オーサカ=モノレールはすごく良かったです(DON)
DON:最初にオーサカ=モノレールを見たとき、ちょっとビックリしたんだよね。
中田:あ、ホントですか。
DON:どういうバンドかっていうのも知らなかったんだけど、すごい楽しめた。バンドとしての完成度も高いし。俺が見たときは「ホット・パンツ(・アイム・カミン、カミン、アイム・カミン)」ではじまったんだけど、なんていうかな、カバーをやってても、ダメなもんはダメだしね。俺はストーンズが好きだけど、ストーンズのカバーバンドなんか見ても、むしろ殴り倒したくなるから(笑)。JBもすごく好きだから、適当なことをやられても楽しめないはずなんだけど、オーサカ=モノレールはすごく良かったです。引きつけられました。
中田:ありがとうございます。
DON:解釈の仕方っていうのもあるじゃない。譜面をそのままなぞるんじゃなくて、フレーズに収まりきらない鋭利なものを感じたんだよね。
中田:まあ、「ブラック・ミュージックやってます」なんて言ってもーー実際、そう言ってるんですけどーーだから、どうした?ってところがあるじゃないですか。
DON:そうだねえ。
中田:じゃあ、何やねん?って言われたら、よくわからんけど、一生懸命やるしかないなっていうか。そういうもんだと思うんですよね、僕らの場合。
DON:ヒップホップ以降だと思うんだけど、ファンキーなフレーズとかファンキーなビートっていうのは、かなりカタログ化してると思うんだよね。それを使ってファンキーっぽい音楽を作るのはさほど難しいことではないと思うし。でも、ファンキーってことを演奏できちんと表現してるものっていうのは、俺はほとんど見たことがない。まあ、ボビー・バード(全盛期のジェームス・ブラウンの音楽的パートナーとして有名)のライブを見たときも、「うーん」って思って、途中で帰っちゃったけど。
中田:あれ、家族でやってるんですよね。ドラムが息子で。
DON:あ、そうなんだ。
中田:そうなんですよ。で、僕がひとつ思うのは、ブラック・ミュージックっていうのもどんどん変わってるじゃないですか。ボビー・バードのライブとかでも、息子たちは自分らのええ感じで楽しんでるんだと思うんですけど、僕にとっても「もうひとつだな」って思って。それは何やろう?って考えたりもするけど…。
DON:まあ、わかんないけどね。俺もJBの最盛期を実際に体験したわけでもないし、レコードだとかぼろい海賊版のビデオとかで判断するしかないんだけど、まず、若いよね、俺らの好きなJBは(笑)。あとは、人種差別 されてるよね、とりあえず。あのナイフみたいな動きのなかには、白人に媚びる部分とすごい怒りが混ざってるんだと思うんだよ。「こうやればウケるだろう」っていうのもあるし、一方には、差別 に対する怒りがある。それがものすごい緊張感を作ってるだろうなとは思うよね。まあ、JBはもうトシだし、昔のああいう感じを求めるのは無理だと思うけど。
中田:そうですね。ただ、1年くらい前に、チャック・ベリーとジェームス・ブラウンがいっしょにライブをやったことがあって。
DON:ああ、あったらしいね。
中田:その演奏が良かったか悪かったかはええとしても、ふたりとも、ホンマにええトシやないですか。チャック・ベリーなんか、76才とかでしょ。そういう人が、わざわざ日本に演奏しにきてるわけですよ。別 にやらなくてもいいじゃないですか、そんなこと。
DON:そうだねえ(笑)。
中田:金だってあるだろうし、やる必要ないと思うんですよ。そんなん逆に命が縮まるだけで、やらんほうがいいんやないか?って。それでもやるっていうのは、「このおっさんら、本気やな」ていうかね。もしかしたら、やめるタイミングを失ってるだけかもしれないですけど(笑)、これはすごいなあって思いますよね、やっぱり。この人には勝たれへんなって言ったら負けだから言いたくないですけど、「何やろう? これは」とは思いましたね。たぶん、(音楽を)やめちゃったら、「俺は何をする人やろう?」ってなるんでしょうね。
DON:普通のことなんだろうね、やり続けることが。
中田:けっこう普通に歌えてたんで、びっくりしましたけどね。まあ、途中でトイレに行ったりはしてましたけど(笑)。
──ズボンズもオーサカ=モノレールも、そんな感じですけどね。「なんでここまでやれるんだろう?」っていう。モノレールは、制服まで揃えちゃったりしてるし。
中田:いや、僕はそんなに臨機応変なほうじゃないし、それしか知らないので。服とかも、普段はぜんぜんカッコイイものを着てるわけじゃないから、「制服でも着とこうかな」ってことで。ださいですからね、僕らは。まあ、普通 は私服ですよね。私服って言い方もあれですけど(笑)。
DON:私服のオーサカ=モノレールっていうのも、想像できないもんねえ。
中田:絶対、かっこ悪いですよ(笑)。ズボンズは、私服派ですよね。
DON:私服派(笑)。まあ、ロックバンドだからねえ、ズボンズは。モッズスーツとか着るのも、ちょっと違う感じだし。
中田:でも、考えてみたらあれですよね、いまの若い子って、そういうことも上手ですよね。バンドのやり方にもいろいろあるけど、デザインされるべき最終到達点があって…。
DON:それに合わせて、こういう服を選んだりとか?
中田:そうそう。そういう人が多い気がするなあ。違うかな。
DON:まあ、ビジュアルが重要っていうのは、完全に刷り込まれてるとは思うよね。まず見た目が大事なんだよっていうのが、当たり前になってるっていうか。それはビジュアル系のバンドだからってことじゃなくて、すべての人に対して言えることだと思うけど。若い子は、こぎれいにしてるよね。
──ヒップホップをやってる人も、ファッションには気をつかってますよね。
DON:昨日もね、金のネックレスとかして、ブラッキーな格好をしてるカップルがいて。ああいうのは何だろうね。別 にラッパーってわけではないだろうし。
中田:ついに日本にもヒップホップが浸透したってことですね。おめでとうございます!(笑)。いや冗談。や、でも、めっちゃ広まったのはホントですよね。それがホントにヒップホップ的であるかどうかは、また別 の話ですけど。だって、10年くらい前まで、ラップやってるなんていったら、ギャグでしたよね。
DON:そうだね。
中田:この前、親戚のおじさんと話してたんですよ。その人は高校の先生なんですけど、「中田君はあれか、ラップか?」って言われて。
DON:ハハハハハ!
中田:つまりね、いまはラッパーなんですよね。その人は別に音楽に詳しいわけやないんですけど、高校生の間では「私の彼氏はラッパーや」とか「DJやってんねん」っていうのが、ステイタスになってるらしくて。それはけっこう、衝撃でしたけどね。「そこまでいってんねや!」っていう。ただねえ、ヒップホップでもソウルでもそうですけど、ブラック・ミュージックという、もともと日本には根ざしてないものをやるときの大義名分として、「日本にヒップホップを普及させよう」とか「ソウルを普及させよう」とかって言ってる人がたまにいてはるわけですよね。それはね、僕は絶対ちゃうと思ってて。
DON:そうだね。
中田:第一、絶対に普及しないでしょう? だって、日本中のおじいちゃん、おばあちゃんがブラック・ミュージックが好きになるわけないんやから(笑)。だから、広めることなんか目的じゃないんですよ。じゃあ何でやってるかっていったら、さっき(DONが)言ってはったことだと思うんですよね。つまり、ウケたいって気持ちと「ここを抜け出してやる」ってフィーリングがごっちゃになってる、そういうエネルギーが爆発して生まれてきた音楽を聴いてね、「おおー!」って思うわけですよ。で、「自分でやることによって、もしもそんなことになったら最高やな」ってところでやってるんやなって。
DON:うん、うん。
中田:言葉はチープやけど、反抗心っていうか、この状況をどないかしようっていうパワーというか。日本みたいに「ぬ るま湯」って言われてる国におっても、問題点がちゃんと見えてて、「どうにかしたい」って思ってる人はいっぱいいてるしね。そういう人らといっしょにやっていけたら、それでええんやろうなって思う。だから、いま、ヒップホップなりR&Bなりが広まってる状況っていうのは、あまり関係ないですよね。
DON:関係ないよね。たとえば、知り合いで「俺はロックを流すためにラジオ局を作った」って人がいて。その人は、「俺はロックを広めるためにがんばった。日本の音楽もだいぶ変わっただろう」と言うんだけど、まったく変わったとは思えないよね。ラップをやる人も増えたんだろうけど、まあ、変わってないと思う。いずれにしろ、あんまり幸せな感じではないね。
中田:昨日まで韓国に行ってたんですけど、あっちも似たような感じでした。
DON:あ、そうなんだ。ヒップホップとか流行ってそうだけどね。
中田:そういうことをやってる人に会ったんですけど、彼らが言ってたのは、ヒップホップは芸能界っぽいと。アメリカとか日本で流行ってて、それはイケてるものとされてるわけですよね。もちろん、ホントにかっこいいことをやってるヤツもおるけど、全体的なイメージはそんな感じで。だから、日本と同じような状況ですよね。R&Bにしても、誰かを売り出すための道具になってるだけだと思うから。まあ、そのなかでも100人にひとりくらいは、ポンと芽が出る人もいるかもしれないけど。
DON:広がる必要もないって気もするけどね。もちろん、ブラック・ミュージックとかロックが広まって、みんながそういう音楽をいいって思ってくれたほうが、収入は増えるかもしれないけど。その程度の願いはあるかな。
中田:いいですね(笑)。