2010年下半期、個人的に一番聴いたCDがこれ。ジャズを基調にしながら、ブレイクビーツ、アンビエント、エレクトロニカ、ハウスなどの手法を渾然一体にした全く新しいポップミュージックだ。特筆すべきは、楽曲に詰め込まれた情報量の多さ。映画音楽のように芳醇でドリーミーで、ストーリー性に満ちたメロディを奏でながらも、貪欲に積み重なっていく音のレイヤーと挑戦的な展開が、単なるBGMとして聞き流すことを許さない。ちなみにSerphは、東京郊外に住む20代男性のソロプロジェクト。2009年にファーストアルバム『accidental tourist』をリリースしたときには、まだピアノと作曲をはじめて3年しか経っていなかったのだとか。分かり易い経歴もなければ、耳目を集める舞台裏も用意されていない。誰も予想しなかったところに突如として現れた、突然変異種なのである。──こんな出会いがあるから、音楽って面白い。(前川誠)