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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】TRIBAL CHAIR(2007年6月号)- 僕はこの世界で起こり得る全てを受け入れるよ──紆余曲折を経て辿り着いた『Accept the world』という新たなるスタートライン

僕はこの世界で起こり得る全てを受け入れるよ──紆余曲折を経て辿り着いた『Accept the world』という新たなるスタートライン

2007.06.01

君自身の目と耳で判断を下せ

──「Probability Of The Mind」の歌詞にある“15分の1の確率”というのは?

高橋:これはですね、鬱病の人っていうのは予備軍の人も含めると15人に1人いるらしいんですよ。僕自身、悪い状況を上手く受け入れられなかった時期もあったので、自分もそういう心の病にいつ罹ってもおかしくないなと思って。街中を浮かれ気味に歩いているカップルがいる一方で、この世の終わりとばかりに背中を丸めて悲痛な表情をしたサラリーマンがベンチに佇んでいたりする。その立場がいつ入れ替わっても不思議じゃない、紙一重の状態なんだというか。「Probability Of The Mind」は裏テーマじゃないですけど、この曲があるから「New Answer」が引き立っているんです。

──「無知たる愚考と自己否定」という仰々しい言葉をコーラスで叫んでいるのがユニークだな、と(笑)。

高橋:声がいろいろ入ると、ギターとの兼ね合いもあったりするので結構考えますね。作業自体は割とスムーズに行ったんですけど、初めに考える時はやっぱり苦労しましたね。どの曲もそうなんですけど、まず僕と関根で曲のイメージを一度ちゃんと共有させてから試行錯誤して、これは恰好いい、これは今ひとつ、というふうに一個一個直していったんですよ。

──8曲目の「MDK」なんですが、これが何の略なのかずっと考えていたんですけど、さっぱり判らなくて。この曲の主人公は、MDKに抗っているんですよね。英詞の訳には「先入観を打ち消して 君自身の目と耳で判断を下せ」とありますが…。

高橋:これはですねぇ…言うのが恥ずかしいな。“みんなの大好きな子供騙し”の略なんです。

──……エエッ!?(笑)

高橋:これ以上にないストレート・エッジな歌なんですけどね(笑)。何というか…音楽の良し悪しは個人の自由で、否定的な意見も肯定的な意見もあるじゃないですか。それに対してもっと毅然とした態度でいてほしいと同じバンドマンに向けて言いたいのもあるし、自分達が黄色信号であるがために受けた批評への回答でもあるんです。「文句があるなら来いよ!」っていう。例えば、ライヴの対バンでそのバンドがどんなバンドかを判断する人がいるじゃないですか。それも確かにひとつの基準にはなると思うんですけど、そのことによって先入観が生まれてしまうんだよ、と伝えたかったんですよ。

──これだけ大量の情報が溢れ返る中で、自分だけの価値基準で情報を取捨選択することの難しさ、またその大切さがテーマになっているわけですね。

高橋:そうなんです。情報の選び方って、セオリーになってはいけないと思うんですよ。気がついたら編集されたニュースを見てるだけになってしまうから。2,000円払って3バンド出るライヴなら、目当て以外のバンドの可能性も信じないと損だっていうか。

──唄われている内容は「New Answer」と近いところもありますね。

高橋:そうですね。基本的に英語の曲は文句を言いたくて書いてるんです(笑)。

──日本語だと直接的すぎる部分もありますからね。

高橋:ええ。あと、案外日本語詞がダメだという人が多いのも事実で、そういう人に向けても伝えたかったんです。音だけじゃなく、唄っていることもちゃんと聴いてくれたら面白いよ、って。

──興味を引く取っ掛かりとしては充分ですよ。誰も“みんなの大好きな子供騙し”だと思わないですから(笑)。

高橋:よくお客さんからも「“メディア、ドラッグ、キル”の略ですか?」とか聞かれるんですけど、そんな恰好いいものじゃありませんよ(笑)。

──でも確かに、この現代社会は値札以上の価値を自分で見つけ出そうとしない傾向にある気がしますね。

高橋:それは多分、世代が若くなればなるほどそうだと思うし、逆に昔からの音楽ファンは新しいものに期待しなくなる傾向にあると思うんですよね。

──自戒を込めて言えば、リスナー歴が長くなると新しいバンドも何かの二番煎じに思えて、そこでつい理解したつもりになってしまうんですね。

高橋:そうなんです。音楽が身近であればあるほど、付き合いが長いほどそうなっていくんですよね。

今はこの瞬間を全力で全うするだけ

──TRIBAL CHAIRの大きな特徴であるツイン・ギターですが、ギター2本の押し引きのバランスはかなり苦心されているんじゃないですか。

関根:そうですね。結構あっち(高橋慶多)のほうが主張するタイプで体育会系なので、こっちが引くことが多いですよ(笑)。

高橋:刺身とツマがケンカしてるようなものですよ(笑)。お互いに刺身の要素もツマの要素も持っているんですよね。だから余計大変なんですけど、出来上がったものは素晴らしいので。

関根:周りのバンドを見ると、俺達は結構仲良くやってるほうだと思いますね。まぁ、仲が良いだけでもダメですけど。

高橋:お互い干渉しないところはしないし、一致団結するところはちゃんとするし。そのバランスが半々くらいだから面白いなと思いますね。距離を置きつつ主張もするから。でも、まとまらない時はホントにまとまらなくて、「ハイ、集合ッ!」とか部活動っぽくなるんです。スタッフに女性もいないし、女っ気がさっぱりないんですよね。

──体育会系になるのは必然なわけですね(笑)。

高橋:「自分、女の子苦手です!」みたいなノリで(笑)。どちらかと言うと、みんな男性ホルモン的ですね。

──でも、そんな男性ホルモン的なバンドが「yubi」のようなロマンティックな曲を奏でると余計にグッとくるんですよね。

高橋:いくつになっても男の子はロマンチシズムが大事ですから(笑)。自分でも“ああ、女々しいなぁ…”と思うところも多々あるわけですよ。でも、今回は自分達のそういう甘ったるい部分も全部出していこうというのがあったんで。

──さっき高橋さんは「英語詞は文句を言うため」と仰ってましたけど(笑)、「Lost Key」は同じ英語詞でも内省的な独白といった趣がありますよね。

高橋:確かにちょっと趣向は違うかもしれないですね。殻に閉じ籠もっている状態で、外部からの交信を一切遮断しているんですよね。でもそういうのも結局、他者に向けた負の感情を表現しているという意味では一緒だと思うんですよ。

──そういった内省的な心理描写の巧みさも含めて、ファースト・アルバムに比べて格段の進歩を遂げたことが窺えますね。

高橋:それは自分達でも思いますね。やっぱり1枚目よりは2枚目、2枚目よりは3枚目っていうのが一番判りやすい目標ですからね。

──この『Accept the world』からがTRIBAL CHAIRの新たなる始まりという感じですね。

高橋:そうですね。この作品が間違いなく転機になるだろうし、今はこの瞬間を全力で全うするだけですね。

──すでにレコ発ツアーも中盤に差し掛かってきましたが、手応えは如何ですか。

高橋:今回はかなりいいですよ。いちステージごとに発見があるし、ツアーに対して自分達がこんなにオープンになれた時期は今までなかったですからね。もちろん責任感もあるんですけど、それ以前に自分達がどんな結果であれ悔いのないようにやろうという気持ちなんです。ライヴを一本終えるたびに新たな一歩を踏み締めている感覚ですね。

関根:結構、反省とかもするようになったしね。ひとつひとつを確認することによって次はもっといいライヴができてるし。それを積み重ねていって、最後のワンマンで修正点なしのライヴができたら最高ですね。

──となると、ツアー・ファイナルのシェルターは否応なしに期待が高まりますね。

高橋:自分達でも凄く楽しみですね、どれだけ変われているかというのが。自信も充分あるし、いい意味でびっくりさせられるものを見せられると思うし。どんな芽が出るか楽しみですよ。ワンマンでは、ツアーでできない曲もやってみたいと思ってます。自分達のわがままに使えるだけの時間があるので、それを如何に自己満足ではなくお客さんに見せられるかっていうことですね。

──TRIBAL CHAIRのすべてを出し尽くす勢いで。

関根:俺達の男意気を余すところなく見せるつもりですから。意外に男じゃないところもあったり(笑)、でも基本は男ですよ、っていう。そこを観に来て下さい!

高橋:とにかく、2年間の鬱憤をこのワンマンで全部晴らします!(笑) 僕が初めてシェルターに行ったのは17歳の時で、インディーズ時代のTHE BACK HORNとかが出てたんですよ。あの時に感じた得も言われぬ空気を今度は自分が刻むということで、凄く気合いが入ってます。まぁ、いくら話しても言葉ではきっと通じないと思うので、是非観に来て欲しいですね。

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