今年9月に発表された初のオールタイム・ベスト『THIS BOφWY DRASTIC』『THIS BOφWY DRAMATIC』が2枚合わせて50万枚に迫る驚異的なセールスを記録し、未だに絶大なる支持を得ていることを実証した日本のロック史上最高峰のバンド、BOφWY。人気絶頂のさなかに渋谷公会堂(当時)で放たれた衝撃の解散宣言から丁度20周年を迎える今年のクリスマス・イヴの日、革新性と普遍性が共存した彼らの音楽を愛してやまないファンにはアートの女神より賜りし至上の贈り物が届けられることになる。バンドの真髄とも言えるエポックメイキングなGIGの数々を収録した8枚組DVD BOX『"GIGS"BOX』、"BOφWYのレパートリー全てを演奏する"というコンセプトのもとに行なわれた伝説的GIGのセットリストを完全に再現した3枚組CD『"GIGS"CASE OF BOφWY COMPLETE』、そして『MORAL』から『PSYCHOPATH』までの全オリジナル作品と関連作品10タイトルの紙ジャケット仕様CD──以上3つの作品群がそれだ。解散から20年を経たメモリアル・デイにこれだけヴォリュームのあるアイテムを世に問う意義と意図、"φ"="何処にも属さない、誰にも似ていない"姿勢とカットアウトの美学を最後まで貫いたバンドの矜持について、現役時代にマネージャーとしてメンバーと苦楽を共にし、"5人目のBOφWY"として知られる土屋 浩(EARTH ROOF FACTORY/B to Y Music 代表取締役)に"EMI room 102"で話を訊いた。(interview:椎名宗之)
現役時代と変わらぬ作品至上主義
──まず、今回発表される8枚組DVD『“GIGS”BOX』の企画意図から訊かせて頂けますか。
土屋:具体的な形になってきたのはここ半年の話なんだけど、解散から20年というところでひとつの区切りみたいなものを付けたかったんですよ。BOφWYが解散した後も、これまでに様々なタイミングでリリース・アイテムがあったけれど、この20周年の節目でBOφWYに関しては最後のリリースにしたいとEMIにもお願いをしていたんです。今回こうしてDVD BOXという形態を取ったのは、BOφWYが現役の頃からずっと支持してきてくれた古くからのファンと解散後に彼らの音楽に出会った新しいファン、それとこの先BOφWYを始めとする様々なロックを知っていく未来のファンが同じ時間軸の中で等しく楽しめるパッケージにしたかったからなんですよ。それが一番のテーマでしたね。『MORAL』や『INSTANT LOVE』といった初期の頃はレコードが廃盤になって店頭で売られていない状況で、BOφWYの音楽を伝達する手段がなかったんです。まこっちゃん(高橋まこと)も『スネア』という自叙伝に書いているけど、ファンがカセット・テープでライヴ録音するのを黙認せざるを得ない側面も確かにあったし、そういったライヴ音源や廃盤になったレコードをダビングしたテープがファンの間で出回ることでBOφWYの音楽が全国に波及していった部分は否めない。もちろん、そのテープ・トレードに売り買いをするという不純な動機は一切なくて、あくまでもBOφWYの音楽を大切な仲間達に伝えたいというファンのピュアな気持ちから発したものだった。ただ、その後BOφWYが驚異的な売れ方をしたがゆえに、そうしたテープが非合法に流通してしまったこともあったけれども、それはメンバーがファンに対して見せたり聴かせたりしたいものでは決してなかった。そういうものではなく、メンバーが「これはいい、これは出そうよ」と認めたものをきちんと本人やマネージメントと打ち合わせを重ねた上で、オフィシャルとしては「これがBOφWYの全てです」と言い切れる作品を発表したかったんです。
──9月に発表された2枚のベスト・アルバム然りですが、今回の映像作品の内容に関してもファンからの賛否両論が多々あったのでは?
土屋:賛否両論あるのは当然だし、それだけ大きな反響があるのはむしろ嬉しいくらいの話ですよ。このDVDに関しては、古いファンが見ても新しいファンが見ても「これがBOφWYです」と堂々と胸の張れるものを僕達は作りたかったし、それもバラ売りではなく、一遍に見られるヴォリューム感のあるものにしたかったんです。その結果、8枚にわたるDVDに加えて『HYSTERIA』という今や貴重なイメージ・ブックを特典として封入したパッケージになった。この8枚のDVDに収められた10時間弱の映像をティーンエイジャーから40代の同世代まで何十万人もの人達が年末年始に日本中で見てくれるとしたら、僕はただそれだけで幸せですよ。その思いはメンバーもきっと同じだと思うし。
──DVDに収録したGIGの数々は、BOφWYの歴史においてどれも決して外せないものという観点から選ばれたのですか。
土屋:そうですね。当時の映像も音もアナログで保存されているので、劣化している部分もあるんですよ。BOφWYが活躍していた頃の時代背景を言えば、音源はCDではなくレコードやカセットだったし、録音できるウォークマンやホーム・ビデオが出始めた頃であり、ロックがビジネスになる発想がまだ定着していなかったんです。アイドルの人達はテレビに出て売れているから、当時の映像をお金を掛けて残しているんだけど、BOφWYの場合はたとえば僕達でお金を出し合って買ったビデオ・カメラで撮ったものとか、そういった類のものしか残っていないんです。それはあくまで“データ”であって、“作品”ではないんですよ。作品のクォリティとして考えた時に、1枚のDVDの中でその“データ”を1時間半見せるわけにはいかない。DISC-8の場合は特にそういう意図が大きく作用していますね。たとえば古くからのファンは「あの時のライヴの全部が見たい」と思うかもしれないけど、現実的にテープが劣化していたり、作品としてのクォリティに達していなかったり、メンバー自身が「No」と言う場合も当たり前に多い。だから僕達としては、メンバーが「Yes」と判断した部分を更なる高みに持って行く作業に時間と気力を注いだわけですよ。
──そうした作品至上主義は、BOφWYが一貫して体現し続けていたものですよね。
土屋:うん。それでこそオフィシャルだと僕は思うし、メンバーが良しとした素材をスタッフとしてより優れたものにして、それをメンバーにぶつけて、メンバーから返って来たものを更に練り上げて行く…そのキャッチボールのせめぎ合いの中で生まれたものをファンに届けることが僕達の使命であり本懐であると考えているんです。
セットリストを完全再現した『CASE OF BOφWY』
──せっかくの機会なので1枚ずつDVDの内容を検証していきたいのですが、まずはDISC-1~3から。“BOφWYのレパートリー全てを演奏する”というコンセプトのもとに行なわれた伝説的GIG『“GIGS”CASE OF BOφWY』は、1987年に発表された作品に未収録だった11曲を新たに加えた全39曲が収められた、まさにコンプリートな内容になっていますね。
土屋:『CASE OF BOφWY』は一番最初にVHSを4本に分けて出して、2001年にはマスタリングを施したDVDとCDを出したんです。今回も当時の編集にほとんど手を加えていないんですよ。『CASE OF BOφWY』というのは、バンドが解散することをメンバーが暗黙のうちに了解していたからこそ当時の凄まじいスケジュールの中で単独のイヴェントとして敢行したんだけれども、当時、作品となる映像に対してメンバー自身によるチェックは当然あったものの、時間が掛かり過ぎるがために限られた完璧を目指したことは否めないかもしれない。それは収録する曲目であったり、パッケージの在り方であったり様々なんですけどね。とにかく当時はメンバーも僕達スタッフも殺人的なタイム・テーブルの中にいましたからね。だから今、解散から20周年を迎えた最後のリリースというところで、劣化していたオリジナル・テープをクリーンナップした上で未収録だった11曲を入れたコンプリートなものにしようと思ったんですよね。
──1987年7月31日に神戸ワールド記念ホールで行なわれた初日、同年8月7日に横浜文化体育館で行なわれた2日目の両日の映像と音をミックスした上での“コンプリート”なんですよね。
土屋:それはさっき話した理由と同じことで、作品のクォリティを第一に考慮した結果なんですよ。神戸と横浜の映像と音を足して、演奏した全ての曲を3枚のDVDに収める形が僕達はベストだと判断したわけです。そういった意味で、“完全版”ではなく“コンプリート”ですよね。あくまでメンバーの意思が反映した上であの“コンプリート”の形になっているんですよ。
──それにしても、全39曲に及ぶあの壮大なライヴを敢行するには、余程のリハーサルを積み重ねなければならなかったと思うのですが…。
土屋:もちろんリハーサルはしていたけど、ホームグラウンドだった新宿ロフトでやっていた頃のライヴにおいて彼らは圧倒的な基礎体力を身に付けていたし、4人がそれぞれ信頼し合っていたから、リハーサルのためのリハーサルは敢えてしていなかったですね。EMIに移籍してからは特に、リハーサルは凄く短い時間で終えていましたから。『CASE OF BOφWY』の時もそうだったし、実際問題としてそれだけの時間が取れなかった。もちろん、やっつけ仕事はひとつもありませんけどね。『LAST GIGS』の時だって、初日が終わった後に彼らは徹夜でセットを組み替えてリハーサルに臨んだし、音楽をやっている瞬間のみが生き甲斐であり心の底から楽しめることだったんでしょうね。彼らがBOφWYとして過ごした時間は、そういう思いが濃縮した6年間だったんじゃないかな。今思えば、有り得ないスケジュールだったと思いますよ。ツアーから帰って来てレコーディング・スタジオに行って、そこでの作業の合間に雑誌の取材を受けて、翌朝撮影に出掛けて、氷室と布袋は並行して曲作りをしながらそのデモを各メンバーに渡して、リハーサル・スタジオに入ってライヴの曲順を決めて…とにかく尋常じゃない忙しさだった。それを彼らが安心して臨めた環境というのは、子安(次郎)さんを始めとするEMIのスタッフの方達がそれまでのBOφWYに足りなかった部分をしっかりとフォローして下さったからこそですけどね。
──そもそも『CASE OF BOφWY』は、土屋さんによる発案だったんですよね?
土屋:うん。凄くヘンな言い方になるけど、僕もBOφWYの大ファンでしたからね。当時は『MORAL』や『INSTANT LOVE』の収録曲をほとんど演奏していなかったし、解散するということはもう二度と彼らのライヴを見られないわけだし、それは凄く惜しいと。僕自身がそう考えるということはファンのみんなも同じように考えるはずだと思って、これまでのレパートリーを詰め込んだ『CASE OF BOφWY』、“BOφWYの場合”という名のライヴをメンバーに提案してみたんですよ。今回、このDVDと同時に『“GIGS”CASE OF BOφWY COMPLETE』として最新の技術を駆使して音質を向上させたCD 3枚組もリリースするんです。これだけ配信が全盛の時代になっているからこそCDというフォーマットとしてもリリースしたかったし、形として残る音楽を世に問う資格がBOφWYにはあると僕は信じているから、そこにはこだわりましたよね。
──ちなみに、『CASE OF~』という文言は何処からヒントを得たんですか。
土屋:インスパイアされたものがあるとすれば、『JUAT A HERO』というアルバムですね。それは氷室が考えたタイトルで、大上段に構えるわけでもなく“俺達はちょっとしたヒーローだよ”という意味合いが込められている。だから『CASE OF BOφWY』も“これはBOφWYというバンドの場合だよ”というニュアンスなんですよ。音楽に対して真摯に打ち込むのはどのバンドも一緒なわけで、BOφWYの場合はたまたまこんな感じだよ、っていう。