東京のサブカルチャーや音楽を判りやすく輸出していく
──日本語にこだわった理由って、何かありますか?
立花:洋楽を目指してないから。たとえば「ハジメさん、言われなかったら日本人のバンドだって判らないですよ。凄いですね」って言われたとしても、全然嬉しくない。それは褒め言葉ではないから。プラスティックスは洋楽志向だったから、そう言われても嬉しかったかもしれないけど。
──なるほど。
立花:日本語の歌詞、千春ちゃんのヴォーカルを含めて、THE CHILLは邦楽だから。リオのクラブとかロンドンのクラブでこれをかけたら、凄く違和感があると思うんだよね。“ん? 何だこれ?”って。そこですんなり溶け込んでも面白くないし、何も残らないですからね。
──日本発、東京発のカルチャーとして発信したい、ということですか?
立花:それは別にTHE CHILLだけのことではないけどね。ピスト(競技用自転車)だったり、ファッションを含めたサブカルチャーだったり、今は東京が一番面白いって言われてる。それをスタイル化したり、判りやすくプレゼンテーションして輸出しないといけないって思うんですよ。今がチャンスだからね、珍しく。家電とか車は輸出してきたけど、サブカルチャーや音楽を発信したことは今までなかったわけで。……ただ、音楽については、これといったものが何もないと思うけどね。“だからTHE CHILLしかないでしょ”ってことではなくて。
──凄くオータナティヴだし、新しいロックだと思いますけどね。
立花:新しいかどうかは…。大沢(伸一)君が9月にアルバムを出すけど、ああいう音を新しいって言うんだと思うよ、一般的には。今言ってくれたみたいに、(THE CHILLは)オータナティヴなものではあるけど、決して新しくはないと思う。プラスティックもね、世間ではテクノって言われてたけど、あれはオータナティヴだから。僕はその時から、ずっと同じことしかやってないんだよね。オータナティヴっていうのはマイナーってことではなくて、次の時代の中心になるっていう意味だと思ってて。
──はい。
立花:プラスティックスはまさにそうだと思うんですよ。単に聴こえてくる音楽、目に見える格好だけではなくて、どうしてそういう音楽になるのか、どうしてそういう見え方をするのかっていう“考え方”を理解した人が少しはいて、そういう人達がいろんな場所で種を蒔いていった。その一部は渋谷系になり、一部は裏原系になったっていう。そういう意味では、世の中は随分変わったと思いますよ。オータナティヴな人のほうが住みやすいっていう時代も近づいてると思うし。
──ストレスレスな時代なんですね、ハジメさんにとっては。
立花:年のせいもあるかもしれないけどね。若い時は“なんで理解されないんだ!”っていう苛立ちもあったけど、今は充分、自分達がやってきたことが認められてきたと思ってるし。自分も周りの人達──大沢君とか、(藤原)ヒロシとか──も認めてくれてるしね、好き嫌いは別にして。ただ、今までとは違う意味で、“できるだけたくさんの人に聴いてほしい”って思ってるんだよね、今回は。だから、エイベックスと一緒にやってるわけだし。
──オータナティヴに興味がない人にも届けたい、と。
立花:そこで満足しちゃうと“それっぽいところで、それっぽい人に向かって、それっぽいことをやる”っていう、今までと同じことになるから。以前はそれでいいと思ってたんですよ。興味のない人に「すいませんが、聴いてくれませんか?」って言うのって大変だし、気を遣うじゃない? だったら、好きな人だけ聴けばいい、好きな人だけ観ればいい、ってことでいいんじゃないかなって。でも、今回はもうちょっと続けたいんですよ、ライヴとかプロモーションも。音楽をやってる時間って貴重だから、できる限り、やっていたいなっていう気持ちもあるし。
──素晴らしいですね、それは。次の活動に向けた動きもスタートしているんですか? たとえば新しい曲を書いたり…。
立花:うん、やってますよ。レコーディングしていない曲をライヴでやったりしてるし、CDもあと1枚は出そうと思ってて。ライヴもね、いろいろと違ったスタイルでやってみようと思ってるんですよ。豪太、邦君のリズム・セクションではなくて、パーカッションだけにするとか、ヴィオラとかフルート、キーボードを入れるとか。ロック・バンドとはちょっと違う感じになるかもしれないけど。
──音楽的発展の可能性を秘めたプロジェクトということですよね。
立花:そのぶん、プラスティックスはハードコアなロックをやることになると思うけどね。10月29日に一日だけ、プラスティックスを再結成するので。そこでTHE CHILLをやるかどうか判らないですけど。うまくいけば、来年の夏の野外フェスなんかも目指したいんですよね。
──おぉ、ホントですか!
立花:さっき言ったみたいに、予備知識を持ってないお客さんの前でやって、どんな反応が返ってくるか見てみたいし。まぁ、それくらいバンドっていうか、音楽をやろうかなって思ってますよ。