映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』
【原題】A REAL PAIN
【監督・脚本】ジェシー・アイゼンバーグ(『僕らが世界と交わるまで』)
【出演】ジェシー・アイゼンバーグ(『ソーシャル・ネットワーク』『ゾンビランド』)、キーラン・カルキン(「メディア王〜華麗なる一族〜』『スコット・ピルグリムVS.ザ・ワールド』)、ウィル・シャープ(「Giri/Haji」)、ジェニファー・グレイ(『ダーティ・ダンシング』『ある朝フェリスは突然に』)
【配給】ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
【映倫】PG12
【北米公開】2024年11月1日
【日本公開】2025年1月31日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
監督・脚本・主演がジェシー・アイゼンバーグ、もう一人の主演がキーラン・カルキン。キーラン・カルキンはゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞(アカデミー賞もとってほしい!)。助演男優賞だけどW主演と言っていい。『リアル・ペイン~心の旅~』はジェシー・アイゼンバーグとキーラン・カルキンの掛け合いがコミカルでスリリングで楽しく、また二人の揺れ動く感情が伝わってくる。かつてナチスに迫害されたポーランドの第二次世界大戦の傷跡を辿る旅の物語なのに、思わず笑ってしまう場面も多い。笑ってしまうのだけどジンワリと心に沁みていく。
子どもの頃は兄弟みたいに同じ時を過ごしていたけどだんだんと疎遠になっていった従兄弟の二人、アイゼンバーグ演じるデヴィッドとカルキン演じるベンジー。二人は、「自分のルーツを二人で見てきなさい」と遺言を残して亡くなった最愛の祖母の言葉通り、彼女が幼い頃に暮らしナチスに迫害されたポーランドの、第二次世界大戦史跡ツアーに参加、久し振りに再会する。アメリカに住む二人は飛行場で待ち合わせるのだが、「ちゃんと起きて飛行場に向かってるかい?」って感じに何度も何度もスマホにメッセージを入れるデヴィッド。メッセージを無視し飛行場でデヴィッドを驚かせ、オマケに「極上のハッパを調達したぜ」と言い税関も上手く切り抜けるベンジー。神経質で真面目なデヴィッド、明るく要領がいいベンジー。デヴィッドはブルックリンに妻と子どもと住みIT関係の仕事をし、幸せに暮らしている。ベンジーは定職に就かず自由な暮らしをしているようだ。性格も生活も正反対だ。
アメリカからポーランドへ、ポーランドでの第二次世界大戦史跡ツアー。ユダヤ系ではあるが二人には未知の世界への旅だ。このツアーには二人の他にガイドのジェームズと、それぞれ思いを抱えた参加者が4人。ツアーのコースはナチスドイツ占領軍に立ち向かったワルシャワ市民の勇気を讃えるワルシャワ蜂起記念碑、森の中のユダヤ人の墓地、残された多くの靴が印象的なマイダネク(ルブリン強制収容所)など。数日間を共に旅する。明るく人懐っこいが先を読まないし空気も読まないベンジーは、ワルシャワ蜂起記念碑の前で「勇敢に戦った兵士の気持ちになれるぞ!」とか言って銃を構えた兵士の銅像の真似をする。「おいおい、何やってるんだよ」と思い「すみません」とみんなに取り繕うデヴィッド。デヴィッドは空気をメチャメチャ読むタイプ。ツアーのメンバーはベンジーに振り回されイラッとさせられるがどんどん魅力に取りつかれていく。いつしかベンジーのペースだ。デヴィッドはベンジーをしょうもないと思いながら嫉妬と羨望が沸き上がる。ガイドのジェームズはデヴィッドとちょっと似た真面目な人物。ユダヤ人ではないがナチスによるホロコーストをきちんと勉強し説明、参加メンバーたちの気持ちも尊重しようと努めている。教科書をちゃんと読むタイプだ。ジェームズが組んだ予定を崩すベンジー。マナー違反のベンジーにムカつくが、教科書通りの自分のやり方を反省しベンジーを称賛。
ベンジーとデヴィッド、ツアーのメンバーたちが微妙な距離感で笑い合ったり揉めたりしながら珍道中は続くのだが、その背景にあるのがナチスによるホロコーストっていうのがなかなか凄い。コメディっぽくしていいのか? って思う重いテーマが横たわっているのだから。でも、いいのだ。悲しく残酷な歴史の事実と、現代の人間の哀しく生きづらく、でも愛しい人生が、だんだんと絡まっていく。
自身のルーツを辿る旅で時に感情を持て余し爆発させるベンジー。感情を曝け出すベンジーを見て、自分自身を見つめ直すデヴィッド。デヴィッドのキャラは受け身でストーリーテラー的な存在で、何をするかわからないベンジーに対してや旅の様子の正直な心情は、ベンジーよりむしろデヴィッドのほうが出ている。で、感情豊かなベンジーだが、いくつも張られていた伏線が最後の最後に繋がっていき、彼の日常や人生をチラリと感じさせる。
旅の終わりに二人は何を掴めた? 掴めなかった?
実際にユダヤ系アメリカ人であるアイゼンバーグの脚本が素晴らしい。
そして全編に、ポーランド出身の音楽家ショパンの荘厳だったり軽快だったりするピアノ曲が、美しく流れていく。(Text:遠藤妙子)