シューゲイザー・ムーブメントを覚えているだろうか? イギリスで'90年代初頭に一瞬の輝きを放ったこの"靴を凝視する者"と名付けられた音楽。ギターのフィードバックを多用した音作り、幻想的で歪んだサウンド、囁くように歌うヴォーカル・スタイルなどが特徴的であるこのシューゲイザーが、最近日本でまた注目を浴び始めている。その日本のシューゲイザー・シーンのど真ん中に居る"日本のキング・オブ・シュ-ゲイザー"ことcruyff in the bedroom(クライフ・イン・ザ・ベッドルーム)が約5年振りにオリジナル・アルバム『saudargia』をリリースした。今までの彼らのキャリア史上最高のポップアルバムであり、シューゲイザーという枠だけに留まらない音楽を作り上げたクライフを代表してヴォーカル/ギターのハタユウスケに今作について、今の日本のシューゲイザーシーンについて多いに語ってもらった。(interview:植村孝幸+椎名宗之)
ジャパニーズ・キング・オブ・シューゲイザーへ行き着くまで
──'98年結成ということで、実際イギリスでのシューゲイザー・ムーヴメントって'80年代末から'90年代初期だったと思うのですが、何故'98年にこのシューゲイザーを取り上げた音楽を始めようと思ったのですか?
ハタユウスケ(Vo,G):前にバンドやっていた時の最後のアルバムでそういう要素を取り上げようとしてたんです。元々やってたバンドはブリットポップ以降で、ライド(シューゲイザーを代表するUKのバンドの1つ)とかももうシューゲイザーの頃じゃなかったんですね、僕が知ったのは。そこで辿って行ったらCreation Recordsってレーベルの存在を知ったんです。それでフィードバックノイズとか多用してるバンドがカッコいいなって思って、あの辺の感じを聴いているうちにCreation Recordsにどっぷりハマっちゃって。
──前身のバンドでは全く違ったことを?
ユウスケ:そうですね。'95年にデビューして'98年まで活動していて、最後は自分の感情でシューゲイザーをやりたかったんですけど、やっぱりメンバーとうまく意見あわなかったんです。
──次のバンドをやる時はシューゲイザーを前面に押し出してやろうと?
ユウスケ:その頃はシューゲイザーというよりはマンチェスターとシューゲイザーが混ざった感じをやりたかったんですけど。
──あんまり意識してやる感じではなかったんですね?
ユウスケ:そうですね、敢えてシューゲイザーって言葉はあんまり使いたくなかったですね。古いし、まだ音楽の周期としては一周もしてなかったんで使いづらかったんですけど。まぁ自分たちで思いっきり『キング・オブ・シューゲイザー』って言える様になったのはここ最近ですね。でもこれはホント、ラッキーだったんですよ。アメリカのClairecordってレーベルのボスが「クライフは日本のキング・オブ・シューゲイザーだ」と色んなメディアで言ってくれたらしいんですよ。自分たちから“キング”って言うと恥ずかしいじゃないですか。最初止めてくれって思ってたんですけど、ここにきて言ってみたらもう僕らのものですね。それこそ周りの関係者にも「折角言ってくれてるんだから言った方がいいよ」って後押しされて堂々と名乗ることにしました。
キャリア史上最高傑作となり得る『saudargia』というポップ・アルバム
──昨年、初期のレア音源集は出されましたが、オリジナルアルバムとしては約5年ぶりとなるんですね。何故これだけ時間かかったんですか?
ユウスケ:前のアルバムを録った後に準備期間があって今作を録り始めたんですけど、ちょっとメンバー間でギクシャクしたりして、ドラムが脱退してしまったんですよ。それがあってちょっと時間かかってしまったんです。実際、何曲かは前のメンバーで録りも終わったんですけどお蔵入りにして1から録り直しました。
──今作に収録されてる曲はライブとかでももう1年以上も前からやられてますもんね。
ユウスケ:そうですね、曲もある程度揃ってたし。
──実際ライブで演奏されて、ちょっとしたアレンジ変更とかあったりしたんじゃないですか?
ユウスケ:いや、それは意外になかったですね。アルバム自体も1年弱くらいかけて録ってるんで。曲が揃った時点で録ろうと思ってはいたんですが、みんな時間の都合とかもあってなかなか録れなかったんです。例えばリズム隊は一緒に録るんですけど、夜の8時くらいに集合してセッティングして、時間がないから今回は3曲くらいねって朝までやって。
──集中的に録ったりした訳でなく、時間がある時に進めていったんですね。
ユウスケ:そうなんですよ。合わせて合わせてって感じで。歌とダビングものに関しては自宅でやったんですが、それ以外のものが全部自宅で出来るバンドではないので、ダビングしてみてフィードバックノイズが足りないときとかはスタジオ抑えて、追加分の音を録ったりして…そんなやり方でやってたら結構時間かかりましたね。
──今作を聴かせて貰うと、全体的にシューゲイザーへの拘りってのはあんまりないのかな? それから曲調が色々違って、カラフルでポップなところに意識を置いて作ったりしたのかなって思ったのですが。
ユウスケ:今回のアルバムは、前のメンバーの時から録り始めたんですけど、その時からポップアルバムを作りたいっていうのはあったんです。時期にすると2004年くらいだったかな。その意識で曲も作ってたんで意図的にそういうアルバムにしたつもりです。
──ユウスケさんの中でポップってなんですか? 例えばポップアルバムと言えばこれだってものがあれば1枚挙げて頂きたいのですが。
ユウスケ:僕は例えば100円ショップで売ってるようなバロック音楽のCDとかが一番ポップスだと思いますね。あの時代、残す為の録音技術が満足に無い中でいいメロディだけが残ってるってことは、あの頃のポップスが一番だったんだろうなって思ってます。
──今回の11曲はアルバムの為に慌てて作った感じではなさそうですね。
ユウスケ:そうですね。キャリアが長いんで昔作って入れてなかった曲とかもお客さんにリクエストされたりで入れたんです。1曲だけ凄い古い曲ですね。