2001年の夏は過去に例のないほど多くの野外フェスが行われた。野外ライブが大好きなIn the Soupも当然のことながらたくさんのイベントに参加し、初めてIn the Soupを観るお客さんにも強烈な印象を与えていった。この勢いのまま9月には2ndアルバムをリリース、そして10月には初の日比谷野音ワンマンに臨む。
日本中が一息ついているお盆の午後、4人にお話を伺った。[interview:加藤梅造]
音楽は自由だ。でも、目の前に座るなー!
吉田:今年の夏のイベントはすごかったですよ。特に小岩井ロックファームは山の中で羊とか沢山いて、そこに2万人が集まってた。
──岩手で2万人っていうのはちょっと凄いかもしれないですね。
吉田:東京の2万人とはかなり違うよね。最初は雨の予報だったのに、僕らがリハーサル始めたとたん雲間から太陽が出てきて、気持ちも盛り上がりました。
──小岩井は、お客さんの層を考えるとIn the Soupを知らない人が多かったんじゃないですか?
八谷:俺らの番がスガシカオの後だったんだけど、やっぱ出てった時の声援は少なかったね。前の方とか座っとるし。
吉田:で、諭介 が「音楽は自由だ。だから自由に観ていい。でも…、目の前に座るなー!!」ってやったんだよね。その後は盛り上がった(笑)。
諭介:最後まで立たん奴おったけどな(笑)。
吉田:でも俺たちのこと知らない人がたくさんいる方が燃えるね。
──今年の夏は特に野外フェスが多かったですね。
吉田:In the Soupの最初の頃、『ウッドストック』のビデオ観ながら「こういうのいいなあ」って言ってたんだよね。
──いいですよね。ああいう60年代的なものに思い入れってありますか?
吉田:いや、特には。生まれてなかったし(笑)。
──もちろん僕も体験してないけど、ああいうLOVE&PEACEな雰囲気になぜかすごく惹かれるんですよね。
吉田:ああ、フジロックのヘブン(FIELD OF HEAVEN)なんかはそういう楽しみ方をしてる人が多いんじゃないかな。出るバンドも。レイヴパーティーみたいな感じで。
──レイヴって匿名性の音楽じゃないですか。パフォーマーと観客の境がないというか。僕はそういう所にLOVE&PEACEを感じるんです。で、In the SoupもLOVE&PEACEなバンドだと僕は勝手に決めてるんですが。
八谷:別にLOVE&PEACEを目指しているわけじゃないけど、自然とそういう感じになってるよね。
吉田:今度やる代々木公園のライブ(8/28)はそんな雰囲気になるかもしれないね。
キーワードは「火花」
──ライブをやってるイメージの強いIn the Soupですが、そうこうしてる間に2ndアルバム『火花浪漫』ができましたね。ちなみにタイトルの由来は?
吉田:アルバムができる前に、日比谷野音(10/6)のワンマンライブのタイトルが「嗚呼、火花浪漫」って決まってて、そこからとった。
八谷:「火花」っていうのがキーワードだね。
諭介:そういえば今年は花火をよく見た気がするよね。
──CDで聴くと当然のことだけど、ライブとは違うアレンジの緻密さがわかっていいですね。
諭介:どのへんがそう思いました?
──『檸檬』とか、あと『涙の音』とか。意外とテクニシャンですよね。
一同:(爆笑)
吉田:まあ、今回は諭介もギターソロ弾いてるし。
諭介:テクニックには気を使って。
草場:すごいですよ。半音ズレてまた元に戻るところが(笑)。
諭介:まあ音楽用語で言うと「間違ってる」んだけど。
吉田:今回はアレンジを上田ケンジさんにお願いしたんで、緻密な部分は上田さんの影響が大きいと思いますよ。
──単なるイメージですが、In the Soupってあまり苦労せずに曲をバンバン作ってく感じがするんです。まあ実際は苦労してるんだろうけど。
八谷:諭介の詞の方が苦労してるんじゃない?
諭介:まあ、『東京野球』の時に比べたらかるくできましたね。
──曲のテーマを決めるのと細かいフレーズを考えるのとどちらが難しいですか?
諭介:どっちもですけど、テーマを決めるのはわりと好きですね。それをまとめていくのがどうも苦手みたいで。
──たとえば『檸檬』のような詞って内面的にきつそうな感じが伝わりますよね。まあ、曲の内容と作者とはイコールじゃないのかもしれないけど。
諭介:曲の中には自分とは全く違うものを想像で書くものもあるし、その方がやりやすいような気もするし。でも、さっき言われたレイヴの匿名性みたいな部分と、曲イコール自分自身みたいな部分、その両方があるのがおもしろいと思うんです。
──それはバンドって部分が大きいんじゃないでしょうか。諭介さんがソロでやってたら自分自身の痛々しさみたいなのがもっと出てくるのかなって。
諭介:そうなったら世の中からほっとかれるでしょうね(笑)。
──そういえば、諭介さんはIn the Soupを組む前はソロミュージシャンにこだわってたんでしたよね?
諭介:こだわってないですよ。フォーク喫茶とかで歌ってたりしたけど、そんなに音楽をやるんだって感じはなかったから。
──役者もやってたんでしたっけ。
諭介:まあ、ボヤボヤしてましたね。
──迷ってたんですか。
諭介:好きなことをやってたから、類は友を呼ぶみたいな感じでやってければいいかなあって。
──特定の彼女を作りたくないみたいな?
諭介:そういう願望は今でもありますね(笑)。
吉田:あらら(笑)。
──ひと所に定住できないタイプなんですね。
諭介:田舎に住めば都会に憧れるし、都会にいれば田舎に行きたくなるし…、あまのじゃくって言うんでしょうね、音楽用語で言うと(笑)。
──新譜に入ってる『やくざのおっちゃん』の中に、昔の諭介さんが「いつかビッグになる」って言うくだりがありますが、当時本当にそう言ってたんですか?
諭介:うん、なんかわからんけど国際俳優になるとかフォークシンガーになるとか、とにかくビッグになるっていうのがキーワードやったね。特に田舎から東京に行く時は。東京には負けねえぞって。
──ほとんど「成り上がり」の世界ですね。
諭介:ああ、俺も読んでたな。
ジョーが生きてたらどんなふうになってたのかな?
──今年も名古屋の24時間テレビに出るんですよね。
吉田:2年連続で黄色いTシャツを着るとは思わなかったな。今年はアコースティックセットで岐阜に行ったり三重に行ったりして最後に名古屋で『遙かな光』をみんなで歌うんです。サライみたいに(笑)。まあ、普段音楽を聴かないような人が観にくるのがおもしろいですね。
──僕は昔24時間テレビの募金会場を手伝ったことあるんですが、最初はハスに構えてたのが、子供が貯金箱を持って来たりするとやっぱり感動するんですよね。
吉田:俺も昔一円玉ためてたよ。家族で。
諭介:昔、中華料理屋のテレビでたまたま24時間テレビ観てたら、ちょうど寛平ちゃんが走ってる所で、ずっと観よったらなんか感動してくるじゃないですか。その時、隣に座ってたサーファーっぽい軍団が「こんなんヤラセだよ」って言ってたの。それ聞いてあんまり気持ちがよくないなあと思ったから思わず「ここでがんばってる人がいるんだからいいじゃないか」って文句いったのね。キョトンとされたけど(笑)。 たとえ売名行為だとしても一生懸命やってるその瞬間に言わんでもいいじゃんって思った。
──まあ、24時間テレビがいいか悪いかは別にして、ボランティア活動自体はこれから非常に大切なことだと思うんです。特に環境問題とか考えると、自分の事だけ考えてればいい時代は終わったと思うんですよね。
諭介:そんな感じしますね、すごく。今ちょうど「あしたのジョー」を読んでるんだけど、今の時代こういうのは流行らんだろうなって感じはなんとなくしてる。ロックフェスティバルみたいなのが増えてるのも自然な現象だと思うし。一極集中でガーっといってしまうことに対する畏れみたいなのがありますね。
──「あしたのジョー」的な大人にならないでパっと散る、それこそ花火のような生き方は確かに憧れるものではありますが。
諭介:あの続きが見てみたいですね。僕今28じゃないですか。だから分岐点っていうか、いつまでもジョーみたいではいられないっていうか。ジョーが生きてたらどんなふうになってたのかなって興味がありますね。ドヤ街で飲んだくれてるのかな?