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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】藤沼伸一×柴山俊之(2002年6月号)- なにかを生み出すための苦労って、別に苦労じゃない

なにかを生み出すための苦労って、別に苦労じゃない

2002.06.01

あの藤沼伸一が、世代もジャンルも越えた豪華メンバーを集めてもの凄いコラボレーションアルバムを作ってしまった。日本を代表するミュージシャン達による音楽に対する熱き想いのぶつかりあいによって生まれたこのアルバムについて、アルバムにも参加している柴山俊之との対談という形で伺った。(intervier:北村ヂン)

歌がうまくても、メロディーがうまくても、その人が出てないと面白くない

──そもそもこのアルバムを作ろうと思ったきっかけってなんなんですか。

 
藤沼:それは結構前からぼんやりとは考えてたんだけど、自分の好きなアーティストを呼んで、アルバムを作りたいなっていうのが単純にあって。 
 
──自分のソロアルバムを作りたいというのではなく。
 
藤沼:そうだね。贅沢にメンバーを集めて、本当に自分の聴きたい音楽を作ったら面白いかなって。人の金で(笑)。最初はそういう発想だよね。
 
──それから色んな人に声をかけて、実現したと言うことですね。
 
藤沼:今回特に絞ったのはボーカリストだよね、こんな人にこんな歌を歌ってもらいたいっていう。皆リスペクトしてる人だから。年上から年下まで全部。
 
──だからこそ歌詞までまかせて歌ってもらってるわけですよね。 
 
藤沼:そう、詩も全部。皆歌詞を大事にしてる人だから。曲だけ渡してテーマもあんまり与えないで、日本語であればなんでもいいからくらいの注文で。そこでどんなものを作ってくるかなっていうのもあるから。
 
──歌詞が日本語っていうのにはこだわりがあるんですか。
 
藤沼:やっぱり母国語は日本語なわけだしね。
 
柴山:メンツ見ても英語歌えそうな奴いないしな。 
 
藤沼:俺が英語わからないっていうのもあるから。聴いてても歌詞がすり抜けて行っちゃう。 
 
柴山:サウンドみたいになるよね。 
 
藤沼:やっぱり、ちゃんと歌詞が入ってくる方が好きだから。「おっ」て引っかかりがあるような。それで音と歌詞が一緒に入ってくるのが面白いわけで。読む詩と歌詞ってまた違うからね 
 
──そういう意味では今回参加している人たちって普段から日本語で面白い歌詞を書いてる人たちですよね。 
 
藤沼:清志郎さん、町田、泉谷、柴山さんとか…、もうその道の人だからね。
 
──そうやって日本語にこだわりつつもタイトルは英語なのはなんでなんですか。 
 
藤沼:それはいいの、別に。それくらいわかるから(笑)。「Are You JAP?」って「お前日本人?」ってことなんだけど、色んな意味合いにとれるじゃない。「JAP」って日本人を卑下した言葉なんだけど。このアルバムを外人が聴いた時に「こんな面白いものを「JAP」が作ったんだ、ザマーミロ」みたいなのもあるし。偏屈に日本語じゃなきゃダメとか絶対英語がヤダってってわけじゃないんだけど、そういうのを大事にしている人たちが好きだから。 
 
──ジャンルとか音楽とか関係なく、そういう所じゃない部分で選んでるっていう感じはしますね。 
 
藤沼:そうだね。音楽とか関係なく「その人」を選んでるって感じだよね。歌がうまいっていうだけなら他にもっといますもんね。
 
柴山:そうだね。
 
藤沼:歌がうまくても、メロディーがうまくても、その人が出てないと面白くないじゃない。その人がベターって全面 に出てる人が好きなんで 
 
──レコーディングの作業自体はどんな感じでやったんですか。
 
藤沼:スタジオセッションを繰り返して、かえって緊張感がなくなってマイルドになるのもイヤだったんで。デモテープを送って、あとはもう当日スタジオに来てもらってイキナリ録るみたいな感じだよね。
 
──その場のイキオイを重視してって感じで。
 
藤沼:ヘンに完成品になっちゃうのがイヤだったんで。例えば、柴山さんが「ありがたや節」っていうのを持ってきて、最初「なんだそれ!」ってビックリするじゃない。そういうのが面白いんだよね。でもスタジオでリハーサルとかしてたら慣れちゃって、その驚きって薄れて来ちゃうじゃない。だから、いきなりスタジオに来てもらって、歌詞を見せてもらって。何だか解らないけど面白いなっていう感じで皆やりましたね。
 
──柴山さんの「ありがたや節」にしても、あの曲に普通に考えたら絶対つかないタイプの歌詞ですもんね。 
 
柴山:そう? かもね。 
 
──あえて意表をついた歌詞を乗せてみようっていうことなんですか。
 
柴山:いやいや、あそこのリフが合うけん「ありがたや節」っていう言葉に。昔、守屋浩かなんかが「ありがたや節」って、まあ全然違う曲なんだけど歌ってて、それが結構好きでさ。「ありがたや節」っていう言葉をいつか使いたいなと思ってたんだけど、たまたま伸一が作ってきた曲を聴いたら、これ合うなって。 
 
藤沼:最初にそこのテーマが出来たんですか 
 
柴山:うん。まあテーマって程のもんでもないけど、元々使いたかったフレーズやったけんさ。特に俺の範囲内ではできるだけポップになるようになるようにというのは考えてたから。なんか小難しくなったりせんように。もう、本当にわかりやすく。その言葉だけでわかるように歌詞を選んだけどね。この言葉が見つかっていい風にはまったんじゃないかな。
 
──すごいインパクトはありますよね。
 
藤沼:ミスマッチっていうか。「ありがたや節」って言葉がこの曲に乗るの? とか思っても、いいと思えばやっちゃえばいいんだよ。なんか物作る上で、ちっちゃくまとまっちゃうのって、何か暗黙のマニュアルに向かってるんじゃないかな。それが色んな事をつまらなくしてると思うんだけど。
 
柴山:大体、曲があって歌詞をつけるじゃない。まあ今回もそういう方法だったんだけど。それでジグソーパズルみたに言葉を安易にはめ込んでいっちゃうと、言葉が埋まり込んでしまうんだよ。結局聴きよううちにさ、その中に言葉をはめ込んでいく作業になってしまう。そうやって作っていくと歌ってても歌詞がサウンドの中に埋まり込んでしまうんだよ。 
 
──音に言葉を乗せただけになってしまうってことですか。 
 
柴山:「乗せた」というより「はめ込んだ」だね。乗せればちゃんと言葉も浮いてくるしさ。浮かせる部分は浮くし、潜り込む部分は潜り込んでって立体的になってくるのが、はめ込んでしまうと、特にああいうガーッて行くような曲だと言葉までもサウンドの一部みたいになってしまう、英語でも別 によくなってしまうんだよね。だけん、よかったよ、あの言葉がみつかってさ。見つかんなかったらもうお手上げだったかもしれん。 
 
藤沼:最初はびっくりしたけどね。 柴山 いやがるやろうねーとは思っとったけどね。 
 
──今回のアルバムって藤沼さんの曲を素材にしてそれぞれアーティストが競作、みたいな意味もありますよね。 
 
柴山そうだね。 
 
藤沼:まあそれぞれ皆あるんじゃないかな。現場でそういう感じはしたからね。 
 
──他の奴らには負けたくない、みたいな感じが。
 
柴山:最初の入り口としてはもちろん伸一から頼まれたんだから、伸一のためになんとかしなきゃっていうのがあったんだけど。段々そういう状態じゃなくなってくるけんさ。結局俺自身の問題になってくるけんさ。自分で歌うわけだから。「伸一が満足してくれるやろ」とか、そういうのだけじゃどうにもならんからね。 
 
藤沼:そういうもんだからね、物を表現することっていうのは。最終的にジャッジ下すのは自分だからね。人から文句言われようが、これは作るっていうような。
 
──今回参加した人たちはものを作る姿勢自体にリスペクトできる人たちですよね。 
 
藤沼:そうだね、それは音楽以外の部分でもそうだからね。 
 
柴山:結局そうだよね、自分の存在がそこに居ないとね。伸一のアルバムであっても、俺が歌いよう場所は俺の存在がないとさ、やったって意味がないよね。
 
──あくまでサポートではないと。 
 
柴山:はっきり言えば、その曲は俺がメインだと思ってるから。もっと言ったらこのアルバムも俺でもってるかもしれんとかさ。皆そう思ってるよ。 
 
藤沼:「ゲスト」みたいな扱いってすごいイヤでさ。いわゆる、俺の為に集まってもらって、俺が作った曲をそのままなぞってみたいなのは薄気味悪いのね。さっき言ってた「俺が気に入る様に」とかやられても最悪じゃん。いっぱいゲスト呼んで作ったアルバムってそういう匂いがしてるのが多い様な気するのね。
 
柴山:大体そうだよね。もの凄く汚い言い方したら、日雇い人夫みたいな人が多いのよ。その時だけ演奏して、小銭もらってさよならみたいな。安易な考え方をすれば、責任とらんでも済むわけじゃない、伸一が責任とればいいんであってさ。適当に詩を書いてさ、適当に歌ってさ、まあそれなりのことをとりあえずしとけばそれで済んだりもするわけじゃん。レコーディングって大体そういうのの方が多いけんね。段々ミュージシャン自体がそうなっちゃったんだよね。ライブにしてもいつも負けない様に頑張ろうと、詩を書くにしても、ステージで歌うにしても、その時一番じゃないとイヤだっていう人間があんまりおらんようになっててさ。まあ、俺にとっては幸いだけどね、そういう人がおらんほうが。他の人は他の人だからね。俺はいつでも俺、どこにおっても俺。変えることもないし、手を抜くこともない。
 
藤沼:そして、そういう風に作られたものってやっぱ引っかかるんだよね。音にしても、文章にしても。そういうのが俺は好きだから、本当に。今回そういう人たちをバーッて集めて作ったんだけど、絶対これ面白いぜって思うよ。
 
柴山:それはそうだよね。
 
──やる側が本気でやってないと伝わってこないですからね。 
 
藤沼:それはもう根本的なことだよ。さっき言ったようにジャッジを下すのは自分だっていうのは物を作る上での宿命だからね。人から「いい」って言われてどんなに売れたとしても3年くらいたってから「うわー恥ずかしい」とか思うものを作ってもしょうがないじゃない。人が最悪っていっても「イヤ、バカヤロー」わかんないのかよって出した方が俺は面 白いから。 
 
柴山:本人を前にしたらたいがい褒めるけんね。だから自分でジャッジ下さないとわかんなくなっちゃうよね。あとは、歌詞でもなんでもそうだけど、結局は歌う人で決まるわけだからね。ギターだって弾くだけだったら練習すれば誰でも弾けるんだからね。それから先の事が問題でさ。 
 
──楽譜を見て音も正確に、リズムも正確にって弾ける人いっぱいいるけど、そこになにもなければ、それを聴いても何も感じないでしょうしね。 
 
藤沼:だから今回はそういうんじゃない人たちを集めて作ったからね。
 
柴山:その面では今回伸一は面白かっただろうし、大変だったろうなって思うけどもね。
 
──やっぱり藤沼さんもそういう人たちに参加してもらうってことで逆にプレッシャーもありますよね。
 
藤沼:それはそうなんだけど、それが面白いんじゃん。苦しかったり悩んだりって事自体も、ドキッとする曲を作りたいとかいうことの付属品だからさ。なにかを生み出すための苦労って、別に苦労じゃないからね。終わってみればなんだけど、全部面白かったよ。
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