イギリスに長いこと住んでいる日本人、イシグロ氏がノーベル文学賞をとった。村上春樹が文学賞をとると思っていたのだが。イシグロ氏とは私にとっても初めて聞く名だ。でも、ノーベル賞受賞の日本人と聞くと本好きにはやはり見逃せなくて、彼の作品の中でも比較的評判のいいこの本を買ってみた。彼のインタビューを読んだが主戦場はヨーロッパで、ほとんど日本には興味がないそうだ。始めに少しだけどあらすじを知ってしまうと、その文体というか表現が実に重い。ただ私がこの暗い? 本を読んでいて楽しくはなかったのは確かだ。ただ入念な構成とその人間関係が静かに丹念に語られてゆく、いわゆる文学本なのだ。感動もしなければ泣くこともなく、読み切った後にはどこかこれから人類が経験することなのかと思うと暗く沈んだ感じになった。とにかく大体のストーリーを知りながらの読みにはとっても不十分であった。でもこういった作品が評価される時代なのだ。(平野悠)