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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】金紙&(2005年3月号)-人は苦しめばいいってもんじゃないよね

人は苦しめばいいってもんじゃないよね

2005.03.01

 今日本で(つまり世界で)一番売れている現役男性歌人、枡野浩一が、『かなしーおもちゃ』出版を記念してライブツアーを開催することが決定! 初日がロフトプラスワン、最終日がネイキッドロフトというたった2日間のツアーだが(笑)、枡野浩一バンド『啄木』を、ニセ双子の河井克夫がプロデュースするという初の試みもあり、これまでにない奇想天外なものになることは必至だ。枡野さんは、歌人といっても古風な先生風ではなく、仕事に悩み、離婚に苦しみ、今は子供に会いたいと痛切に願っている一人の生々しい人間で、彼の書く短歌、エッセイは、現代に生きるごく普通 の人達の心にもスッと届く不思議な魅力に溢れている。本ももちろんだが、ライブで体験してみると、あなたの人生がもしかしたら少し豊かなものになるかもしれない。そのライブ前哨戦を金紙&銀紙インタビューとしてお届けします。(Interview:加藤梅造)

『かなしーおもちゃ』と佐々木あらら

金:僕が主宰しているココログ(註1)の『かんたん短歌blog』に集まった投稿作品集なんですけど、僕の本の中の位置づけとしては、入門書『かんたん短歌の作り方』(筑摩書房)のもっと手軽なバージョンなんです。短歌の間に挟まっている師弟対談コラムが面白くて、狂った師匠(枡野)とけなげな弟子(佐々木あらら)というキャラ作りがうまくいってるんじゃないかと思います。この本一冊で、勘のいい人ならすぐに短歌を作れるでしょうから是非読んでみて欲しいですね。
 
──短歌は投稿作品がメインに収録されてますね。
 
金:結構選び抜いたものが集まって、ある意味自分の作品集よりも面 白いものになりました。ブログではそれぞれの短歌の技術的な批評をしているんですが、本にする際にボケとツッコミみたいな構成にしたことが新しいと思います。あと、本のカバーを外すと佐々木あらら君の短歌選集が載ってるんですが、図書館で借りると(カバーが外せないから)読めないんですね。まあそういう軽い嫌がらせにもなってます。
 
──弟子の佐々木あらら君とはどういう人なんですか?
 
金:かんたん短歌blogの投稿者なんですけど、わりと最初から目立っている人でした。
 
──もともと枡野さんのファンの人?
 
金:彼は全然僕のファンじゃないんですよ。青い眼鏡をかけてて、胡散臭い感じ。あと、お坊ちゃんで、東大中退で、業の深い人。
 
銀:ポジティブな要素が一つもないじゃないですか。
 
金:でも頭はいいし、文章はまあまあうまいかな。この本を作る最初の頃は、僕がやる気をなくしている時で、もう僕が死んだと思って勝手に作って下さいって任せっきりにしてたんです。そしたら、あらら君が僕が書いたものをつぎはぎして、対談みたいなものに仕上げてきたんです。それで徐々に僕がやる気を出して最終的にはかなり本気でやりました。だからあらら君には感謝してます。
 
──短歌作品も面白いですよね。
 
金:今までいろんな投稿を見てきたけど、彼みたいな短歌を作る人はあまりいなかったんです。彼の短歌はわりとセックスを題材にしているんだけど、ちゃんとセックスしている男の子で短歌を作る人ってあんまりいないから珍しい存在だったのね。「外に出すのが愛なのか中に出すのが愛なのか迷って出した」っていうふざけた歌もいいけど、真面目なセックスの歌もあって「雷が鳴る ゆっくりと君がいく 僕もいく また雷が鳴る」なんてすごく好きですね。短歌って今まで短歌を作らなそうな人が作ったものが意外に面白かったりするわけで、そういう意味でこの本はキーパーソンの佐々木あららって人がいたおかげで全体のトーンも決まった所がある。短歌入門『かんたん短歌の作り方』の投稿者だった加藤千恵ちゃんとか、佐藤真由美さんなどはその後プロになりましたが、『かんたん短歌blog』からそういう人が出るかどうかはまだわからないです。でも、この本は今まで短歌なんか全然興味のなかった人が読んで、「へー短歌ってこんなに面白いんだ」って思ってくれればそれでいいなあって。ギター侍とかみんな真似するじゃないですか、「なんとか斬り~」とかって。でもそんなものを真似するよりも、短歌だったらそれこそ万葉集の時代の人とも対等に戦えるので、ぜひ短歌blogに応募して欲しいですね。普段ロックとかやってる人が短歌作ったら面白いものができると思います。
(註1)ココログ ──Niftyが運営するblogサイト。blogブームの火付け役になった。
 

短歌演奏バンド『啄木』

──この本の出版を機に枡野浩一バンド「啄木」が結成されたわけですが。
 
金:これは本のプロモーションの一環として組んだバンドです。この本に関わった人達が短歌を歌ったりするバンドにしようと思っているんだけど、詳しくはまだ決まってません。そのへんはどうなんでしょうか? プロデューサーの河井さん。
 
銀:最初にこのバンドの話を聞いて、叫ぶ詩人の会みたいなことになるんじゃないかと思って止めさせようとしたんですが。
 
金:そこを説得して河井さんにプロデュースしてもらうことにしました。河井さんはアーバンギャルズというおもしろいバンドをやっているので、啄木もなんとかしてくれるんじゃないかと。
 
銀:でも誤魔化したりするのもよくないと思うんです。ダメなバンドをあえてお客さんにお見せするほうが正しいんじゃないかと。
 
金:まあ実際は、バンドのライブと言い張りながらトークイベントをやろうと思っていて、MCが演奏よりも長いという、さだまさしのコンサートのようなイメージでいいと思うんですね。もちろんアーバンギャルズの演奏もあるので、金紙銀紙がそれぞれ率いるヘンなバンドを2つ同時に観れるという意味では貴重なイベントではないでしょうか。
 
──アーバンギャルズの方は結構活動しているんですよね。
 
金:評判いいですよ。音もおもしろいし歌詞が切ないんです。都会の女性の感情の襞(ひだ)を分かりにくく歌うというのが売りらしいんですが。
 
銀:基本的にフォークですから。フォークソングをシンセサイザーで歌っています。
 
金:僕は自分がバンドをやろうなんて思ってもいなかったから、アーバンギャルズを見た時、僕と同じ顔の人がバンドをやっているのがすごく衝撃だったんです。僕はラーメンズがすごく好きで、今回、コンセプチュアル・アートっぽいバンドをやろうと思ったのも、ラーメンズの公演を見た時に、見せ方によってこんなにいろんな物が見えるんだっていうのがわかって。だから、啄木もあえてバンドと言い張ることで、何か別 の物が見えるんじゃないかなと思っているんです。
 
銀:でも「バンドと言い張る」って普通 は言わないですよね。こういう手の内はあまり明かさないものなんですが。ネタは本番まで隠しておくもので。 金 あんまり隠し事がないからねえ。普段喋ってることと書いてることに全然差がないってよく言われます。
 
──枡野さんのエッセイを読むと、ここまで自分をさらけ出すのかと驚きますよ。
 
金:これでも気を遣ってるんですけど。
 
──でもmixiの日記と週刊朝日のエッセイの公開レベルが基本的に同じですよ。
 
銀:だから今回プロデューサーとしては、非常に難しいんですよね。なにか器を作るにしても、最初から透明の器に入っている人だから中身が丸見えなんですよ。まあ、それをどうにかするのが楽しいんですが。
 
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