数々のアーティスト・プロデュースをこなすヤマダタツヤを筆頭に、菊地成孔との共著や相対性理論とのコラボでも知られる論評家/音楽家・大谷能生、孤高のポストロック・バンドsgt.のバイオリニスト成井幹子……などなど一癖どころか二百癖も三百癖もありそうなメンバーからなるグループ、MAS。奏でるのは緻密で骨太なジャズ・エレクトロ・ダブ。プッ……、と切れる直前まで張りつめた絹糸のごとき緊張感みなぎる演奏は、まさにこのメンバーだからこそ成し得た技である。でも、そんなこんなから連想される高偏差値な音楽選民のためのインテリミュージックかと思いきや、楽曲をリードするドラマティックな起承転結と肉感的なメロディーが絶妙にポップで、つまりザックリ言ってしまえば“聴き易い”。かと言って、カフェor雑貨屋のBGMや「もうロックは終わったよね」なんてぬかすしたり顔の元バンドマン(家具はフランフランで買いそろえました)が小手先で奏でるような、オシャレクトロ(オシャレな腐れエレクトロ)にありがちな空っぽ感はみじんもなく、もっと壮絶で、計算高く練り込まれた音像を、にじむ汗くささと共に具現化する。音の1つひとつに必然性があり、細部に至るまで計算が張り巡らされていながらも、自由に音を奏でる喜びに満ちあふれている。そんな、高密度な音楽体験を味わえる9曲を収録した、鳥肌必至陶酔確実のサードアルバム。(前川誠)