国際問題に斬り込む、放送作家の悲哀と愉悦
弾に当らない伝説の日本兵“神戸のべっさん”が、第二次大戦中のビルマで一人の慰安婦に恋をした。主人公は“べっさん”と、その孫にあたる放送作家の男。
ある日、男は、祖父が密かに書き溜めていた戦記を見つけ、それを題材にテレビ番組の特番企画を立ち上げようとしていた。戦記について調査を進めるうちに、あろうことか従軍慰安婦問題の闇や日韓関係の真相にまで迫ることとなる。
頑なに沈黙を貫き、明かされて来なかった「祖父の過去」と、何とか成功させたい「特番の収録」、二つの軸でストーリーは展開していく。
テレビ創りは、企画がどのように進められ、どのような障壁に苛まれるのか。登場するその描写のひとつひとつが、実にリアリティに溢れているのである。
それもそのはず。著者は、「新宿に井戸を掘る!」(テレビ東京系)などを企画・構成した、現役の放送作家だったから。
一般にはあまり知られていないが、放送局にとって放送作家は、言うなれば出入り業者。権力者の顔色を窺う外注ならではの悲哀に満ちた生き様は、なんとも恨めしいもの。それでいて、自由な発想によって深みのある心豊かな人生を送ることができるのもまた、放送作家の特権でもある。
本書は、そういった放送作家の日常を描きながら、長年、議題となっている国際問題に斬り込み、ノンフィクション要素を巧みに盛り込んだフィクション作品である。(Loft Plus One West・放送作家:尻谷よしひろ)