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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】GOMA (2003年10月号) - ディジュリドゥはその時受けるインスピレーションがすべて

ディジュリドゥはその時受けるインスピレーションがすべて

2003.10.01

ディジュリドゥはその時受けるインスピレーションがすべて

──6月にリリースされた『JUNGLE CHAMPLU』のほうは、バリ島の現地レコーディングを前提に制作されたんですよね。

GOMA:そう。デジュリドゥはオーストラリアの楽器なので、ずっと日本とオーストラリアを行き来してたんやけど、間でいつもバリ島を経由して行ってて、そこでバリの伝統音楽であるガムランやケチャが好きになって。

──録音機材を全部日本から持ち込んだとか。

GOMA:ミキサーからモニター・スピーカーからすべて。結構大変でしたよ。楽器自体は向こうで全部買って。ある程度現地へ行ってるから、向こうに行ったらどんな楽器があるかは把握してたし。

──向こうのレコーディングの進め方は日本と全く違うんですよね?

GOMA:はい。でも、もう完全に僕らの好きなようにやらせてもらった。とりあえず場所を借りて、日本から持って来た機材を全部セットして、そこへ順番にいろんなミュージシャンに来てもらうっていう。向こうにもスタジオみたいのが一つあるらしいんやけど、そこで働くエンジニアの能力的なものと、熱帯に住んでる人格的なものが凄くゆるいらしくて、作業が思うように進まへんやろうなと思って。それやったら日本から機材を持っていったほうがええんちゃうかっていう。

──現地の腕利きと呼ばれるミュージシャンとのセッションはどうでした?

GOMA:凄く良かったですね。見たことのない楽器とかがどんどん出てきて面白かった。ただ、基本的に向こうの伝統芸能しかやらへん人達なので、いわゆるセッション的な、音楽的な観点で『こういう感じで』とか言っても、伝統芸能はシナリオに則ったことしかないので、理解してもらえなかった。だからこっちから言えるのはテンポの指示くらい。

──タイトルにある『JUNGLE CHAMPLU』の“チャンプルー”って、沖縄の食べ物ですよね。

GOMA:バリ島にもあるんですよ。意味も“混ぜる”で一緒。現地のごはん屋にもメニューがあるし。だから、いろんな国の楽器がいろいろミックスしてるってところから“チャンプルー”って名付けたんです。前のアルバム(『MILLION BREATH ORCHESTRA』)がディジュリドゥ以外の楽器を何も使わんと一辺倒やったんで、今回はその反動もあって、控えめにちょっと違う楽器もいろいろミックスさせてやりたいなぁと思って。

──でもこうして作品として巧くまとめ上がってるから凄いですね。

GOMA:ほんまにチャレンジでしたね。バリにはスレンドロとかペロッグと言われているバリ独自の音階みたいなものがあって、僕らが普段聴いてるような正音階とは全く違うんですよ。でも、ディジュリドゥも言葉やドレミが生まれる数万年前からある世界最古の木管楽器やから、そういう正音階を超えたところのレヴェルでの音が出来てると思う。音自身にパワーがあるっていうか。

──その『JUNGLE CHAMPLU』からわずか3ヵ月後には『IN A JUNGLE』が完成してることからも、バリ島での体験が如何にGOMAさんにとって刺激的だったかが判りますね。

GOMA:はい。『JUNGLE CHAMPLU』は日本で書きためたアイデアを向こうで形にしたものやったけど、『IN A JUNGLE』はバリ島へ渡ってから溢れ出てきたアイデアをまとめた。もう、何かに導かれるようにどんどん吹いてしまって(笑)。ディジュリドゥは指で押さえてメロディを作るっていう楽器やないから、ほんまその時受けるインスピレーションがすべてなんですよ。

──ゲスト参加しているTHA BLUE HERBのILL-BOSSTINOさんは、何の約束もなしに偶然バリ島で出会ったそうですね。

GOMA:はい。レストランでナシゴレンを食べていたらBOSSが前からテクテクと歩いてきて(笑)、あれはびっくりした。お互いにバリ島へ行くってことは知ってたけど、特に連絡を取り合ったわけでもなくて。WACKIE'S FAR EAST CHAPTERのRAS TAKASHIくんは日本にいる時にお願いして。『IN A JUNGLE』のほうはもうちょっとネイティヴ度が増したというか、より土っぽい感じにはなってると思います。

数万年前から今日まで何ひとつ変わらぬ 木管楽器

──以前からこうしたルーツに根差した音楽を志向していたんですか?

GOMA:元々はヒップホップ畑で、ずっとブレイクダンスをやってました。こういう民族楽器とは180度対極のところにいてたんで。でも、ディジュリドゥという楽器に出会ってすべてが変わった感じですね。最近はまた昔の友達とかと遊んだりするようになって、ヒップホップとダウン・トゥ・ジ・アースな感じとが巧い具合に混ざってきてると自分では思ってるんですけど。

──そういうヒップホップ的な要素が加わることで、新しい世代のリスナーはディジュリドゥという楽器を身近に感じやすいかもしれませんね。

GOMA:そうですね。ほんままだまだディジュリドゥのことを知らん人が大半やと思うし。

──GOMAさんにとって、ディジュリドゥのどんな部分が一番衝撃的だったんですか?

GOMA:やっぱり音ですよね。“グゥオー”って地を這うような、下からこう突き上がっていくようなあの音が。それがあの木の筒の楽器から出てると思ったら…最初どこから出てるのかと思って、これは凄いなぁと。

──懐の広い楽器だから、もしかしたら三味線みたいな和楽器とも意外に相性がいいかもしれませんね。

GOMA:そうですね。ほんまジャンル分けは不毛やと思うんですよ。音楽や楽器に対する想いとか、そういうところでディジュリドゥを通 じてどんどん繋がってる感じがしてて。出会うべき人にはどんどん出会ってると思うし。

──今後、ニュアンスとしてディジュリドゥに絡ませたら面白そうな要素って何かありますか?

GOMA:何というか、今まで自分が通ってきた道っていうか、そういうものをミックスさせていきたい。今までさまざまなジャンルの人達に出会ってるし、そういう人達と共に音を出していけたらいいなと思いますね。ディジュリドゥがもたらしてくれた出会い的なもの、音的な要素をどんどんミックスさせていきたいですね。

──バリ島でのレコーディングが今回こうして実現したからには、いずれはディジュリドゥの聖地・オーストラリアで現地のミュージシャンとのセッションを成就させたいですね。

GOMA:それは絶対、ゆくゆくは。

──オーストラリアの原住民が『JUNGLE CHAMPLU』や『IN A JUNGLE』を聴いたらかなり衝撃的でしょうね。

GOMA:かなりの衝撃でしょうね。現地のコア中のコアなところへ行ったら、ディジュリドゥは音楽じゃなくて儀式のための道具やから。それを現代で生かしていこうと思ったら、楽器として再生していくしかない。ここのところディジュリドゥの知名度もちょっとずつ上がってきてる感じもするし、ほんまこれからやと思ってます。

──今度LOFTで行われる『IN A JUNGLE』のリリース・パーティーは、店内に観葉植物とかをデコレーションして、文字通 りジャングルな感じにしようと思ってるんですよ。鳥とか持ってきて放しましょうか?(笑)

GOMA:(笑)でも動物は凄い反応するわ、ディジュリドゥ。人間の聴こえてる部分と違う部分が聴こえてるっていうか。犬はこの音を聴くと、吠えるか寝るか、どっちか。

──人間には聴こえない、犬にしか聴こえない音域があるっていいますもんね。遺伝子の擦り込みとかもあるでしょうし。

GOMA:ほんまそう思いますね。ディジュリドゥという名前は聞いたことはないんやけど、なぜか身体がその音を知ってる、みたいな。僕も初めて出会った時はそういう印象を受けたしね。

──そういうのはある意味神秘的ですけど、ちょっと怖いところもありますよね。人を催眠術にかけることもできそうだし(笑)。

GOMA:僕自身がもうすでにかかってんのかもしれへんなぁ(笑)。アボリジニの言い伝えでは、ディジュリドゥを海に向かって吹いてイルカを呼んでたとかいうしね。不思議やわ、あれは。数万年前から今まで何も変わらずにこの地球上に残ってるものなんて、そんなにないやんか? そのうちのひとつやねん、ディジュリドゥは。太古の昔、一番最初にこのディジュリドゥを“ブッ”て吹いた人が、この時代に僕がコンピューターとかと一緒にディジュリドゥを吹いてる姿見たら、多分嬉しくて泣くんちゃうかな。

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