうふうに驚いてもらえると、してやったりだね。それが一番の目的だから(笑)。同じメンバーでバンドを長いことやっていると、大幅に何かを変えるチャンスもないんだよ。マイナー・チェンジのチャンスすら少ないから。アルバムを出すごとにテクノになってみたり、ブリティッシュ・ビートになってみたり、コンセプトを決めて音楽的に七変化をするようなバンドでもないしね。そうなると、少しでも真新しいチャレンジをしたいと思うようになる。シングルのカップリングや企画物ではあったけど、カヴァーをアルバムの本編に入れるのは今までにやったことがなかったし、しかも英語の曲を原詞のままカヴァーするのもまだバンドではやったことがなかったなと思って。
──『LAZY FELLOW』には『MOON RIVER』の原詞のカヴァーが収録されていましたけど。
K:『MOON RIVER』はもともと凄く好きなスタンダード・ナンバーでね。ライヴではずっと日本語で唄っていて、アルバムにも日本語詞で収録したかったんだけど、ギリギリまで待っても結局許可が下りずに涙を呑んだんだよ。それで、もしもの時のために作っておいた英詞ヴァージョンを入れたわけ。マスタリングの当日まで電話を待ってたんだけどね。ルー・リードやボブ・ディランからOKを貰った俺だから『MOON RIVER』も楽勝だと思ってたんだけど(笑)、ヘンリー・マンシーニの意志とは関係ないところで楽曲の管理会社が下した判断なんだろうね。
カーペンターズをカヴァーした意図
──そんな経緯もあって、『YESTERDAY ONCE MORE』も原曲通りカヴァーしたわけですね。
K:管理会社とのやり取りに懲りたのもあったし、もうそのまま入れちゃえ! っていういい意味でのイージーさがたまにはいいかなと思って、ヘタな英語で唄ってみたんだよ。
──そのイージーさがこの豪直球な選曲にも繋がっているんでしょうか(笑)。
K:そうかもね。スタンダード・ナンバーって昔から凄く好きでね。だって、何十年も聴き継がれ、唄い継がれてきた曲でしょ? その楽曲自体が持つパワーや生命力はやっぱりもの凄いと思うし、演奏しようと思ってコードを拾って研究すると凄くよく出来ていることが判るんだよ。今回カヴァーを入れたのはレーベルのボスからの提案もあって。で、入れるんだったら、意外性もありつつ誰でも知ってる曲にしようと。さっきも言った"今までやっていないこと"というポイントも加味して、邦楽も含めて結構悩んだんだよね。『ベストヒットUSA』にチャート・インしていたような80年代のヒット曲もいいかなとも思ったよ。アラフォー以上の世代が異常に反応するような曲とか(笑)。
──それが何故カーペンターズに?
K:ロックだのバンドだのに興味を持つ以前、小学生の頃に凄く好きだったんだよ。"外国の音楽って雰囲気いいなぁ..."みたいな、洋楽と言うかポップミュージックの原体験的な部分。で、どうせカヴァーするならベスト・アルバムの1曲目に入ってるような曲がいいかなと。『YESTERDAY ONCE MORE』は今さら俺が言うまでもなく大名曲だし、凄く好きなので選んでみた。アレンジはルーツ・レゲエを採り入れつつ。あと、この曲は絶対に日本語詞にしないほうがいいと思ったね。訳すとちょっと恥ずかしいから(笑)。
──先ほどマイナー・チェンジのチャンスすら少ないと仰いましたけど、それは普遍的なロックンロールというグルーヴァーズの確固たる音楽性が確立されているからこそだと思うんですよ。でも、こうしたカヴァーのようにまた新たな扉を開けようとする姿勢が素晴らしいですよね。
K:ラモーンズみたいな金太郎飴的バンドも嫌いじゃないけど、たとえば20年間ずっとパンクやオールド・スクールなロックだけをやり続けるのは俺には無理だよね。他にもやりたいことがいっぱいあるからさ。となると、暖簾を守っていく意識と楽曲のヴァリエーションを広げていく意識を両立させていかなきゃならない。そのハンドル捌きを常に問われている気がするね。
──この『ROUTE 09』にも実に幅広い楽曲が収録されていますよね。その引き出しの多さがゆえに一彦さんが外部活動で重宝されているんでしょうし。
K:引き出しの多さを面白がって呼んでくれる人もいるし、呼ばれた先で俺も何かを得てバンドに帰ってくるんだと思う。それがいい循環機能を果たしているんだろうね。
──様々なセッションで得た経験が本作に活かされているところはありますか。
K:あるね。やっぱりここで「SIONさんの影響が大きい」って言っておいたほうがルーフトップ的には美しいかな?(笑) まぁ、SIONさんとは随分と長く一緒にやらせてもらってるし、実際影響は大きいよ。余りに近すぎてどれだけ影響を受けているか判らないところもあるけど。
──『俺としたことが』の世界観は、SIONさんのそれと近いんじゃないかと感じたんですけど。
K:ああ、そうかもしれないね。歌の世界観の設定みたいな部分では影響を受けている気がする。どの曲のどの部分が自分のこの曲に影響出たとか、指をさして言えるもんじゃないんだけど。
──ちょっと話が逸れますけど、一彦さんがバンマスを務めるSIONさんのキャット・スクラッチ・コンボがグッとバンド感を増したのをSIONさんの新作『鏡雨〜kagamiame〜』を聴いて痛感したんですよね。
K:(相澤)大樹もだいぶ成長したし、『鏡雨〜kagamiame〜』でバンド力みたいなものはアップしたと思うよ。キャット・スクラッチ・コンボはもちろん一生懸命やらせてもらっているんだけど、いい意味でサラッとやりたいんだよね。うまく言えないけど、口をついて出る言葉みたいに楽器のフレーズが出てくる感じで、楽しくて、なおかつサラっとやってる風情を出したいと言うか...。すでに実際楽しいんだけど、そういうスタンスで臨んでます。
余りにもつまらない歌詞が多すぎる
──『YESTERDAY ONCE MORE』を除く最後の3曲...『SPEED QUEEN』、『俺としたことが』、『Lonesome in a crowd』はとりわけ歌詞が秀逸で、一彦さんの詩人としての才能をまざまざと見せつけているように思えますね。
K:よく褒められます(笑)。自分で言うのもなんだけど、歌詞は頑張ってるよ。だって、J-POPの歌詞って余りにつまらないのが多いでしょ?
──『BUDDY』にもありますね、"ゴミみたいな歌ばかり流れるし"という歌詞が(笑)。
K:ヒット・チャートに出てくる曲なんて特に酷いのが多い。これはまさか国家主導による陰謀なのか!? と思うくらいに歌詞がつまらない。"そばにいてくれ"だの"頑張って行こうぜ"だの、この余りのつまらなさと画一性は一体何なんだろうとしばらく悩んだこともある。俺がおかしいのか? とか。で、もう俺は俺のやり方でいい歌詞を書くしかないんだな、と。いや、堅苦しいことを言うつもりは毛頭ないんだけど、詞作のレヴェルがあり得ないほど低いのは我慢できないと言うか...。きっと、歌詞なんてもうどうでもいいんだろうね。まぁ、俺もこういうインタビューで逆に歌詞のことばかり突っ込まれると「歌詞なんてどうでもいい」なんて答えてたりもしたけどさ(笑)。とにかく歌詞は頑張ってるよ。SIONさんを目標に(笑)。
──性急なリズムでグイグイと引っ張っていく『独断』は、何でもお前の独断で決めていけというメッセージが込められた力強いナンバーですね。社会全体が弱腰な今の時代とリンクするように感じましたけど。
K:そうだね。最近の世相を見ても、「お前自身が決めろよ」とか「俺が決めちゃる!」とか言いたくなることが多々あって。
──『Savanna』は風が吹き抜けていくような爽快感のある旋律で、音楽的ジャンルを超越したひとつの歌として成立していますよね。
K:そう言ってもらえると嬉しいね。この曲は自ら"グルーヴァーズっぽさ"を意識して作ったところがちょっとある。
──ご自身の考える"グルーヴァーズっぽさ"とはどんな部分ですか。
K:俺がギターのリフを2小節とか4小節とか弾いて、ドラムのフィル・インでリズム・セクションが入ってくる...その瞬間のエクスタシーかな。それが好きで20年以上バンドをやり続けているようなもんだね。そこから膨らんでいくものがグルーヴァーズのすべてなんだと思う。
──『美しき人よ』でのアコギの味付けは、アコースティック・ソロで得た経験が活かされているように感じますね。
K:うん、活かされていると思う。『美しき人よ』はソロのライヴでも唄ってるし、弾き語りを始めた頃に書いた曲なんだよ。だからアコギが大きな存在になっている。歌詞も気に入ってるし、エマーソン北村のオルガンもいいよね。弾いてもらってる時、泣きそうになった。
──『惜別の空』はツェッペリンを彷彿とさせる重いギター・リフに彩られたブルージーなナンバーながら、『美しき人よ』と同じく一彦さん一流のロマンティシズムに溢れた歌詞だと思うんですよ。サウンドの武骨さと歌詞のロマンティックな感じが絶妙に溶け合っていると言うか。
K:『惜別の空』はタイトルがなかなか決まらなくて、仮タイトルが『偽ツェッペリン』だったんだよ(笑)。だから、図星だね(笑)。『All My Love』とか『Kashmir』とか、ツェッペリンのポップな曲が俺は結構好きでね。『Kashmir』をポップと呼んでいいのかどうか判らないけど。
──シンセサイザーを大胆に採り入れた中期から後期にかけての曲ですね。
K:初期のハード・ロック然とした感じとかももちろん好きなんだけど、俺は『Coda』っていうラスト・アルバムがわりと好きでね。それに入ってる『Ozone Baby』とか大好きなんだけど、アルバムの評価は余り高くないんだよね(笑)。ロバート・プラントってさ、ハード・ロックのヴォーカリストとして傑出した存在だけど、ハニードリッパーズで『Sea of Love』っていう50年代のオールディーズをカヴァーしていたじゃない? ヴォーカルにショート・ディレイを掛けて、ちょっととっぽい感じで唄ってさ。巻き毛でロングの金髪であるにも関わらず、ロックンローラーみたいなところがあるよね。あの、ただのハード・ロックのスターじゃない感じがわりと好きで。『惜別の空』にはそんなツェッペリンに対する密かなオマージュも込めた。
古い仲間同士にしか出し得ないノリ
──ちょっと意外ですね。一彦さんはジミー・ペイジのギターに一番の関心があるんじゃないかと勝手に思っていたので。
K:ああいう不世出のバンドはメンバー全員が好きだよ。メンバーが1人死んだら代わりを入れずに解散っていうのは、バンドの在り方としてはある意味最高だと思うし。あと、ハード・ロックの枠に収まらないトラッドの要素とかもあったり、ああいうハミ出た部分も好きだね。
──一筋縄では収まらないハイブリッド感覚に惹かれるところがあるんですかね。
K:うん、好きかもしれないね、ハイブリッドなものは。
──グルーヴァーズと言えば一本気の通ったソリッドなロックを一貫して体現してきたバンドというイメージを持たれているのに、その顔役である一彦さんは実はハイブリッドなものが好きだというのが面白いですよね。
K:そうなんだよね。グルーヴァーズはロックンロール・バカ一代みたいに思われている部分もあるけど(笑)、俺個人は相反するものを混ぜてみることが実は好きだったりするからね。
──ロックンロール・バカ一代には『Lonesome in a crowd』のように愛くるしくメロディアスで、それでいて決して甘さだけに流されないバラッドは具象化できないと思いますが。
K:あの手の曲はテンポのせいもあって、ちょっと長くなっちゃったけどね。
──7分を超える大作ですけど、決して長くは感じませんよ。
K:だったらいいけどね。7分はさすがに長いと思って、もっとコンパクトにしようかなと迷ったんだけど、まぁいいかなと。
──こうした切々と唄い上げるバラッドにもアコースティック・ソロの成果がよく出ている気がしますね。
K:スローなバラード系の曲自体は以前から書いていたし、ライヴでも演奏していたけど、アコースティック・ソロの経験を経たことで以前より"Lonesome"な感じを出せるようになったのかな、とは思う。アコギを持ってひとりでステージに立つ気分って言うか。弾き語りのツアーやアルバムで自分の内側にあるスイッチを押したようなところはあるね。詞作も含む、歌の細かい情感の部分には影響が出ていると思う。
──ソロ・アルバムを制作した一彦さんにとっては、ボブさんとヤスチカさんという鉄壁のリズム・セクションがあってこそのグルーヴァーズなんだという事実を再確認できたアルバムと言えるんじゃないですか。
K:そうだね。あのリズム・セクションがいてくれるとどれだけ有り難いか、弾き語りをやってよく判ったし。それが古い仲間なら尚のことだね。長いこと一緒にやってないと出ないノリは間違いなくあるし。堅い絆で結ばれたメンバー同士だからこそ出せるグルーヴだとか、音楽のマジックみたいなものに幻想を抱きすぎるのは良くないと俺自身は思っているんだよ。ろくにアルバムを聴きもしないライターが好んで記事に書きたがるフレーズとかさ(笑)。そういうのはどっちかって言うと信じていないタイプなんだけど、そんな俺でも古い仲間にしか出せないノリがやっぱりあると感じる。そこは大事にしたいと思うよね。
──20年以上同じ釜の飯を食い続ける仲だと、それほど細かい説明がなくても新しい楽曲が構築されていく感じですか。
K:うん。逆に放っておくとこれまでの曲と似たような感じになってしまうから、そこは意識的にシャッフルするけどね。今までやってなかったパターンを試してみたりとか。
ファンと一緒になってやる楽しい悪だくみ
──今回のアルバムもまた、アルバム完成を待たずして予約販売を開始、予約した人には"一般発売より1ヶ月前に送料無料でお届け""未発表音源CD"の特典付きという超先行予約プロジェクト『ADVANCE MEMBERSHIP』を導入されましたが、これは今の音楽業界に一石を投じたいという意識があっての試みですか。
K:もともとはわりとそういう意識。あとは必要に迫られて(笑)。予約してくれた人の期待に応えなくちゃいけないというプレッシャーもあるから、当たり前だけどいい作品を作らざるを得なくなる。申し込んだ甲斐があったと喜んでもらいたいからね。俺としては、他のバンドももっとこのシステムを真似してくれたらなと思う。本当にちゃんと売れている人たち以外、アルバムを出すのは金銭的にも労力的にもなかなか大変なことだからさ、今のご時世は特に。こういうやり方もあるよと提示ができればいいなと思ったんだけど、残念なことに余り広まっていないんだよね(苦笑)。このシステムを導入したのはライヴ盤を入れてこれで3作目だし、今頃は日本でも100バンドくらいが真似してくれる予定だったんだけど(笑)。
──配信全盛の昨今ですが、CDパッケージがここまで売れないのは何故だと思いますか。
K:CDが売れていた時代は売れすぎだったのかもしれないけど、人々の興味の対象が分散されたのかなとは思うね。あと、CDというメディアが10年後に残っているかどうかも判らないでしょう? じゃあCDに替わる最高のメディアがあるのかと言えばそれもよく判らないし、配信のほうが利便性は高いよね。これでCDよりも大きなデータが簡単にダウンロードできるようになれば、CDのメディアとしての意義もなくなるだろうし。当初の触れ込みと違って寿命も永遠じゃないらしいしね。そりゃ"何だそれ!?"と思う人も出てくると思うよ。俺自身はパッケージが好きだから、LPにしろCDにしろ部屋に並べたいし、気に入ったものは手に入れたいけど、10年後はどうなってるだろうね。ただ、パッケージという概念がなくなったら音楽を作るのをやめるか? と言ったらそんなことはないわけで。やっぱり新しい音楽を作り続けていきたいし、その時代のフォーマットに合わせて作品を発表する方法を模索していくだろうね。まぁ、アナログ盤で育った世代だから、パッケージがなくなったらやっぱり寂しいけど。
──LPにしろCDにしろ、アートワークを含めた総合的な娯楽であり芸術だと僕は思うんですけどね。iPodも利用していますけど、やはりどうにも味気ないですし。
K:それもあるし、所有するっていうのが配信とは絶対的に違うよね。
──ただ、グルーヴァーズの場合は頑なにアナログを信仰するわけではなく、配信での楽曲販売にも早い段階から取り組んでいたり、時代が求めるフォーマットには柔軟に対応していますよね。
K:その程度の立ち回りは必要だと思うから。まぁ、今は『ADVANCE MEMBERSHIP』をもっと広めたいけどね。このシステムを使っているのは、ファンとダイレクトに繋がって一緒に遊んでくれないかな? っていう気持ちもあるんだよ。ファンと一緒になって楽しい悪だくみをするって言うかさ。
──アコースティック・ソロ・アルバムは今後も継続的に発表していく予定ですか。
K:弾き語りのライヴは今も神出鬼没的にやってるからね。いい意味で節操なく出ることにしている。そういう気まぐれなスタンスでまた何か作りたいけどね。バンドでレコーディングするよりはもう少し簡素に制作することもできるし。
──『ROUTE 09』のように新人バンドの如き鮮烈さと20年選手ならではの成熟味が同居したスリリングな作品を聴くと、バンドのポテンシャルの高さを感じずにはいられませんね。
K:バンドは俺のアイデンティティみたいなもんだし、毎年のようにオリジナル・アルバムを出せたら最高かもしれないけど、まぁ無理をせず自分たちのペースでやっていきたいね。外からのインプットやシャッフルも必要だから、弾き語りや外部のセッションもやっていきたいし。ただ、時折スケジュールが集中して頭が混乱することもあるけどね。3セッション分の曲をまとめてiPodで覚えたりしたこともあるよ。"今月の予習"っていうプレイリストを作ったりして(笑)。ホントはこの頭に合うメモリを増設したいんだけど、何せ古い機種だからカードスロットがなかったり、メモリ自体売ってなかったりするんだよ(笑)。