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トップレビュー嘘の中から真実を見つけ出す。嘘だからこそ真実が言える。売れない俳優が"仮"の役割を演じる仕事と向き合う『レンタル・ファミリー』は優しくて切なく、ノスタルジックでユーモラスな物語

嘘の中から真実を見つけ出す。嘘だからこそ真実が言える。売れない俳優が"仮"の役割を演じる仕事と向き合う『レンタル・ファミリー』は優しくて切なく、ノスタルジックでユーモラスな物語

2026.02.26   CULTURE | CD

映画『レンタル・ファミリー』

【監督】HIKARI(『37セカンズ』『TOKYO VICE』『Beef/ビーフ』)
【出演】ブレンダン・フレイザー、平 岳大、山本真理、柄本 明、ゴーマン シャノン 眞陽 ほか
【配給】ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
【劇場公開日】2026年2月27日(金)公開

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 大阪に生まれ10代で単身渡米。アメリカを拠点に活動するHIKARI監督。長編デビュー作である、出産時に37秒間息をしていなかったため脳性麻痺となった女性の葛藤と自立、新たな世界との出会いを描いた『37セカンズ』(2019年)で注目を集めた。そして本作、日本を舞台にアメリカ人の売れない俳優の中年男性が主人公の『レンタル・ファミリー』が公開。長編としては2作目である。
 
 主人公のフィリップを演じるのは『ザ・ホエール』(2022年)でオスカー俳優となったブレンダン・フレイザー。フィリップは日本に移住して7年、東京で暮らすアメリカ人の売れない俳優。スーパーマンもどきに扮した歯磨きのCMが一番の当たり役だ。大きな体には狭すぎるアパートで節約の日々。異国の生活の生きづらさは尚更だろう。ベランダから外を見ると向かいのアパートのいくつもの窓から人々の生活が見える。いろんな人が生活している。この景色がいい。ヒッチコックの往年の名作『裏窓』のオマージュかもしれない。『裏窓』のこの場面は(これから殺人事件が起きるとしても)キラキラと美しかった。アレ? ちょっと待てよ。この現代社会でいくら上階だとしても窓を開け放ち部屋の中を丸見えにする? 防犯対策は大丈夫? ちょっとロマンティックすぎないか? だけど程なくして気づいた。それでいい、それがいいのだと。
 

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 急な仕事の連絡を受けたフィリップ。「黒のスーツを着て急いで行ってくれ」と着いた場所は葬儀場。参列者に扮してほしいという依頼だ。依頼したのは棺に横たわっている葬儀の主。人が集まり自分の話をしてほしくて生前葬を行なった、葬儀をレンタルしたのだ。これを請け負ったのがレンタル・ファミリー社。フィリップはこの会社にスカウトされる。孤独な人の話し相手になってほしい、浮気がバレたので浮気相手に扮して罪をかぶってほしい、などなど。確かに俳優の経験は役に立つかもしれないが嘘をつき人を騙すことなどしたくない。気が進まないが生活は苦しい。フィリップは渋々レンタル・ファミリー社で働き始める。
 
 ある日、結婚式で新郎に扮してほしいと新婦から依頼が来る。両親と離れるため、外国人と結婚して彼の国で暮らす設定なのでフィリップは適役だと。娘を愛し、結婚して外国で暮らすことを喜ぶ両親。両親を騙したくない、自分には無理と逃げ出すフィリップ。レンタル・ファミリー社のキリリとした同僚、山本真理演じる愛子に説き伏せられ新郎を演じ切る。そして結婚式が終わり、新婦が両親と離れたい理由を知る。自分の道を進むため、幸せになっていくためについた嘘だった。フィリップはレンタル・ファミリーという仕事は、幸せになるためのスタートになり得る仕事なのではないかと思い始める。
 

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 大きな仕事が入る。娘の中学校の入学試験の面接のため、父親に扮してほしいとシングル・マザーからの依頼。娘にも本当の父親と思わせるため、面接当日だけではなく時間をかけて娘と会ってほしいと。もう一件、かつての大物俳優である柄本明演じる長谷川喜久雄の娘からの依頼で、忘れられつつある老俳優の父親が自信を取り戻すよう、父親の伝記を書きたいという外国人記者になってくれと。こちらの仕事も長丁場だ。未来に向かう子ども、終末が近づく老人。二つの家族と向き合うことになったフィリップ。嘘をつけないタイプのフィリップが、嘘を演じながら、子どもと老人に正直に必死に向き合っていく。
 

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 娘を有名校に入学させたいシングル・マザーは仕事がバリバリできるように見える。だけど暮らす部屋は二人で暮らすのに丁度いい広さ、いや狭さで生活感が微笑ましくも、女性が働く厳しさを感じる。いつも強気で人の孤独をビジネスにする平岳大演じるレンタル・ファミリー社のオーナーの心の中も複雑だ。異国で暮らすフィリップだけではなく、みんなそれぞれに生きづらさを感じながらも必死になって生きている。背景には厳しい社会があるのだが、描かれるのは、優しくて切なくて、ノスタルジックでユーモラスな物語。
 

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 オールロケの東京の街が、老俳優の喜久雄の故郷の天草の景色が、とても美しい。まるで人々の心情を肯定するように感じる。東京の雑踏さえも優しいし。向かいのアパートのいくつもの窓が開け放たれ人々の暮らしが見えるのも、嘘っぽいけど、だからいい。嘘の中から真実を見つけ出していく。嘘だからこそ真実が言える。そういうことって確かにある。
 

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 アメリカで暮らすHIKARI監督だからこそ見えた日本の景色なのかもしれない。見逃していたもの、忘れていたものを、「ここにあるよ」って教えてもらった気がした。(Text:遠藤妙子|@TaekoEndo
 

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