「宇川直宏のニュー・プロジェクト=UKAWANIMATION!がついにミュージック・シーンに待望のデビュー!」との報を聞いて、一瞬「あれ?」と思った。宇川直宏が日本(のみならず世界の)音楽シーンで、それこそ多忙に活躍していることは誰もが知る所であり、その活動内容もDJ、VJ、ミュージックビデオディレクター、レーベルオーナー、そしてクラブ運営までと、すでに宇川氏は日本の音楽シーンを代表する人の一人である。
では、あえて"デビュー"という言葉を使っているこのプロジェクト"UKAWANIMATION!"は一体どんなものなのか?現時点では情報が少なくその全貌を知るよしもないが、幸運な一部の人は今年のFUJI ROCK '08最終日におけるUKAWANIMATION!のデビューライブを体験しているだろう。直前に出演したAEOから引き続き登場したEYヨの雄叫びで始まったUKAWANIMATION!の音と映像とダンス、その他様々な要素を含んだパフォーマンスは「フジロック史上屈指の耽美的エンディング」として評判を呼んだ。しかしあの宇川氏のプロジェクトである。このステージもUKAWANIMATION!のほんの一部に過ぎないだろう。
このデビューライブから約2ヶ月後の9月24日、いよいよUKAWANIMATION!デビューシングルがリリースされる。それはFUJI ROCKのステージとは違った意味で、我々を驚かせるに充分な内容のものだ。シングル1曲目『惑星のポートレート5億万画素』は"カメラ"に捧げられた楽曲。宇川本人が書いた詞に、近年コラボすることの多い"テクノ首領"こと石野卓球が作曲したトラックの上に、幻影とフラッシュバックを歌った歌詞と楽曲のよさは言うに及ばず、なんといってもあまりに自由形な歌唱が凄まじい。
2曲目『空白のおまえを飲み込んでしまうまで』は、こちらも宇川作詞で、作曲を昨年『TIDE OF STARS』で衝撃的にデビューをしたクラブミュージック界の異端児、DE DE MOUSEが手がけた作品だ。夜の王様フクロウの眼から見た自然の黄金律と絶対値を表現したこの曲は、DE DE MOUSEならではの幻想的な世界を創出している。
創作方針として「宇川直宏が発案したコンセプト+歌詞/イメージ+絵コンテを、それぞれミュージシャンや映像作家に伝え、楽曲とミュージック・クリップを同時生成させていくという、流動性不定形なメンバーによる新しいミュージック・コミュニティの確立を目指したもの」とのことだ。
さらに本作の重要なモチーフとして以下のように説明している。
「『現代のミュージックシーンには、コンビニエンスなラブソングが繁殖しすぎている』と批評する宇川は、このプロジェクトを通じて"人間以外の森羅万象からみた世界"のみをコンセプトにして、今後、映像と楽曲を制作してゆくという。『生命の祭典』ともいえるアトランダムなテーマとアーティストたちが混在する光景こそが、宇川直宏が新たに考える作品であり、人、言葉、音、映像が交差していく『環境』それ自体がUKAWANIMATION!なのだ。私たちが生きている、静物と動物からなる『環境』=自然というものを擬人的にとらえ、カメラ・レンズの反射角やフクロウとネズミの追走劇などに『生気=アニマ』を見い出していくこと。木々や風が笑い、象や馬が語りかけてくるような、イメージと物語の衝突が奏でるポピュラー・サウンドのニュー・ディメンションをUKAWANIMATION!は街のあちこちにあるリアル環境に向けて送り届けようとしている。」(リリース資料より)
そしてこのプロジェクトをハードコアな「エコ・クリティシズム=環境の考え方」と表している。もちろん宇川氏の目指すエコは、狭義の「環境問題としてのエコ」だけに留まらず、より広い意味で「文化的・社会的・経済的思想」としてのエコロジーであることは明らかだ。これは宇川氏のこれまでの活動があまりにも広い範囲に渡ってきたことが大きく関係していると思う。宇川氏の活動履歴についてはWikipediaなどで検索すれば手っ取り早く知ることができるが、まとまっているものだけでも既に膨大な数の活動内容に圧倒される。例をあげると、初期の『映画秘宝』のカバーデザインで名をはせたグラフィックデザイナー、BOREDOMSと意気投合して始めた黎明期からのVJ、ハナタラシから灰野敬二、海外のDJ Q-BERTまでジャンルレスにリリースを行ったレーベル運営、カルチャー/音楽誌『スタジオボイス』『Baf-out!』『エレキング』からSM雑誌、投稿系雑誌まであらゆる所に書きまくったライター、さらには1995年にサンフランシスコに渡り、地下クラブからバーニングマンまでアメリカ文化の深淵に触れ、帰国後はさらにジャンルレス化した活動内容といった具合に、メジャーからマイナーまでに渡る宇川直宏の全貌を把握するのは到底不可能だ。
ボーダレスに活動する宇川氏は、意識的にコアからマスまでを対象に活動しているのだろう。『広告批評』(No317)におけるテイ・トウワ、ヒロ杉山との対談で宇川氏は「例えばマスVSコアってヒップホップのクリシェじゃないですか、言ってみれば。ヒップホップのスローガンが面白いのは『Make money』って言いながら、ハードコア・アティテュードを大切にしているところ。」と語っている。これはエコロジーを考える上で非常に重要な姿勢である。一見、すべての価値観が相対化された時代にあって、宇宙規模での綜合芸術を創出することこそが真の意味でエコロジー活動と言えるからだ。
今後のUKAWANIMATION!がマスとコアの両方を視野に入れながら、どのような『環境』を私たちに提示してくれるのか。とりあえずはこのシングルを楽しみながら、今秋に発売されるという1stアルバムを心待ちにしたいと思う。
(文:加藤梅造)