その過剰なまでのステージ・パフォーマンスと"70年代NYパンク meets 寺山修司"な不思議な魅力を持つ歌々で下北沢界隈のライヴハウスを中心に熱い注目を一身に集めているザ ネクスト!が、渾身の処女作『夜に迷い込め!』を発表する。夜という夜を制してきた怒濤のアッパー・チューンから、まるで短編映画を思わせる美しくも儚いスロー・バラード、果ては独自の言語感覚としか言い様のない言葉で紡がれるポエトリー・リーディング調のナンバーに至るまで、極めてポテンシャルの高い意欲作だ。限りなく怪しくていかがわしい匂いが充満しているのに、時折覗かせるホロッとするような情緒さには只者ではない風格が十二分に窺える。そしてその真髄は、どこまでも一筋縄では行かない多面性を称えたライヴにこそある。したたかに酔いしれて地下室への階段を下りたなら、そこはヒリヒリする非日常の空間。今宵も彼らはどこかの異空間で二度と起こり得ないパフォーマンスを繰り広げているはずだ。さぁ、すべてを忘れて夜に迷い込め!(interview:椎名宗之)
“ある一夜”をライヴで切り取りたい
──今回発表される処女作『夜に迷い込め!』の前に、『The next! のある一夜の記録映像』というライヴDVDを昨年6月に発表されていますが、そういうのも特異なケースですよね。これにはどんな意図が?
木暮陽輔(vo, g):ライヴが僕達のすべてだから、まずその雰囲気を伝えたかったんです。ただやっぱりDVDでは限界があって、ライヴの熱気みたいなものが完全には伝えきれなかった。ライヴは家で観るものじゃないと思うし。観ていてハラハラするような演劇的なライヴを心懸けているので、DVDという形ではとても収まりきらないんだと思います。
平野正哉(g, cho):“ある一夜の記録映像”なので、何度も繰り返し観られるのがちょっと矛盾してるんですよね。ライヴはその一瞬一瞬のものですから。
──その破天荒なステージがすでに下北沢を中心に話題を集めていますが…。
木暮:ライヴの組み立てとしては、パフォーマンスは演出としてやっているのが半分、自分達の感情を叩き付けるのが半分ですね。もちろん、観る人それぞれが自由に楽しんでもらえればいいんですけど。
──『夜に迷い込め!』に収められた楽曲は、バンドの代表曲と呼ぶべきものばかりですよね。
黒沢法彦(b, cho):そうですね。処女作なので、古い曲から新しい曲まで今あるレパートリーをほぼ全部詰め込んだ感じです。
──一番古い曲はどれになるんですか。
建部貴之(ds, cho):(黒沢に)「カエル」とかじゃない?
黒沢:そうだね。「カエル」と「ちょっと変な僕の恋人」がこの中では昔からある曲ですね。
──過激なステージ・パフォーマンスとは裏腹に、サウンドは殊更歪ませることなく硬質でクリアなトーンが通底していますよね。
木暮:ツイン・ギターの絡みもあるし、その有機的な絡みをクリアに聴かせたいというのもありますし。
──確かに、「ちょっと変な僕の恋人」や「仮面舞踏会」のエンディングなどで聴かれるユニゾン・ギターは大きな聴き所のひとつですよね。
木暮:ギターも歌も、ライヴではもっとグイグイ押していく感じなんですけど、ライヴと音源は別物として考えているんですよ。テレヴィジョンのライヴ盤は凄く歪んだサウンドだけど、スタジオ盤はもっとクリアじゃないですか? そういうのを意図しているんです。
──ライヴではお馴染みの楽曲ばかりだし、レコーディングはライヴの勢いそのままで臨んだ感じでしたか。
木暮:ほとんど一発録りでやりましたね。
黒沢:基本的にライヴみたいな感じで録ったんですよ。
平野:楽器に関してはひとつも重ねはしてないんです。歌も演奏と一緒に録ってるので、同じ感じですね。
──70年代のニューヨーク・パンクと歌謡曲のテイストが融合したような「仮面舞踏会」、「ベイビーアイスクリーム」や「ロードムービー」といった強烈なアッパー・チューン、「風に吹かれて」や「カエル」のようにじっくりと聴かせるスロー・バラードなど、処女作にしては非常にヴァラエティに富んだ作品になりましたね。
木暮:かれこれ5年以上バンドを続けてきて、バンドとして初めての本格的な作品だから、自信のある曲を全部入れようと思ったんですよね。
──結成当初からオリジナル志向だったんですか。
木暮:そうです。コピーとかそういうのはしなかったですね。好きだった音楽はバンドでやってる曲に勝手に出てるんじゃないかと思います。音楽的な影響ももちろんあるんですけど、それよりも宇野亜喜良さんの絵や寺山修司さんの本の世界観をライヴに持ち込みたいと思ってるんですよ。日常から非日常に迷い込む瞬間と言うか、そういう空間をライヴで提示したい。ふと迷い込んだ狭いライヴハウスという非日常の世界に引きずり込まれる…そんな“ある一夜”をライヴで切り取りたいんです。
時に女の子になりたいな
──バンドが体現する音楽からは70年代カルチャーの匂いを強く感じますが、みなさんまだお若いですよね?
平野:僕が平均年齢をグッと上げてるんですけどね(笑)。
建部:その影響が大きいのかもしれない(笑)。
平野:70年代のパンクや日本の歌謡曲は思い切りストライク・ゾーンですからね。
木暮:CBGBに出演していたバンドやその周辺のカルチャーは、みんな凄く好きですしね。
──木暮さん、黒沢さん、建部さんの3人が高校時代にバンドを結成して、平野さんの加入はずっと後なんですよね。
平野:僕は入ってまだ1年前くらいしか経ってないんですよ。年上なのに新米なんです(笑)。ザ ネクスト!のことは以前から凄く好きで、ずっとライヴに通ってたんですよね。3人でやってた曲を家で勝手に弾いたりもしてたし。でも、自分がこのバンドに加入するなんてちっとも思ってなかったから、誘われた時は人生で5本の指に入るくらい幸せだったんですよ。
──平野さんが加入前に感じていたザ ネクスト!の魅力はどんなところだったんですか。
平野:何て言えばいいのかな…気取らずストレートに行く感じと言うか、それでいてちょっとひねくれてるところもある。そういうバンドの在り方がツボでしたね。サウンドも僕の好みだったし。
──“アタイ”とか“あたし”という一人称で唄われる曲が本作には幾つかありますよね。これは女性の視線で唄ったほうが感情移入しやすいとか、そういった理由なんでしょうか。
木暮:もともとそういう部分があると言うか…言ってしまえば、女の子になりたいんですよ。
──「猫になりたい」の歌詞そのままなわけですね(笑)。“時に女の子になりたいな”っていう。
木暮:女の子って素敵だなって凄く思うんです。年齢的なことは関係なくて、たとえば30代でも素敵な女の子はいる。歌詞を書く上で特に影響を受けているのは寺山修司さんで、彼の作品に『少女詩集』というのがあって、それも女の子の視点から情景が描かれているんですよ。純潔で綺麗な感じと言うか、何だかんだ言ってまともな感じが好きなのかなって…。
──歌詞は“まともな感じ”ではないと思いますけどね(笑)。もちろん、いい意味で。他の皆さんも70年代カルチャーがお好きなんですか。
黒沢:僕も寺山修司さんの本を読むのは好きですね。あとは…90年代のアニメとか(笑)。余り評価の高くない時代ですけど、自分の中では凄く生々しい原体験なんです。
建部:アニソンとか好きだよね?
黒沢:好きだけど、それがバンドの音に反映されてるわけじゃないからね(笑)。アニメの非現実的な世界観はこのバンドと通じるものがあるのかもしれないけど。
──なるほど。ザ ネクスト!の世界観はあくまで木暮さんが掌握するところなんですよね?
平野:そうですね。木暮君独特の世界があって、3人がそこに入っていく感じです。
──『夜に迷い込め!』というアルバム・タイトルも、木暮さん独特の世界があってのものですよね。
木暮:週末の夜に、とある建物の地下で怪しくて不思議な宴が催されていて、階段を下りていくとその空間があって、ヒリヒリする時間を過ごす…って言うか。宴が終わって階段を上って建物を出ると、容赦なくいつもの日常が待ってるんです。そんなニュアンスですね。
──「仮面舞踏会」の歌詞がまさにそういう感じですよね。その“怪しくて不思議な宴”をライヴと考えればすべて合点が行きますね。そういう非日常的な空間と時間を提示するのがザ ネクスト!のテーマ?
木暮:ザ ネクスト!のと言うか、僕のテーマですね。
──「ミスター、ママレードあの娘と」ではポエトリー・リーディングを採り入れていますね。
黒沢:いつもライヴ中にポエトリー・リーディングみたいなものが散りばめられていて、それを形にした感じですね。
木暮:この曲はちゃんと詞の形があるものですけど、ライヴ中はその場で感じたことを即興で語るスタイルなんです。曲の間奏でそういうのをやってみたり。あくまで“ある一夜”のライヴだから、同じことは二度と喋らないようにしているんです。その日の気分や天候とかに大きく左右されるし、そのリーディング次第でその後のライヴの雰囲気もガラッと変わるんですよ。明るめのリーディングをすれば明るくなっていくし。