かつて筆者が心理学に興味を持った際、父に「心理学は平和な時代の学問であり、不安定な世では弱者は見捨てられる存在だ」と言われた。それを思い出したのがやまゆり園での障害者殺害事件だ。事件後も植松容疑者が獄中からマスコミに反論し障害者不要論を垂れ流している。「障害者=心を失った者=心失者」とする彼の論だが、障害者は自我もエゴもあるからこそ面倒で大変なのだ。所詮社会の枠組みに入れず弱者に当たった人間の戯言である。そんな彼の言説をまとめたこの本。精神科医の見解なども加わり、反面教師として十分存在理由がある。植松の思想に共感する者こそ彼の狂気を目の当たりにすべきだし、差別感情をあぶり出すリトマス試験紙的な本だ。いつ差別されまた差別する側に回るかもしれぬ今こそ必要かもしれない。こんな間にもLGBTに対する差別意識を組織の力の陰に隠れ公言する議員など、ある意味植松以下の人間が登場する始末なのだから。(多田遠志)