どんな曲をやろうがコレクターズの音になる
──歌詞に関しても、すべて原曲どおりに歌ってるんですか?
加藤:いや、「こういうふうに変えてもいい?」っていうのはいくつかあったけどね。「19」に関しても、ラフ・パターンを2つくらい作ってくれて、その後にもっと作り込んだものを送ってくれたんだけど、自分のなかではラフ・パターンのほうが世界観が見えたりするんだよ。だから「3番のここは、ラフ・パターンのほうを使っていい?」って言ったりとか。あと、堂島君が書いてくれた「特別さジニー」っていうのは凄いラヴ・ソングなんだけど、ジニー・ハートっていう日本で活躍してたモデルさんがいたんだよ。俺が20歳くらいの時は『non-no』とかによく出てて、憧れの人だったから、「最後のシメはジニーにしてくれない?」って言ったり。堂島君もふたつ歌詞を書いてくれたの。でも、やっぱりね、ひとつめのほうが開放感があるんだよね。ふたつめのほうはちゃんと完成されてるんだけど、隙間がないっていうか、想像の余地がないような気がして。
──なるほど。でも「特別さジニー」って、まるで加藤さんが書いたような…。
加藤:そう。上手だなって思った。俺のクセみたいなのをよく研究してるっていうか。凄いと思ったよ。「俺、こういう曲書いたことなかったかな?」って思うくらい。
──スネオヘアーも知り合いなんですか?
加藤:直接の知り合いではなかったんだけど、うちの事務所のスタッフが知り合いで。初めて会ったんだけど、シンパシーを感じましたよ。おとなしいけど、面白い人だよね。スネオヘアーだけは初対面なんだけど、それもアリかなっていう。あんまり内輪の人ばかりっていうのも違うなって思ったので。
古市:そうだね。
──レコーディングは順調でした? 普段は出てこないコード進行とかもあるような気がするんですけど…。
古市:いやぁ、まぁ、そのあたりはキャリアもあるので。
加藤:コレクターズのほうがストレンジなことをやってるからね、普段から。それよりもさぁ、みんな忙しい人ばかりじゃない? だから、どうしてもレコーディングのセッションが3つに分かれたりとか、そのあたりのスケジューリングのほうが大変だったかな。あとはやっぱり、みんながいい曲を書いてくれたから、最高の仕上がりにしなくちゃいけないし、その一方でコレクターズらしさも出さなくちゃいけないし。そこはちょっと難しかったですけどね。ほら、企画のアルバムってブレたりするもんじゃないですか? でも、今回は上手くいったと思うけど。まぁ、賛否両論だと思うけどね。
──あ、そうですか。
加藤:コレクターズの大ファンにとってみれば、俺が全部曲を書いて、っていうのが好みなんじゃないですか? たとえばザ・フーの新譜が出たとしたら、やっぱりピート・タウンゼントが曲を書いてるっていうのを望むじゃない? それがさぁ、「今回はエルトン・ジョンが書いてて…」って言ったら、ちょっとねぇ。
古市:それはそれで気にはなるけどね(笑)。
加藤:まぁね(笑)。でも、「どんなアルバムになるんだろう?」って不安もあるじゃない?
──『ロック教室』に関しても、同じように感じてるファンがいるかもしれない。
加藤:そうそう。でも、俺達って賛否両論みたいなことって余りやったことないから。やるんだったら、20周年とか30周年っていうタイミングが絶対にいいと思うし。逆にさぁ、これが大絶賛だったら寂しいもん。
──ははは! まぁ、そうですねぇ。
加藤:そうだよ。「じゃあ、次からは加藤君の曲は半分で。あとは外注で行きますよ」って言ったら、「えー!?」って思うじゃない? レコード会社なんて、どこだってそうですよ。売れたら同じことをやるんだから。
古市:でもさぁ、20年くらいやってるから、どんな曲をやってもコレクターズになるわけじゃない? それは良かったと思うよ。
加藤:うん、そこは凄く自信がある。どう聴いたってコレクターズの音だしね、これ。でも、ホントにみんないい歌を書く人だなって思ったよ。なんかね、焦ったんだよねぇ。もっともっと精進しなくちゃダメだなっていう。そういうのはあったね、いい意味で。20年もやってると、自分のスタイルで曲を書くようになっちゃうじゃない? 手グセっていうかさ。ギターだってそうだよね?
古市:うん。
加藤:好きなフレーズってあるし。でも、こういうことをやると、自分の予想できないメロディになってたりするから。歌いにくいところもあるんだけど、「あ、これもアリなんだ」っていうのが身をもって判る。
──自分で書いたらこういうラインにはならない、っていう。
加藤:そう。特にスネオ君の曲のサビとかさぁ、最初にデモを聴いた時「これ、間違ってるんじゃないの?」って思ったんだよ。コードに対してメロディが合ってないんじゃないかな? って。でも、プロデューサーの吉田仁さんが「面白いから、これで行こう」って言って、実際にやってみたら「あ、なるほど。これでいいんだ」っていうのが判ったりするんだよね。それはもう、俺だったら絶対に書けないから。サンボマスターにしても、あんなに怒鳴ってるような歌、俺だったら書かないからね。ノドがつらいし、書いたとしてもキーを落とすと思う。だけど、キーを落とすとギターの響きが変わっちゃうから…ってことで歌ってみると、「意外とソウルフルに歌えるんだな、俺」って思ったり。この曲、俺のなかではビートルズの「オー・ダーリン」みたいな位置づけができたんだよね。で、だったら、たまにはこういう曲もいいかもな、って気にもなったし。そういうのはこのアルバムがなかったら気付かなかったからね。
──次のアルバムに対する効果がある、と。
加藤:作曲もそうだし、演奏もアレンジも……まさに『ロック教室』、勉強になりましたよ。ホントに勉強になった。各楽曲が自分のなかで宿題だったし。
──だから『ロック教室』なんですね。
加藤:まぁ、それも含めて。いいタイトルだと思うけど、ファンに公言したら、「恰好悪いからやめてくれ」とか言われたけど。
──ははは! 恰好いいじゃないですか、『ロック教室』。
加藤:60年代の日活映画の恰好良さみたいなのが判ってれば、もっと恰好良く感じられるんだろうけど。それがない人にとっては、“教室”って言えば“習字教室”とか、そういう…。
古市:そうなっちゃうかもね(笑)。
──『暴力教室』じゃなくて。
加藤:俺はそっちのほうからイメージしてるんだけどね。“そろばん教室”みたいなヤワな感じではなくて。
古市:もっと劇画調の『ロック教室』だよ。
加藤:『男一匹、ガキ大将』みたいな(笑)。
古市:そこでロックンロールが鳴ってるわけですよ。
加藤:そこまでイメージしてもらえればいいんだけどねぇ。
古市:まぁ、何を言われようと「俺達はこれだ!」って言っちゃうんだけどね。
加藤:もちろん。俺達の美学を通さないと良くないからね、絶対。
古市:コンセプトにも合ってると思うよ。
加藤:「恰好悪い」っていう意見が多くて、あんまり頭に来たから、「じゃあ『戸塚ロックスクール』にしてやる!」とか言ってたからね。キャッチコピーは「聴かずに死ぬか、聴いて死ぬか」っていう。さすがにそれはNGでしたけど(笑)。