Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】Bivattchee(2003年9月号)- 当たり前じゃないと気づくことが、当たり前じゃないのか、当たり前なのかよう判らん

当たり前じゃないと気づくことが、当たり前じゃないのか、当たり前なのかよう判らん

2003.09.01

当たり前じゃないと気づくことが、当たり前じゃないのか、当たり前なのかよう判らん

──今回遂に、満を持してのメジャー進出を果たしたわけですが、心境の変化は殊更ないですか?

堤:ガラっとはないですね。今まで自分たちが敷いてきたレールをそのまま伸ばした感じで、より逞しく。

山本:俺はこれを期に、思い切って髪の分け目を変えたけどな。

堤:それは大きな変化やな(笑)。

──今度のシングル「プラスチックモーニング」は、如何にもBivattcheeらしい抜けの良いメロディながら、眼差しがストリートに根差しているというか、風刺の効いた社会的な歌詞が強く印象に残りますね。“ホームレスのおじさん 本当のやさしさを教えてよ”とか“宗教 日の丸 リストラ問題”というフレーズは、これまでの作風にはない衝撃的なものですよね。

堤:今までそういう面を出してなかっただけなんですけどね。3年前にはもう歌メロが仕上がってたんで。別 に、ここへ来て急に世の中へ問い質したっていうわけではなくて。昔からそういうことは考えてたし。

──“君の愛はいくらするんだ 今夜おれが買ってやろうか”というフレーズが生まれた背景には、どんな経緯があったのか興味深いんですが。

堤:いや、特にはないんですけど…。今の世の中、ちょっとおかしいじゃないですか? みんな普通 に狂ってるじゃないですか? 特に東京は何かが決定的に狂ってると思うし。初めて東京へライヴに来た時に受けた衝撃が、この曲に行き着いたというか。“何だこれ?”っていう。

──その“何だこれ?”っていう歪さ、居心地の悪さというのは具体的に言うと?

堤:何というか、一杯なのに空っぽみたいな。凄くたくさんあるけど、真ん中に芯がないっていうか。何がメインなんだか判らなくなるし、それが当たり前としてみんな普通 に暮らしてる。それが当たり前じゃないと気づくことが、当たり前じゃないのか、当たり前なのかよう判らん。

──ツアーで全国各地を廻って、やはり東京だけ突出しておかしいと感じますか?

堤:やっぱり日本の中心っていうか文化の発進地ですよね? 音楽にしてもそうだし。音楽で一旗揚げようと思ったから俺たちもこっちへ引っ越してきたわけだし。それも滑稽な話だったりするけどね。結局、日本を形作るものは何なのか? って考えた時に、物事が人情じゃなくてお金で解決するとか、愛も金で買えるのか? とか、凄く滑稽な話に思えて。東京へ出てきて1年半くらい経って、これでもだいぶ慣れたんですけどね。

──「プラスチックモーニング」の“プラスチック”というのは、不透明とか壊れやすいとか、そういう意味合いですか?

堤:人工的だったりとか、ウソっぽいとか、そんな意味です。

──それでもまた朝は来るというやるせなさもあり。

堤:そうですね。

──演奏面で気を留めた点は?

加藤:歌の内容により近く行こうと思って。曲の中で起承転結を付けて、落とすところは落として、泣かすところは泣かす、みたいな感じでやろうと。曲のイメージとしてそんな明るい曲ではないと思うんですけど、サビの部分は歌える感じというか、キャッチーにしたかったから、ちょっと広がりのあるフレーズを付けてみたりして。

──リズム隊はどうですか?

山本:静かに支える…みたいな感じですかね。下で待っとくぞ、みたいな。(田代に向かって)少々暴れても守るぜ! っていう意気込みでやったよな?

田代:いや、それは今初めて聞いたな(笑)。

山本:ウソーっ!? おまえの気持ちは知らん!

堤:知らん! って(笑)。それじゃリズム隊になってないじゃん!

「紅茶の恋(独り言)」は耳で聴く小説

──2曲目の「750キラー」は一転してノリの良さを前面に打ち出した曲ですね。ちょっとガレージっぽさもありつつ。

加藤:そうですね。出来上がってみたらこういう感じになってましたね。

──歌詞に出てくる“カストロローザー”っていうのは?

堤:それは田代のバイクの名前。

田代:…になる予定です。まだないんですよ。名前が先に決まっちゃったという。

山本:一回パクられたもんね(笑)。

田代:そうそう、幻のローザーが(笑)。

加藤:この曲は、全体的に音として聴いた時の捉え方が余り重くなりすぎないようにしたんですよ。「プラスチックモーニング」はイメージとして重い感じの曲で、その次にさらに重い曲を入れてしまったらニルヴァーナみたいになってしまうんで。だから2曲目は、これまでのBivattcheeの要素もかなり残して豪快な音作りを心懸けましたね。

──リハーサルの段階で細部まで詰めてからレコーディングに臨むことが多いですか?

加藤:そうですね。レコーディング・スタジオでいきなりアレンジを変えられるほど俺らは器用じゃないんで。それまでにきっちり固めておいて、出来たものを録るという。

──ということは、そう何テイクも録らなくて済む?

加藤:凄く少ないですね、俺らは。大体3~4テイクで終わりますよ。一発目で「ああ、これでもう大丈夫です!」っていう時もあるし。

田代:余りやってるとウダウダしてくるだけなんで、3回ぐらいやって大体その日のうちにOKになるよね。

──結局は一番最初のテイクが良かったりします?

堤:そうですね。

田代:テイクを重ねていくと、だんだん落ち着いてきちゃう。うまく叩けてもまとまりすぎちゃうというか。

加藤:確かにミスタッチも多いんですけど、それ以上に全体の雰囲気とか、いい部分も一杯あるんで。

──3曲目の「紅茶の恋(独り言)」は、微かなアコギをバックに堤さんの独唱が続く特異な曲ですね。『青春の炎』に収められていた「プラスチックモーニング」がまさにこんな感じの朗読でしたよね。

堤:はい。切々と唄い上げてます(笑)。

──この曲のレコーディングの時には、リズム隊は何を?

田代:後ろから「頑張れェ! 頑張れェ!」って気を送ってますよ。

山本:僕は紅茶を沸かしてます、いい湯加減を保って(笑)。

──こういう、男性が女性の立場になって唄う歌って、70年代のフォークソングとかニューミュージックによくありましたよね。

堤:結構自然にそういうのが出てきたかな。まぁ、角度を変えて唄った恋の歌ですよ。ウチの母ちゃんはベタベタなフォーク世代だったんで、そのすり込みがあったのかもしれないけど。

──ポエトリー・リーディングからの影響とかはあります?

堤:ないですね。そういうのは余り聴いたことなくて、敢えて言うならラジオ小説とか、凄いガキの頃に聴いてた思い出があって。一人でナレーションして、役者になって…っていう、ちょっとシュールな空間。耳で聴く小説だったり、耳で聴く映画とか、そういうふうに聴いてもらえれば楽しめるんじゃないかなと思いますね。

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻