本作は橋本淳&筒美京平、小林亜星、なかにし礼&井上大輔(忠夫)、阿久悠&三木たかし、平岡精二といった昭和の歌謡史に燦然と輝く作家たちが残したマニアックかつカルトな名曲(一部“迷”曲あり)の数々をキノコホテルならではの視点で取り上げ、原曲を独自の色に染め上げたカヴァー・アルバムということになるのだが、この“カヴァー”という言葉がどうもしっくり来ない。原曲を遙かに凌ぐアレンジ能力の才、記名性の高い歌唱法と凄味ある演奏力を持ってすればどんな楽曲でもキノコホテルの刻印が施されるからだ。それ以前に、それがカヴァーだろうがオリジナルだろうがどうだっていい。ただ純粋にいい歌を聴ければそれで充分なのだから。かく言う僕も、本作の収録曲の中でその存在を知っていたのは『真夜中のエンジェル・ベイビー』の近田春夫&ハルヲフォンによるカヴァー・ヴァージョンしかない(オリジナルは平山三紀)。だが、オリジナルと見紛うばかりのマリアンヌ東雲支配人の妖艶な歌声にうっとりできれば他に何も要らない。歌声と言えば、衝撃のデビュー・アルバムから僅か半年で支配人の歌心が格段に増したことを書き添えておきたい。特に3曲目の『恋は気分なの』。胸を焦がすサビのメロディもクセになるが、支配人自身による多重コーラス録音はそれ以上に中毒性が高く、これぞまさに支配人の独擅場、マリアンヌ劇場の真骨頂と言えると思う。彼女たちを色眼鏡で見る人ほど騙されたと思って耳を傾けて欲しい、もうひとつのオリジナル・アルバムである。
(Rooftop編集局長:椎名宗之)