先月号に引き続き、日本最高峰のパンク・バンド、SAの登場!
今回はNAOKI(g)も加わり、ニュー・アルバムのタイトルにもなっている"VANDALS"(文化的破壊者)について語って頂いた。...筈なのだが、話は脱線に脱線を重ね、漫画やテレビの話から学生時代の思い出話、日常のちょっとした疑問、そして最終的には今の世相を斬りまくる!? 全てを掲載できないのが残念なくらい、有り得ない転がり方をした混沌インタビュー! その中で導き出された、あえてリスクを背負い、破壊していくことの意義とは?(interview:稲垣ユカ+椎名宗之)
"これでイイのか?"から"これでイイのだ!"に
──今回のアルバム・タイトルにある"VANDALS"(文化的破壊者)という言葉はどこから出てきたものなんですか?
TAISEI:先月も言ったんだけど、パンクっていうものが保守的というか古典芸というか、守りに入ってるように感じられてね。俺たちがSAというバンドをやる中で、そういうものではいたくないっていう気持ちを持ち続けてきたんだけど、ふと周りを見渡したらみんな体よくまとまっちゃってる気がしてて。そういうパンク・ロックっていう文化を俺たちがぶっ壊してやるって思った時に、"VANDALS"って言葉がピッタリ来たのかな。
──なるほど。今回はTAISEIさんとNAOKIさんの考える"VANDALS"について話して頂きたいんですけど。
TAISEI:バンドマンで言ったら、ベタで一番判りやすいのはピストルズだけどね。ただ、ピストルズっていうのはぶっ壊しただけなんだよな。それに比べるとクラッシュはぶっ壊しては作って、作ってはぶっ壊して、最終的にはみっともない形で終わってしまうズッコケ感みたいなのがあって、俺は好きだね。
NAOKI:切なさがあるよね(笑)。あのバンドは常に切ない感じがあったな。
TAISEI:まぁ、俺はクラッシュの音楽性にもの凄く影響を受けてるってわけじゃないけど、あのイイ意味での切なさとかみっともなさとか、片意地張ってる感じが好きだったね。
──NAOKIさんは如何ですか?
NAOKI:俺は身近で言ったらPONがそうなんじゃないかと思ってしまうね。いつも"何だろう? この人"って(笑)。守りがないっていうか。ファッションひとつにしても"えっ?"と思わせるんだよね。80年代のみんながステレオ・タイプのパンク・ファッションをしてた頃にひとりだけオーバーオール、とか(笑)。よく判らないけど"何か凄いな"っていう。岡本太郎的な何かがあるのかもしれないし。自分をちゃんと見極めてるんだろうね。"ロックはこうであるべき"とかじゃなくて、自分がどうあるべきかを判ってる気がする。で、それを表現するのが上手いんやろうな。
TAISEI:本来失うことはもの凄く怖いんだけど、"でもやったるわ!"みたいなダンディズムみたいなものに俺は惹かれるね。人から認められたいとか思ってる反面、それができない不器用さみたいな、そういうところにヴァンダリズムを感じたりだとかさ。俺がよく言うのは、全力疾走してるんだけど目をつぶってるんだよって。だから壁にぶち当たったりもするんだけど、そういうのが好きだね。体よくやってくつもりなんかないし。どの壁にぶち当たるのかも判んないけど走る、みたいな。
──岡本太郎さんの言葉で、「プラスに行くかマイナスに行くかだったら絶対にマイナスの道を選べ」っていうのがあるんですが。
NAOKI:リスクのあるほうが面白いのかもしれないね。そこで見つけたもののほうがもの凄い糧になるんだろうし。
TAISEI:今回のアルバムでいろんな曲を取り入れたことはリスクだとは思ってないんだけどね、全然ビビってないっていうかさ。みんなはそういうことをするのが怖いんだろうなと思うよ。
──そういうのって年齢も関係したりするんですかね?
NAOKI:でも一回ヘコむ時期っていうのはあるよね。ずっとバンドをやっていて、いわゆる一般的な人生っていうものに乗っかれない不安みたいなものとか。それが30代の終わりぐらいに潔さに変わる瞬間っていうのが出てくるんだよね。"まぁええか"って。だって一回しかない自分の人生なんだから、トコトン一流のバカになるのも面白いかなって。もう笑われてなんぼみたいなところはあるよね。指さされたってええよ。
──10代の頃はカッコつけたがるところってあるじゃないですか。
NAOKI:それはやっぱりそうだよね。ファッションから何から取り入れて、あとは勢い任せみたいな。それでも途中でいろいろ考え始めるからね。でも考えるのはいいことだから。
TAISEI:それが一気に抜ける瞬間っていうのがあるんだよな。その抜け方っていうのはもの凄く強いよな。
NAOKI:"これでイイのか?"から"これでイイのだ!"に変わる瞬間がね(笑)。
TAISEI:俺もバカボンのパパと同い年になってしまったからね(笑)。
見ちゃいけないものを見てドキドキする感覚
TAISEI:赤塚不二夫もパンクだったよね。あと、俺が子供の頃に凄く影響を受けたのが鴨川つばめって漫画家。『マカロニほうれん荘』の。あれが俺の全てのスタートというか。全ての概念をぶっ壊してる漫画で、それでいてオシャレでファッショナブルで。その後に鳥山明とか江口寿史とかが出てくるんだけど、鴨川つばめはセンスから何からズバ抜けてたね。田舎の少年が読んだ時に、大人の世界っていうか向こうの世界があるって思った。
NAOKI:赤塚不二夫がテレビでハチャメチャな番組やってたのとかは俺たちはリアルタイムでは見てないからね。でも、当時それに賛同してるメディアもあったことが凄いよな。今は自主規制かなんか知らんけどもの凄い規制がかかっとるからね。今は何のためのテレビなのかも判らんぐらい。こんなんでまとまっていいのかなって気もするけど。ドラマなんかも俺たちが子供の頃にオッと思ったような感じのやつとか一切ないよね。『探偵物語』とかさ。こないだ水谷豊がリバイバルしてたけど、やっぱりスゲーいいんだよね(笑)。
──松田優作はどうですか?
NAOKI:『探偵物語』は、松田優作のアイディアがめっちゃ多いって話は聞くよね。例えば乱闘シーンで紙棒でどついてたりとか、暴力シーンでも笑える作り方をしてたり。あれだけトンがった役者がいっぱいいた時代の中で、どんどんいろんなことに挑戦してて、そういうのはやっぱり凄いなぁと思うけどね。
TAISEI:まぁ、なんかちょっとはみ出てたりズレてる感じっていうかな。例えば音楽にしても、最初に聴いた時は"なんかよく判らんなぁ"って思うんだけどなんかもう一回聴いちゃう、みたいなレコードは後にもの凄く重要な宝物になることが非常に多くて。初めにすげーイイなって思ったのはその時だけだったりするんだよね。だからなんか見ちゃいけないものを見るようなドキドキ感っていうのに惹かれるな。音楽にしろ映画にしろ。
──本来ロックってそういうものでしたよね。
TAISEI:そうそう。聴いちゃマズいんじゃねえの? みたいな。
NAOKI:ライヴハウスなんかも、子供がそんな軽い気持ちで行ってはいけないんじゃないか? みたいな凄い存在だったし。あの感覚は好きやったけどね。行ったら必ずボコられるみたいな(笑)。俺が16ぐらいの頃なんか、ライヴ観に行っても後ろのほうに逃げてたもんね(笑)。
──今そういう空気がなくなってしまったのは何が原因なんでしょう?
TAISEI:まぁ、暴力でどうこうしようっていうのはもう流行んないんだよ。
NAOKI:いろんな要因があるんだろうけどね。音楽にしろ何にしろ、学校で教わって何かできるとは俺は思わなくてね。イイか悪いかは別として、俺たちの時代はもっとはみ出した奴らが楽器を持ったりとかしたからね。で、あの時代は周りの理解がないから面白かった。白い目で見られてることすら快感に変わったというか(笑)。
音楽で人は救えると思ってる
TAISEI:とにかく俺の場合は漫画とロックンロールからいろんなものを得たわけで、そういう先人の方々はやっぱり"VANDALS"というか、何かをぶっ壊してるからドキドキするわけ。そういうのを見た時に俺がいちミュージシャンとしてそこまでやれるのかっていう自問自答もあるし。でも、やるんなら極端なのがいいよね。体よくやってるのは良くないね。
──今の若いバンドを見ていると、どうしても小さくまとまっている印象が拭えないんですよね。
TAISEI:やっぱり時代性なのかな。
NAOKI:締め付けのない時代だからね。締め付けのない時代に生まれた子らが何を破壊するんだろうと思うけどね。髪染めてピアスあけて化粧して学校に行ってる奴らに何を破壊するものがあるのか? と俺は思うけど。俺たちの頃って最後の軍人上がりの教師がいた頃やから、ビンタされて血が出るのなんか当たり前やったし。ガム噛んでただけで殴られるような時代やからね。髪だって耳に掛かったらイカン、襟に掛かったらイカンとか。
TAISEI:夏休みがこの日からだから、ここから髪伸ばし始めたら夏休みの最後のほうにはスパイキー・ヘアできるな、とか(笑)。夏休み入る前に頭髪検査あったら終わりだな、みたいな。
NAOKI:でも、そうやって締め付けがあるからアイディアも生まれんのよ。昔の作家だって、戦中戦後の規制がある中の、もの凄く検閲がキツい中だったからこそ表現の幅が生まれるわけ。規制がある中で研ぎ澄まされた表現力が最高のものを生み出すわけでしょ。
──自由は不自由の中からしか生まれないってことですね。
NAOKI:それはホントそう思うわ。今はもう破壊するものを探さないといけない時代だからね。
TAISEI:最終的には自己破壊になってしまうのかな。
NAOKI:だから狂ってる奴が多すぎるよな。昔言ってたキチガイっていうのと、最近ニュースになってるような今の狂ってる奴っていうのはちょっと違うんだよな。俺は良くも悪くもテレビゲームとか一切興味ないからね。だったらみんなで人生ゲームとかトランプとかやってるほうが楽しいし(笑)。一人でいるにしても本読んだり映画観てるほうがイイよね。電車乗ってる女子高生とか見ても携帯のゲームやってるやろ? 何が面白いねんと。その間にもっと考えることあるやろと思ってしまうけどね。俺たちの頃なんか、電車の中ではめっちゃ怖い学校の奴から逃げるのに精一杯でそんなんしてる余裕はなかった(笑)。...なんかヴァンダリズムとはかけ離れてしまったけど(笑)。
TAISEI:でも疑問を持つっていうのは大事なことだよね。
NAOKI:そうやな。それが何を生産してるのかさっぱり判らないっていう。でも今はこれだけモノが溢れてる時代だから難しいと思う。子供達ってホントは柔軟な頭でたくさんの才能を持ち合わせてる筈なんだけど、全く締め付けのない時代で何でも与えられてて。
──自分で選ぶことが難しいですよね。
NAOKI:もう判んないよな。
TAISEI:今回アルバムの中で言うと、俺たちは行かなきゃいけない、行こうぜっていう反面、日本はもうダメだぞっていうのがあって。ただ、ダメだったらじゃあどうするっていうところまではまだ行けてないっていうか。ただダメだなってとこに行き着いたというだけで。
──でも、最初の一歩として"認識する"というのは大事ですよね。
TAISEI:それは必要だよね。だからその後どうするんだ、俺はどうするんだっていうところで。そこで俺たちが表現できる音楽っていうツールで、そういうところを壊していきたいっていうのはあるよね。聴き手の気持ちの部分であったりだとか。そこにリスクはあってもイイと思うんだよな。俺は結構好きなんだよ、リスクを背負ったりぶっ壊したりするのが。
NAOKI:それが俺たちのモチベーションなのかもしれないよね。"何か違う"っていう疑問を持って自分に問いかけて周りにも問いかけて、それをロックで表現してるわけで。完全に自分が望む世界にはならないとは思うけど、ちょっとでもそこに近づきたいっていうかね。
──SAの音楽って、そういうクソッタレ精神みたいなものの中にもちゃんと希望があるんですよね。
TAISEI:それは凄く大事なんだよ。この世の中、"あれはクソだ、あれはダセェ"とか人のことを言う奴が多すぎるんだよな。じゃあお前どうなんだよ? って。そう考えた時に、俺たちは自分のケツは拭きたいってことなんだよ。"じゃあ俺たちはこうですよ"っていうのを提示できない奴はダメだよ。ただ人のことをクソだ、ダセェって言ってる奴はそっちのほうがクソだと思うね。
──要するに、前に進んでいくための破壊ってことなんですね。
TAISEI:だから希望があるんだよな。俺は音楽で人は救えると思ってるからさ。だから未だに"行こうぜ!"っていう気持ちは持ち続けてるし。上はどこまでも果てしないけど、果てしないから挑戦できんじゃねぇかなって思うよ。