今年も12月8日がやって来る。あの忌まわしい12月8日が。しかも、今年は没後30年・生誕70年というキリの良い節目らしく、聴き慣れぬ『(JUST LIKE) STARTING OVER』(“ストリップド・ダウン・ヴァージョン”と言うらしい)やビートルズ・ナンバーがラジオから今もよく流れている。歴史にifはないと言うけれど、もしあの時ジョンが凶弾に倒れていなかったら…と妄想を逞しくしたことのあるビートルズ・ファンは世界中に山ほどいるだろう。新しい音楽の波に自らどっぷり浸かって面白い企みを多々仕掛けただろう。少なくとも、遺族やレコード会社が手を変え品を変え粗製濫造するリマスター盤やらBOXやら愛のない商品が世に出ることはなかったはずだ。やれ生誕だの没後だの結成だのと某かにかこつけて乱発される名前ばかりのトリビュート・アルバム(それに付随するDREAMなんちゃらとか言うライヴも然り)も、知名度のあるミュージシャンを掻き集めた政治力ばかりが目につき、体良く代表曲を唄わせるだけの安直な作りだ。それがまたある程度売れてしまうのが苛立つ。かく言う僕とてそんなモンキー・ビジネスに与する端くれだし、権利者がどんな商売をしようと勝手だけれど、せめて愛情は惜しみなく注いだものを作りましょうよ、と言いたい。相手は他でもない、ジョン・レノンなんだからさ。
その点、TIMESLIPの近藤金吾がプロデュースしたトリビュート・アルバム『#9 DREAM』は参加ミュージシャンのジョンに対するピュアな愛情に満ちた、本来の意味での純真なトリビュート作品と言える。近藤を始め、宙也(De+LAX)、PLECTRUM、酒井ミキオ、ka.lei.do.scope、サクマツトム(HUCKLEBERRY FINN)、下石奈緒美、声音人 石田匠(ex. The Kaleidoscope)、松本タカヒロ(ザ・タートルズ)、ukishizumiらが参加したこのアルバムがユニークなのは、“ジョン・レノンを救いたい”という思いを込めながら各自書き下ろしたオリジナル・ナンバーが全体の2/3を占めていることだ。随所に近藤と宙也による『JEALOUS GUY』やTIMESLIPによる『NOWHERE MAN』など興味深いカヴァーも挿入されているが、『ACROSS THE UNIVERSE』と『HAPPY XMAS (WAR IS OVER)』は参加ミュージシャンのマイク・リレー形式という一手間掛けた趣向が織り成されている。安易にカヴァーに走らずに独創的な楽曲を生み出す心意気はまず評価されるべきだし、ジョンを通じて結果的に己を唄うことになるオリジナル・ナンバーのクオリティがどれも高いことに正直驚かされた。皆一様に溢れんばかりのジョンへの熱い思いをビートリーに凝縮しているし、本作を取りまとめた近藤の手腕(とジョンへの愛情)には舌を巻いた。リリー・フランキーによる愛情の籠もった描き下ろしイラストのジャケットを含め、トリビュート・アルバムのお手本のような作品だ。続編も是非期待したい。(Rooftop編集局長:椎名宗之)
V.A. / #9 DREAM
2010.11.01 MUSIC | CD