Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューAmerican Short Hair('09年2月号)

何が出るかは予測不能!? おもちゃ箱のような4人組。

2009.02.02

 下北沢を中心にライブ活動をスタートさせてから4年。迫水秀樹(Vo&G)、横川翔太(G)、松本一真(B)、杉本賢二(Dr)からなる4人組American Short Hair(アメリカンショートヘアー)。昨年11月にリリースされた1st.アルバム『にや』では、ファンク、ロック、ジャズ、歌謡、童謡といった固定要素も、Aメロ→Bメロ→サビといった予定調和もない。作詞・作曲を手がける迫水の溢れ出るアイディアを、自由にそして気持ちが向くままに1つの曲に仕上げていったという感じ。擬音語も多用され、1曲ごとが映画を見ているかのように聴き手の想像世界を豊かにさせ、いつのまにかAmerican Short Hairの作り上げる世界にグイグイと吸い込まれていくようである。
 今回は、3月に行われる代官山ユニットでのライブにも出演するAmerican Short Hairに『にや』のこと、そしてライブのお話をじっくりと伺った。ライブは想像を超えた独特の雰囲気を作り上げる。いずれは、この既存の枠にとらわれないスタイルを確立するだろう彼らに大いに期待して頂きたい。(interview:やまだともこ)

『にや』までに辿ってきた道のり

──1st.アルバム『にや』がリリースされたのが昨年の11月ですが、周りの反応はいかがでしたか?

迫水:このアルバムは音楽的な面で新たに挑戦した部分もあるので、賛否両論の意見をたくさんいただきました。次の音源を出す時に生かしていきたいです。

──『にや』の前は自主制作でリリースされていますが、そこから特に変えた部分はありますか?

迫水:自主で4曲入りを2枚(『水の指揮者』『鍵盤』)リリースして以降2年ぐらいリリースがなかったんですけど、前の音源で出し切れなかった部分がたくさんあったんです。音楽性としては変化もしているので『にや』をリリースできたことがすごく嬉しいです。ひとつの区切りとしてAmerican Short Hairを詰められたんじゃないかな。前向きな作品です。全てがチャレンジですから。僕が作詞・作曲をやっていて、聴いてくれた人が新鮮に感じるものを作ろうと思っていたらこういう作品になったんですけど、自分の中で普通だと思っていたことが周りからはマニアックだと言われているということにも気づきました(笑)。

──ファンクあり、ジャズあり、ロックなど何でもありですからね。しかも、Aメロ→Bメロ→サビという構成でもなかったので、もともとどんな曲を聴いてきたのかが気になります。

迫水:Mr.Childrenさんです。幼なじみでギターの横川もミスチルが好きで、小学校の頃からミスチルの話をよくしていました。

──そこからどういう経緯を辿ると『あわわわオモチャ箱』のような不思議な曲ができあがるんですか(笑)?

迫水:そうですよね。ギターを始めたきっかけはゆずなんですけど、コピーもしていたのでゆずがどうしたらこうなるんだってよく言われます(笑)。中学3年ぐらいからギターを触り始めて、作っていた曲もゆずのような曲でした。その後高校3年の1年間ぐらい曲を作らなくなって、将来的に音楽をやっていくのかも微妙な時期が あったんでけど、高校を出たら何をするかって考えた時に一番興味があるものが音楽だったので、とりあえず音楽の専門学校に入ったんです。聴いていた音楽もBLANKEY JET CITYや椎名林檎さんなどに変わっていて、1年振りぐらいに曲作りをやってみようと思ったんですけど、1年前と同じような曲を作るのではなくて何かないかと模索した時に作った曲が、今でもライブでやっている『逃走劇』。この曲から何かが変わったんです。今までのスタイルには当てはまらなくて、バンドを意識して作った曲という感じです。だから、音楽の専門学校に2年間通ってなければ今のAmerican Short Hairはなかったかもしれないですね。シンガーソングライターコースで弾き語りでやっていて、バンドは専門学校の2年生から本格的にやり出したんですけど、今でも2ヶ月に1回ぐらい弾き語りのライブをやっているんです。アコースティックギターでできる表現を大事にしているのと、バンドに依存をするのは怖いし、したくないんです。自分がある程度自分でいないと不安になってしまう性格なので。まず1人でやれることはしっかりやっておかないとなって思っています。


狙わない良さ

──ところで、『にや』に入っている曲の中に、極端に音の小さいところが何カ所かありましたが、あれは意図的なものなんですか?

迫水:ライブを見て頂くのが一番わかりやすいんですが、僕らは全ての曲に強弱があるんです。ただ、エンジニアさんと話をしていて、CDだと極端に強弱を付けないほうが良いみたいで音源にするのは賭けだったんですけど、思ったよりも小さいって言われることが多いですね。でも、弾き語りの時もそうなんですけど、抑揚が絶対大事だと思っているんです。オーケストラも曲に強弱を付けることで全体に締まりが出ると思っていて、それをCDにすると今回みたいになるんですけど、表現としては最後まで曲を盛り上げるためには音量の調節がすごく大事なんだという概念があるんです。今回やってみて反省点のひとつではありますけど、後悔はないです。強弱がなかったらこの楽曲は自分の中では表現しきれていないと思ってしまうので。

──1曲ができあがるまで、メンバーのみなさんで時間をかけて話し合いながら作りあげていくんですか?

迫水:はい。最初に僕が曲の原型だけを作っていってアコギで聴かせて、バンドで部分的に合わせてみて、家に持ち帰って練り直していくんです。メロディーラインを浮かべる時はできるだけ自分の部屋でアコギのコードだけというシンプルな中で浮かんだもののほうが良かったりするんです。

──曲の構成は、どうやって組み立てています?

迫水:曲がもともと持っているものを生かしていくようにしています。Aメロ→Bメロ→サビという予定調和ではなく、曲のイメージができた時にその中の一番良いところを膨らませていく。自分の中の正解を探していくとこうなるんです。

──奇をてらって複雑な構成をしているわけではないということですか?

迫水:ないです。狙ってしまうとしっくり来るものができないんです。イメージをそのまま曲にするという感じ。いろいろ試すんですけど、しっくり来るのを探すんです。

──先程おっしゃっていた抑揚をつける部分も、全員で考えながら作るんですか?

迫水:それは僕が絶対にこうしたいって言ってやってます。

──アレンジをやってみて、苦労した点とかメンバーが大変そうだったのはどんなところですか?

迫水:最後の『夜空の映画館』は、静かな音から入るんですけど、こういう構成を考えつくまでにすごく時間がかかりました。メンバーはどう表現したら良いのか、僕はどう表現してもらいたいか、お互いが漠然としすぎていたんです。難解にどんどんハマっていった曲ですね。

──詞も意外性を持っているので、メンバーの皆さんが楽曲のイメージを湧かせるには最初から詞が乗ったものを聴かせる形なのかと想像しますが、最初の段階では原型になるものに詞は乗っているんですか?

迫水:今回は先に持って行く時は原型だけでした。メロディーラインは付けていて、1〜2回スタジオに持って行って持ち帰って詞や構成を考えて、アコギで披露する。そこで楽曲がグッと締まっていくという感じ。詞が乗るとメンバーもイメージが湧きやすいですからね。

──あがってきた詞が『ももかみしばい』だったら面食らいますけどね(苦笑)。この詞はどんな感じでできあがったんですか?

迫水:詞を書く時は紙と向き合って"書くぞ"と書き始めることが多いんですが、『ももかみしばい』は何かが降りてきたんです。物語を書こうと思って気負いをせずに書いたら"ももさん"の話が浮かんで、紙芝居の歌を作ったらおもしろそうだなって思って、紙芝居の中に"ももさん"の物語を具体的に書いた感じです。

──全く予測不可能な楽曲でしたよ(苦笑)。童謡とかおとぎ話を聴いたり読んだりして、自分達の楽曲に影響を受けた部分はありますか?

迫水:童謡は好きですけど、この童謡をすごく聴いたという記憶はないです。おとぎ話は遠い昔に読んだことはあるかもしれないですけど、改めて読んではいないです。でも、ファンタジックな世界観はすごく好きです。

──本はよく読みますか?

迫水:本よりも映画の方が見る機会が多いと思います。文章を読んでイメージするよりも、映像と言葉で入ってくるもののほうが好きなんです。僕が詞を書く時も映像で浮かべたものを文章にして当てはめていってます。

──なるほど。だから、歌詞に擬音語が多く使われているんですね。『あわわわオモチャ箱』の"バッシャン!! ガッシャン!!"だったり、『夜空の映画館』の"パラパラパラ。。"や"スィスィスィ。。"のように動きを感じさせる擬音語が入ることによって、景色が想像しやすくなりますからね。

迫水:風景を想像しやすいものがあったらいいなと思っているんです。もちろん、擬音を使った方がしっくり来るというのもありますけど、擬音がないと文の羅列になってしまうんですよね。日本語の歌詞に英語を入れるのと似ていると思います。僕らの曲には英語が途中で出てくることはないんですけど、違うエッセンスを入れたかったんです。小説を書きたいわけではないので、ここで自分の詞らしさが出るんだと思います。ただ、作品を作っている時に擬音に関しては意識しているわけではないので、周りがそこにすごく反応してくれるのはおもしろいですよ。

──他と区別したくてそうしたわけではない?

迫水:区別したいという意識はなくて、そういう感じが好きなんです。詞を書く時に『ピシャン。。ピシャン。。雨のミュージカル』で言えば、"ピシャン。。ピシャン。。"は"雫が落ちて跳ねる"という言葉でも説明できると思ったんですが、しっくり来なくて、いろいろ当てはめていって一番合うと思った言葉を入れたんですよ。そう並べたら擬音語が出てきたんだと思います。


同じことをやるのはつまらない

──『あわわわオモチャ箱』は、ジャズっぽいスウィング感がありましたが、ジャズがお好きなメンバーがいらっしゃるんですか?

迫水:僕が好きなんです。ジャズの雰囲気やコードの鳴りが好きで、ジャズの誰が好きかと聞かれたらよくわからないのですが、ジャズ自体が好きなんです。American Short Hairの曲は、ジャズとかカントリーが入っていると思いますけど、自分が好きなジャンルを混ぜた感じです。

──『バニラエッセンス』のようなジャズのマイナーコードの感じは、意識して入れているんですか?

迫水:意識してると思います。ジャズのエッセンスは耳心地が良いので、音の響きで作っています。ストレートなCとかGとかのコードよりも曖昧な音色の方が好きなんです。

──ということは、ジャズはバンドが通底する音楽としてあるんですか?

迫水:メンバーも今は好きみたいですよ。最近はみんな1から学ぼうと、ジャズのスタンダードのカバーをやったりしてますけど。ただ、アレンジでそっちに寄りすぎるとマネっぽくなっちゃうので、個性は意識してやってます。メンバーもジャズを聴いて育った人はいないので、手探りでやっている分ジャズもあり、ジャズじゃない要素も入っていたりするんだと思います。American Short Hair という音楽を作りたいと思います。

──それぞれが解釈するジャズのイメージで進めているということですか?

迫水:ギターもベースもそうだと思います。ジャズのドラムはわかりやすいので良いのですが、ギターとベースに関しては、寄りすぎちゃうフレーズは2人で話してます。

──『にや』はいろんなジャンルの楽曲がおもちゃ箱のように詰まっていて、偏ってない感じがすごく良いですね。

迫水:そういう音楽が好きみたいです。ひとつのジャンルに偏ったことをやると退屈になっちゃうんです。曲作りでも、前はこういう感じの曲を作ったから、今回はちょっと違う感じでいこうという感じでやっています。音源になっていない曲がまだたくさんあるんですけど、ジャズの要素だけが入った曲っていうのをまとめたら、そういうCDになると思うんですけど、『にや』はあえてそこは避けて1枚にまとめていきました。音源になっていないものの中には、もっとマニアックなものもあります。逆に『にや』を出して、聴いてくれる人にはどんな楽曲がわかりやすいのかということも気づけましたよ。

──『にや』に入っている10曲の中で、迫水さんが思う一番わかりやすいものはどの曲ですか?

迫水:う〜ん。『バニラエッセンス』とか『ゆうえんび』ですね。

──反対にマニアックだと思うものは?

迫水:自分はマニアックだと思ってないので(笑)。もっとマニアックなものがあるんですよ。でも、強いて言うなら『夜空の映画館』とかですかね? 1番2番もないですからね。ストーリーを追うように作っていくとAメロ→Bメロ→サビっていう構成がつまらなくなるんですよ。

──ひとつの形式に当てはまるのはおもしろくない?

迫水:あてはまる曲も何曲かあるんですけど、そればっかりをやってるのはつまらない。

──メンバー全員を既存のスタイルではないものを作るという意識に近づけるのは大変ではなかったですか?

迫水:最初の1年ぐらいはそういうのがあったかもしれないですよね。構成がないものもありますからね。でも、今となってはみんなこれが普通になっちゃって、メンバーもそういう環境で3〜4年やっているので、マニアックだと言われるのが不思議だと感じると思いますよ(笑)。

──では、迫水さんが思うAmerican Short Hairの特徴はどんなものですか?

迫水:目指しているところは他にはない音楽を探していきたい。曲を聴いて映像が浮かぶとよく言われてますけど、もっと曲以外での表現方法もできるようになっていきたいんです。歌だけでなく違うエッセンス...『〆選択屋敷』のようなセリフもそうですけど、既定のことにとらわれていないバンドでいたい。もっと大きく広く自由にやりたいと思っています。『ももかみしばい』も自由にやった結果でしたけど、自由でありたいですね。ただ、今後マニアックっていうふうに言われてしまう部分に関しては、自分の中では考えていきたいです(苦笑)。その課題はあります。より伝えていきたいので。

──聴く人は限定したくない?

迫水:そうなんですよ。

──ファーストでここまで詰め込んだら、次はどこに行くんだろうと思いますけど。

迫水:尖った感じが『にや』では出てたのが、音源になった曲もふまえてここはこうしたらいいなっていうアイディアは浮かんでいるので、もうちょっとわかりやすい曲を増やして歌で勝負したいっていう方向になると思います。次のリリースがいつになるかはわからないですけど、構想はできていますよ。


ライブは1回1回が作品

──『にや』というアルバムタイトルも気になるところではあったんですが、バンド名が猫の種類ですので、猫の鳴き声なのかなと思ったのですが...。

迫水:猫の鳴き声にもかかっていますが、にやけるの"にや"という意味もあります。自分が好きな音楽に出会うと"にやっ"としてしまう瞬間があって、American Short Hairの音楽に出会って"にやっ"としてくれる人がいたらうれしいなと。あと、常に毎日の中で笑顔になる瞬間がこの音楽を聴いた時にあればいいなと思っています。

──ジャズとか目指している音楽に近いんだけど実際は違うというニア(near)の意味は込めてますか?

迫水:それ、言われたことあるんですけど、たまにネガティブに考えてしまうところがあってニアミスっていう意味が一度浮かんじゃって、それを考えちゃうとよくないので脳から消去しました(笑)。『にや』に入っている曲は、希望を持っている詞というかマイナスからプラスに奪還していく曲が多いと思うんですけど、American Short Hairを聴いてくれてる人がそうなってくれたらいいなと、支えになったらなって思ってました。

──ライブの直後にニヤっとしてもらえる感じを心がけてます?

迫水:最近は特にそうです。ライブでは音楽以外の要素を取り入れてやっているんですよ。だから、毎回1回限りの楽しみを味わってもらえると思います。ライブで見て音源を聴くとイメージがだいぶ変わると思いますよ。ライブは音楽だけではないですからね(笑)。

──そしたら音源だけを聴いて満足せずに、ライブにも足を運んで頂きたいですね。

迫水:ライブも見てもらいたいです。

──3月には代官山ユニットでイベントに出演されますが、音楽以外の何か特別な仕掛けを考えていたりするんですか?

迫水:セットリストはぶっとんだことをしようと思っています。American Short Hairはライブで曲をやっていくだけのバンドではなくて、エンターテイメント性をもっと持たせようと考えていきたいんです。毎回「今日のライブに来て良かった」と思ってもらえるライブを目指しています。だから、その日だけのエンターテイメントをやりたい。昨年の12/8に僕らの企画で"ねこのできる贈りもの"というイベントをやったんです。ジョン・レノン の命日なのでジョン・レノンの曲を歌ったんですけど、サプライズでコーラス隊の方と一緒に歌ったりしました。それから、American Short Hairの音にピアノが入ったことはないんですが、ピアノを入れてみたりとか、この間のライブではいきなりお茶を点てたり、そういう意味で毎回楽しんでもらえると思います。

──お茶を点てるんですか!?

迫水:はい。違うエッセンスを入れていきたいんです。ライブは1回1回が作品ですから。CD通りに歌わないこともけっこうあって、常に変化していくものが好きなんです。今年はライブを新しい気持ちでやっていきたいと思っています。結成してから何度もライブをやっていますが、ライブの先入観を一度取っ払って新しい気持ちでやっていきたい。最初はうまく反映できなくても、American Short Hairのライブ変わったねって思われるようになったらと思います。外側に向けて発信していこうと思います。これまでは内側に向きすぎていたみたいで...(笑)。まずは、3/27のライブにぜひ来て頂きたいです。みなさんに"?"を落とします(笑)。いろんな意味で期待を裏切るライブだと思います。今後の目標としては『にや』をもっとわかりやすくしたものを作るかもしれませんけど、まずはもっと一般的に僕らの音楽が浸透してくれたらというのが一番の願いですよ。


ファーストフルアルバム
『にや』

通常盤:ANTX-1015 / 2,500yen(tax in)
限定盤(開けたら飛び出すびっくりねこさん仕様):ANTX-1014 / 3,150yen(tax in)
IN STORES NOW

amazonで購入

iTunesStoreで購入

LIVE INFOライブ情報

3.27(Fri)代官山UNIT
Fly like an Eagle 〜with E〜

出演:American short hair 他
INFO:代官山ユニット http://www.unit-tokyo.com/

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻