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トップレビュー必殺シリーズ秘史 50年目の告白録 - 必殺シリーズ50周年! 初期の現場スタッフを中心に徹底取材を仕掛けた光と影の深掘りインタビュー集!

必殺シリーズ秘史 50年目の告白録 - 必殺シリーズ50周年! 初期の現場スタッフを中心に徹底取材を仕掛けた光と影の深掘りインタビュー集!

2022.11.02   CULTURE | CD

必殺シリーズ秘史 50年目の告白録

著者:高鳥都
発行:立東舎
定価:2,750円(本体2,500円+税10%)
仕様:A5判 / 384ページ
発売日:2022年9月16日
ISBN:9784845638048

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シリーズ第1弾『必殺仕掛人』放映から50年というタイミングで刊行された『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』。地上波で新作を見ることはずいぶん減った時代劇だが、半世紀経っても新作が放映されている同シリーズ。今でも何かと見出しに使われる「必殺」そして「仕事人」というワードは同番組がルーツなのは言うまでもない。それくらい必殺シリーズは放映開始当初センセーショナルな存在だった。
72年スタートの『仕掛人』以降も『必殺仕置人』『助け人走る』…とシリーズ化され、79年に放映された『必殺仕事人』が大ヒット。その後も『必殺仕舞人』『必殺渡し人』『必殺仕切人』…と続き、珍獣ブームとあればエリマキトカゲ、オカルトブームならUFOと現代の話題を取り入れるなど幅広い層に楽しめるドラマとして定着。シリーズとしては第31弾『必殺仕事人2009』まで続き、その後も定期的にテレビスペシャルとして放映されている。
 
「中村主水」藤田まこと、「三味線屋おりく」山田五十鈴、「念仏の鉄」山﨑努、「飾り職人の秀」三田村邦彦など、同シリーズが代名詞でもある俳優も多く、それまで親世代が見るものだった時代劇を小中高生が楽しみに見るものに変えたほどインパクトを与えた番組だったのは間違いない。
思わず真似したくなるキャラクターとそれを演じる役者の魅力も言うまでもないが、ドラマが始まった当初、視聴者に衝撃を与えたのは必殺の代名詞である「光と影のコントラスト」といった映像美、そして「殺し屋たちが庶民の恨みを晴らす」というストレス過多な現代に響くストーリーの斬新さだった。
 
そんな人気シリーズに50年にわたり関わってきた撮影・演出スタッフはもちろん、照明・記録・製作・編集・効果・調音・美術・装飾・殺陣…と総勢30人に渡る幅広い関係者へのインタビューをまとめたのが『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』だ。もともと著者の高鳥都が『昭和39年の俺たち』『映画秘宝』で連載していたインタビューをベースにしたもの。ただ一冊を通して読んでみると、あらためて30人の証言をまとめて読む意義を感じさせる。
映画関係者からテレビは「電気紙芝居」とバカにされていた必殺前夜の時代から、深作欣二・三隅研次・工藤栄一といった監督たちのエネルギッシュさ、そして現場の若手スタッフからも新しく、より面白いものを作ろうとそれまでの時代劇にはなかった感覚を注ぎ込み、「新時代の時代劇」として人気を獲得していく流れが伝わってくる。
 
当時の話をまとめて読むことであらためてクローズアップされるのが、第一作からキャメラマンとして関わり、その後監督として2022年の最新作『必殺仕事人』まで撮り続けている石原興。深作・三隅・工藤といった監督の下で撮影を努め、望遠レンズの多用、おでこの下でフレームを切るアップなど必殺の特徴的な映像を生みだした彼のインタビューから同書はスタートし「必殺を最も知る者」の存在感をあらためて際立たせる。
ただ様々なスタッフからの称賛もありつつ、一方で次々現場で起こる変更に対して助監督からは「石原興に勝たないと俺らの未来はない」と言われるほどの壁でもあったという証言もあったりと、そうしたぶつかり合いが必殺を作り上げていったことが読み取れる。
 
また必殺の見せ場といえば殺しのシーン。秀のかんざしの音の「シュピーン」、勇次の三味線の糸の「ビュー!」、念仏の鉄の骨外しの「ボキボキボキ」、こうした音を作る効果・調音や、飛び道具や針など他にない立ち回りを要求される殺陣といった仕事の話は、まさに必殺ならではという内容だ。
さらにスタッフの証言に加えて念仏の鉄を演じた山﨑努のインタビューも特別収録されており、劇団を辞めた直後で新しいことをしよう! と、とにかくイケイケだった時代と重なっていた必殺時代の話が生き生きと語られている。
 
インタビューに登場するスタッフは、ほとんど現在70代、80代とかなりの高齢。さらに初期の話ともなると4、50年前と古い上に膨大なエピソードがあるはずだが、必殺シリーズを調べ上げた高鳥の「○話の時のこの映像は…」と細かい質問に対して、スタッフもまた「あの時はこうだった。あと□話の時は…」とスラスラと思い出す上に、さらなる溢れ話を聞かせてくれたりと、セッションのようなやりとりだ。一本のインタビューが長めなのもあり、隣で2人の話を聞いてるようなリアルタイム感が読み物として痺れる。
 
大衆娯楽が映画からテレビへと移る転換期の躍動がひとりひとりの証言から伝わるとともに、当時最も熱かった現場・京都映画(現・松竹撮影所)にいた者たちの青春録でもある。(text:大坪ケムタ

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