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INTERVIEW

トップインタビューserial TV drama('08年7月号)

『シリアルキラー』は人々を音楽で翻弄していく

2008.07.01

serial TV dramaから届いた1stアルバム『シリアルキラー』を聴いて、打ちのめされた。歌メロとヴォーカルの爽やかさとポップさはグレードアップし、一方でそのサウンドの振れ幅とオタクっぽさにもより一層磨きがかかっている。昨年3月に発売された彼らの初音源であるミニアルバム『ginger』を聴いたときからすでに、何かをやらかしそうな匂いがぷんぷんしていたが、今作からは彼らがやらかそうとしていることの方向性が見えてきたように思う。CDを再生機器にぶちこんだ瞬間から収録時間が60分ジャストということにはっとさせられ、トラックが次に進むごとに変わる世界観に翻弄されていく。翻弄される人々を見て、『シリアルキラー』のごとくニヤリとする彼らが目に浮かぶ。バンドサウンドを構築する2本柱、作詞担当の伊藤文暁(Vo)と作曲担当の新井弘毅(Gt)に話を聞いた。(interview:古川はる香)

"長い曲"は必ず入れたかったもののひとつ

──まず正直な感想を言うと、『ginger』のイメージで聴いたので「こうなっちゃったか!」と思いました。もちろんいい意味で(笑)。

新井:わかります。「こうなっちゃった」って感じですよね(笑)。

──特に印象に残ったのが、コーラスのきれいさなんですが、そこは強化していきたいという思いがあったんですか?

新井:そうですね。やっぱり分厚いものをやりたいと思って、シングルの『まえぶれ』を出したときからコーラスを入れていかなきゃって。それは曲を作る手段でもあり、単純に好きだからでもあり、曲の盛り上がりに対するもっと細かい階段を作るためでもあって。

──『ペイマニープリーズ』に一番やられました。その前の『宿り』がじわ〜っとくる曲なのに、「え!?」ってなりますよね。

新井:はいはい。狙いはまさにそれです(笑)。シングルの『まえぶれ』にも『宿り』は入ってて、そのときからじわ〜っときて、どーん!っていうのをやりたかったんです。シカゴの名バラードって、シングルだとフェイドアウトなのに、アルバムだと2曲繋がってるんですよ。しかも2曲が同じトラックになってるんです。「ああ〜いいな〜」と思ったら、どーん!!って曲が始まる。そのバカバカしい経験があったから、これはやってみなきゃって。

──曲の中でも、ハードロックだったり、カントリー調になったり、どんどんテイストが変わっていきますよね。アウトロはこれバイオリンですか?

新井:それマンドリンなんです。『ginger』のときも長い曲が1曲入っていて、今回も入ってたら聴く人はおもしろいかなと思って。そうやって流れができると、自分たちも聴く人も"次"がある気がしてくる。次のアルバムにまた長くて変なカラーの曲が入ってたら、それが確信に変わってくる。

──「シリアルのアルバムにはこういう曲が入るのがお約束だぞ」って。

新井:しかも毎回カラーが違ったら、「次はどんなだろう?」ってなる。それを待つのは楽しいんじゃないかって。だからまず長尺を入れようというのがあったんです。尺を用意して曲はブロックごとに作っていったんですけど、それを合体させてたときに、やっぱり長いからどうしても飽きがくる。それをどう展開させたら飽きないかに一番こだわりましたね。アレンジ自体は前から進んでいくんですけど、客観的に聴いて「ここは絶対、早送りボタンをピッてやられるよ」ってところは変えて、また聴いて。飽きそうなところはまた直して。その繰り返しでしたね。

──伊藤さんの声質はハードロックとはほど遠いと思ってたんですが、この歌い方はすぐ出てきたんですか?

伊藤:歌い方に関しては苦労しなかったです。自分が「これでいい」と思えるものはすぐ出てきました。結構楽しみながらできたのが大きいです。現場の空気とか、曲の空気とかのノリで乗り切れるっていうのはありましたね。

──新井さんからは「こういう風に歌って」ってオファーしたんですか?

新井:なかったですね。伊藤がこれを歌ってるだけでおもしろいから、後は本人がやりたいようにやってくれてばいいって。

伊藤:こういう曲を僕が歌うだけでおもしろいって意識は僕もあったんです。だから自由にできたし、そんなに苦労しなかったように思います。

──全曲通してなんですが、歌詞に「ね」とか「の」とか女性っぽい語尾が多いのはあえてですか?

伊藤:音に合いやすいんですよね。母音が。「え」とか「お」って伸ばすときや高い音にいくときに歌いやすいんです。

──伊藤さんの声には、そういう柔らかい語尾が合ってますよね。

伊藤:語尾ってすごく大事だと思うんです。語尾がぶつっと切れてるのが、気持ちいいときもあれば、しっくりこないときもあって。他のアーティストを聴いていても「もっと語尾きれいにできたよな」ってことがある。

──歌詞の幅も広がりましたよね。『そして誰も知らない』はすごく幻想的だし。

伊藤:これは絵本のイメージ。曲を聴いたときに絵本をめくっていくイメージがあったので、グリム童話みたいな感じで、ちょっと暗いオチのある絵本にしようと思って。そこからイメージを広げてつくっていきました。

──『ginger』のときは風景を描いた詞が多かったですよね。

伊藤:そうですね。日常の風景を描くことが多かったです。

──そこからかなり広がってきたように思うんですが。

伊藤:それもやっぱり楽曲のバリエーションが増えたからです。こっちもいろんなものを出せるし、いろんなものを想像できるようになったんだと思います。

何回も聴ける重たくて濃い作品に

──タイトルの『シリアルキラー』っていうのはどなたの発想ですか?

伊藤:それは、僕のインスピレーションというか、直観というか。『まえぶれ』もそうだったんですけど、すんなりタイトルが出てきたんです。『シリアルキラー』はいくつか出てきたうちのひとつで、本当は日本語のタイトルをつけたかったんですけど、メンバー内で『シリアルキラー』の評判がいちばん良かったので。僕の中ではしっくりくるところもあるけど、なんか違和感もあったんですよ。でもその違和感が何なのかわからなくて、自分で提案したにも関わらず、自分が一番納得できてなかった(笑)。結局『シリアルキラー』というタイトルの理由づけを考えてたときに、音楽で人をぶち抜いてやるって意味と、アンチヒーロー的な意味はあったんですけど、もうひとつ。常に自分の中に抑圧してる自分と抑圧されてる自分がいて、どっちも自由を奪われてるって意味で、殺されてるんですよ。そこが多分『シリアルキラー』っていうのに繋がってるんだって、最近インタビューを受ける中で、ようやくわかってきたんです。なので今『シリアルキラー』っていうタイトルがすごく好きになってます(笑)。

──もともと『シリアルキラー』って言葉を知ってたんですか?

伊藤:知ってましたね。いずれ使えそうな気もしてたし。それがこのアルバムのタイトルをつけるときにポンと出てきたんです。バラエティに富んでるごちゃごちゃのアルバムがすっきりひとつにまとめられて、ひとつのビンに収められる言葉がこれだったんです。

──今回のアルバムを「こんな作品にしよう」というのはいつ頃から考えてたんですか?

新井:濃くて重たいものを作ろうっていうのは、ずっとテーマであって、みんなにもそういう話はしてたし、作る上でガイドラインにしたかった。それは『まえぶれ』を作ってるくらいからですかね。「アルバムは、何回も聴けて、毎回新しい発見がないとダメだ。とりあえず重たいもん作るぞ!」って感じはそのときからありましたね。

──実際仕掛けにはかなり凝ってますよね。

新井:そうじゃないと長く聴いてもらえないので...。長く聴いてほしいんですよね、CDというものを。簡単に理解できるものって、それで満足できるし、すーって入ってすーって出て行っちゃう。何回か聴いて、棚にぽんと入れたらしばらく出てこないんです。だから、どういうアルバムが長く聴けるのか考えたら、いろんな要素が入ってたり、すごい難しくて噛み砕いてやっと理解したもの。そういうものは何回聴いても新たな発見があるから、長く聴いてもらえる。だから長く聴いてもらうには、重たくて濃くていろんな仕掛けがあって、何回聴いてもおもしろい感じにしなきゃって。

──『哀愁の逃走劇(カーチェイス)』にはサイレンの音が入ってますけど、楽器以外の音を入れるというのも作戦ですか?

新井:効果音を入れたかったっていうよりは、1曲のカラーをすごく立てたかった。さっきの話にも繋がるんですけど、ただ重いだけでは「うわー! 聴きたくねー!」ってなるので(笑)、長く聴ける重いものがどんなものか考えたんですよ。それで1曲1曲が違うカラーなら重くてもいいという考えに至った。もっと言えばカラーごとの振り幅をガツンと上げなきゃって。『哀愁の逃走劇(カーチェイス)』は、もともと効果音を入れたいっていうのがあったんですけど、あがってきた歌詞見たら"カーチェイス"だし、間奏にスピード感がある。クイーンの『バイシクル・レース』はチリンチリンって音が入ってたのを思い出して、「これだ!」って。カーチェイスだから「パトカーの音と逃げる音を探しといて」ってギターの稲増に頼んでおいて入れてみました。そうやって、何を特徴にしたら曲の振り幅が最大になるか考えてましたね。変な曲はとことん変にするし、暗い曲はとことん暗くするし。そうすることで、アルバムが常にフレッシュである気がしたんですよね。

これからの展開は自分たちにも未知数

──今回のアルバムを聴いていて、技術はすごくていい具合のふざけてるってことで、ユニコーンを思い出しました。

新井:ユニコーンも遊び心がすごいですよね。僕らも音楽はエンターテイメントだと思ってるし、そこは共通してるかも。

──エンターテイナーなのはクイーンが好きなのもあるんですかね。

新井:そこは言葉にせずして、みんなの中に共通したものがあるかもしれないですね。映画でも、暗い気分になるのと、わーってなるハリウッド映画とどっちがいいかっていうと、ハリウッド映画がいい。やっぱり娯楽だし。自分たちも娯楽でありたいですね。

──音を楽しむと書いて"音楽"ですからね。

新井:そうです。楽しんでくれと。暗い曲も楽しみのひとつだし。

──早速「次はどういうの出す? 何してくれる?」って期待が高まりますが。

新井:そうですね。でもバンドにとって作品って通過点でしかないと思うんですよ。この1年やったものを出すのみ。もちろんアルバムって目的があって、そこに向かって突き進んだ結果なんですけど。例えば明日作る曲やこの先しばらく作る曲は多分『シリアルキラー』に入れてもおかしくないような曲だと思うんです。感覚がそんなに離れてないから。それよりも先でどんな曲ができるかは、今聴いたもの、ちょっと前に聴いたもの、アルバムレコーディング終わってから聴いたものが生きてきて初めてできると思うので、今はわからない。だから未知数ですよね。

──どんなものが出てくるか自分でも予想がつかない?

新井:ただ軸はぶれないと思います。歌があって、おもしろいものがあってっていう。その軸がぶれたら、わけがわからなくなっちゃうし(笑)。今予想できる範囲で言うなら、歌メロのキャッチーさはもっと良くなるし、オケだったり、曲ごとのカラーや特徴は、よりマニアックで深いものになる。それがぶつかりあったときに、より差が出ておもしろくなると思うんです。それだけははっきり言えるし、逆に言えばそれしかわからない。まぁ心配は御無用!って感じですね(笑)。「次作れるの?」なんて考える必要ないです。作るんで!

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LIVE INFOライブ情報

7.06 (sun) 代官山 UNIT ※SOLD OUT!!
7.11 (fri) 仙台CLUB-JUNK BOX
7.12 (sat) 宇都宮HELLO DOLLY
7.13 (sun) 名古屋CLUB ROCK'N'ROLL
7.19 (sat) タワーレコード渋谷店 B1『STAGE ONE』
1st Album 「シリアルキラー」インストアライブ

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