映画『バティモン5 望まれざる者』
【監督・脚本】ラジ・リ(『レ・ミゼラブル』)
【出演】アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ、アリストート・ルインドゥラ、スティーヴ・ティアンチュー、オレリア・プティ、ジャンヌ・バリバール
2023年/フランス・ベルギー/シネマスコープ/105分/カラー/仏語・英語・亜語/5.1ch
【原題】BÂTIMENT 5 【字幕翻訳】宮坂愛 【映倫区分】G
【配給】STAR CHANNEL MOVIES【後援】在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
© SRAB FILMS - LYLY FILMS - FRANCE 2 CINÉMA - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023
5月24日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
『バティモン5 望まれざる者』の“バティモン5”とは、パリ郊外の再開発対象エリアの10階建て居住地の通称。そこに住む人たちを追い出したい行政と住人たちの対立を描いた『バティモン5 望まれざる者』。ラ・ジリ監督は前作『レ・ミゼラブル』(2019年)でもパリ郊外の犯罪多発地区での少年たちと犯罪防止班の対立、衝突を描き、第72回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した。『バティモン5 望まれざる者』と『レ・ミゼラブル』は軸となっているテーマや、フィクションでありつつノンフィクションのようなリアリティは共通しているが、『バティモン5 望まれざる者』は群像劇と言っていいほど一人一人のキャラクターが活きている。
パリ郊外。どんよりした空からの空撮で、何棟か立ち並ぶ老朽化した団地、バティモン5が映し出される。そこは主に労働者階級の移民たちが暮らす。団地の中は主にアラビア語だろうか? いくつもの言語が飛び交っている。とある一家で祖母が亡くなり葬儀が行なわれている。狭い部屋には祈りに駆け付けた人々。棺を外に出そうにもエレベーターの故障は何年も修理されず、狭い階段を「気を付けろ」と言い合い運び出す。空からの俯瞰から、団地の中、生活の中へとグイッと入っていく。見事な導入だ。
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バティモン5に暮らすマリ共和国にルーツを持つフランス人アビーは、移民たちのケアスタッフとして働く、皆から信頼される若い女性。行政の怠慢な態度に意見もする一目置かれた存在である。アビーの親友のブラスはアビーと協力し住人をサポートするが、行政には怒りと絶望、諦めを感じ、暴力的な行為も辞さない。本作の主人公のアビーはマリにルーツを持つ設定だが、ラ・ジリ監督もマリ共和国に生まれパリに移住した人物だ。
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登場人物のそれぞれの行動にはそれぞれの理由がある。いや、理由というより都合か。
映画を観ながら、自分も自分の都合でしか生きていないのかもしれないと思わされる。
パリだけの問題ではない。2024年はパリで五輪が開催されるが、東京でも2021年、五輪のために立ち退きを強いられ取り壊されたアパートがあった。そして入管難民法改正案の中には永住資格取り消しの新制度も盛り込まれようとして反対の声が上がっている。格差、差別はなくならない。
だからこそアビーの「諦めるのはもうやめよう」という言葉がグッと胸に響く。(Text:遠藤妙子)