「やった方は覚えていなくても、やられた方は覚えてる。」日常での何気ない人との会話。その場の雰囲気にのまれ、無意識のうちに...いや、本当は意識的に意図的に放った言葉を、自分の発言を、過去を、考えさせられる。自分の経験から想像、共感をしやすい境遇で物語が進み、人間として黒く歪み、逃げ出したくなるような部分もストレートに表現をする辻村深月さんの短編4編。自分にとって、都合が悪くなったときによく耳にする"覚えてない"、"記憶にない"は、本当に一切覚えていないのだろうか? 少なくとも言われた側の人間はあなたの言葉を"覚えている"。過去の記憶は頭の中で自分にとって都合良く上書きを重ねる。やられた方はより感情的になり、やった方は冗談だとなかったことにする。そんなお互い平行線のまま進む感情、噛みあわない思い、理解し合えない事実。あなたのその言葉はこれから何十年先も相手の中で生き続けることを忘れてはいけない。(阿佐ヶ谷ロフトA:おくはらしおり)