ある種奇妙なバンド名と、サイケデリックとロックンロールを融合したサウンドに情念に満ちた歌詞を載せた、独自のスタイルで日本のロック界に確固たる地位 を確立している「ゆらゆら帝国」。彼らにとって約二年ぶりとなるフルアルバムが完成した。リリースの度に我々を驚かせ、そして興奮させ続けている彼らだが、今回のアルバムはなんと二枚同時発売だ。「ゆらゆら帝国のしびれ」「ゆらゆら帝国のめまい」この思わせぶりなタイトルの二枚のフルアルバムを完成させたゆらゆら帝国のギター・ボーカル、坂本慎太郎氏に話を伺った。
(interview : ミヤギツヨシ / 北村ヂン)
──今回、アルバム二枚同時発売ということですが。まあ例えば一枚にまとめるとか、二枚組のアルバムにするとかいう方法もあると思いますけど、あえて二枚別 々に分けたのにはなにか訳があるんですか。
坂本 最初の発想として、同時に裏と表みたいに存在するアルバムを作りたい、みたいな感じがあったんですよ。それで、それぞれ全然違う方向性でやったんで、二枚組だとインパクトが弱いんじゃないかなと思って。
──二枚組にしちゃうとどうしてもA面、B面的な意味合いになっちゃいますからね。
坂本 そうですね。それに二枚組だとジャケットも一つになっちゃうじゃないですか。今回はジャケットを二つ作る必要性があったんで。
──基本的に表裏一体で存在しているから両方一緒に聴いてこそなんだけど、あくまで別 のアルバムであるっていう位置づけなんですかね。
坂本 うん、まあ両方聴けばなおって感じですけど。一応それぞれ性格がはっきりしてるんで、例えばあんまりメロディアスなものは好きじゃないっていう人はこっちだけ、逆の人はこっちだけとか、そういう風に聴いてもありかもしれないですけどね。
──タイトルが「ゆらゆら帝国のしびれ」と「ゆらゆら帝国のめまい」っていう風になってますけど、タイトルにバンド名をつけたっていうのには理由があるんですか。
坂本 最初に「しびれ」と「めまい」っていう言葉を閃いたんですけど、「めまい」とかいうタイトルって色々過去にあったんじゃないかなって思いまして。それに今後もこういうタイトルをつける人もいそうじゃないですか。だから念を入れて「ゆらゆら帝国の」ってつけたんですけどね、一応かぶんないように。「ゆらゆら帝国のめまい」だったら同じタイトルはあり得ないですからね。
──今回の二枚同時発売っていうのもそうなんですけど、今までのCDとかに関してもゆらゆら帝国って、シングル二枚組だったり、すごい厚いブックレットがついてたり、ステッカーがついてたりと、新譜が出るたびにCD屋に置いてあるのを見るとすごいドキドキ感があるんですよ。まあ、他のアーティストもやってる手法ではあるんですけれど、ゆらゆら帝国の場合ってより違った感覚があるんですよ。曲自体に非日常感とか感覚的な部分が表現されていますけど、ジャケットであったりというアートワークの部分にも非日常感っていうものにこだわってるんじゃないかなっていう感じはすごいしてるんですけど、その辺はゆらゆら帝国として出し方を考えてるんですか。
坂本 そうきっちり考えて戦略的にやってるわけじゃないけど、基本的に僕らすごいちっちゃい単位 でやってるんで、もう最初は内輪受けみたいなノリでやってるんですよね。
──初回特典だったり、ジャケットの仕様とかにしても、わりと「こうやったら売れるんじゃない?」的な発想でレコード会社主導でやってるケースって多いと思うんですよ、その辺で自分ら主導でやっているゆらゆら帝国の場合とでは大きな違いがありますよね。
坂本 もちろん会社の方から「初回盤、なんか変わった仕様にしようよ」みたいなことを言われることはあるんだけど、具体的にどういうのにするかっていうのは自分で考えてますからね。基本的にパッケージまで全部自分でやってるし、そういうのをするのが好きなんで。結局は自分で聴きたい曲を作って、自分のやりたいことをやってるだけですから。それをみんなが面 白がって乗ってきたらどんどん膨らんでいくし、最初のアイディアがイマイチだったらしぼんじゃうこともあるし。
──音楽的な面でいうと、今回いわゆるバンドサウンドっていう所から一歩突き抜けた感じがするんですよ。メンバーだけにこだわらず色んな楽器が入ってたり、他のボーカリストが歌ってたりっていうのがあるじゃないですか。
坂本 「しびれ」の方は、あれはあれで僕らなりのバンドサウンドなんですけどね。バンドサウンド一発録りをライブの感じとは違うように録るっていう所から始まってて。だから「しびれ」の方は、ゲストもコーラスくらいしか入っていないんで、基本は三人の生演奏ですね。それで、「めまい」の方はあんまりバンドっていうことにこだわらずにゲストを入れて、ボーカルも入れてってやったんですけど。まあ、基本的に自分が歌うより人が歌った方が仕上がりがいいんじゃないかなっていう曲を歌ってもらったって感じですね。
──それはやっぱり、曲を作った段階でこの曲は女性の声の方がいいんじゃないかな、みたいな発想があったんですか。
坂本 そうですね。あとは自分で歌を入れて見たのと比べてみても、やっぱり人が歌った方がよりいいのとか。
──面白いと思ったのは、別の人に歌ってもらってるのに、歌詞は自分視点だったりするじゃないですか。
坂本 ああ。子供が歌ってるやつなんかは、ちっちゃい子が歌詞の内容を理解しないで歌ってるっていう所に面白さがあるんじゃないかなっていう意図はありましたね。
──何歳くらいの子なんですか。
坂本 九歳ですね。
──歌をやってる子なんですか
坂本 いや、普通の小学生なんですけどね。エンジニアの方の娘さんなんですよ。
──全くの普通の子供を連れてきて、歌詞の意味も説明せずに歌わせたと。
坂本 そうですね。でも出来上がってみたら予想以上によかったと思いますよ。
──意味がわからないのに何で歌ってるんだろう、みたいな戸惑いがすごい出てますからね。
坂本 あれを大人の女の人が歌うとね、もっと湿った情念っぽい感じが出ちゃったりもすると思うし。その辺のことって本当に微妙なんですけど、僕らにとっては一番重要なポイントなんですよね。
──他の曲に関してもそうなんですけど、すごい感情がこもっている歌詞であっても、どこか一歩引いた視点っていうのをいつも感じるんですよ。子供に歌わせるっていうことで、その辺がより具体的に表現されてますよね。
坂本 うん、曲には色々な感情が思いっきり込められてるんですけど、歌う方はその中にあんまりのめり込むよりは、ちょっと引いてた方が聴く方としてはいいんじゃないかなっていう考え方なんですよね。
──どちらかというと、一人称というよりは聴く人の視点っていうことですか。
坂本 その方が聴く人は感情移入しやすいんじゃないですかね。あんまり押しつけられるよりは、聴いてる人が自分に当てはめたり、その中に入っていく余白みたいなのが残されてたほうがいいんじゃないかな。
──メッセージは込められてるんだけど、それを押しつけるっていうよりは、「どう思う?」的な感じで投げかけてる感じはしますね。
坂本 そうですね。あとは、説明を飛び越えて同じ感情を伝えたりとかそういう感じかな。まあ、あんまり考えてないんですけどね。
──詞っていうのは大体どういう風に作ってるんですか。
坂本 ギター弾いて歌いながらしっくりくる言葉を探していくっていう感じですね。まず最初に曲のイメージがあって、一番効果 的な言葉を探していくっていう。
──坂本さんの歌詞にはかなり独特の世界観があると思いますけど、それって実体験がもとになって構築されてるものなんですか。
坂本 実体験もあるし、架空の物もあるし両方ですかね。まあ、基本的には日常生活じゃない感じを求めてるんですけどね。日々会ったことを日記みたいにして書くっていうタイプじゃないですから。だから普通 の言葉で日常生活とかそういうことを題材にしてても、できあがったものは非日常みたいな臭いがするっていうのが好きですね。
──日常を自分のフィルターを通して非日常にしていくっていうことですか。
坂本 自分のフィルターってこともないですけど、日常生活がちょっと歪んだり、ちょっとズレてたりっていうのが好きなんですよ
──あと、坂本さんの歌詞には孤独だったり、空虚感、閉塞感っていうのがつねにつきまとっていると思うんですが。
坂本 まあそういうのは根本的にはあると思うんだけど、今回のに関してはそういうのを抱えつつも、そうじゃなくて、みたいな感じはあるんじゃないかなとは思ってるんですけどね。
──もうちょっと前向きなベクトルが加わっていると。
坂本 いわゆる世間一般的な前向きとは違うかもしれないけども。ダラダラ愚痴ってる感じはないですね。あと、わざと後ろ向きなことを言って浸るとか、そういう趣味はないので。つらいことと楽しいことってみんな大体両方抱えてるもんじゃないですか、それをそのまんま両方あるような曲がいいと思いますけどね。当たり前のことなんですけど。まあでも、歌詞には結果 的に「曲にもうひと味」的なものだと思っているんで。
──曲にもうひと味?
坂本 自分らの場合、「伴奏」と「歌」っていう関係じゃないから。その歌詞を伝えるために演奏するっていうんじゃないんですよ。全体のサウンドを含めて何らかの感情を出したいわけで、歌詞って言うのはその一つの要素に過ぎないんですよ。だから歌詞だけですべてを伝える必要はないと思いますね。
──「歌」っていうのもサウンド全体の一要素であって、ある意味インストと歌入りの曲の区別 はないっていう感じなんですか。
坂本 まあ、そうはいっても歌があって歌詞があるっていう音楽が好きなんですけどね。インストとか歌が入ってない音楽っていうのも聴きますけど、自分でやるんだったら歌とかあるヤツをやりたいなっていうのはありますね。
──以前読んだインタビューで、大きな会場でライブをやってもチケット発売してすぐに売り切れちゃったりと大きな反響が来たことに対して「世の中にゆらゆら帝国みたいな音楽を好きな人はそれなりにはいるだろうから、メジャーデビューすることによってそれなりの反響はあると思ってたけど、ここまでとは想像していなかった」っていうようなことを言っているのを読んだことがあるんですけど。未だにチケットが手に入りづらかったりする状況が続いてますが、最近ではその辺はどう考えていますか。
坂本 マニアックな音楽ってわけでもないし、まあわかりやすいことをやってますんで、聴けば好きな人はいるとは思ってましたけどね。ライブで人がいっぱい来てウワーッって、普通 に盛り上がるいわゆる普通のロックバンドとは違うとは思うんですけど、最近のライブでは両方ちゃんとわかってくれてる人が来てるんじゃないかなっていうのはなんとなく感じたりしてるんですけどね。もちろん暴れるのもいいと思うんですけど、それだけで来るんじゃなくて、他の曲も楽しんでくれてるような感じはちょっとしてますね。
──何年か前とはお客さんの感じも変わってきたと。
坂本 正直そこまでよくはわかんないですけど。でもまあ、ちゃんと認識されてきたというか、普通 のライブに人が来て盛り上がるっていうだけじゃなくて、もうちょっと歪んでるとことかも聴いてるっていう感じはありますね。
──ゆらゆら帝国って、ある種今の音楽シーンの中でも独特の存在だと思いますけど、リスナーの側もそういう部分をちゃんと聴いてくれるようになったということですかね。
坂本 う〜ん、まあ自分ら的には別に変わったことをやってる意識は全くなくって、すごいオーソドックスなものをやってるつもりなんですけどね。逆にいまオーソドックスなものをやってる人がいないっていうことなんじゃないですかね。まあ、自分がニューウェーブだとか、その後のグランジだとかヒップホップだとかの音楽とかを全然聴いてないんで、そういうのもあるんだとは思いますけど。
──それは別に天の邪鬼で今の音楽を聴かないっていうことじゃないんですよね。
坂本 サウンドがいまいちしっくりこないんですよね。曲どうこうというんじゃなくて、音の質感というか。一時期ドラムの音とかすごい時代があったじゃないですか、80年代とか90年代の最初の頃とか。あん時はもうそういうのは全く受け付けなかったんで、古いのばっかり聴いてたんですけど。
──その頃ってある意味化学調味料的な音作りっていう感じでしたもんね。インパクトはあるんだけど、もうそれだけでお腹いっぱいみたいな。
坂本 ライブ観に行ってもドラムに全部ゲートかかってたりした時期があったじゃないですか。その頃はそういうのに逆行する気持ちもありましたね。でも割と近頃はなんでもあるから、自分たちの好きな感じの格好いいなっていう音もありますけど。一昔前は本当に聴かなかったですね。
──やっぱりそういう音楽ってすぐに飽きちゃいますからね。
坂本 そうですね、とにかく疲れるんですよね。派手なんだけど、繰り返し聞くのに堪えないんですよ。一回聴いたらもういいかな。
──自分たちのスタンスとしては、基本的にそういうインパクトというよりは素材の力で勝負っていう感じなんですか。
坂本 まあそうとも限らないんだけど。もちろんライブは三人だけでやってるんで、素材しかないですけど、レコーディングはまたちょっとライブとは切り離して考えてる部分もあるんで。やっぱり何度も聴く物だから、ある程度はインパクトとかも考えますけどね。まあそれにしてもやっぱりつぎはぎして作ったような音は好きじゃないですね。
──デジタルでカッチリ編集されたような音楽はってことですか。
坂本 デジタルも使い方によってはいいとは思うんですけどね。それだけだと個人的にはつらかったりしますね。例えば今は機械で、もうどんな音でも出せるじゃないですか。ノイズでも、すごい早弾きでも機械を使えば作れるんだけど、そうやって音を派手にしていけば目立つかっていうとそうではなくて、かえって印象がぼやけていく場合もあるし、あえてスカスカな方がインパクトがある場合もあるわけで。機械がダメとは言わないけど要は最終的に作ってる人がどういう所にもっていくかっていう使い方ですよね。
──まあCDってデジタルで録音されてるものですけど、その中にいかにライブの時のような感情を入れられるかっていうのは勝負ですよね。
坂本 あとはもう曲が本来持ってるものがあるかないかっていうことなんじゃないですかね。いくら感情を込めても曲自体に何も込められた物がなければ弱いんじゃないかな。まずはしっかりとした曲があって、それを題材にしてメンバーがそれぞれやるっていうのがいいんじゃないかなと思ってるんですけどね。自分らの場合、シンプルでガチッとした曲が出来てれば、今のメンバーであれば多少何やっても色々膨らませて行けるんで。
──今回のツアーではシェルターみたいな百人単位のところから、AXみたいな千人単位 の大きな会場までありますが、そういう会場の広さでお客さんの反応に対する感覚って違ったりするものなんですか。
坂本 う〜ん、リキッドルームくらいまではもう変わらなくなりましたけどね。
──ああ、シェルターみたいな所と。
坂本 そう。さすがに野音とかNHKホールとかまで行くと、つかみづらいこともありますけどね。
──それは単純にスタンディングと座席がついているところ、という違いではなくてですか。
坂本 出音のイメージがわかないっていうのがあるんですよね。こっちの演奏してる部分とPAから出てる音の違いっていうのが、あんまりでか過ぎるとイメージ出来なくて、本当に伝わってるんだろうかっていうのがありますね。
──あえてシェルターみたいなところでやるっていうのには、小さいからこそ伝えられるものがあるからっていう意味合いもあるんでしょうか。
坂本 うん、ああいうところはやりやすいですよね、音がダイレクトに来るような気がするんで。もちろん広い所でのライブも楽しいんですけど、そればっかりになってもだし。たまに小さい所でやるっていう今のスタンスはいいと思うんですけどね。まあでもその辺も昔は結構気になったけど、最近はそれほど気にはならなくなってきましたけどね。PAの人とかとの意志の疎通 が出来てくれば、あとは任せておけばいいんだっていうのがわかってきたから。自分がステージでやることをやってれば、外はちゃんとやってくれてるだろうっていう信頼関係みたいなのができてきたんで。
──最後になにか一言ありましたらお願いします。
坂本 今までライブとかに来てくれてた人にとっても、今回のアルバムはライブの印象とはかなり違うと思うんで覚悟して聴いてもらいたいですね。また、アルバムだけ聴いててライブ観たことない人もアルバムとはまた違うんで、そう思っておいて欲しいです。まあそれは両方持ち合わせてるものですから、それが自分らなんです。