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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】DEEPCOUNT(2003年11月号)- 負けたり壊れたっていうことを生かして、そこで停滞している奴になにかを渡してやることができなかったら、俺がやっていることの意味はないと思う

負けたり壊れたっていうことを生かして、そこで停滞している奴になにかを渡してやることができなかったら、俺がやっていることの意味はないと思う

2003.11.01

今年(2003年)の1月31日、新宿ロフトで行われたじゃがたらの江戸アケミ十三回忌イベントにDeepCountは登場した。バンド+ターンテーブルという編成から繰り出される重たいビート、からみつく歪んだギター、遠いどこかから聞こえてくるようなトランペット、午前2時過ぎの新宿ロフトにピンと張りつめた緊張感が走った。そして暗闇に浮かんだボーカルNobuからはき出される激しい言葉の洪水。非常にラウドなサウンドにも関わらず、なぜか「静謐」と形容したくなるようなDeepCountの独特な音空間に、満場の観客もすっかり引き込まれてしまった。
 DeepCountは、80年代以降にジャングルズ、ジャジー・アッパー・カットなどで東京のストリートシーンを掻き回した桑原延享と川田良を中心に結成された21世紀の全く新しいバンドである。そしてこの9月に待望の1st CD『足音 ASHIOTO』をリリース、11月25日には初の新宿ロフト・ワンマンライブを行う。今回Rooftopでは、東京のストリートシーンを駆け抜けるNobuこと桑原延享のこれまでの活動の歴史を振り返ってみたい。

負けたり壊れたっていうことを生かして、そこで停滞している奴になにかを渡してやることができなかったら、俺がやっていることの意味はないと思う

── 東京下町の暴走族少年だったNobuは、ある時、唐十郎率いる赤テントの公演を観たのがきっかけで演劇に目覚め、17才の夏、麿赤兒が主宰する暗黒舞踏集団「大駱駝艦」の門戸をたたく。そこでNobuは、他の団員からロック、ジャズ、文学などの世界を教えられることになる。

Nobu:それまで俺はヤクザ系の不良しか知らなかったけど、大駱駝艦に入って文化系の不良を知るようになったんですね。それまで俺は、ロックなんてオカマのやる音楽だと思ってたから(笑) 初めて自分でも音楽をやりたいと思ったのはセックス・ピストルズを聴いた時かな。こんなに衝動的に、激情を音楽にぶつけるやり方があったんだなあって。

── 次第にロックに対する興味を増していくNobuに、ある決定的な出会いが起こる。ちょうど貸し出していた大駱駝艦の劇場で、当時アングラで話題をさらっていた「財団法人じゃがたら」と、結成間もない「フールズ」がライブを行ったのだ。予想通 りライブは大荒れで、最後はNobuと伊藤耕(フールズ)との大乱闘となったが、Nobuは「奴らがやってたことはムチャクチャなんだけど、なんかそこにあるなあって、気がかりが残った」と当時を回想する。ロックをやるため大駱駝艦を辞めたNobuは、その頃、映画の主演男優を探していた山本政志監督に出会い『闇のカーニバル』の主演に抜擢される。共演は他に、江戸アケミ、伊藤耕など因縁の人達だった(笑) こうして、じゃがたら、フールズ周辺を彷徨いていたNobuは、ちょうど「午前4時」をやめた川田良が作ったバンド「ジャングルズ」のボーカルとしてロックの世界に入ったのだ。パンク・ニューウェーヴ黎明期にあってひときわ異彩を放ったジャングルズだったが、バンドは短命のうちに解散。川田良はフールズに入り、Nobuは子育てのため一旦ロックの世界から足を洗う。数年後、再び舞踏の世界に戻ったNobuがもう一度ロックをやるようになったのには、あるきっかけがあった。それは江戸アケミの死という突然の出来事だった。

Nobu:アケミの追悼ライブをやるってことになって、俺も出番をもらったんです。そこで俺はもう一回マイクの前に立つべきかどうかを考えた。下町の不良少年が舞踏を始めて、アケミと知り合ってロックに行って、ちょっと休憩があったけど、また舞踏に戻って、今度はアケミがいなくなることで結局俺はまたマイクの前に立つことになった。俺にとって、アケミはいつもキーポイントで出てくるんだな。

── そのアケミの追悼ライブがきっかけとなって、Nobuは朋友・川田良と共に全く新しい形態のバンド「ジャジー・アッパー・カット」を結成した。ジャズ、パンク、ヒップホップが融合したジャジー・アッパー・カットは、当時まだミクスチャという概念すらなかった時期にあって、あまりに斬新なバンドだった。 

Nobu:ジャジーを始める時に構想みたいなのは全然なかったんだけど、パンクをやるつもりはなかったし、レゲエでもねえし、ブルース歌ってもしょうがねえなあと思ってて、ちょうどその頃聞き出したヒップホップが面白いんじゃないかと。むしろヒップホップと言うよりはラップ的なスタイルならメロディーの中では表現しきれない情景を表現できるんじゃないかと。言いたいことがいっぱい言えるしね。

── そして、NobuはDJ KRUSHと出会い、ターンテーブルとロックバンドの融合など、意欲的な音楽的冒険を試みる。ジャジー解散後、さらにターンテーブルを追求したユニット「ギャンブル」を経て、2000年の終わりにこれまでの集大成的なバンド「DeepCount」を結成する。しかし、DeepCountの始動は必ずしも順風満帆ではなかった。

Nobu:その頃、俺はでっかい交通事故をやって、ちょっとかたわになっちゃったんですね、今も杖をついてるんだけど。事故った後、まあ喉が鳴りさえすればとりあえず音楽はできるだろうというのが、唯一の希望だった。退院後にすぐにライブをやりたかったんだけど、うまく身体が動かなくて、誘われてもずっと断ってたんだ。そのうち一人づつメンバーを集めて、Deep Countという名前を付けてライブを始めたんだけど、やっぱり病み上がりっちゅうか、前みたいにガンガン動けないし、精神的になにかこう、自分の思いをうまいこと外に吐き出せなくて、ハイテンションなライブができない時期が続きましたね。それでも続けていりゃぁどうにかなるもんで、だんだん調子がよくなってきた頃に、OTOから“1月31日にアケミの十三回忌のライブやるんだけど、Nobuやらねえか”って誘われたんだ。だからタイミング的には、またアケミがひょっこり出てきて“お前そろそろ試してみたらどうだよ?”って言われた感じだなあ。

── この日のライブは『業をとれ!』というタイトルだったのだが、Nobuが発するメッセージはこのテーマと見事に共鳴するものだった。特に、9.11をテーマにした言葉はDeep Countを初めて観た私の印象に強く残った。

Nobu:9.11について言うと、俺、たまたまニューヨークに居合わせたんです。それも初めてのニューヨークで、着いたのが9月10日の夕方で翌日あの事件が起こった。もちろん車は走れなくて、ニューヨークが巨大な歩行者天国みたいになってたんだけど、ホリデイとは違うから、街行く人はみな憂いた顔をして、無くなったワールドトレードセンターを見ては下を向いて溜息をつくっていう光景だった。その時、俺はDeepCountがうまくいってなくて、過去の自分のいろいろな思いを捨てる目的でニューヨークに行ったんだけど、世界一の富の象徴であるワールドトレードが目の前で崩れ去って、なんかそれが巨大な墓場に見えたなあ。日本に帰って来ても、俺はそのことを直接どうこう歌う気はなかったんだ。でもあそこで見たことは、なにかものすごい間違いが現実に起きて、それをやってるのが人間達で、これからもいろんなことが起こるだろうし、これから俺は何に対して言葉を吐いていけばいいんだろうっていう中で、あの事件に遭遇したことがジワジワと滲み出てきたんだ。2002年の9.11にもOTOからオープン・マイクに出ないかと誘われたんだけど、そん時は断ったんだよね。でもOTOが“Nobuが歌っている事っていうのは、すごく必要な事だから、今お前はもう一回世の中に出るべきだ”って応援してくれて。それでもう一度アケミの十三回忌イベントというチャンスが来た時、アケミが死んだところから始まって、自分が事故にあったり、9.11を目の前で見たり、そうした一連の流れをここでぶちまけようと思ったんだ。

── もちろんNobuは、この世界に対しあきらめているわけでも絶望しているわけでもない。Deep Countの曲の中には「再生」という言葉がよく使われるが、この言葉にどういった思いを込めているのか聞いてみた。

Nobu:再生っていうのは昔から好きな言葉で、なんか壊れちゃったもんが再生するというのをあきらめちゃならんというか、負けたり壊れたっていうことを生かして、そこで停滞している奴になにかを渡してやることができなかったら、俺がやっていることの意味はないと思う。失敗したりくじけたり、ケガしたりいろいろあっても、それでも何かできるだろうということを自分自身が生きてるうちに証明できなかったら、芸術でもなんでもない。きれいに研ぎ澄まされたものだけが芸術なんじゃなくて、ぶっこわれてもまた這い上がってこれる気持ちだっていうのがあって、それを自分が実際にやらなければ、なんで音楽やってるのかわからない。

── 人間が容易に覗き見ることのできない心の奥深く、表現の深淵から静かに聞こえてくるDeep Count。是非、その足音を耳を澄まして聞いて欲しいと思う。


 行きたいところは何処だ?
 逢いたいヤツに逢えたか?・・・向かう先・・
 時には、酷い目に遭って、グッタリする もう歩きたくなくなったりする
 有り難いことに俺たちは、それでも、じっとはしていられないから
 また、どこかへ向かう、どうにでも為れと思っていても
                            ──DeepCount

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