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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】増子 直純(怒髪天)×三遊亭 小遊三 前編(2007年6月号)- 日本が世界に誇る大衆芸能、落語とロックの粋でいなせな交差点

日本が世界に誇る大衆芸能、落語とロックの粋でいなせな交差点

2007.06.01

寄席は力を抜いた状態で出るほうがイイ

増子:ちなみに、俺はビートルズが来日した年に生まれたんですよ。昭和41年生まれで、今年41歳になりました。

小遊三:そりゃまた随分と若く見えるねぇ!

増子:坂さんも一緒ですよ(笑)。でも、師匠も今年還暦を迎えたようにはとても見えないですよ。凄くお若い。

小遊三:いやぁ、“還暦”って言うとまだイイんだけど、“60歳”って言われるとねぇ…。“60歳”は若いとは言えないからねぇ(苦笑)。まぁ、“60歳”になっても音楽は好きで、今でも一日中鼻歌を唄ってられるねぇ。

増子:にゅうおいらんずみたいなディキシー・ジャズも、以前からお好きだったんですよね?

小遊三:ええ。トランペットに関しては、「セレソローザ」と「聖者の行進」の2曲が吹けりゃそれでイイと思ってましたからね(笑)。演奏者としての欲は全然ないんですよ。にゅうおいらんずも、最初は協会(落語芸術協会のこと)の納会の余興から始まったんです。それなのに、協会の事務局員はどうやら違う考えを持っていたようで(笑)。

増子:吹けるようになる前に、まずバンドを組もうっていう発想が凄いですよね(笑)。でも、噺家さんであんなに楽器を弾ける方がいらっしゃることがビックリしましたね。

小遊三:そうですね。(三遊亭)圓雀さんが前座仲間でしょっちゅう一緒に呑んでたから、彼がクラリネットを吹けることは知ってたんですけど。それと、昇太が学生時代にブラスバンド部でユーフォニウムをやってたっていうし、意外といるもんだなぁ…って思いましたよ。

増子:「昇太はブラスバンドをやっていたということで参加してもらいました。『何をやっていたの?』と訊いたら、『司会です』だって」っていう(三遊亭)右紋師匠のMCは最高におかしかったですね(笑)。にゅうおいらんずの演奏は、見ていて凄く楽しいですよね。演奏を楽しんでいる気持ちが伝わってきて、見てる側も自ずと楽しくなりますよ。

小遊三:そうですかねぇ…(笑)。演奏中は、あの緊張感が何とも言えないですね。僕は学生時代に卓球部に所属してたんですけど、練習の通りに試合で実力が出せれば、そりゃ満足ですよね。でも、実際はなかなか出せないもんなんです。音楽はそういうことはないと思ったんですけど、いざやってみたらとんでもなかったね(笑)。舞台に出たら、音が出なくなっちゃうんだから。あれは不思議だねぇ…やっぱり緊張してるんだろうねぇ…。

増子:気構えたり、邪念が働くとやっぱりダメなんでしょうね。

小遊三:そう、“上手く演奏してやろう”とか“恰好つけてやろう”とか、余計なことを考えてるんでしょうね。この見てくれで恰好がつくわけないのにね(笑)。だけど、怒髪天のスケジュールを見ると、全国で凄い回数のライヴをやってるじゃないですか。あれだけのステージを、あの回数こなしてるんだから大変だねぇと思いますよ。僕らは寄席で凄く手を抜くからね(笑)。

増子:ははははは! そんな!(笑) 俺がホントに凄いと思うのは、落語って完全に丸腰じゃないですか。バンドみたいに楽器もなければマイクもない状態で、その話術だけで人を楽しませている。感動するような話を聞かせて人を泣かせるのは、実はそんなに難しいことじゃない。でも、人を笑わせるのは至難の業ですよね。落語はその最たる芸だと思うんですよ。

小遊三:寄席はチーム・プレイなんですよ。前座、二ツ目、色物…と若手から徐々に出ていって、“ああ、こういうバカバカしい空間なんだな”ってお客さんにその場を馴れさせるわけです。で、最後に真打がしっかりとした噺を聞かせる。うまくできてますよね。そのためにも、人の芸を邪魔しないようにやるんです。同じネタをやらないように、前座が帳面をつけて「お後です」って出してくれると、それを見てなるべく毛色の変わったネタをやろうとする。前の噺家さんのネタを見ると、“今日はだいたいこんな感じのお客さんか…”っていうのが判るんです。

増子:ということは、ネタはその場で決めるんですか?

小遊三:そうですよ。そりゃだって、“今日は『時そば』をやろう”と思っても、前の人が『時そば』をやってたらできないですからね。だから、前の人がネタに入ってからこっちのネタを考えるんです。浅草演芸ホールでも、1日に落語だけで通常18本の演目があるんですけど、最後に出る真打は17本のネタを避けないといけないわけなんです。

増子:うわぁ、それは大変ですねぇ…。真打が「俺は今日これやるから、避けとけよ」って二ツ目や前座に言ってもおかしくない気もしますけど…。

小遊三:それは特別な例ですね。昔はね、ネタの少ない真打に意地悪して、その真打がやりそうなネタを前座や二ツ目が先にやって潰しに掛かることもあったんですよ(笑)。今はもうそういうこともなくなったけどね。まぁ、暇だからそんなことをやってたんだろうねぇ…。

増子:“暇だから”って!(笑) でも、その日のお客さんによって演目を変えるっていうのも凄いですよね。

小遊三:“この噺をやろうかな”と思って高座に上がっても、お客さんの反応がイマイチなら変えますよ。だから、AとBの2つほど噺を腹に持って出ていくんです。そこでお客さんの顔色を見てAかBかを決めることもある。面倒くさかったら、“お客さんがどうあろうとも今日はこれだ!”ってネタをパッと決めちゃいますけどね(笑)。浅草演芸ホールは5日交替ですけど、末廣亭と国立演芸場は10日間高座に上がり続けるんです。それがエンドレスでずーっと寄席に出続けてるわけですから、そんなにいつも力を入れてはくたびれちゃいますよ。くたびれて、それで却って休むことになっちゃいますからね。だから、力を抜いたまんまの状態で出てるほうが寄席はイイんです。そうしないと…僕はまだ入院の経験がないけど、大看板の師匠が何かの拍子に1ヵ月くらい入院して、退院して久しぶりに寄席に出たら「やっぱり何だか調子狂っちゃうなぁ…」って話すのを聞いたことがありますからね。

増子:何かの都合で寄席から離れていると、今ひとつ感覚が掴めないことはあるでしょうね。俺達の場合はライヴで同じことが言えますよ。

小遊三:そういうもんでしょうね。だから寄席っていうのは、毎日、毎日、毎日同じことばかりやっていて、言うなれば巨大なマンネリだよね(笑)。

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