昨年のメジャー進出以降、『departure』『rejoice』『WE'VE GOT SOMETHING』といった作品をコンスタントにリリースし、その持ち前の音楽センスを魅せ付けたUNCHAINが待望のフル・アルバム『rapture』を完成させた。本人たちが「これまでの集大成」と公言する通り、既存の代表曲に新曲という新たな息吹を吹き込んだ今までのUNCHAINのすべてを詰め込んだヴァラエティ豊かな濃厚な作品に仕上がっている。"歓喜"と名付けられたこの記念すべき初アルバムのタイトルから彼らの音楽への愛情、音を奏でる喜び、そして関わってくれたすべての人々への感謝の念が感じられる。このアルバムが1人でも多くの人に届き、幸福をもたらすことを切に願う。(interview:植村孝幸+椎名宗之)
アルバム全体のイメージは"SHINE"
──いよいよ待望のフル・アルバム・リリースですね。ここまでのリリースの一連の流れ...ミニ・アルバムをコンスタントに出してからフル・アルバムをリリースするというのは、自分たちの中で予め決めていたことなんですか。
谷川正憲(vo, g):特に決めてはいなかったです。ただ、僕たちの音楽性を知ってもらうためには、まずミニ・アルバムという形態でのリリースがベストなのかなと。それをコンスタントに出していくことでいろんな曲調が伝わり、それらを奏でるのがUNCHAINであるということを判りやすくするために自然にそういった流れになったのかなと思います。
──ミニ・アルバムの時は1枚ごとに明確なコンセプトがあったように思いますが、今回のフル・アルバムはその集大成的なイメージなんでしょうか。
谷川:そうですね。今回はまさにその4枚のミニ・アルバムの良さがより濃厚になって詰まっている感じですね。
──初のフル・アルバムということで、非常にヴァラエティに富んだ14曲が揃いましたね。再録6曲、新録8曲といった構成になっていますが、これは先に再録する楽曲をチョイスした上でフル・アルバムとして構築していった感じですか。
谷川:再録する曲をどれにするか、それをまず先に選びましたね。
佐藤将文(g, cho):実は新曲を20曲くらい作ってあって、その中からバランスのいい8曲を選んだんですよ。
──20曲ということは、まだあと1枚作れるくらいの曲はあったんですね。
谷川:まぁ、全部使えたとしてですけどね(笑)。
佐藤:今まではミニ・アルバムを作る...例えばそれが6曲と決まったらきっちり6曲しか作らなかったんですよ、全くの保険なしで(笑)。でも、今回は曲を選べる余裕があってフル・アルバムの全体像をひとつにしやすくなり、コンセプトを持って曲を選んでいけたので、1枚でのまとまり感がよく出ていると思いますね。
──新曲群は、敢えて極端に曲調を変えてみようと意識した部分はありましたか。
谷川:バンドにとって新しいものをいっぱい作ろうという意識は余りなかったです。今までのミニ・アルバムはそういう思いも強かったんですけど、今回は今までのUNCHAIN色のまま、それをもっと色濃くしようという意識のほうが強かったですね。
──曲順は、1曲ごとにしっかり録った上で全体を俯瞰して並べた感じなんでしょうか。
谷川:もうこれしかないっていう曲順だと思いますね。いろんな曲順を試したんですけど、どうも同じような曲で偏ってしまいがちだったんですよ。この並びだと一番ストーリー性もあって、最初から最後まで飽きずに聴けると思います。
佐藤:昔の曲がいっぱい入ってるので、余計難しかったんですよね。
──「Signs Of Spring」という"春"を意識した曲からアルバムは始まりますが、この辺はやはりリリース時期であったり、アルバム・タイトルにもなっている『rapture』を意識してのものですか。
谷川:春ということで、ワクワク感やドキドキ感は意識しましたね。例えば高校に入学してこれから新しい生活が始まるというような、歌詞はそういったイメージで書きました。アルバム全体としても"SHINE"だったり"光り輝きたい"みたいなところを意識しましたね。春も近いですし、新鮮な気持ちになれるような曲を作りたいと思いまして。新たなスタートを切る人には新鮮な気持ちを促すものになっていると思いますし、逆に新鮮さを失っている人にはまた新たな気持ちに戻って欲しいと思って書きました。
──2曲目の「Let Me Be The One」が今回リード・トラックになっています。リード・トラックはアルバム全体の顔となり得る曲だと思いますが、この曲を選んだ意図というのは?
谷川:最初は「Don't Need Your Love」をリード・トラックにする案もあったんですけど、アルバムのタイトルが『rapture』だし、「Don't Need Your Love」だとどうしても"陰"な感じが出てしまうので、ちょっと違うかなと。
佐藤:頭の3曲のどれかで凄く迷ったんですけどね。この3曲が今までのUNCHAINを代表する3つの顔になっているところもありますから。
谷川:アルバム全体を通して"輝く"っていうのがテーマなので、そういった意味で「Let Me Be The One」はリード・トラックに相応しいと思ったんですよ。
これまでの集大成かつ最高形態であるという自負
──インディーズ時代の2枚からの楽曲(「Light Your Shadow」「You Over You」「Show Me Your Height」)の選曲意図はどういったところですか。
谷川:これまでのUNCHAINの集大成ですから、ライヴでも演奏し慣れていて、オーディエンスからも支持を得ている曲を基準に選びました。もちろんこのアルバムのためにアレンジを変えたりもしたので、元々持っている楽曲の良さを残しつつ、前から知っているオーディエンスにも喜ばれるようにしましたね。やっぱり"前よりいいね"って思わせたいですし、自分たちも前に録音した時のイメージを捨てて、新しい気分でレコーディングに臨みました。
──alaとのスプリット・シングルとなった「WE'VE GOT SOMETHING」を4人でやってみようという考えはなかったですか。
佐藤:いや、なかったことはないんですけど...。
谷川:既存曲が多すぎるのもどうかと思いましたし、どちらかと言うと同じスプリット・シングルに収録していた「Quarter」を入れたかったんですよね。
──それはどういった理由で? UNCHAINとしてはちょっと異色な、ロック・テイストの強い楽曲ですよね。
谷川:「Quarter」は、オーディエンスはもちろんスタッフからも評判が良くて、インディーズの1stミニ・アルバムを出す前のUNCHAINの匂いが何となくするんですよね。それでちょっと自分でも懐かしさを感じつつ、メロディも好きだし、これまでの集大成ってことを考えるとこういう楽曲も必要なのかなと思いまして。
佐藤:このアルバムは今までのUNCHAINの集大成として、今までのUNCHAINの最高形態だと思うんです。メロディの聴きやすさも洗練されて、そのメロディの奥にあるリズム隊の絡みとか面白いところがいっぱいあるので、何度でも聴いて楽しんで欲しいんですよね。飽きさせないものが出来た絶対の自信がありますから。
──「WE'VE GOT SOMETHING」は、前回インタビューさせて頂いた際(本誌'07年11月号)にそのレコーディングの手法について言及していましたよね。今回はどういったやり方で録ったんですか。
谷川:今回はその時に話していた録り方...ドラムとベースと自分のギターを先に録る方法を全曲で採用しました。やっぱり一緒にやっている感じ、その空気感が自ずと出ますよね。
──確かに、これまで以上にライヴ感が出ているように思います。
谷川:そうですよね。それが今回は成果としてより大きかったと思うんですよ。
──いつもより長丁場の今回のレコーディングで、これまでと違った試みは何かありましたか。
佐藤:今回はドラムを全曲、それぞれの曲に合わせて違ったチューニングにしたんですよ。今まではその辺を結構ラフな感じにしていたんですけど。
谷川:プロのドラムテックの方にチューニングだけをお願いしたんですけど、ほんの少しチューニングするだけで、同じドラムなのに全く違ったドラム・セットを持ってきたような聴こえ方がしたんですよ。プロはやっぱり凄いなと思いましたね。
──そのチューニングというのは、実際にはどういった処理を施すんですか。
佐藤:ドラムの表面の皮の張り具合ですね。皮を締めたり、緩めたりとかして。表面だけではなく、裏の皮とのバランスで音がかなり変わったりするんですよ。
──つまり、今回はこれまで以上に曲単位でよりこだわって録ったわけですね。
谷川:ええ。ドラムの音からこだわったから、上に乗せるベースとギターの音色も決めやすかったと思います。その曲の持つ世界観がより早い段階で明確になりますし、それによってレコーディング自体がスピーディーに進行できましたね。
──曲によってコーラスやパーカッションをサポートに迎えていますが、今後他にもいろんな楽器を入れてみようという発想はありますか。例えば、ストリングスの音色はUNCHAINの楽曲に凄く合うと思うんですけどね。
谷川:ストリングスやホーンは僕たちの曲だったら合う曲が少なからずあると思うので、いつか是非入れてみたいですね。あとはフェンダー・ローズみたいなエレキ・ピアノに似合う曲を作りたいです。
UNCHAINらしさとは4人の雑食性の集合体を表現すること
──今回、作曲を谷川さんだけでなく佐藤さんも手掛けていることで、作風の幅が広がった感がありますね。
谷川:そう、「Precious」と「Always Shining」は佐藤君が作った曲なんですよ。
──新曲が20曲作られた中で、佐藤さんは実際に何曲ほど書かれたんですか。
佐藤:5、6曲ですね。あと、ベースの谷君(谷浩彰)が書いてきた曲もありました。
谷川:佐藤君の書いてきた曲はいいのがいっぱいあったんですけど、アルバム全体のバランスを考えて選曲した結果、今回使わなかった曲に関しては温存したという形ですね。
──では、今後発表される可能性もあると?
谷川:もちろん。それによって新しいUNCHAINを見せられると思いますしね。
──谷川さんと佐藤さん、お互いのソング・ライティングの違いをどう見ていますか。
谷川:佐藤君は、自分にはないアイデアを豊富に持っていますよね。ポップ・センスも微妙に違いますし。実際、今回も"そう来たか!"的な曲を書いてきましたから。
佐藤:谷川君は普段聴いている音楽や影響を受けたりするところが僕と違うから、自分には全然真似のできない曲を書いてきますよね。僕はどちらかと言うと淡々と唄っている感じのメロディになってるんじゃないかと思いますけど、谷川君のいい具合の波の作り方は真似ができないところですね。
──でも、親しみやすいポップ・センスは共通しているんじゃないですか。
佐藤:そうなんですかね。曲を作っている時はやっぱり自己満足的に作っているので、自分ではよく判らない部分があるんですよね。ポップさが伝わるかどうか、不安だったりはしますけどね。
谷川:僕の中では"これはちょっとやりすぎて恥ずかしいな"って思うくらいの曲が実はメンバーやスタッフにはちょうどいいくらいで、評判が良かったりするんですよ。余りやりすぎるとソウル色が強めになったりするんですけど、勇気を出して一歩踏み出したところがいい感じのポップさなのかなと自分では思いますね。
──そのソウル感がUNCHAINの大きな持ち味のひとつでもありますからね。
谷川:普段からソウル・ミュージックしか聴いてないですしね(笑)。「Life Is Wonder」で大きなポイントだったのも、今までよりもソウル色を強くして、今回のアルバムの新機軸として新しいUNCHAINを見せたかったところなんですよ。
──お2人の考える"UNCHAINらしさ"とはどんなところですか。
佐藤:4人バラバラの音楽性がうまい具合にまとまっていると言うか、バランス良くひとつになれているところじゃないですかね。
谷川:UNCHAINはその名の通りジャンルに囚われないのがひとつの方向性としてあるので、そういう絶妙な危ういバランスで行くのもUNCHAINらしさだと思います。爽やかなロックが楽しめて、それと同時にダンサブルな曲も楽しめて、更にエモーショナルな感じまで楽しめて...そういったものが一度に全部楽しめるという幅広さがUNCHAINの魅力なんだと思いますね。
──確かにUNCHAINってジャンル分けが難しいですよね、雑食性が高くて。
谷川:ダンス・ミュージックをロックに置き換えるバンドはたくさんいると思うんですが、ソウル・ミュージックをロックにダンサブルにやっているバンドは少ないんじゃないかと自分たちでも思いますけどね。
──表面上は清涼感に溢れていながらも、ソウル・ミュージック特有の泥臭さもちゃんとありますしね。それは谷川さんの唄い回しに負う部分が大きい気もしますけど。
谷川:そうですね。そこは一筋縄では行かないように心懸けているんですよ。
──歌詞はいつもどういったふうに書かれているんですか。
谷川:できるだけ曲の雰囲気が決まってから書きたいので、歌詞はどうしても一番後回しになってしまうんですよ。
──歌詞のテーマも、曲の雰囲気から決めたりする感じで?
谷川:そうですね。テーマは今回、様々なことについて書きました。「Signs Of Spring」では春のワクワク感を、「Mother Earth」では地球の大切さを、「Dear My Friend」では親しい友達のことをそれぞれ書いてみたり。ただ、結果的に今自分が思っていること...例えば"輝きたい"だとか、"いつまでも唄い続けたい"という思いが強く出て、どの曲にもそういったニュアンスの歌詞が入っていると思うんですよ。作業がすべて終わってみると、曲と共通して全体的なテーマに当たるのが"SHINE"という言葉になるのかな、と。でも、考えてみるとそういったテーマは昔からずっと変わらなくて、僕は前向きに生きていたいという願望が常にあるんですよね。その願望を詞に書いているんですよ。それと同時に自分が目指しているのはもっと高い所で、そういう部分でも常に前進していかなければと思っています。
ツアーを終えて初めて『rapture』が結実する
──その高い所というのは、洋楽も邦楽も飛び越えたクオリティの楽曲を目指すというようなことですか。
谷川:歌ひとつ取ってもリズムひとつ取っても、要するに僕個人の話になるのかもしれないですけど、黒人になりたいっていう願望がありまして...。まぁ、なれないんですけどね(笑)。
──こればかりは生まれ持ったものですからね(笑)。でも、グラミー賞を獲るとか、そういうのは可能ですよね。
谷川:獲れるものなら獲りたいですね(笑)。まぁ、ノミネートされるくらいまでにはなりたいです。僕が憧れているのは、やっぱりそういったことですから。
──英詞で唄っている以上、いずれは海外に打って出たいという気持ちもあるんじゃないですか。
谷川:トライする価値は凄くあると思います。やっぱり英語は世界で一番通じる人が多い言葉なので、もし日本を出たとしても自分たちのやっていることをより多くの人たちに受け容れられるのであれば、それは凄く嬉しいですよね。
──集大成的なアルバムを作り上げて、今度はまた違ったアプローチの作品を作りたい気持ちもありますか。
谷川:ええ。次に出す作品はまた新しいUNCHAINを見せないといけないなと思っています。
佐藤:でも、今のUNCHAINを完全に捨てるわけではなくて。
谷川:まだまだ違うUNCHAIN、違う引き出しを見せたいですね。今後はスタジオでセッション的なものもやっていきたいですし、それがバンドにこれから必要なんじゃないかと思っていまして。今までの曲をただ練習するだけではなく、セッション的に音楽を捉えられるようになれば、もっと音楽の幅も広がると思うんですよ。
──ジャム・セッションの中から従来のUNCHAINにはない曲調が生まれるんじゃないかと?
谷川:いつもだったら細かいところまで言葉で伝えるところを、言葉ではなくセッションしながら詰めていければ曲作り自体もより楽しくなるだろうし、曲の幅も広がる気がするんです。それをライヴでも活かせたら更にいいんですけどね。
──今度のツアーでそういった感触も掴めるかもしれないですね。
谷川:次のステップに進むにはそこが重要だと思うので、何かを掴めたらいいですね。
──ツアーの合間にもまた新しいアイディアが浮かんでくるかもしれませんしね。
谷川:ツアーをやると同時に充電する期間でもあると思いますし、今まで聴いたことのなかった音楽にも興味を持ち出してはいるんですが、なかなか時間がなくて吸収できなかったので、今はそういう時期なのかと。
──対バンのライヴを観て感化されたりすることもあるでしょうし。
谷川:そうですね。特に同世代のバンドは音楽をやっている以上ライバル視しますし、興味が湧きますよね。もちろん一緒にスプリット・シングルを出したalaはその筆頭に挙がるんですが、最近だとサカナクションは憧れに近いほど格好いいなと思ってしまいます、ライヴを観ていると。
──曲もそうですけど、魅せ方、ライヴ・パフォーマンス的なものも気になるんじゃないですか。
谷川:そういうのも最近は気にするようにしていますね。
佐藤:やっぱりライヴではCDにはないものを見せたいので、1回1回貴重なものにしたいですね。演奏も然り、魅せ方も然り。まだ試行錯誤ですけど、去年1年で自分たちの土俵と言うかカラーが見えてきたような気もするので、それをこのツアーで更に濃くしていきたいです。
──今はひとまず、自分たちの中では一段落という感じですか。
谷川:一段落はもう終えて、次のツアーに向けて意気込んでいる段階ですね。
佐藤:ツアーでこのアルバムをどう表現するか、どう見てもらうかというところで、まだ完成じゃないと言うか。
──ツアーを終えて初めて『rapture』という作品が完成するわけですね。ただ、ツアーでは過去の楽曲も織り交ぜたりすると思いますが。
佐藤:そうですね、そのバランスもまた難しいんですよ。
谷川:でも、セットリストを考えるのも楽しいですけどね。去年alaとツアーを回ってみて、alaとUNCHAINは共通するところがある一方で、ライヴに関しては全く違う志向性だと気付いたんですよ。だから、他のバンドにはないUNCHAINらしさを出すライヴ、UNCHAIN独特のライヴ感、雰囲気というものを出せればいいなと思いますね。そして、ワンマンではワンマンならではのものを何かしらできたらな、と。
──それは具体的に言うと?
佐藤:アコースティックでの演奏だったり、ビンゴ大会だったりとか?(笑)
谷川:(笑)まぁ、それは当日までのお楽しみってことで。