映画『シアター・キャンプ』
【キャスト】モリー・ゴードン(『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』)/ ベン・プラット(『ディア・エヴァン・ハンセン』『ピッチ・パーフェクト』)/ ノア・ガルヴィン(『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』)ほか
【監督】ニック・リーバーマン&モリー・ゴードン
【脚本】ノア・ガルヴィン / モリー・ゴードン / ニック・リーバーマン / ベン・プラット
【STORY】人気演劇スクールで、開校目前に校長が昏睡状態に。演劇に関心ゼロな息子が継ぐが、実は経営破綻寸前。存続のため、新作ミュージカル発表に残された時間は3週間。変人揃いの教師と子どもたちは完成できるのか? エンタメ界を牽引する新世代の才能が、奇跡の傑作ミュージカルの誕生をドキュメンタリータッチで描く、最高にハッピーな感動作!
10月6日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
“シアター・キャンプ”とは、長期休暇となる夏休みなどに各地から子どもたちが集まり、ミュージカルを学ぶ。演目を決め、最後は発表会で成果を披露したりもする。子どもたちと講師たちが寝食を共にし、一つのものを作るキャンプだ。
ニューヨーク州北部の湖畔に佇むミュージカル・スクール。校長であり創設者ジョーンが観劇中に興奮して倒れてしまう。ミュージカルなど興味なく離れて暮らす息子が帰郷してみたら、意識不明の母親に加えスクールは破産寸前の経営状況。こりゃなんとかしなきゃと奮闘する物語。なんだけど……。各地から集まって来た子どもたちに共通しているのはミュージカルが好きっていうだけで、年齢も育った環境も違う、それぞれが個性豊か。そんな子どもたちを指導し、まとめようとする講師たちだが子どもたち以上に個性豊か。筆者は勝手に、未知の環境に飛びこんだ校長の息子の奮闘物語だと思っていた。確かにそうなんだけど、主人公は彼だけじゃなかった。
夏休み、各地から集まって来た子どもたちと講師たち。オリジナルのミュージカルを完成させ、夏休みの終わりに発表。毎年の行事だが今年は校長は意識不明、スクールは破産寸前。校長の息子トロイはミュージカルを成功させ出資者を募ろうと、講師たちと子どもたちを鼓舞。大好きな校長のため、そして自分たちの居場所を守るため、一丸となって頑張る! のだが、個性豊か過ぎて一丸となろうとしてもなかなか難しく。そんなミュージカル完成までのキャンプの様子をドキュメンタリー番組が取材。アレ? 取材してるのか? この『シアター・キャンプ』という映画自体が、フィクションをドキュメンタリーのように演出するモキュメンタリーを取り入れていて、フィクションとノンフィクションの区別がつかなくなる(いや、映画は全てフィクションなのだけど)。
さらに、様々な人のエピソードが挟み込められた群像劇っぽくもある。歌の講師もダンスの講師も大工仕事などをこなす青年も、様々な人種、様々なジェンダーも、太っちょの子も痩せっぽちの子も野心家の子も、言わばみんな主人公。
いろんな人がミュージカル愛のもとに一つのものに向かう。シンプルな物語だが、モキュメンタリーという凝った構成が複雑にして楽しい。上映時間は1時間33分とホントにテレビのドキュメンタリー番組の長さだし、一人の人間を深く探ることはしていない。それでいいじゃないか。いろんな人がいてミュージカルは作られるんだから。
夏休みの終わり、オリジナルのミュージカルの発表会の日。最後までドタバタしているけど、だけど。意識不明の校長であり創設者ジョーンの人生とアメリカのミュージカルの歴史を辿ったがストーリーが、子どもたちの歌が、ダンスが、もう素晴らしくて。それまでのコメディからミュージカルの世界への鮮やかな変化に驚く。実際、こういう裾野の広さが、エンターテイメントを、表現というものを豊かにしているのだ。もう一度言う。いろんな人がいてミュージカルは作られるし、いろんな人がいるから表現は豊かになり、いろんな人がいて世の中は成り立っている。
監督・脚本は、主人公の一人を演じたモリー・ゴードン。『I am Sam アイ・アム・サム』(2001)で子役としてデビューして以来、俳優のキャリアを積んできた彼女の初監督作。共同監督・脚本にニック・リーバーマン。脚本・出演に『ディア・エヴァン・ハンセン』(2017)でトニー賞ミュージカル主演男優賞を受賞し、ミュージシャンとしても活躍するベン・プラット、そしてノア・ガルヴィン。モリー・ゴードンとニック・リーバーマンは子どもの頃、実際にシアター・キャンプに参加している。
ラスト、ミュージカルは大成功。出資者も現れ、スクールは安泰。のはずなのだが……。ミュージカル愛に溢れた感動で終わると思いきや、やはり本作、コメディ映画だったのだー!(Text:遠藤妙子)