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トップレビューbedside yoshino / bedside yoshino #4

bedside yoshino / bedside yoshino #4

2010.04.01   MUSIC | CD

PNK1001-281 2,000yen (tax in) / IN STORES NOW

5年前のちょうど今の時期、オープンから数ヶ月後のネイキッドロフトでbedside yoshino(以下、bsy)の初のソロ・ライヴ“outside yoshino #1”を企画した。『夜更けのステップ』や『デクノボーさん』といったbsyの楽曲を筆頭に、観客のリクエストに応えてeastern youthの楽曲を披露したり、アン・ルイスの『グッド・バイ・マイ・ラブ』や小谷美紗子の『眠りのうた』といったカヴァー曲を気の向くままに唄ってみたりと、eastern youthとはまた趣きの異なるアットホームなライヴで、実に味わい深いものだった。その時に会場内で売られていたのが『bsy #1』で、吉野自身が1枚1枚丁寧に焼いたCD-Rの盤面にはハンコが押され、ジャケットは水に濡れたら滲みそうなインクジェット・プリントだった。その後、『bsy』は“#2”、“#3”と回を追うにつれCD-RからCDプレスとなり、インクジェットは紙ジャケットとなったが、ごく限られた店舗とソロ公演の会場でのみひっそりと販売されることは変わらなかった。これは“手作り、手渡し”を標榜する吉野の一貫した姿勢ゆえであり、bsy自体が自宅の六畳間から生まれた手作りの結晶であるからに他ならない。生の実感を歌として形に残すことで社会との関わりを持つ吉野 寿のパーソナリティが色濃く表出したbsyの楽曲には、どれも得も言われぬ温かみと音楽に対する迸る情熱、自身を際限まで見つめる厳しさみたいなものが共存している。その辺に転がっているパーツを繋ぎ合わせるのではなく、ネジ一本から自分の手であくせくこしらえているような心尽くしの感覚が堪らなく良い。地ビールならぬ地吉野を存分に堪能できるのである。

 そんな杉並区天沼産のミニマムな小品が“#4”の発売と同時に全国へ流通されることになった。昨年9月、心筋梗塞で倒れた吉野が療養中にせっせと録り溜めた全14曲を収めた“#4”、僕にとっては毎晩のキッチンドリンクに欠かせない大事なアテなのである。三途の川を渡り損ね、地獄からの生還を果たした男が鬼気迫る歌声で張り叫ぶ『朝に生まれて夜に死ぬ』や『有象無象クソクラエ』の凄味にもシビレるが、『静かなる隣人』や『ズンズン歩いて、これでいいのだ』といった穏やかな表情を称えた歌やインストもまた良い。ロックステディっぽいインストの『lonesome skinhead』を聴くと、阿佐谷の焼鳥屋で話を訊いた『THIS IS ENGLAND』という映画のことを思い出したりもする。『グローイングアップ俺達』のぶっきらぼうだが温和な眼差しや『hang around 杉並』の胸が締めつけられるメロディに落涙することもある。五感をフル稼動させて窓の向こうの微弱な電波を受け止め、全身全霊で剥き出しの自分を無比の歌として昇華させること。そんな吉野の所作はバンドでもソロでも変わらないが、bsyではバンド形態以上に吉野の血肉を感じる。誰かに声高に広めたいけど自分のものだけにしておきたい気もする、くつろげる隠れ家のような音楽である。(Rooftop編集長:椎名宗之)
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