disk union内の新興レーベル"SECRETA TRADES"から、Nahtの『In The Beta City』に続く第2弾のアイテムが発表される。札幌発、SLANGのギタリストがヴォーカル&ギターを務める新進気鋭のダンスロック・バンド、L!EFの『L!EF IS RIOT!』がそれだ。SLANGとはまるで異なるその音楽性は、オルタナティヴの疾走感とハードコアの先鋭さを内包しながら80'sディスコティックの輝きを煌々と放つという実にユニークなもの。こうした突然変異なバンドが何の前触れもなしに現れるのはさすが札幌シーンの土壌ならではと言えるが、百聞は一見に如かず。"とにかく踊れること"をコンセプトに繰り広げられる彼らのライヴを是非一度体感して欲しい。無条件に腰にくるプリミティヴなグルーヴとロックが本来持ち得るダイナミズムに病み付きになること請け合いだ。アルバムのリミックスとアート・ワークを手掛けたNahtのSEIKIを迎え、新宿ロフトでのライヴ出演直前の彼らに話を訊くことができた。(interview:椎名宗之)
“とにかく踊れること”がコンセプト
──前身バンドであるall you needの頃から、現在のようなフロア対応のロックを志向していたんですか。
ANI(vo, g):いや、全然違いますね。STARMARKETのような音楽が好きで、そういう感じのをやっていたんです。そこからちょっと綺麗な感じになって、今のような音楽を…。
──綺麗な感じというのは?
Nao(ds, cho):エモい感じ?(笑)
ANI:どうなんだろう。何をしたいのか判らないような、できたものをそのままやっていた時期もありましたね。
──ロックを分母に置いたダンス・ミュージックに特化したきっかけは何だったんですか。
ANI:当時、all you needとは別にやっていたバンドがあって、その一方でストレートなダンス・ミュージックをバンドでやりたいとずっと考えていたんですよ。でも、その頃はまだ技術が足りなくてできなかったんです。そうこうしているうちに、BLOC PARTYやKBC、SUNSHINE UNDERGROUNDといった海外のダンサブルなバンドが台頭してきて、そういう音楽をそのままやっても面白くないだろうと。それで、ロックをメインに据えて、そこにダンスを融合したら面白くなるんじゃないかと思ったんです。
──ANIさんにとっては、現在もメンバーとして活動しているSLANGの音楽性とは対極にありますよね。
ANI:SLANGとはまた別にやりたい音楽があるというだけのことですね。SLANGはSLANGで、僕にとっては凄く大事なバンドですから。
──初のフル・アルバムとなる『L!EF IS RIOT!』は、昨年disk unionがNahtのために立ち上げたレーベル“SECRETA TRADES”からのリリースですが、ダンサブルなテイストを全面に押し出した点ではNahtの最新作『In The Beta City』と共通していますよね。
SEIKI(Naht):うん。ただ、そのくだりがあってこちらから声を掛けたわけではないんです。俺は一昨年のシェルター・ツアーズにソロ・ミッションで同行して、札幌のカウンターアクションで初めて彼らのライヴを観た時に魅せられたんですよ。それ以降、機会があれば何か一緒にできればいいなとはずっと思っていたんですけど。
──L!EFのようなサウンドを志向するバンドは東京でもなかなか見受けられないですが、札幌となると尚更なのでは?
ANI:少なくとも僕達の周りで似たようなことをやっているバンドはいないですね。
Nao:ダンスはダンス、ハウスはハウスで細分化していますよね。そこにロックのテイストが混ざったバンドは聴いたことがないです。
──“とにかく踊れること”をバンドのコンセプトとして掲げていると伺いましたが。
ANI:それもありますし、楽曲の面で言うと“どうにかしてダサい曲を作る”というのがあるんです(笑)。明らかにダサい曲を書いて、そこにダンスの要素を採り入れたら格好良くなるんじゃないかと。
Nao:最初の目標はそれだったよね。“ダサ格好いい”音楽をやるっていう(笑)。
ANI:曲作りの時に何気なく弾いたフレーズが“うわ、ダセぇな!”と思ったら、それを何とか形にしていますね。
SEIKI:80'sのニュー・ウェイヴはそういうダサい解釈が凄く大事だったと思うし。
──曲作りはどんな感じで進められていくんですか。
ANI:みんなでスタジオに入っている時、たとえばその休憩時間とかに浮かんだフレーズを膨らませていきますね。
──80's ニュー・ウェイヴのいなたいフレーズがつい出てきてしまったり?
ANI:いや、自分にはそういう音楽的なバックボーンが染み付いているわけでもないんですよ。ふと思い付くフレーズというのは、“これは使えるかな?”っていう感覚的なものですね。
──SEIKIさんは本作にどのような形で携わっているんですか。
SEIKI:“SECRETA TRADES”のレーベルの担当者の方から「L!EFをやりたい」とリクエストを受けたところから始まって。俺が具体的に関わったのはアート・ワークと、東京でのリミックスに立ち会ったことくらいですね。札幌で録りとミックスを終えたマスターを受け取って、こっちでリズムを極々一部補正したんですけど、グッと良くなったと思いますよ。
ANI:ありがとうございます。最初のミックスとは音質が見違えるほど良くなりましたね。最初はもっと音圧が凄かったんですよ。
Nao:そう、もろに“カウンターアクション!”って感じでした(笑)。
SEIKI:音質に関しては、ドラスティックに変えようという気は全くなかったんです。リミックスはNahtが『In The Beta City』でも使ったスタジオ(G-REC STUDIO)で行なったんですけど、一度組み上げたものをバラしながらリズムの補正をする過程において、そのスタジオのフィルターを通すと聴きやすいクリーンな部分が増えるんですよ。でも、そういう作業は凄く難しいですよね。彼らが生み出したものを頭ごなしに否定することだけはやりたくなかったし、全く違う印象になることがバンドにとって受け容れ難いものになったら残念に思うし。
──SEIKIさん自身、こうして他のバンドの作品に携わるのは極めて稀なケースですよね。
SEIKI:その昔、SEARCH OUTというバンドの作品を録りから含めてプロデュースしたことがあって、それ以来。プロデュースというのはやっぱり凄く大変な作業だから、ずっと避けていたんですよ。自分がバンドをやっている立場なので、プロデュースをする時には逆の視点でも見るわけじゃないですか。そうすると生半可な気持ちではとても臨めないし、いつも自分のことだけで精一杯なので無理だなと。ただ今回は、自分が“SECRETA TRADES”の立ち上げに関わっているので携わらせて頂いたんですよ。中途半端に関わりたくなかったから、然るべきところでは色々と意見は言いましたけどね。
──SEIKIさんのアート・ワークはみなさん如何でしたか。
Nao:想像していた以上に格好良くて、有り難い限りですね。
Yama(b, cho):L!EFのロゴがオブジェで、凄く凝っていますよね。「F」の文字がジャックと携帯電話になっていたり。
SEIKI:Nahtのジャケットやフライヤーを手掛けるぶんには自分で責任を取ればいいだけの話なんだけど、こうやって友達の作品に携わる時はいつも“これでいいんだろうか?”と悩みながら作るんですよ。ジャケットは今までにもnemoの『RECORDERS』や『Nocturne Tour Sound Tracks』などを手掛けてきたけど、CDショップに並んだ時に、知らないお客さんにもきちんと手に取ってもらえるようにしたいんですよね。