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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】THE BEACHES(2007年7月号)-世界は常夏で、俺たちはタフに踊るしかない!!

世界は常夏で、俺たちはタフに踊るしかない!!

2007.07.01

昨年5月、ファーストアルバム『THE BEACHES』と共に彗星のごとく"デビュー"したTHE BEACHES。あらゆるスタイルを何にも縛られない自由な発想でミクスチャーして踊らせるという、正しいニューウェーブのマナー(そんなもの無いですが)を前面に押し出し、前身バンドがどうとか言いかけた皆さんの口をあんぐりさせてから1年。遂にセカンドアルバム『HANA HOU』が完成です! 前作以上にトロピカルで、ポップで、ダンサブル。「名作」の呼び声高い1枚目を、軽く超えちゃった本作について、ボーカル&ギターのヒサシthe KIDに話を訊いてきました。これを読んでCDを聴いたら、気分はもう赤道直下!!(interview:前川 誠 / pleasure-crux)

音が鳴った瞬間にビーチに向かっていける音楽

──THE BEACHESとして“デビュー”してから約1年ですが、振り返ってみてどうですか?

ヒサシthe KID:まあいろいろあったけど(笑)、どこの会場に行ってもお客さんが楽しんでくれたのは嬉しかったな。そうじゃないとこのバンドの存在意義がなくなっちゃうし、そういう曲を作ってそういうライブをやってるつもりだったから、それがストレートに伝わってることが実感できた1年でしたね。

──1stアルバム『THE BEACHES』もかなり反響が大きかったのでは。

ヒサシthe KID:あのアルバムを聴いて新たに俺たちのことを好きになってくれた人もいたみたいだし、良い評価もたくさん耳に入ってきたから、そういう意味では良かったと思いますね。

──前作は確かに驚く部分もあり、“1stアルバムらしい”作りになっていましたね。

ヒサシthe KID:そうそう、アルバムが出来たときに「これは“1st”だ!」って思えたことがすごく嬉しくて。俺、今までそういう経験なかったんですよ。インディーとかメジャーとかいろいろやってきたけど、イヤなことばかりで、「これだ!」っていう1stを作れたことがなくて。だから本当に嬉しかった。

──個人的には1stを聴いた時点で、THE BEACHESというバンド自体がとてもコンセプチュアルなものだけに次の展開が予想できないというか、このまま終わっちゃうんじゃないかという不安があったんですよ。…と、今回は見事にそんな不安を裏切ってくれた訳ですが。

ヒサシthe KID:あはは。俺も正直そういう部分があったけど(笑)。でも、確かにコンセプトに縛られる部分もあるかもしれないけど、俺の中での決まりごとは「絶対にダンスミュージックでありたい」っていうことと、「音が鳴った瞬間にビーチに向かっていける音楽であって欲しい」っていうことぐらいなんですよ。ジャンル的にはロックンロールもレゲエもヒップホップもアリで。だから実は2ndアルバムを作り終えた今でも、やりたいことはまだたくさんあるんです。

──1stの存在が重荷になるようなことはなかった?

ヒサシthe KID:むしろそういうことは断ち切ろう、っていうつもりで2ndに臨んだから。前やれなかったネタを沢山集めて、それを1stでやれた以上にポップな形に持っていくっていう作業を繰り返して。その過程で煮詰まったことはなかったですね。

──そのようにして完成した今回の『HANA HOU』ですが、前作以上に振り切った作りですね。

ヒサシthe KID:それは嬉しいですね。今回のアルバムを作りながら「もっと振り切って良いじゃん」っていうのは大きなテーマとしてあったから。

──1stはまだ遠慮していたんじゃないかって思ったくらいですよ。

ヒサシthe KID:1曲目の『wiki wiki』が出来たときに「これ、大丈夫かな…?」って思ったんですよ(笑)。自分では盛り上がってるんだけど客観的に聴けなくて。でも昨年の年末くらいからライブでやりだしたらお客さんは俺たちが思っていた以上にOKだったから、じゃあもっと振り切れるなって。

──ライブだと昔の曲と今の曲が違和感なく混ざっていますよね。よくこれだけ違う曲がライブでひとつになれるなって思ったんですが。

ヒサシthe KID:そういう感じはこれからもっと増して行きたいんです。なんでもアリ、みたいな。それは最初から思っていた理想の形だから。

──ということは、コンセプトが前面に押し出されたTHE BEACHESを“結成”することで、逆に以前よりも自由になれたということ?

ヒサシthe KID:その通り。枠がある分、何でもやれるから。ジャンル的な振り幅で言えば、普段聴いているようなことが何でもできちゃうというか。結局、ビーチに向かってやれば何でもOKになっちゃうから(笑)。それは本当に楽しんでやっているし、歌い方ひとつとっても自由になれたし。

音が鳴った瞬間に違う世界に飛んでいけるような感覚

──曲を作るにあたって、ネタ集めみたいなことはするんですか?

ヒサシthe KID:それは昔から常にやってます。DJをやっているのもあるんだけど、最近は金があったらレコード屋に行きますね(笑)。で、iPodに曲を入れてスタジオに持っていって、いろんな曲をガンガン流して「じゃあこの曲やってみよう」みたいな感じから始まることも多いです。そこからセッションしていくうちにいろんな要素が加わっていって、徐々に曲が完成していく。だから俺、iPodにすごく感謝してるんです。前はスタジオにレコードとCDを山ほど持って行って、死ぬほど大変でしたから(笑)。

──そういう作り方って、バンドに芯が無いと散漫になりかねないですよね。

ヒサシthe KID:それは全くないですね。ここをクリアしなかったらただのパクリになっちゃう、っていうラインはしっかり自分たちの中にあるし。だからむしろ、「あの曲から始めたのにこんな所まで行けた!」みたいな感じ。そこは楽しんでやれてますよ。

──THE BEACHESらしさを見失うほどやり過ぎることはありませんか?

ヒサシthe KID:全くないですね。行けてないからTHE BEACHESじゃない、ってことはあるけど、行き過ぎたからTHE BEACHESじゃない、ってことはない。

──ちなみに先ほど「ビーチを目指す」というお話がありましたが、THE BEACHESは海岸で鳴らされている音楽というよりも、やはり海岸を“目指す”音楽ですよね。

ヒサシthe KID:そうそう(笑)。まさにビーチを“目指して”いる音楽なんです。だから「なんで?」っていうシチュエーションの裏で陽気なパーカッションが鳴っていたりする。…それって、いろんな音楽の醍醐味じゃないですか。音が鳴った瞬間に違う世界に飛んでいけるような感覚というか。だから俺たち、サーフロックみたいなことは全くやってないんですよ。そこは、気付いて笑ってもらえると嬉しいですね(笑)。

──だからこそライブハウスでの活動が欠かせないわけですね。

ヒサシthe KID:そう、あの閉鎖した空間からビーチを目指すところに楽しさがあるし。もちろん野外みたいな開放的な所で演奏したら、違う響きをもってくる楽曲だと思うんですけど。でも同時に、深夜の暗いライブハウスが似合う曲でもある。そこは両極端に行ける自信がある。 ーーー“泣き”のメロディーとダンスビートが交わった『yeah yeah yeah』(M-4)が、それをよく表してますね。

ヒサシthe KID:あれはね、1stのときは絶対にやらないって決めていた部分だったんですよ。でも今回は2枚目だし、元々自分の中にあるものだから1曲だけその縛りを取っ払ってみました。そういう意味では1stと一番違うところかもしれない。

──意外に聴こえましたよ。こっちも行けるんだって。

ヒサシthe KID:むしろそっちの方が俺が元々持っているものだったりするから、それが意外に聴こえたっていうのは嬉しいですね。

──あと気になったのが『calendar girl』(M-6)なんですよ。曲も短いし、どちらかと言うとチルアウトな印象がありますが、実は歌詞や曲がTHE BEACHESのことをすごく的確に表していて。

ヒサシthe KID:そうですね、あの曲はTHE BEACHESらしさを意外とサラッとやれていて、俺もすごく気に入ってます。

──1曲目の『wiki wiki』では、久しぶりに歌詞で「悪魔」という言葉を見ました。

ヒサシthe KID:やっぱり、ロックンロールには悪魔がいて欲しいじゃないですか。でも最近見なくなって、それがすごくイヤだった。ヤバさがないというか。別にロックに限らず、今ってそういう“ヤバさ”にフタをしちゃうような社会じゃないですか。全部隠しても余計おかしくなっちゃうだけなのに。

──そして、今回アルバムタイトルにもなっている『Hana Hou』には「アンコール」という意味があるとか。

ヒサシthe KID:「アンコール」とか「ワン・モア・タイム」とか。ハワイの言葉なんですけど。言葉が先にあって、どこかで使おうと思って書き留めてあったんですよ。

──意味は全く関係ないけど「Hana」から「花」が連想できたりして。

ヒサシthe KID:「Hana」は直訳すると「仕事」って意味なんですよ。「Hou」が「再開」。だから「仕事をまた始める」みたいな意味合いもあるみたいで。そこがまた気に入っているんです。

──『wiki wiki』『Hana Hou』という並びは、すごく“赤道”な感じですよね。

ヒサシthe KID:あはは。

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