こちらも映画化ということで再読。とにかく嫌悪と動揺。そのくらい強烈に、あるいは強引に引きずりこまれる業の深い本なのだ。いっそ読んだ事実すらなかったことにしたい、また同じくらいの余韻に支配されることが怖い。そう思うと、この本の帯は天才的だ。「限りなく不愉快、でもまぎれもない最高傑作」。
別れた男のことが忘れられず美化をし続け、嫌悪感しか抱かない男と惰性で同棲をする主人公。男のストーカーまがいの執着、下品な言動。養ってもらいながらも、男を罵り、傷つけ続ける反面、離れられずに流れるひたすらに重苦しい日々の描写。共感できる登場人物は一人もいない。皆、それぞれ業の深さを垂れ流し続ける。だが、人間の行動には理由があることを私たちは知っている。そして薄々と漂いはじめる、この物語の終わり方。感づいていた通りの結末はちゃんとやってくる。ただし、1点を除いて。あろうことか、嫌悪は愛情に変わり、優しさは悲しさに変わる。
読むことは勧めない、だが強烈な体験ができる。どうだろうか、この感情は何かに似ていないだろうか。誰もが逃れられないもの。これは、イヤミスではなく、最高で最低の恋愛小説だ。(成宮アイコ)