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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】キリト×平野悠(2006年7月号)- メッセージを伝える為のトラップ~日本人としてのロックの一考案

メッセージを伝える為のトラップ~日本人としてのロックの一考案

2006.07.01

長渕 剛、サンボマスターと続いたロフトグループ席亭・平野 悠対談の中でも、一見今回が一番異色かもしれない。現ヴィジュアルロック・シーン最高のセールスと動員力を誇ったPIERROTを解散し、本格的なソロ活動に突入したヴォーカルのキリトとの接点は確かに意外である。だが、西新宿時代の旧ロフトからジャパニーズ・ヘヴィメタルからヴィジュアルロックに続く流れを人並以上に喜んでいた席亭にとって、一般的なロフトのイメージであるパンク~ニューウェイヴと同様に日本のロックの本流であると断言。そして本文を読めば分かるとは思うが、自らの思想信条を分かりやすく説得力を持って語る事の出来るキリトは、紛れもなく現在の日本ロック界最強の論客の一人でもある。
「ロックは今何が出来るか」をテーマとする席亭にとっては、正にいつか必ず出会わなくてはならなかった存在と言っても良い。静かに言葉を荒げる事もなく、でも青白い炎が燃えるようなテンションが二人の間に生まれたのを感じて欲しい。 (プロデュース&構成:吉留大貴)

なすがままになるがままに

01_ap01.jpg平野:キリトさん僕がやってるロフトとは無関係じゃないんだよな。 その昔は出演した事もあったんだよね。今回出た話題の新宿ロフトのコンピレーションにもPIERROT入ってますしね。まず僕がTSUTAYAの視聴盤で出会ったキリトさんのシングル『TEAR』が凄く良かったんです。「ぶっ飛んだ」って言ってもいいのかな? それでキリトさんを調べてみたらいろんな面白い発言をしている。アメリカの話やITの話とか面白くて、だからいろいろ話してみたかったんです。で、PIERROTが10周年を迎えるけど、 解散みたいな形になってキリトさんは一本立ちして、全てリスクを背負って自分が思った形で表現したいという事ですよね。これまでに来る間の10年のPIERROTはどうだったの?

キリト:ややこしかったよね。今だから言えるっていう部分も多いと思うんですけど、バンドが抱えるものが違った形になってきたのかな。ただバンドをやっている間はそれで続けていけるって思ってたんだけど。だから今でも解散は不本意だったんですけど、実際解散してみて振り返るともうどうしようもなかったのかなって逆に感じるんですよね。

平野:この10年の中でのキリトさんの座右の銘が「なすがままになるがままに」ですよね。多くの問題があったからあまりごちゃごちゃ考えない、「自然体で行く」ってそういう感じで捉えていいの?

キリト:いろいろ考えてたんですけど、考えないようにするようになって(笑)。当然アマチュアでやってるような、インディーズでロフトでやってたような時期だったら余計なものかかえないでやりたいようにやればいいみたいな考えでやっていけたんです。だけど、メジャーの世界に行って長年結果を出しながら、やりたいこともやってるっていうスタンスも見せつつ、何もかも捨てないで自分はやってますみたいな風に保たなきゃいけないっていうのはしんどかったかな。

平野:今キリトさんは34歳で、この前僕が対談したサンボマスターの山口君が30歳。30~35ぐらいの世代っていうのはまだ僕らはなんとか繋がれるという感覚を持っているんですよ。僕はあなた方世代は今何も出来ないっていう世代でイライラしていると思うの。あなた方の時代への喪失感っていうのかな。山口君が対談の時に僕らの世代は「絶望が玄関先まで来ている」と言っている。俺達はこれからどう生きるんだってことを、ここらの年齢は苦悩しているんじゃないかな。いろいろあがいても出口がほとんど見えないじゃないですか。どんなメッセージをファンとかリスナーに伝えていけばいいのか。サンボは彼等なりに「愛と平和」をあえて言うことで突破しないともう歌っていけないって僕は見てる。じゃあキリトさんはソロとして、自分がどういうメッセージをどう表現したらいいのかっていう焦燥感はないですか?

キリト:例えば今は自分の言いたい事の中にいわゆるラブソングの枠にはまりきらないものもあるから、本当に遊び心で政治的なメッセージが入ってる曲を発表すると、オーディエンスが凄く拒否反応をわかりやすく返してくるんです。オーディエンスの方が枠を越えないで欲しいって求めてくるから。そうなってくると逆に求められてる感じはわかりますよね。PIERROTの頃だと、曲調はゴシック調で攻撃的な要素もありつつ、歌詞の世界観としてはラブソングの範疇に入るものとかね。そこからハミ出すとメッセージが重いとか一発で言われる。基本的にはその時思ったことを歌詞にします。ラブソング書く時もそうだし、政治的な部分でちょっと皮肉をテーマにしたりするけど、その時も衝動は一緒なんですよ。ただ反応は明らかに違う。

分かる人だけに分かるトラップ

平野:そのオーディエンスの反応は怖い?

キリト:全然怖くないですけど(笑)。反応を見てると狭い範囲で求められてるなって思います。

平野:キリトさんの音楽を聴くオーディエンスの方が硬直化しているというか、決めつけてしまっていて自分の表現が自由じゃないというところに苛立っているんだろうね。あなたは平気で「俺はファンのために歌うんじゃない。俺のために歌うんだ」みたいなことを発言しているじゃない。

キリト:勿論活動すること自体でファンに対しての感謝とか当然あるし、だからこそ自分が飯食えてるっていうのもあるわけで。ただ作品を作る上でそこに左右されたら元も子もなくなっちゃうので、そこら辺には線は引いてるつもりなんですけど。

平野:そこにはあなたの言葉ひとつひとつが伝わる時、オーディエンスが自殺を思いとどまったり、明日の勇気をもらったりしてるんだよということをあなたはちゃんと感じてるのもあるんだろうね。あなたはちゃんとメッセージを込めていて、みんなに生きる希望とか明日とかをなんとか変えようって発しようとしてるじゃないかと僕は思うところが多いんすよね。

キリト:その中で更に言わせてもらうなら、僕が発してるメッセージの中には深読みすればするほど危ないメッセージもあるし、受け取り方間違えるとそれは…っていうのもあるんです。発信してる方も結構気を付けなければいけなくて、言いたいことをそのままダイレクトにボンと出すのではなく、それが雑誌に載ったりラジオやテレビで放送される時に、コーティングしなきゃいけない。敢えて分かる人だけ分かるようにトラップをかけておくんです。他のラブソングとお店で並んだときに見過ごす人は見過ごして欲しいんですよ。そのメッセージが受け取れる人はそれ目当てで来るし、それ目当てじゃなくても2つ3つのトラップだったら解いちゃうような人ならメッセージを受け取ってもらえる。だけどそのままでポンと出して店で陳列して誰にでも目に入っちゃう状態だとマズイ。これからも作品を発表していきたいんですけど、やっぱり普通にカップリングとかでヘビーなメッセージを込めて、そこに食いつける人がどれだけいるか。表現をする事は全てを赤裸々に出して何ぼではないから。こっちが客を選べるわけじゃないので。

平野:そこまでリスナーに慎重に対応しないといけないのかな? そこで、キリトさんに聞きたいんですけど、最近銀杏BOYZやサンボマスターや怒髪天といった何でもストレートに戦争反対やら、恋愛からエロの世界まで、ステージで絶叫しまくるようなロックバンドが確実に支持を集めていると思うんですよ。あなただってそういう意味では今の人類のあり方に絶望しているところはある。あなたの本でも「人間とは最低じゃないか、食い物だって他の動物は必要なものだけ選ぶのに、人間だけは生き物をやたらに殺し飽食しまくっている」とまで言う。こういった素朴な主張を直接歌にしないのはあなたが基本的にロマンチストだからなの?

キリト:一応音楽やってるのが僕の前提だからです。じゃなかったら、もっとそれこそ「赤旗」で発言したり、街宣車走らせたりっていう方法もありますけど、ステージに立って音楽を通してっていうやり方でまずはロックを楽しみたいのが第一。 その上でそこに必要な歌詞において、誰でも歌えるような“愛”や“恋”や“君に会いたい”という言葉を、わざとトラップとして使う覚悟がなかったら僕はロックのマーケットに来てない。

平野:そこまで読むんだ!キリトさんのファン層って16~23ぐらいのほとんど女の人ですよね。そういう人たちに対して裏切りたくないという気持ちが強すぎるのかな? 飯ぐらい何やってても食っていけるわけじゃない。いい生活させてくれてるからファンを大事にしたいってわけじゃないんでしょ?

キリト:単純にファンがいないと生活出来ないし、好きな音楽だけやって生活していくっていうのもファンがいるから可能なわけです。それさえナシにしてやりたいことだけやるぜってなれば四畳半から始めます。ただ、そのメッセージさえも音楽ありきですよね。音楽なしでメッセージ書こうと思ったら本書くし、人を集めてメッセージだけ伝えたいんだったら音楽やらないで演説します。まずは音楽やりたいわけなんです。プラスα言葉が乗っかるのならば単なる消耗品の言葉だったり意味のない言葉だけで音楽だけ楽しむんだったら言葉ものっけないでインストでもやってればいい。じゃあせっかく歌うんであれば「何を歌うのか」というところから来てるんで。

平野:その「歌う」というのは基本的にあなたの生き様の表現じゃないですか。僕はジョン・コルトレーンが好きで、好きになればなるほど彼はどんな生活してるの? どんな生まれで、どんな状態の中どんな思想を持って、だからこの音楽が醸し出されているのかってことまで、もっと深く関わっていきたいと思うのが表現者と受け取り側の関係性だと思うんですよね。でもキリトさんはどんな生活しているのかとか基本的に見せたくない。まさかアイドルじゃあるまいし、ロックやっているわけだからもう少し生身になってもいいと思うけど。それはヴィジュアル系の宿命であるカリスマ性の問題って捉えちゃっていい?

キリト:別に隠してはいないですけどね。年も別に隠してないし。ただ、今のメインストリームにいる子たちと僕が明らかに違うところはある。自分がキッズだった頃、例えばBUCK-TICKとかは自分とは世界が完全に違ってたしヒーローだったんですよ。当然いい暮らししてるだろうし、その裏側が見えないからこそベールに包まれていて憧れが持てる。そこら辺にいるようなお兄ちゃんがロックやっちゃいけないというのを、刻み込まれた世代なんです。何処にでもいるお兄ちゃんだったら有難みがないし、お金を払ってまで観たくない。種明かしになっちゃうかもしれないけど、自分がキッズだった頃のヒーローに対してワクワクしたように自分のファンに楽しんで欲しいという気持ちは持ち続けていたいからなんです。

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